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中小企業は、心を動かすコンテンツメーカーNo.3

2020/11/24

世界で“絆”生む「コマ大戦」に見た、中小企業コンテンツの可能性

中小企業が持つ、商品を売るだけではないコンテンツメーカーとしての魅力や可能性を探る本連載。

日本経済新聞社との取り組みを紹介した第1回第2回に続き、第3回は実際に中小企業の強みを「コンテンツ」として発信し、反響を得ている経営者の方に話を伺いました。

本連載の著者である森本紘平は、中小企業にフォーカスした企画・コンテンツ開発に携わり、1000人を超える経営者と交流してきました。その中でも、特にすごみを感じた経営者の一人が、ミナロ代表取締役の緑川賢司氏。

「コマ大戦」というキラーコンテンツを生み出し、全国の中小製造業だけでなく世界をも巻き込んだムーブメントを起こした緑川氏に、中小企業が持つコンテンツメーカーとしてのポテンシャルや、コンテンツを発信することの意義をお聞きしました。

緑川氏×森本氏

中小製造業が生んだ唯一無二のコンテンツ「コマ大戦」

森本:緑川さんには「NIKKEI全国社歌コンテスト」の審査員をはじめ、さまざまなプロジェクトの企画段階から相談に乗っていただき、いつも大変お世話になっています。僕は中小企業にはコンテンツメーカーとしての大きな可能性があると信じているのですが、それをまさに体現されているのが「全日本製造業コマ大戦(※1)」だと思います。このコマ大戦が生まれた経緯を改めてお聞かせください。

※1 全日本製造業コマ大戦
全国の中小製造業が自社の誇りをかけてつくったコマを、土俵上で対戦させる喧嘩ゴマの全国大会。2012年の初開催以来、毎年数多くの企業が参加し、「高校生コマ大戦」「世界コマ大戦」も開催されるなど、世代・国境を超えてムーブメントが広がり続けている。
 
 

緑川:下請けとして長らく日本を支えてきた中小製造業は、立派な技術や設備を持っていても、なかなか自社製品を世の中に売り出す機会がありませんでした。さらにリーマンショック以降、景気が落ち込んで苦境に立たされる製造業も多い中、追い討ちをかけたのが2011年の東日本大震災です。このままでは町工場の未来はないと思い、なにか希望が持てる活動ができないかと考えていたとき、たまたま目の前に現れたのがコマでした。

森本:コマとはどのように出合ったのでしょうか?

緑川:知り合いの町工場が、フランスの展示会にコマを出展していたんです。なぜなら、自分たちがつくったコマがよく回れば、言葉が通じない海外の人にも技術力が伝わるから。

素晴らしいアイデアだなぁと感心していたのですが、いや待てよ?と。1センチ程度の小さいコマならどこの町工場でも簡単につくれるし、材料費もそんなにかからない。全国の町工場にコマをつくってもらって日本一を決めようと。こうして、2012年2月にパシフィコ横浜で第一回全日本製造業コマ大戦を開催し、22チームが参加してくれました。

森本:初回の反響はいかがでしたか?

緑川:NHKや日刊工業新聞などに取り上げていただき、全国の町工場から「うちも参加したい」という問い合わせが殺到しました。第二回の参加数は200チーム。7ブロックに分かれて予選大会を行いました。

第一回全日本製造業コマ大戦

森本:あっという間に業界に広がっていったんですね。中小製造業を元気にしたいという目的でスタートしたと思うのですが、実際に参加した企業にはどんな変化が訪れたのでしょうか?

緑川:第二回大会で優勝したのが、岐阜にあるシオンという会社。従業員8人程度の小さな町工場ですが、コマ大戦をきっかけに自社ブランドの文房具をつくると、蔦屋書店やLOFTなどにも置かれるようになり、飛ぶように売れたそうです。彼らがつくったレプリカのコマを、某有名歌手が140個購入されたという逸話も生まれています。

森本:まさに中小製造業のコンテンツ化が成功した好例ですよね。

DRILLOG
シオンの自社ブランド文房具「DRILLOG(ドリログ)」

 
世界大会のきっかけは、チェ・ゲバラからのメール!?

森本:その後、コマ大戦は全国から世界に展開していきます。その経緯も教えていただけますか?

緑川:突然ですが、チェ・ゲバラの話をさせてください。ゲバラはご存じの通り、搾取されている人たちを助けようとキューバ革命を起こし、「アメリカの畑」と呼ばれていたキューバを解放した人物です。彼が亡くなった1967年に私は生まれたという縁もあり、昔からゲバラの功績や生きざまに感銘を受けていました。

コマ大戦の世界大会を企画したとき、最初に手を挙げてくれたのがボリビアです。ボリビアは南米最貧国といわれていますが、職人がたくさんいる国です。そして、ボリビアはゲバラが暗殺された土地。ボリビアの発展に尽力し、道半ばで亡くなったのです。

私はボリビアからメールをもらったとき、「これはゲバラからの連絡だ」と勝手に思ってしまって(笑)。早速、土俵やコマのサンプルをボリビアに送り、予選大会を開きました。その後、他の国でも予選大会を行い、ボリビアのチャンピオンを含む世界大会を日本で開催しました。

全日本製造業世界コマ大戦2015

森本:その熱量や勢い、本当にすごいです。近年は中高生の間でもコマ大戦が広がっているんですよね。

緑川:はい、工業高校の大会なども行われていますし、小学校のイベントや地域のイベントでも採用してくれています。コマをきっかけに子どもたちが地域の町工場に触れて興味を持つ機会が増えれば、町工場の発展につながると思うので、今後も続けていってもらえるとうれしいですね。

森本:コマ大戦は「教育」という観点でも魅力的ですよね。大人が仕事、もしくは仕事の延長線上にあることにワクワクする姿って子どもたちの心に残るじゃないですか。社会人になっても熱くなれるものがあるんだと子どもたちに伝えることは、すごく大事だと思います。


企画のポイントは、「発起人の熱量」と「エンタメ性」

森本:改めて振り返ってみて、企画が成功したポイントはどこにあると思いますか?

緑川:「言い出しっぺ」が動くことです。本番だけでなく、事前に準備すべきことが多く、地域のリーダー探しも含めてたくさんの人を巻き込んでいかないとイベントは成り立ちません。人を動かすのは、発起人の思いです。自ら率先して動き、みんなに思いを伝えていく。すると、周りの人たちも盛り上がって企画がどんどん動いていくのです。

森本:僕がコマ大戦を見て感じたのは、発案者の熱量がコンテンツに乗っかっていることはもちろん、受け手側にとっても楽しめる工夫がされている点も大切だということ。

例えば、すごく強そうなコマなのに、投げる人がミスして回らないというハラハラ感があったり、大会ルールをうまくかいくぐって勝ちまくるヒール役のコマがいたりなど、中小製造業に関係ない人でもエンターテインメントとして楽しめる設計をされていますよね。

緑川:まさにエンターテインメント性は大事にしているポイントです。どんなに意義のあるプロジェクトでも、結局面白くないと当事者以外の人には見てもらえません。いかに分かりやすく、面白く伝えられるかが重要です。

森本:もう一つ、コンテンツ開発をする上で僕が参考にしていることが、スピード感を持って形にするということ。緑川さんはとにかく形にして、トライ&エラーを繰り返しながら大きなものをつくっている印象です。

緑川:確かに、PDCAではなく「PDPDPD……」をずっと続けているかもしれない(笑)。

森本:それこそが緑川さんの強みであり、たくさんの人がコマ大戦に引き付けられる理由だと思います。人を巻き込んで新しいことを始めるとき、相手はどんなに説明されても目に見えないと現実味が湧かないですよね。

規模が小さくても、素早く形にしてコマ大戦の世界観を提示できたからこそ、初回から大きな反響を呼び、一気に拡大することができたんだと思います。

コマ大戦の様子


コンテンツを成功に導く「緑川さんフレームワーク」とは?

森本:今、コンテンツの重要性はますます高まってきていると感じます。例えば、テレビの視聴に関しても「なんとなくテレビを見る」のではなく、「あのドラマを見よう」と、コンテンツありきで視聴する人が増えています。

また、コマ大戦がきっかけで文房具販売に成功したシオンのように、コンテンツというワンクッションを挟むことで、ステークホルダーの気持ちをグッと近づけることも可能になります。

電通の本質的な強みは、人の心を動かす企画・コンテンツを、クリエイティブとメディアのチカラを使ってつくり込めることだと思うので、その強みと中小企業が持つコンテンツメーカーとしての強みを掛け合わせることで、副次的に中小企業の課題解決につながるのではないかと思い、僕も「15秒おしごとTV」や「社歌コンテスト」(現在は大企業も対象)といった企画を考案してきました。

緑川:社歌コンテストはもはや定番になっているからすごいですよね。企画が存続・発展しているのは、言い出しっぺである森本さんの力だと思いますよ。

森本:社歌コンテストが発展したのは、日経新聞とJOYSOUNDのブランド力があったからです。社歌も15秒おしごとTVも、緑川さんにアドバイスを頂いて骨子ができました。実は僕、「緑川さんフレームワーク」というものを使っているんです(笑)。

緑川:なに、それ?(笑)

森本:企画が成功するまでのステップを「ホップ、ステップ、ジャンプ」の三段階に分けているんです。ホップは「行動が伴うから説得力が出てくる」、ステップは「説得力があるから人がついてくる」、ジャンプは「人がついてくるから成果が出る」。これが、緑川さんの仕事から抽出したフレームワークです。

緑川:なるほど(笑)。

森本:このフレームワークから生まれた企画は必ず成功すると思っているので、ぜひ皆さんにも使っていただきたいです(笑)。

 

「NIKKEI全国社歌コンテスト」表彰式後
「NIKKEI全国社歌コンテスト」表彰式後のコアメンバー打ち上げで(2019年12月) 前列右から3番目が緑川氏、前列右端が森本氏


連携・連帯が、ワクワクするコンテンツを生み出す

森本:今後、緑川さんが取り組んでいきたいことを教えていただけますか?

緑川:今、中小企業の数を減らして再編する政策が検討されていますが、私は集約には限界があるし、中小企業が担っている役割を集約ですべて賄えるとは思っていません。それよりも、本来もっとパフォーマンスを発揮できるはずの中小企業を改善し、より魅力的な商品を世の中に届けられるように変えていくことが重要だと考えています。

そのためには、ただ中小企業に働きかけるだけでなく、政治にも提言をしていかなければなりません。しかし、一方的に意見を伝えるだけでは世の中は動かないので、社会が協力したいと思えるような組織を、中小企業の皆さんと一緒につくっていきたいと思っています。そのときに重要な切り札となるのが、コンテンツの力ではないかと考えています。

森本:ありがとうございます。どうして緑川さんに仲間が多いのかを改めて考えてみたのですが、やっぱり常にみんなのことを第一に考えているからだと思うんです。どうしたら相手が良くなるのか、どうしたらみんなが良くなるのか、どうしたら国が良くなるか。いつも人のことを考えているからみんながついてくるんですよね。

緑川:そこは森本君も同じだと思いますよ。どうしたら中小企業の人たちに喜んでもらえるか、そこを考え尽くしたからこそ、社歌コンや15秒おしごとTV、中小企業魂の声といった企画に協力してくれる人がたくさん現れたんだと思います。

森本:恐れ多いです。緑川さんも「連携・連帯」をキーワードに掲げていますが、僕がつながってきた面白い人、熱い思いを持った社内外の人たちを、中小企業の方々につなげていくことも、自分がこれから果たすべき役割だと考えています。

緑川:つなぐって大事だよね。とある先輩が「おれは接着剤だ」と言っていたのですが、まさに接着剤のような存在が重要。時代が変わっても、人と人が出会うことの価値は変わりません。その場をつくることが、結果的にワクワクするコンテンツにつながり、未来の仕事につながるんじゃないかと思っています。これからも期待していますよ。

森本:ありがとうございます!コマ大戦が世界に広がっていったように、自分のプロジェクトも世界を視野に入れていきたいと思っています。コンテンツをきっかけに他国の人々同士が出会い、絆が深まり、新しい仕事ができていく。そんな世界観を目指します。今後もいろいろと相談させてください!本日はありがとうございました。
 

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