ソーシャルメディアから捕らえる「ソーシャルハンティング」No.1
インサイトは“聞く”より“狩る”時代へ。「ソーシャルハンティング」のすすめ
2020/10/27
「アウトサイド・インサイト(※)」といわれるように、ソーシャルメディアには生活者の本音があふれています。その本音をプランニングに活用しない手はありません。従来のソーシャルリスニングでは見逃してしまう、今後大きな関心事となる兆しやインサイトを“捕獲”する新たな手法「ソーシャルハンティング」と、その活用法を紹介します。
※=アウトサイド・インサイト
ヨーン・リーセゲン氏の著書タイトル。個人や企業・組織がオンライン上に残すあらゆる活動の痕跡(データ)は外部に現れる貴重なインサイトという意味。
ソーシャル分析の新しい手法「ソーシャルハンティング」とは?
ソーシャルメディアにあふれる投稿の分析は、ソーシャルリスニングが一般的です。投稿量や話題になったツイートの拡散量、ポジ・ネガの受け止められ方、関心の高いトピックスなどを定量・定性の面で分析します。
こうした分析では、量的多数を捉えることで、話題の拡散傾向や要点を抽出することができます。しかし、投稿量が少ないと、今後大きな関心事となる兆しがあっても見逃す可能性もあります。それを補うため「ソーシャルハンティング」という手法を、電通パブリックリレーションズと企業広報戦略研究所(電通PR内)で共同開発しました。
ソーシャルハンティングとは、ソーシャルメディア上から、企業や商品のコミュニケーションに役立つツイートを「捕獲」(ハンティング)するという意味から名付けた造語です。声の多寡ではなく、声の内容に着目し、“感情が発露している”あるいは“トレンドの兆しを感じる”ツイートを捉え、企業や商品のコミュニケーションに生かすアプローチ手法です。
マス情報として存在していないイシューやトレンドの発見につながるため、企業は情報発信主体者としての先行者利益を獲得できます。つまり、ソーシャルハンティングでは、量的多数の分析では見えなかった背景や、生活者のインサイトに迫り、取り組むべきイシューを発見できる可能性があるのです。
本来、「イシュー」とは社会的環境や政治的背景などに紐付く、長い時間をかけて解決する大きな課題として扱われることが多いようですが、今回は個々人の不具合を感じる生活者視点の課題として設定しています。自社製品やサービスでイシューの解決を図るようなプランニングができれば、より多くの共感が得られます。
捕獲したインサイトから訴求ポイントを決める
ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケア カンパニーでは、目に入る光の量を調節する機能を持つ調光コンタクトレンズの訴求切り口を模索していました。
生活者がクリアな視界でいたい時を探ると、試合観戦やライブなどのイベント前にはブルーベリーサプリメントなどを摂取する行動が見て取れました。
ファンとして強く応援する対象を、いわゆる「推し」と表現しますが、この「推し事」(推しを追いかける活動)をしている人の間でも、そのような行動が顕著に表れています。さらに深掘りをしていくと「推し」をクリアに見るためにコンタクトデビューをする、駆け込みで眼鏡の度数を調整するなどの行動が見られ、視界のコンディション調整をいとわない姿が浮かび上がりました。
そこで推しを一瞬でも見逃したくないのに、「いつも通りの視界では限界がある問題」を生活者サイドのイシューとして設定。そのイシューに共感する生活者とのコミュニケーションのコアに「#推し見逃さない」を打ち出し、潜在的なニーズを浮き彫りにすることを狙いました。
インサイトに迫る効果的な方法~7つの鬱憤 WARPATH~
ソーシャルハンティングによってインサイトに効果的に迫る方法を、電通PRと企業広報戦略研究所では体系化しています。Twitterに本音として表れやすい、現状に対する不満を「7つの鬱憤 WARPATH」として整理し、鬱憤にまつわるワードを掛け合わせてツイートを検索します。「WARPATH」は「Want=欲求」「Anti=反感」など7つの感情の頭文字を表しており、「Want=欲求」であれば、「したい」「ほしい」「したくない」などのワードを掛け合わせて検索します。
例えば今夏は「マスク日焼け」が心配されました。実際に、5月17日にYahoo!ニュースでは「夏場『マスク日焼け』起こる?」という記事が掲載され、Twitter上でも「マスク日焼け」の投稿が活発になっていました。
しかし、遡ってみると3月から「マスク日焼け」に関する投稿は少数ながら生まれています。「WARPATH」の「Awful=悲観」を使うと、「マスク」「夏」「怖い」のキーワード検索で「マスク日焼け」に関する投稿が3月時点でヒットするのです。この発見を足掛かりに深掘りしていくと、「マスク日焼け」を心配する投稿がさらに見つかり、共感性が高いことが予想できます。このように、メディア起点で話題になる前から、イシューの兆しは捕獲(ハンティング)することができます。
withコロナの状況では価値観が変化しやすく、それゆえにイシューも起きやすいといえます。例えば、若者の結婚観として「婚約・結婚指輪や盛大な披露宴にコストをかけるよりも、将来の見通しが不安だから投資に回したい」という兆しも浮かび上がっています。
また、ソーシャルハンティングでは既存の商品やサービスに対する意外性のある声を探すこともできます。「グラノーラ」を例に挙げると、「Problem=困難」を使うことで「おなかが弱い、あるいは冬の朝は寒いから冷たい牛乳と一緒に食べられない」「温かい牛乳をかけて食べる」といった「食べ方の工夫」に関する投稿が発見できます。
視点を変えて「Want=欲求」で「したくない」を掛け合わせて検索すると、「雨の日だからコンビニに行きたくなくて、グラノーラで食事を済ます」という「雨の日×グラノーラ」に関する投稿や「適正量ではないが、どんぶりいっぱいのグラノーラでおなかを満たしたい」という「どんぶりグラノーラ」に関する投稿も見つかります。
このように、同じテーマでも鬱憤の視点を変えると、違うインサイトやイシューの兆しが見えてくる場合もあります。
ソーシャルハンティングで「世の中視点」のイシュー設定を
企業や商品の中には、自分たちが取り組むべきイシューを適切なサイズ感で設定できていないところもあるように感じます。大き過ぎるイシューを設定し、世間が自分ゴト化しづらい場合や、逆に自社ができることだけに意識が行き過ぎて、世の中の問題意識とズレている場合などです。
だからこそ、一方的な「企業視点」でなく、企業も生活者も自分ゴト化しやすい「世の中視点」のイシューを発見・設定するために、ソーシャルハンティングを活用してみてはいかがでしょうか。