loading...

未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.9

ニューノーマル時代の店舗とは。5Gが生んだ「AR接客」

2020/10/30

電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする70名強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。

今回特集するのは、KDDIが9月26日にオープンした「GINZA 456 Created by KDDI」。銀座の一等地に位置し、5Gを体験できるコンセプトショップとして誕生しました。コロナ禍の中、体験を軸にした店舗をつくるのは、さまざまな苦労があったといいます。FCCメンバーも店舗の空間設計からPRまで多岐に関わり、そのハードルをテクノロジーとクリエイティビティーで突破しました。

ニューノーマルといわれる時代の中で、企業と人の“接点”となる店舗にはどんな工夫が求められるのでしょうか。KDDIの坂本伸一氏(コミュニケーション本部宣伝部 ブランドマネジメント室長 兼 戦略グループリーダー)と、電通のプロデューサー加藤俊文氏、FCCメンバーである電通の南木隆助氏が振り返りました。

KDDIの坂本伸一氏、電通加藤俊文氏、電通南木隆助氏
(左:電通 加藤俊文氏、中央:KDDI 坂本伸一氏、右:電通 南木隆助氏)
※この取材は、オンラインで行われました。

「見る・触れる・集まる」が厳しい中、店舗はどうあるべきか

坂本:GINZA 456 Created by KDDI(以下、GINZA 456)は、5Gを体験できるコンセプトショップです。店名の「456」は、住所の中央区銀座4丁目5番6号が由来であると同時に、4Gから5G、その先へつなぐという意味も込めています。文化の発信地である銀座で、他のauショップとは異なる空間にしました。auではなくKDDIを冠した特別な店舗です。

「GINZA 456 Created by KDDI」
「GINZA 456 Created by KDDI」

加藤:山野楽器の本店が入っているビルの、B1F、1F、2Fが使われています。 私はKDDIさんの仕事をここ数年担当しており、テナント交渉からコンセプト設計、PRまで、企画全体を統括しました。

南木:僕は店舗のデザインとその統括を担当しました。店舗の企画・構想から、店内の空間デザイン、設計、外観まで。B1Fが5Gを体験できるイベントフロアとなっており、1Fはエントランスショールーム、2Fは販売ショップとなっています。この2Fも、KDDIの旗艦店として、最上級のおもてなしをする空間というコンセプトです。とはいえ、やはりGINZA 456の目玉となるのはB1F。5Gを体験できるスペースですよね。

坂本:はい。5Gの提供がスタートしましたが、本当の意味で浸透させていくには「体験」が重要だと思っています。例えば4Gのスタート期は、スマホというデバイスが同時に普及したタイミングで、消費者がスマホを新たに買う中で自然と4Gも普及していった。しかし今は、スマホがほぼ行き渡っており、4Gのようにデバイスの買い替えから普及させるのは期待しにくいでしょう。その中で5Gを浸透させるには体験価値が重要で、多くの方にとってまだ「想像」でしかない5Gを「体験」してもらうことで魅力を感じていただく。結果、5Gを使う人が増える。そんな場所にしたいと考えました。

加藤:この場所でどんな体験を用意すべきか、時間をかけ議論を重ねていたのですが、途中からコロナの問題が深刻化し……。密や接触を避けなければならない中で、どういった体験がよいのか、そもそも店舗はどうあるべきか。かなりの難題を突きつけられました。ニューノーマルの時代に求められることと、店舗での体験は相反する要素も多いですから。

坂本:まさに「見る・触れる・集まる」が難しい中で、さあどうしましょうと。皆さんとひたすら議論する中で生まれたのが、タレントの池田エライザさんによる「AR接客」でしたね。アイデアが出たとき、これを「ニューノーマル時代の接客体験」にしようと。

池田エライザさんの「AR接客」
池田エライザさんの「AR接客」

加藤:そうですね。GINZA 456では、予約されたお客さまに入り口で5G対応スマホをお貸しします。そうして店に入ると、そのスマホのARで池田エライザさんが登場し、案内してくれるのです。「GINZA 456を案内する池田エライザです」と自己紹介するところからスタートして。

坂本:AR接客は今後につながるアイデアだと感じています。お客さまとの新しいインターフェイスが、コロナ禍での店舗を考える僕らの議論の中で生まれて実現できたのはよかった。

コロナ禍を踏まえた体験コンテンツと、展示スペースの設計

南木:B1Fの体験コンテンツも、すべてお客さまの手にある5Gスマホを通して見るものにしました。世界中の好きな場所に行ける「au XR Door」や、バーチャル空間の横浜スタジアムを歩き回れる「バーチャルハマスタ」など。

地下1階の展示スペース
地下1階の展示スペース

加藤:この状況なので、人を集めるイベントは難しいですし、実物展示には多くの人が触れる、集まるリスクがあります。であれば思い切り舵を切って、お客さまが一人でスマホを見ながら体験できるものにしようと。なるべく感染リスクを抑えた形を選びました。このあたりは、KDDIさんと一緒に議論しながら、だんだんとアイデアが膨らんできたのを覚えています。

坂本:決して形式的な議論ではなく、本当にフリーハンドで雑談しながらでしたよね(笑)。リモートワークだったので、パワーポイントで出てきたワードや図をメモしながら。未来の店舗やサービスを考えるとき、言語化できないことはたくさんあります。それをプレゼンや会議で形式的な話すと、中身がぼやけたままになりやすい。むしろ、お互い自由に思いついたことをどんどんブレストしながら、アイデアを積み上げて明確化する方が合っていると思いました。

南木:未来を見据えるという意味では、B1Fの構造もポイントですよね。壁全面をスクリーンにし、その他に可動式の壁も設置。投影するプロジェクターも、自由に設置場所を決められるよう天井を工夫しました。その結果、B1Fは「展示を自由に変えられる仕様」となっています。これは、KDDIさんが企画当初から決められていたことですよね。

地下1階の展示スペース

坂本:未来の体験をテーマにしている以上、今後予測できない変化がたくさん起こるはずです。想像すらできないテクノロジーやサービスが出てくるかもしれません。さらにコロナ禍で先が読めない今、ハードも、どこまで柔軟に変化できるかが重要になります。いろいろな未来に対応できる空間設計にしたいと強く考えていました。

サイバー世界へのゲートを示す、エントランスのファサード

南木:地下の設計以外にも、KDDIさんは企画当初から一貫して大切にしていた点がありました。それがGINZA 456という店名と、エントランス(店舗入り口)の見せ方ですよね。エントランスには、LED映像が流れるファサードを設置。このデザインも僕が担当したのですが、使用するLEDを決める際に、工場まで足を運んで、見え方の確認をしようとLEDを簡易的に組んで実験したり。KDDIさんのこだわりを強く感じました。

GINZA 456のエントランス
GINZA 456のエントランス

坂本:5Gはサイバー世界の進化であり、エントランスは、まさにリアルからサイバーへの入り口。銀座の街中を歩いていた人が、サイバーの世界に飛び込む。そのゲートとしての世界観を表す必要がありました。5Gの普及に体験が重要な中で、どれだけ気軽に敷居をまたいでもらうか。ここが鍵でした。

加藤:エントランスの非現実感がサイバー世界へのゲートになっていますよね。そうして中に入ると、未来のコンテンツ・空間が広がっている。そういう体験設計になったのはよいかなと。

南木:ですので、ファサードのデザインは工夫しました。大きなファサードを取り付ければインパクトは出ますが、店舗の外壁面積には限りがあります。そこで、ファサードを外壁からエントランス、店内までうねるようにつなげて、奥行きを出しました。これにより、外から見たときのインパクトが生まれたと思います。

一方、エントランスのサイドに展示スペースを設けることを当初提案していました。これだけの土地なので、スペースを余らせたくないという思いもあり(笑)。ですが、KDDIさんは「エントランスは象徴的に強く見せたい」と。極力モノをなくし、削ぎ落とした空間にしたいと話されました。その覚悟というか、ブレない姿勢は印象に残りましたね。

デジタル化が進むほど、接点を生む「ブランドスペース」が重要に

南木:今回の店舗のように、ブランドとしての意思を発信する空間は今後重要になると思っています。FCCではそれを「ブランドスペース」と呼んでいるのですが、KDDIのブランド戦略に携わってきた坂本さんはどう感じていますか。

坂本:リアルなスペースの役割は今後増していくと思いますね。ブランドを築く上で一番大切なのは、お客さまとの接点づくり。コミュニケーションする場や機会を生むことです。デジタル化が進むほど、その接点は簡単にはできなくなってきました。そこで、リアルの役割が重要になる。サイバー世界が進化するほど、お客さまとの接点となるリアルスペースが求められると思っています。その中でKDDIとしてのブランドを感じていただくのが大切です。

南木:僕が今回の設計で学んだのは、5Gの体験コンテンツという「ソフト」と、建物という「ハード」が絡み合った空間になっていることです。ソフトを最大限生かすためのハードになっているし、どちらかが違えばこのスペースは成立しない。高次元で融合しています。ブランドスペースは、リアルを軸にブランドを伝えていく場所ですが、今後はソフトとハードが融合した空間が増えていくのかもれません。

坂本:私たちとしても、未来の方向性は無限にあるので、変化を前提にした施設ができてよかったです。今は5Gのスマホを中心とした展示ですが、今後はスマホに限らないコンテンツや楽しみも用意したいので、どんどん入れ替えていきます。もちろん、自社だけでなくパートナー企業とコラボした体験施策も考えていきたい。最新のテクノロジーに敏感な方だけでなく、普通に銀座を歩いていた方が“ちょっと先の体験”を簡単に味わえる。そんな場所にしたいですね。