ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.6
サイボウズ青野氏、「40歳が社長になる日」著者・岡島氏らが語る「企業と個人の新しい関係性」
2020/12/17
「辞めるか、染まるか、変えるか。」と題した本連載。これまでは大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」と共同で、大企業の変革にまつわるイベントやインタビューを通じて、新しい「大企業の可能性」を探ってきました。
大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」
今回は、ONE JAPANが10月11日に開催した「ONE JAPAN CONFERENCE 2020」で行われたセッションから、大企業で働く若手・中堅社員がこれからどうあるべきかを考えていきます。
セッションのテーマは「ONE JAPAN 大企業若手中堅1600人が考えた『新しい企業様式』」。
ゲストにはサイボウズ社長の青野慶久氏、著書「40歳が社長になる日」でも知られるプロノバ社長の岡島悦子氏を迎え、ONE JAPANからは副代表でNHKの神原一光氏、電通の吉田将英氏、モデレーターとして日本テレビの鈴江奈々氏が参加。
ONE JAPANが2020年8月、加盟企業の約50社・1600人を対象に行った働き方の意識調査を基に、ディスカッションを行いました。
多くの企業が抱える大企業病の正体
調査対象の約50社の企業に勤める人たちは、自社にどのような課題意識を持っているのでしょうか?岡島氏によると、大企業が抱える課題には大きく、次の五つがあります。
・内向き、社内至上主義
・縦割り、セクショナリズム
・挑戦、仮説検証不足
・スピード欠如
・同質化、新陳代謝不全
今回の調査でも、自社にこうした課題を感じているという回答が、五つ全てで60%以上となりました。
岡島氏は「会社のことが好きな一方で、『こういうところが気になる』という人がもともと多かったのでは。それがリモートワークで顕在化して、比率が高まった」と背景を分析しました。
この5項目の中で、最も課題意識が高かったのが「スピード欠如」です。調査を行った神原氏からは、「組織の課題として認識してはいるものの、解決に向けた取り組みができている人が少ないことが明らかになった」と指摘。青野氏は、企業としてのスピード感を上げるためには、権限委譲がカギだと重ねました。
青野:スピードを上げるには、権限を渡せばいいと思います。権限を持つ社員が少ないから根回しに時間がかかってしまいます。権限を渡さないことには意思決定のスピードが上がらないことは事実です。ただし、この問題については経営層じゃないと着手できないかもしれません。
岡島:たしかに働き方は会社が決定することです。とはいえ、ボトムアップで声を上げること自体はできます。重要なのは、そういった声や具体案が上がりやすい社風かどうかでしょう。実際、今年になってリモートワークやペーパーレス化など、新しい働き方の“前倒し”が順調に進んだ企業は、若手から提案や具体的なアイデアが挙がり、かつそれを受け入れる風土を持っている傾向にあります。
また別の角度から、青野氏は「スピードがあることは必ずしも良いわけではない」とも指摘しました。
青野:意思決定“だけ”が速いことは問題にもなり得るので、サイボウズでは意思決定の速さにフォーカスするような考え方はあえてしていません。例えば社内での議論に時間がかけると意思決定は遅くなりますが、これをやっておくと、その後が速いです。逆にトップダウンで対話のない意思決定をしていると、それを実装する際に現場からの手戻りがたくさん出るといった弊害が起きたりします。
ONE JAPAN加盟団体のメンバーが実践。「大企業病を乗り越える技」
こうした大企業病を乗り越えるための具体策として、調査の回答者から挙がった二つの“技”を吉田氏が紹介しました。
吉田:ONE JAPANに参画する若手・中堅社員たちは、部署間や社外のパートナーやクライアント、世間といった横のつながりを構築することには長けています。ですが縦の連携についてはうまくできていないケースもあるようです。職階が上の人とどうつながるか、巻き込むか。これをうまくできないことが、先に挙がったスピード欠如の要因にもなり得ます。
縦の連携をするための具体的な技のひとつは「トップダウン実演販売」。役職のない若手からトップへと直談判し、トップダウンでプロジェクト推進などの機運を社内に生み出している会社が実際にあります。
吉田:もうひとつの技は「おせっかいおばちゃん人脈活用」です。経営層と同期の古参社員など、いわゆる「コネクトハブ」になるキーパーソンを社内で見つけ、自分たちの味方になってもらう。その人から内々に経営層などへ話を入れてもらう手法です。これらをはじめ、ONE JAPANでは大企業を変革するための技のリストを現在作成中です。
岡島:大企業のトップは若手に、「直接話しに来てほしい」と思うものの、中間管理職には「おれは聞いてない」と言う人が一定数います。とはいえ中間層は上を見ているので、トップが首を縦に振ったことが明らかになっていれば、スムーズに話が進むケースも多い。経営陣に縦パスをするならば、「上司にもうまく言ってください」とトップから話を下ろしてもらう依頼をするのもポイントです。またこのとき、一人で猪突猛進して弾き返されることは良くないので、仲間を集めて提案を持っていくとよいと思います。
青野:サイボウズの従業員は日本で約700人、グローバルで約1000人いますが、オープンな場で議論することを徹底しています。すべて社内グループウェアを使い、上司やその上と話すにも、オープンに会話することで「聞いてない」が起きないように工夫しています。こうすると、上司を飛び越した会話も可視化されます。情報の流通はフラットにしながら、指示系統のヒエラルキーが機能しているなら残すという考え方です。
企業との関わり方
続いて、自社と自分の関係性という観点から、若手・中堅社員の意識に関する調査結果が紹介されました。
内面に関わる要素が多く上がる中、青野氏は「この項目では見えづらいが、一人一人が全く違う考えを持っていると、経営者としては認識すべき」とコメント。
青野:人によってやりがいを感じるポイントも違い、給与もどのくらいあれば満足なのかも違いますよね。だからこそ働く上で、自分が本当に求めるものをより明確に自問自答してほしい。何歳までにいくら欲しいのか、それはどういう理由なのか、突き詰めて考えることが大切です。それがあれば交渉もキャリア設計もしやすくなりますが、明確でない人の方が多いのではないでしょうか。
加えて青野氏は、「会社と自分の関係」という概念のあいまいさについても鋭い示唆をしました。
青野:会社との関係、という表現をよくしますが、よく考えると会社とは概念上の存在でしかありません。もし理想とする配属先で働きたいのなら、実際は会社との関係ではなく、「配置を決める権限がある人との関係」を築く必要があります。ここまで分解して考えられないと何も変わらないので、「自分が求めることについて決定権を持つ人」を理解して、その人と話しに行くべきなんですよね。
岡島:実は会社としても、自分から行動してくる人物を探しています。公募型のプロジェクトは、自身の存在を示す絶好の場のひとつになると思います。おすすめは、あまり陽の当たらないプロジェクトに手を挙げて、役員などから注目を集めてから望むポジションを獲得するという方法です。
さらに、転職という“カード”の切り方についても青野氏・岡島氏から言及されました。
青野:一番簡単なのは会社を辞めることでしょう。今いる組織が嫌だとしても、そこを選んだのは自分自身でもある。それでも残りたいなら覚悟を決めるべきですし、そうでないなら辞めることも選択肢だと思います。
岡島:とはいえ、ホームグラウンドでやれないことはアウエーでもできないと思います。転職する前に今の環境でやりきれたかを問うことも大切。どうせ辞めるつもりなら、思い切って「会社からバツをつけられてもいい」というつもりで、自分が正しいと思うことを行動に移してみるとよいと思います。意外と何かが変わるかもしれません。
在宅勤務の現状と理想
働き方について議論が及ぶと、政府の緊急事態宣言を機に大企業の多くが取り入れ始めたリモートワークと、それに伴う働き方や評価制度の変化について話されました。
岡島:役員先やクライアント先の企業の役員会でもオフィス、会社、組織の再定義が始まっている。中でもオフィスのあり方はコストにも影響が大きいので、かなり真面目に議論されています。ただ、すべてバーチャルにすればいいというわけではなく、リアルでなければ成立し得ないこともあります。こうした議論の先には、出社する目的や意味付けが変わることもあるでしょう。働き方が変わると同時に、時間だけが唯一の労働の評価基準ではなくなると感じます。
モデレーターの鈴江氏から出た、「その場合は話題のジョブ型雇用など、業務内容による評価が後押しされると思うが、日本で定着するどうか?」という問いに対して、岡島氏はそうでもないという見解を示しました。
岡島:多くの人はその会社が好きで入社するものの、そこで何をするか選べるほど業務知識・専門性がないことも往々にしてあります。その場合は従来のメンバーシップ型雇用になるはずです。一方でエンジニアなど、いわゆるポータブルなスキルを持ったスペシャリストはジョブ型雇用になりやすいでしょう。このどちらもが存在していくというのが私の見立てです。
青野:サイボウズでは、社員個々の希望に添えるよう、メンバーシップ型とジョブ型の雇用・評価制度をハイブリッドで取り入れています。例えば成果重視の人は給与にアップダウンがあることがモチベーションになる。でも職種にかかわらず、成果に応じた昇給よりも安定した待遇を求める性格の人もいます。二者択一ではどちらにせよ制度に合わない人が出てしまうので、マネジメントは両方の心をつかめる制度設計ができないとだめだと思っています。
新しい企業様式
最後にこのセッションの総括として、これからの時代に企業とそこで働く社員それぞれにとって、どのようなマインドセットが求められるか、意見が交わされました。
青野:日本のピラミッド型のヒエラルキーがどう変わるか見ていますが、コロナ禍はいい外圧だと捉えています。働く側にとっては追い風です。在宅勤務によって仕事と家庭の両立がしやすくなる面があるので、今の働き方が一時的な措置にならないよう、これまで通り仕事をするだけでなく、会社に対して主張することは主張していけるといいですよね。
岡島:加えて、人生100年時代になり、労働寿命も60年になるともいわれています。それだけ長く働くのであれば、企業も個人も変化することが必須です。その前提で、会社としては付加価値創出をし続けられるなら機会を提供する、個人としては成長の機会が獲得でき続けるならば帰属する、と相互に自由な選択肢の中から選び合うのが健全な状況を生み出します。働き方と評価制度が変わることで、これからは“個”に対して優しいようで自由と自己責任という厳しい世界になっていきます。だからこそ、特に大企業にいて組織を変えたいと思う人は、1人で戦わず、思いを共有する仲間と束になって行動していくことが大事です。
吉田:利益だけでなく、意味や価値を問われる時代だからこそ、企業も個人も“for”を意識することが大事です。“何のため?”が企業にも個人にも問われていると思います。経営者はミッションやビジョンのような形でそれを大きく示し、その旗の下に働く従業員は、会社のため、社会のためになることを考え、声を上げることが理想的な企業と個人の関係だと思います。
ONE JAPANによる「新しい働き方意識調査」のレポートはこちらからダウンロード可能です