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未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.6

2020/11/24

変化の激しい時代に、企業の成長原動力となるブランディングとは?

電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする70名強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。

今回取り上げるのは、FCCメンバーが取り組んだ「スカパーJSATグループ」の企業ブランディングプロジェクトです。有料多チャンネル放送を軸としたメディア事業のサービス“スカパー!”が有名ですが、グループ内では宇宙事業も行っており、利益全体の半分以上を占めています。そのユニークな事業形態をきちんと発信し直すことになりました。

最大のポイントは、この企業ブランディングが社員やその家族など、内側への発信でもあったこと。つまり、企業ブランディングを企業や社員の成長・やりがいにつなげる必要がありました。加えて、プロジェクトはコロナ禍の中で進行。新たな発見もあったといいます。電通FCCメンバーの三戸健太郎氏、田中せり氏、そして電通のプロデューサー門田耕平氏に話を聞きました。

三戸健太郎氏、田中せり氏、門田耕平氏

※この取材は、オンラインで行われました。

社員の方がワクワクする、「この指とまれ」の表現を目指した

三戸:スカパーJSATグループ(以下、SJ)は、衛星放送だけでなく宇宙事業も行っています。しかし、その部分が世の中にあまり知られていません。メディア事業と宇宙事業という、ユニークな2本柱の企業であることをきちんと伝えようと、企業ブランディングプロジェクトが始まりました。3月から制作がスタートし、10月に第1弾となるCM、新聞広告、ウェブサイトを発表。今後、3年ほどかけて企業ブランディングを行っていく予定です。

「スカパーJSATグループ」の企業ブランディングプロジェクト、CM①

「スカパーJSATグループ」の企業ブランディングプロジェクト、CM②

「スカパーJSATグループ」の企業ブランディングプロジェクト、CM③
「スカパーJSATグループ」の企業ブランディングプロジェクト、CM
 
「スカパーJSATグループ」の企業ブランディングプロジェクト、ウェブサイト
ウェブサイト

門田:もともと私がSJの営業窓口を担当しており、クライアント課題を聞いていました。SJの宇宙事業は、メディア事業の倍近い利益を稼ぎ出しています。日本で初めて通信衛星を打ち上げた民間企業であり、今も約20基の通信衛星を保有。研究・開発にとどまらない、実際に宇宙で“実業”を行っている稀有な企業なのです。

三戸:それを世の中にきちんと伝えるのはもちろん、今回は社員やご家族の方、つまり企業の内側に伝えるのも重要なポイントでしたよね。

門田:そうですね。メディア事業は競合も増え競争が激化しています。一方、宇宙事業の方は日本でパイオニアの存在ながら、知らない人も多い。その中で、社員の皆さまが誇りを持ってSJの魅力を語れるようにしたいと。また、メディア事業と宇宙事業はあまりに内容が違うため、事業間の交流も少なかったので、その垣根をなくしたいと。世の中への認知とともに、SJ自身の成長原動力となる企業ブランディングが求められたのです。

三戸:門田さんからその話を受けたのが今年初めでした。僕はプランナーとしてプロジェクト全体の戦略や企画をつくる役目、田中さんはアートディレクターとしてビジュアル面を担当、コピーライターには僕と田中さんの同期でもある、渡辺千佳さんに入ってもらい、プロジェクトを進めることになりました。

田中:案を出すとき、大前提として「SJが今やっていることを説明するだけの広告にはしない」という方針を決めましたよね。

三戸:はい。それにより世の中にSJを説明することはできても、見た社員の方が会社の未来にワクワクしたり、モチベーションや誇りを持つことにはつながりにくい。自分たちの会社は自分たちが一番知っていますから。むしろ、それを見てみんなが楽しそうに感じたり、集まってきたりするような、「この指とまれ」みたいな表現にしようと。

田中:今のSJを説明するのではなく、企業や社員の方が目指す“道しるべ”や“目印”をつくるというイメージで。

指針

三戸:そのためには、社員の方が見てグッとくる表現、社員の方に響くメッセージをつくる必要がありました。そこで、僕らが一方的に案を出すのではなく、まず社員の方の声をヒアリングする機会を設けたんです。「なぜSJに入ったのですか?」「宇宙って皆さんにとってどんな存在ですか?」など、シンプルなことを聞いていきました。

田中:こちらがどんどん提案するのではなく、社員の方と同じ方向を見ながら一緒につくり上げていく。FCCが大切にしている“伴走型”の制作です。

三戸:はい。僕らがやりたいこと、言いたいことを一方的に言うよりも、社員の方の思いや気持ちを反映した方が、企業の内側に響くブランディングになります。

見て情報が完結するのではなく、企業の目印や道しるべになる広告を

三戸:そうやって生まれたブランドスローガンが「未知を、価値に。」です。ヒアリングで感じたのは、とにかく社員の方の宇宙愛や情熱がすごいこと。なぜここまで宇宙に引かれるのかを考えたとき、やっぱり宇宙が未知の存在だからと考えたんです。

ブランドスローガン「未知を、価値に。」

ブランドスローガン「未知を、価値に。」

未知のものにワクワクするのは、普遍的な人間の気持ちですよね。宇宙は未知だらけで、だからこそ面白いし、社員の方の情熱になっている。であれば、未知にフォーカスしたスローガンにしようと。

田中:先ほど「目印をつくる」と言いましたが、明確な目標やゴールを表現すると、そこに到達したら終わってしまいます。また、これだけ変化の激しい状況では、具体的な目標よりも、方向性や目印といった変わらない本質をつくるべき。どんな時代にも生きるブランドになります。その意味でも、今の状況に合っているのかなと。

三戸:もうひとつ、このブランディングではSJを「宇宙実業社」と定義し直しました。これも社員の方の声が基になっていますね。というのも、ある方が「SJは宇宙の総合商社」だと話していて。その言葉が印象に残りました。それをかみ砕くと、宇宙で研究開発している機関はあっても、SJのように宇宙で実業をしている会社は少ない。そこでコピーライターの渡辺から「宇宙実業社」という言葉が生まれました。

門田:今回は企業ブランディング第1弾として、CM、新聞広告、ブランドサイトを作成しましたね。まずは「スカパーJSATとはこういう企業です」と表明する“宣言編”の位置付けです。

三戸:「未知を、価値に。」という言葉ができたので、あとは表現物がそれをきちんと伝えられるように。例えば、未知と言いながら説明し過ぎの表現物をつくっても合いません。CMも、SJの事業に関する説明は極力少なくしました。

田中:私は新聞広告のグラフィックを制作しましたが、目印、道しるべとしての広告なので、とにかくシンプルに。宇宙や衛星の写真を使えば分かりやすいですが、それは説明広告であり、読者も見慣れたビジュアルでスルーしてしまうかもしれません。そこで、大胆かつシンプルなビジュアルを選びました。

新聞広告
    新聞広告

三戸:新聞広告でここまでシンプルなデザインは、かなり勇気がいりますよね(笑)。今回SJの部署横断ブランディングプロジェクトの皆さまと並走させていただいたのですが、長い時間をかけて議論をして、お互いに思いを共有していたため、この勇気ある決断も素早くしていただけました。そこは、本当に感謝しています。

田中:そうですね。ただ、広告は外に対して自分の企業を見せる役割だけでなく、その広告を見た社員のためのものでもあると思います。だとすると、見て情報が完結する説明的な広告ではなく、この企業についていきたい、この先の歩みを見たいと思うような、行き先を示すサインのようなビジュアルがいいなと。

具体的には、未知を「余白」だと考え、上半分を“黒い余白”と位置付け、標識的な星のようなデザインを入れました。具体的な写真や絵を使わず、抽象的な星にしたのは、メディア事業の方にとっても、宇宙事業の方にとっても、この星がSJのビジネスの象徴である衛星であり、また未知を価値にする社員自身でもある、という意味を込めたかったからです。ブルーから黒へのグラデーションも、夜明け前の地平線に見えたり、宇宙視点での地平線にも見えたり。見る人に委ねるビジュアルにしました。

リモート制作の体験から生まれた「家族に見てもらう」アイデア

三戸:コロナ禍の制作ですべてリモートでしたが、意外とできちゃいましたよね(笑)。ロサンゼルスでの撮影をリモートでして、CMをつくるのはさすがに不安だったのですが、できるものだなと……。

門田:10月1日にCMがテレビで初オンエアになると決まり、社員の方とそのご家族に見ていただく仕掛けもしましたよね。

三戸:そうですね。コロナ禍でSJの方も多くが自宅勤務の状況です。出来上がったCM映像を発表するような社員総会も開かれないので、どう皆さんに伝えるか悩みました。とはいえ、この企業ブランディングは内側に届けるのが重要。そこでSJの方と話し合い、オンエア前日に米倉英一社長(スカパーJSAT㈱ 代表取締役 執行役員社長)から社員全員に直々のメールを送信していただきました。このプロジェクトへの思いとともに「テレビで明日のCMを見ましょう」と。

家族の方に見ていただくアイデアには、こんな背景もありました。編集したCMの試写をリモートで行っていたのですが、SJの方々がその場で小・中学生の息子さんや娘さん、旦那さんにCMを見せて意見を聞いてくれたんです。社員のご家族の意見も大事にしながらブラッシュアップしていった場面もあり、「ぜひ家族の方にも見ていただきたい」と思ったんです。

田中:今回のプロジェクトで感じたのは、企業の成長につながるブランディングは、企業の社員の方の気持ちや向かう先を示すものであるべきということです。当たり前のことですが、その企業を一番熟知していて愛情を持っているのは社員の方々です。だからこそ、社員の方々の気持ちを表したものでないといけません。とはいえ、中にいると気づかない、あるいはその思いをきちんと表現しきれない時もあるので、私たちの視点や表現によって、手助けできればいいなと。そういった存在になるべきだと思いました。

三戸:僕らがいきなり「こんな表現どうですか」と出すのではなく、今回のように社員の方と対話しながら、伴走型でつくることが大事ですよね。そしてもうひとつ、企業の成長につながるブランディングをするには、今の企業の価値を言い当てるのではなく、未来に向けてどんなことをしていくか、どんな姿勢がワクワクするか、「この指とまれ」のやり方が重要です。

しかも今は、数カ月先がどうなるか分からない状況。その中では「ここを目指す」と明確に目的地を示すより、企業の姿勢を含め「変わらない本質」を表現するのが大事なのかなと。ブランディングは一過性ではなく、ずっと続いていくものなので。

門田:SJの企業ブランディングも、3年ほどの長期で企画を進めていきますよね。

三戸:はい。今回は宣言編であり、王道のブランディング施策でしたが、今後は実際のアクションを行っていきます。3月の提案時にも「SAYからDOへ」という言葉を掲げていて。今後は、実際のアクションを通してブランドを築いていくので、ぜひ楽しみにしていてください。

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