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未来の難題を、こう解いていく by Future Creative CenterNo.7

18歳以下のCFO募集企画に見る「パーパスアクション」の重要性

2020/09/18

電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする70人強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。

今回取り上げるのは、バイオ系ベンチャー企業のユーグレナが行い注目された「18歳以下のCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)募集」。いっときの企画ではなく、本当に18歳以下の応募者を会社の経営のために迎え入れた事例は、大きな話題となりました。

企画に携わったのが、FCCメンバーである電通の秋山貴都氏と野上賢悟氏。2人はこの企画について、ユーグレナの価値観やビジョンを、実際のアクション(行動)で示した例であり、今後このような「パーパスアクション」は重要になると考えます。事例の経緯やパーパスアクションの価値について、2人が語りました。

電通秋山氏、野上氏
※この取材は、オンラインで行われました。

「未来を決めるのに、未来を生きる当事者が参加しないのはおかしい」

秋山:18歳以下のCFO募集は、2019年8月から行われた企画です。ユーグレナは、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を通じて環境や健康の社会問題に取り組んできた企業ですが、「CFO」という新しいポジションを18歳以下から募集したのです。形だけの企画ではなく、実際に採用して経営会議などにも参加するものでした。

ユーグレナ

野上:この企画が生まれるまでに、ちょっとした経緯がありました。ユーグレナでは微細藻類由来のバイオ燃料の開発・導入を行っていて、近い未来、飛行機にバイオジェット燃料を入れて飛ばすことを目指しています。そのプロモーションについて相談を受けたのが、話の始まりでした。

主に同社副社長の永田暁彦さんと話し合っていたのですが、その中の企画として、小学生への動画インタビューを行いました。「未来の大人たちに聞いてみた。」というタイトルで、2050年の地球の未来について、台本なしに永田さんが小学生にインタビューしたものです。これがCFO企画のきっかけになりましたよね。

秋山:そうですね。というのも、インタビューをする中でひとつの疑問が生まれて。「未来のことを決めるときに、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい」というものです。この疑問が企画のコンセプトとなり、18歳以下のCFO募集が誕生しました。

この連載の1回目では、FCCのセンター長を務める小布施典孝とアドバイザーを務める石川善樹さんが対談していますが、その中で「企業活動の根幹、中心概念となるコンセプト」の大切さが語られていました。そしてそのコンセプトの立て方として、「変えるべきふつう」を見つけ「新しいふつう」にシフトすることが挙げられています。インタビューで生まれた疑問は、まさにこの部分に当たるのかなと。

野上:「会社は大人のもの」という考えが「変えるべきふつう」であり、それを子どもたちも参加する「新しいふつう」に変えようと。

秋山:はい。この強いコンセプトが生まれ、それを体現するアクションとして18歳以下のCFO募集が立ち上がりました。それも一時的な企画ではなく、本当に経営会議などに関わるように。そこまでやらないと未来は変わらないとユーグレナでは考えていました。

野上:2019年8月にリリースしたのですが、多くのメディアが取り上げるなど、想像以上の反響を頂きました。それ以上に驚いたのが、実際に子どもたちから寄せられた応募の数と熱量で。

秋山:あれは感動したよね(笑)。エントリーは「1200文字の論文提出」が必須条件でしたが、500人以上から応募があって。しかもその内容もレベルが高くて……。

野上:すでに個人で環境問題を研究していたり、歯磨き文化のない国の口腔衛生を向上させたいと書く子がいたり。最終的に当時17歳の小澤杏子さんが採用されたのですが、彼女もすでに学会に論文を提出して賞をとった経歴がありました。小澤さんの他、8人の「サミットメンバー」も選出され、現在まで実際に会社にプラスチック削減などの提案をしてきましたね。

ユーグレナ②
実際に選出された「サミットメンバー」

正しいことの発信があふれているからこそ「行動」が意味を持つ

秋山:この事例を通して思ったのが、ブランドの意思を「発信」するだけでなく、今回のように「行動」で示すパーパスアクションが今後重要になるのではないかなと。なぜなら今、正しい情報や発信は世の中にあふれていて、そこに特別なニュース性はない。むしろ、言っているだけでは陳腐に聞こえかねない。一方、実際の行動で示すと本気度が伝わり、賛同が集まるのではないでしょうか。しかも、その行動が企業の存在意義や本質に基づいていると、よりメッセージ性が強くなる。CFOの事例が大きく取り上げられたのも、その面があると思います。

野上:確かに今は企業のパーパス(存在意義)が重要といわれる中で、そのパーパスを基にどう行動するか。ここが世の中に受け入れてもらう境目になっています。となると、パーパスアクションが重要になるのは自然の流れかもしれない。

秋山:実際、こういった行動で示す事例は増えていますよね。例えば、2016年のカンヌライオンズで話題になった「REI」というアウトドア企業の広告。アメリカではブラックフライデー(11月の第4木曜にある「感謝祭」の翌日)と呼ばれる休日があり、多くの店で大々的なセールが行われます。

しかしこの日、REIでは店舗を閉めて「休日はアウトドアに行こう」というメッセージを発信しました。実際に店を閉めるという行動を起こしている点がパーパスアクションなのだと思います。

野上:「言うはやすし」でも、実際に行動するにはさまざまなハードルが出てきますからね。そこに本気で取り組むからこそ、メッセージ性が強くなるのかもしれません。

秋山:だからこそ、今回の取り組みは何より、実行に移したユーグレナさんが素晴らしいと思っています。パーパスに基づき、メッセージを発信するだけでなく、アクションを起こす。それには覚悟が必要ですし、超えねばならない社内外のハードルも、言うだけより格段に多い。それでも実行に踏み切ったのは本当にすごいことだと思います。

野上:そこが今回の事例で一番大事なポイントですよね。ユーグレナさんの本気の思いがアクションを通じて伝わったからこそ、これだけ話題になり、多くの方から支持の声を頂けたのだと思います。

秋山:実際、この企画も行動すると苦労がありましたもんね。本当にやろうとしてハードルを越えていく姿には、言語化以上の本気度が伝わる気がします。

野上:苦労は多かったね(笑)。法律面や報酬制度の確認、何か起きた場合の責任の所在……。だからこそ、本気度は伝わったと思います。

とはいえ、いくらアクションを起こしたとしても、その行動が企業の存在意義や事業の本質に結びついていないと、説得力は出ないのかもしれない。環境活動や社会貢献をする企業は増えていますが、企業の意義とズレていたり、場当たり的なもの、「なぜこの会社がやるのか」と思われるものはネガティブな反応も出ます。

秋山:その意味で、先ほど言ったコンセプト、「変えるべきふつう」と「新しいふつう」を企業の本質に沿ったものとして見つけることが大切なのだと思います。CFO募集は今年も行う予定ですが、根元のコンセプトが企業の本質に合致していたからこそ、継続できるのではないでしょうか。

アクションに“ひねり”をつけて、社会へのインパクトを強める

あとは、どんなアクションを取るかによって世の中へのインパクトも変わると感じましたね。行動で見せるのは大切ですが、そのアクションに“ひねり”を加えることが重要というか。

野上:今回で言えば、18歳以下が会社に加わることや、CFOという言葉の強さですかね。

秋山:そうですね。繰り返しですが「変えるべきふつう」をいかに見つけるか。その視点のユニークさが大切で、「未来のことを決めるのに未来を生きる当事者がいないのはおかしい」という発見は、この企画に強度を出したと思います。

さらに、その先のアクションをユニークにするのもポイントかなと。今回のCFOという役職・言葉は、永田さんと話す中で提案されたものですが、この言葉があったからこそひねりが生まれたのかなと。僕らとしても、こういうひねりをつくって企画の強度を出せるのがクリエイターの強みだと思っています。

野上:今回の事例でもうひとつ思ったのは、パーパスアクションが、逆に企業の本質や存在意義、ビジョンを“再定義”するきっかけになるかもしれないということ。実はユーグレナでも、CFO企画の後に企業ロゴを含めたCI(コーポレート・アイデンティティー)を刷新しました。僕たちも携わり、8月7日に発表されたのですが、CFO募集というアクションを経たからこそ、今まで持っていたユーグレナの本質やビジョンがより明確化されたと思います。行動するには、それこそ一つ一つの決定を明確に捉えないといけないので。

ユーグレナ③
ユーグレナ、新CI(コーポレート・アイデンティティー)

秋山:社員のモチベーションが上がったという声も聞かれましたし、パーパスアクションにはそういった企業価値を再定義する意味もあるのかもしれない。今後も、企業のコンセプトや本質に根付いたパーパスアクションの事例を増やしていきたいですね。

最後に、私が所属しているFuture Creative Centerでは、パーパスアクションをつくっていくプロジェクトを立ち上げました。自らもパーパスアクションの企画実施に携わってきたメンバーを中心に、まずは世界中の事例を集め、研究するところから始めています。興味を持っていただけたら、ぜひお問い合わせくださるとうれしいです。