ブランドと生活者が交わる場所―ソーシャルコマースの時代がやってくる!No.1
ソーシャルコマースとは?ブランドと生活者がSNS上で交わる・買える
2020/11/27
コロナ禍で生活者の在宅時間が増えました。
その結果、以前以上にオンラインで商品・サービスを購入することが当たり前となり、ソーシャルメディアで情報と接する機会も多くなりました。
SNSなどのソーシャルメディア上で、生活者とブランドがコミュニケートし、その場で商品・サービスを販売する。それが「ソーシャルコマース」です。
本稿では、電通グループのバーチャル横断組織「Dentsu Commerce Room」でソーシャルコマースに特化したプロジェクトチームのリーダーを務める金用國が、今こそ企業が知っておきたいソーシャルコマースの基本を解説。アメリカ、中国、韓国における取り組みも紹介します。
<目次>
▼「SNS上の投稿」から直接商品を購入できるソーシャルコマース
▼販売者と視聴者の双方向コミュニケーションが生まれる「ライブコマース」
▼ECの膨大な機会損失をリカバーする、ソーシャルコマースの可能性
▼すさまじい勢いでソーシャルコマース機能を拡充するFacebook
▼車や不動産もソーシャルコマースで売れる時代
「SNS上の投稿」から直接商品を購入できるソーシャルコマース
ソーシャルコマースの一番分かりやすい形は、ソーシャルメディア上の誰かの「投稿」に、そこで紹介されている商品・サービスの購入ボタンが付いていて、欲しいと思ったらその場で決済までできる、という状態です。
Facebookをはじめとする海外の大手プラットフォーマーの間では、この「ソーシャルメディア上で直接決済できる機能」を実装する動きが加速しています。
例えば、SNSで知り合いがおすすめしている商品を欲しくなったとき。従来であれば商品をウェブで検索してECサイトや店舗で購入していましたが、ソーシャルコマースでは、「知り合いの投稿」から直接商品を購入できるようになります。
コロナ禍以前から、若い世代を中心にSNSは生活の一部として浸透しており、SNSで積極的に欲しいモノやサービスの情報収集をしたり、SNS上の口コミを参考にしたり、著名人のアカウントから話題の商品が生まれるといった現象は起きていました。
そこにコロナ禍が訪れたことで、ショッピングのデジタルシフトはますます進みました。その帰結として、これまでは情報収集や情報交換の場だったSNSで、シームレスなショッピング体験を実現する環境が急速に整いつつあるのです。
販売者と視聴者の双方向コミュニケーションが生まれる「ライブコマース」
現在、インフルエンサーなどが動画プラットフォーム上でライブ配信を行いながら、リアルタイムで商品・サービスを販売する「ライブコマース」がアメリカや中国、韓国で盛んです。日本でも少しずつ盛り上がりを見せていますが、このライブコマースもソーシャルコマースの一種です。
ただ、この説明だけ聞くと、昔ながらのテレビ通販を思い浮かべる方も多いかもしれません。
ライブコマースと通販(いわゆるインフォマーシャル)との最も大きな違いは、ライブコマースは販売者と視聴者の「双方向コミュニケーション」によってコンテンツが形成されるという点です。
テレビ通販の場合、話上手なプレゼンテーターが一方的に商品を紹介しますが、ライブコマースでは視聴者がチャット機能を使ってリアルタイムで質問し、プレゼンテーターがその場で質問に答えてくれます。
また、視聴者数やコメントに応じて話す内容を変更したり、サプライズ的に特典を付けたりなど、臨場感あふれる演出を臨機応変に仕掛けることができます。
視聴者が購入したいタイミングで、画面をタッチしてすぐに決済できる点もライブコマースの大きな特徴です。
ECの膨大な機会損失をリカバーする、ソーシャルコマースの可能性
欧米の複数の調査(※)によると、ECサイトでユーザーが商品をカートに入れたまま結局購入しなかった商品、いわゆる「カゴ落ち」の割合は、約70%にも上るそうです。
「カゴ落ち」を引き起こす大きな要因のひとつが、決済までのプロセスの煩雑さです。決済のフローを簡略化し、デザインを改善することで、約70%の損失のうち、35%程度をリカバーできると考えられているそうです。
ソーシャルコマースは認知から購入までのプロセスが非常にシンプルで、SNS上で直接決済できる機能も整備され始めています。つまり、ソーシャルコマースの普及で、EC市場全体が大きく底上げされる可能性があるのです。
筆者は、ソーシャルコマースの本質を、マーケティング活動におけるコミュニケーションのあり方に変化を起こすことだと思っています。
まず、従来のEコマースやプロモーションは企業からの一方的な情報発信が主流だったのに対し、ソーシャルコマースはSNSなどのソーシャルメディアを活用することで、企業と生活者の双方向コミュニケーションが可能になります。
多くの生活者にとってSNSは、私的な趣味やコミュニティーを楽しむためのもの。そこに商品やサービスを押し売りするのではなく、コミュニケーションをとりながらブランドの世界観やストーリーを伝えることで、生活者と良好な関係を継続的に築くことができるようになるのです。
さらに、企業からの情報発信のみならず、「生活者から生活者」への情報発信も生まれます。近年は、身近な友人・知人やインフルエンサーからの情報を購買行動の参考にする生活者も少なくありません。
さらに、自分が投稿した商品が買われることでインセンティブを得られるような設計ができれば、自分の好きな商品やサービスを魅力的に紹介する投稿がどんどん増えるでしょう。ソーシャルコマースは企業側にとって、購買の可能性を引き上げる重要なチャネルになり得るのです。
- 「カゴ落ち」で発生している機会損失の改善
- 生活者との双方向コミュニケーションによるブランドイメージ向上
- 「生活者起点のコマース」という販売チャネルの拡大
これが、企業がソーシャルコマースを活用するメリットだと筆者は考えます。
ソーシャルコマースは業種・業態を問わず、さまざまな企業のニーズに応えられるマーケティング手法です。
- ブランドの若返りを図り、若年層との関係性を強化したい。
- ECプラットフォームに依存せず、新しいチャネルを広げたい。
- これからECを始める、またはスモールスタートしたい。
- 従来のデジタルマーケティングやマスマーケティングが効きにくくなっていると感じる。
このような悩みをお持ちの企業は、ぜひともソーシャルコマースの導入を検討してみてはいかがでしょうか?
すさまじい勢いでソーシャルコマース機能を拡充するFacebook
今後ソーシャルコマース市場がどう発展していくのかを推察する指標として、日本に先行して盛り上がりを見せている米Facebookの動向を追ってみましょう。
現在アメリカで注目を集めているのが、「Facebook」や「Instagram」におけるソーシャルコマース機能の拡充です。
まず、アメリカでは外部ECサイトに遷移せず、「Facebook」や「Instagram」上で直接商品を購入・決済できる「チェックアウト機能」を実装しました。
また、企業が「Facebook」や「Instagram」などプラットフォームを横断して共通のオンラインショップを無料で開設できる「Facebookショップ機能」というサービスをリリース。日本でも今年6月から提供を開始しています。
「Instagram」では、フィードやストーリーズなどの投稿に商品をタグ付けすることで、タップすると商品名や金額などの詳細が表示され、そこからシームレスに商品のECサイトに遷移させる「ショッピング機能」を2018年から日本でも提供しています。
さらに、これらのサービスを支える独自の決済システム「Facebook Pay」や、インフルエンサーやパブリッシャーが協業関係にある企業のショッピングタグ(商品や価格を表示させるタグ)を投稿に付ける機能 、ライブ配信中にファン とコミュニケーションをとりながら商品を表示しセールスを行う「ライブショッピング」など、米国ではソーシャルコマースを促進する機能を次々とテスト導入しています。
そしてFacebookは上記のソーシャルコマース機能拡充に紐づけて、広告配信の新サービスも積極的にリリースしています。例えば以下のようなものです。
■ブランドコンテンツ広告…企業がインフルエンサーと連携して、インフルエンサーのアカウントから広告配信を行う。
■ダイナミック広告…利用者の閲覧履歴に基づく動的な広告を配信できる。
■コラボレーション広告…ダイナミック広告を用いて直接ECサイトやアプリに遷移する。
ここまでで分かるように、ソーシャルコマースによって、生活者は「いつもアクセスしているソーシャルメディア上で、信頼できる人物の紹介する商品を、その場で購入できる」ようになり、利便性が向上します。
また、前項で紹介した通り、ソーシャルコマースは企業側にとってのメリットも大きく、Win-Winの状況が生まれつつあります。
そしてソーシャルコマースの“場”を提供するプラットフォーマー側も、手数料や広告費などでキャッシュポイントの増加が見込めます。Facebookのようにソーシャルコマース機能に注力するプラットフォーマーは世界的に増えていくでしょう。
車や不動産もソーシャルコマースで売れる時代
最後に、中国のソーシャルコマースの活況をお話しします。
コロナ禍でOMO(※)が一層加速する中国では、さまざまな企業がライブコマースを展開し、大きな盛り上がりを見せています。
※ OMO
Online Merges with Offline。オンラインとオフラインの融合、つまりネットと店舗(オンラインとオフライン)の垣根をなくし、顧客目線でカスタマージャーニー設計することを意味するマーケティング概念。
それも、タレントやKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーだけでなく、百貨店の販売員やアパレルの店舗スタッフなど、自社の「接客のエキスパート」がライブ配信を行うケースが急増しています。
販売される商品は、ファッションやコスメなど、SNSを積極的に活用する若年層をターゲットとしたものに加え、化粧品、家具、家電まで幅広くカバーしています。最近ではEコマースとは全く無縁だった車や不動産まで、ソーシャルコマースで販売することが実際に起こっています。
ソーシャルコマースで高額な商品を扱うことに驚く人もいますが、海外の状況を見ていると、実はブランドの世界観やストーリーが購買行動に大きな影響を及ぼすラグジュアリーブランドこそ、ソーシャルコマースとの相性が良いようなのです。
すでにアメリカや中国では多くのハイブランド、ラグジュアリーブランドがファンとのエンゲージメント構築、SNSからブランドサイトへの誘導にソーシャルコマースをフル活用しています。中にはターゲット層に合わせて、1社で20以上の「Instagram」アカウントを使い分けている企業もあるほどです。
こうした動きは近い将来、日本にも広がってくると思います。つまり、「ソーシャルメディアで売るのは若年層向けの商品」という常識が変化し、車や不動産、家電など、オンライン購入はハードルが高いと思われていたあらゆる業種・商材が、当たり前のようにソーシャルメディア上で購入される時代が来るということです。
今後ますますテクノロジーが進歩し、ソーシャルメディアが生活に浸透していくことを考えると、ソーシャルコマースのポテンシャルの高さは計り知れず、企業としては積極的に活用しない手はありません。
とはいえ、まだ日本ではそこまで浸透していない領域のため、何から手をつけるべきか分からない企業の方も多いでしょう。
次回は、日本企業が今後ソーシャルコマースをうまく活用するために押さえておきたいポイントを解説します。
「国内電通グループによるソーシャルコマースに特化したプロジェクトチーム」について詳しく知りたい方は、こちらの座談会記事もぜひご覧ください!