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未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.4

2020/10/06

クリエイティビティーから生まれた「未来のリモート観戦席」

電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする70名強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。

今回取り上げるのは、ロボットを活用したリモート観戦「Future Box Seatβ」のプロジェクト。カメラ付きロボットをスタジアム内に設置し、1体で最大1000人がその映像を視聴できるシステム。視聴者は360度自由にカメラを動かし、見たい選手や視野を自分で選べます。今までにない「能動観戦体験」を実現するものです。

Future Box Seatβ

7月14日には、プロ野球「北海道日本ハムファイターズ− vs千葉ロッテマリーンズ」の公式戦で実証実験が行われました。コロナ禍の情勢を踏まえたこのプロジェクトは、どのように生まれたのでしょうか。開発に携わった電通FCCの日比昭道氏と、電通からファイターズ スポーツ&エンターテイメント社に出向中の倉田亮氏が振り返りました。

電通FCCの日比昭道氏、倉田亮氏
※この取材は、オンラインで行われました。

360度のカメラ操作や、選手への拍手も。“能動的”な観戦体験とは

日比:Future Box Seatβは、現地にいるかのように遠隔から楽しめる「未来のリモート観戦席」として開発されました。コロナ禍でスポーツ観戦が満足にできない中、カメラ付きロボットを活用し、その映像によって試合を観戦できます。

Future Box Seatβ②

提供したいのは「能動観戦体験」です。遠隔での観戦としては、もちろんテレビもありますが、高画質な一方で、自分が見たい選手や方向を自由に選ぶことはできません。現地観戦と同じように、好きな選手を目で追いかけるような、能動的な観戦を遠隔で提供できればと、プロジェクトが始まりました。カメラは360度自由に動かせますし、ロボットを通じて選手に拍手を送ることもできます。

倉田:2023年に開業予定のファイターズ新球場の保有・運営会社で、電通が出資しているファイターズ スポーツ&エンターテイメント社は、実証実験の場の提供という形で関わりました。私は電通から出向している身ですが、ボールパーク案件以外にもさまざまなプロジェクトを手掛けており、Future Box Seatβも構想の段階から携わってきました。

構想を最初に伝えられたのは3月末頃。ファイターズは新型コロナウイルスの影響で観客を入れられない、今後数年のスパンで考えても、本当の意味で以前の観戦スタイルに戻るかは分からない、という状況でした。その課題意識もあって、かなりのスピードで構想から実証実験まで進みましたよね。

日比:本当に、3月末の構想からよく7月の実証実験までいけたなと……(笑)。最初にFCCで出した企画は、アイデアをスケッチした段階のもので、実際にどこまでつくり込めるのか、実現できるのかは未知数でした。一方で、電通にはさまざまなパートナー企業がいます。その力をお借りし、かつ僕らのクリエイティビティーを掛け合わせれば良いものができるという可能性も感じてはいました。

構想から実験まで約3カ月半。このスピードを実現したのは「関係性」

日比:とはいえ、あの構想段階でゴーサインを出していただけたのは、何よりファイターズ側の協力や、倉田さんが出向という立場で関係性を築いていたからだと思います。

倉田:おっしゃる通り、ファイターズの多大なる協力があって実現できたと改めて感じていますし、大変感謝しています。日比さんにも協力いただいたボールパークアイデアワークショップをはじめ、これまでファイターズと電通で数多くのプロジェクトに取り組んできた過程で、両社が同じ方向を向き、一緒に良いものをつくる関係性を築けていたのかなと。今までの「信頼貯金」があったからこそ、具体的なアウトプットをお見せできない段階でファイターズに協力体制を敷いていただけましたし、スピード感を持って進められたと思います。

コロナ禍で変化の激しい中では、エグゼキューション(実行)までのスピードがポイントになると思います。特に、複数社が関わるプロジェクトでどうスピード感を出せるか。各社単体の作業は早められても、複数社で合意形成しながら速度を上げるのは容易ではありません。それを左右するのが会社同士の関係性で、いかにフラットな関係をつくれるか。受発注の関係ではなく、一緒に取り組む形がスピードを生みます。今回のプロジェクトで、改めて強く感じました。

日比:もちろん、素晴らしい制作会社に加わっていただいたのも大きかった。僕が思ったのは、がっちり企画を詰めきって実行するのではなく、企画50%、エグゼキューション50%のバランスで、企画しつつ実行していく、そのアジャイル開発中に新しい発見も生まれること。今回のキーワードになった「能動観戦体験」も、実は開発し、試していく中で生まれてきて。

アイデアは、実行の中でブラッシュアップされる面もあります。であれば、最初のアイデアを軸に変化させていくのもいい、と感じました。さらに付け加えると、僕らFCCメンバーが、このプロジェクトに強い意義と可能性を感じていて、とにかく信じて突き進んだのも大きかったかもしれません。そのとき、突き進みたいという思いをくみ取り、進めるコンディションを整えてくれていたのが倉田さんだったかなと。

ニューノーマルで際立つ、発想を飛躍させるクリエイティビティーの価値

日比:今回の事例は、テクノロジーとクリエイティビティー、そして倉田さんが担ったプロデュースという三つの領域が重なって成り立ったと思います。ニューノーマルと呼ばれる、今までと違う価値観が重要な時代には、この三つをそろえることが極めて重要だと感じました。

テクノロジーについては、接触リスクを避ける意味でデジタルやITの力が欠かせません。今まで以上に存在感を増すはずです。さらに、そこにクリエイティビティーを付加することで、新しいモノの見方やアイデアが生まれていくと思います。

倉田:今、世の中の常識や価値観が変化する中で、既成概念に捉われない大きな変化に貢献することができる。これまでもいろいろなところで言われてきていることだと思いますが、これこそ、クリエイティビティーの価値なのだと思います。

日比:FCCではそれを「飛躍可能性」と呼んでいます。既存領域の事業を回すのはクライアント企業ですが、そこにブレークスルーをもたらすためにクリエイティブが生きると思っています。

ちなみにFuture Box Seatβでは、ロボットの“見た目”という点でも、クリエイティブ要素が生きています。制作チームで細かく検討し、とにかく愛嬌のあるデザインにしました。というのも、愛嬌の有無で「場へのなじみ感」が変わります。選手や監督といったフィールドのヒーローが近寄ってきてくれるか。ここは力を入れましたね。

Future Box Seatβ③

倉田:あとは、実証実験でロボットを設置する「位置」にもこだわりましたよね。通常の観客席ではなく、関係各所から特別な許可を得て中継用カメラ席に設置しました。能動観戦体験という新しいスタイルをしっかり印象付けるには、今までにない視点からの映像を見せなくては。だからこそ、インパクトのある場所に設置する必要がありました。カメラ席なら選手と距離が近いですし、ファイターズの協力もあって選手や監督がロボットに近づいて記念撮影までしてくれました。このプロジェクトの価値を世の中にどう届けるか、その点でもクリエイティブな工夫があったと思っています。

Future Box Seatβ④
実際にロボットが設置された場所

行きたくても現地観戦できない人が使えるように

日比:同時に、先ほど言った3要素の「プロデュース」は今回のプロジェクトを語る上で、欠かせないと思います。クリエイティブは大切ながら、それだけでは成立しないことも多い。プロデュースが実現へのつなぎ役になるというか。設置場所の件も、倉田さんがファイターズにプロジェクトの意義を伝え、理解していただけたことが大きいし、クリエイティブとプロデュースのバランスは大切でしょう。

倉田:クリエイティブなアイデアは、時に発想が飛躍し過ぎて実現が厳しいこともあります(笑)。ただ、それをクライアントが求めていること、スケジュール、予算、費用対効果などとも照らし合わせて、みんながハッピーになれる形で着地させるのがプロデューサーの役割と考えています。その意味で今回は、クリエイティブサイドとプロデュースサイドが初期段階から密に連携できていたからこそ、実現したのかなと。

これはFCC全体にいえることですが、プロデューサーやクリエイターといった領域の垣根が低いですよね。私も、他のプロジェクト含めてクリエイターの皆さんのアイデアに忌憚なく意見していますし、積極的に領域侵犯させてもらっているというか(笑)。

日比:僕はプロデュースに回る案件もありますが、基本的にどの案件も垣根が低い。そして、それがFCCの強みでもあると思います。

倉田:FCCのセンター長である小布施典孝さんがそういう人なので、このマインドはセンター全体に浸透・定着しているのかもしれません。それぞれの領域に対するリスペクトはありつつ、垣根は必要最低限にとどまっている、と感じています。

日比:そういった意味で、これからもクリエイティブとプロデュース、そしてテクノロジーを掛け合わせながら、良いものをつくっていきたいですね。Future Box Seatβも、まだ映像の画質面など課題もあります。そこを解決し、さらに選手とのツーショット撮影などが気軽にできる仕組みを構築できれば、より価値が出てくるはず。

倉田:実証実験をしてみると、意外と選手がロボットに親しみを持って近寄ってきてくれることも分かりました。ファイターズからも、コロナ対策だけでなく、距離が遠くて球場に行けない方、あるいは身体的なハンディキャップで現地観戦が難しい方にも使ってもらえる可能性があるのでは、とコメントを頂くことができました。

日比:同時に1000人が同じカメラを共有できるので、例えば学生時代の部活の仲間と母校の試合を見るといったシチュエーションも考えられるはず。もちろん、野球以外のスポーツ、エンタメでも使えます。機能を高めていき、未来のリモート観戦のスタンダードにしていきたいですね。そして、この取り組みを通して、マスメディアの先にある、これからの時代に不可欠な、コアファンの思いをかなえる「エンゲージメントメディアの開発」へと、つなげていきたいと思っています。

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