ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.7
リーダーだけが全てじゃない。個の時代、組織を変えるのはセカンドペンギンだ
2021/04/08
「辞めるか、染まるか、変えるか。」と題し、大企業の変革にまつわるテーマのイベントを通じて、新しい「大企業の可能性」を探る本連載。第3回以降は、ONE JAPANに加盟する有志団体の所属企業の中から、大企業の変革に挑戦した事例をピックアップし、その当事者へインタビューする形式で、「大企業の可能性」について考えていきます。
大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」
今回インタビューしたのは、野村総合研究所(NRI)で、同社の海外拠点における事業支援のプロジェクトマネージャーを務めるかたわら、「デジタルバヅクリスト」としてニューノーマル時代の人と人のつながりを生み出す川﨑万莉氏。
「個の時代」の中で、個人と組織が存続していくために欠かせない要素として、「セカンドペンギンの在り方」を説く同氏に、電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英が話を聞きました。
オンラインは手軽さと希薄感の表裏一体。人間らしさをどう感じさせるか
吉田:川﨑さんは昨年から、「デジタル×場づくり」を掲げて積極的に活動されていますが、どのような経緯があるのですか?
川﨑:大きなきっかけはコロナ禍で社内外問わず、人のつながりが以前と変わってしまったからです。気軽に人と人とが会えない中で、どうやったらリアルの臨場感や暖かみを表現できるか、それを考え始めました。
私自身は、高校の頃にフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に感銘を受けて以来、デジタルテクノロジーに興味を持ち続けています。ITサービスを開発しているわけではありませんが、新しい技術に触れることも多いので、いち利用者として場づくりにデジタルテクノロジーをどう活用するかを考えています。
吉田:昨年爆発的にユーザーが増加したzoomで、機能をフル活用したイベントを実施したり、ソーシャルメディアやユーザー投稿型メディアでそのノウハウを発信したり、誰もが手段として持ち得えるものを的確に使いこなしている印象があります。
一方で、ONE JAPAN主催のイベントで川﨑さんが技術面の担当をしているのを見ていましたが、ソリッドなスキルもありながら、人として大切なことも意識しているなと感じました。
川﨑:デジタルテクノロジーが好きですが、人間臭いのもすごく好きです。イベント中、参加者の方がどのような反応をしてくださっているか拝見するのが楽しくて、ビデオを一覧にしてずっと見ています。反応によって、ファシリテーターとして話題を振ったり、チャットや個別メッセージでフォローしたりもしています。「その場をどういう空気にしたいか」「どういう余韻を残したいか」をいつも気にしながら運営していますね。また、イベント中だけではなくイベントの開催前・開催後のコミュニケーション設計も大切にしています。それぞれのフェーズでどのような施策をすると、参加者同士のその後の繋がりが生まれやすいかを考えています。
吉田:人を大切にするという意味だと、コミュニケーションやつながり方の面でコロナ禍はどういう変化をもたらしたと思いますか? 例えば仕事のコミュニケーションを見ると、これまでの会議室での常識だった上座や下座は、リモート会議によってなくなってしまいました。
川﨑:壇上や上座・下座が機能しなくなったことで「フラット感」が醸成されたと思います。報告や発表をするときも、これまでのように「全員の前に立つ」というよりも個人に同じようにフォーカスが当たるようになりましたよね。
また、空間から解放されたことが面白い変化かなと。これまでは、場所を押さえてそこに人が集まることが当たり前でしたが、今では日本中、世界中のどこからでも、イベントに参加することができます。参加者の多様性も広がっていますね。これは次の当たり前になっていくと思います。
業種によるかもしれませんが、出社の必要性がなくなったことで移住を決めた人も実際に出てきています。こうした現象は、会社ではなく個人にスポットが当たるようになり始める時代の一つの象徴だと感じます。私も住む場所、時間の使い方などを考え直しましたが、「個人としてどう生きるのか」を突きつけられましたよね。
吉田:個人の選択がしやすくなることに対して、自由だと捉えられる人もいれば、怖いと思った人もいるんじゃないかと思います。例えば自宅で仕事をすることが前提になると、逆に鬱々とすることもあるし、新入社員は放置されているともいえなくはない側面もあります。こうした状況に対して、コミュニティづくりの面でどのように貢献できると思いますか?
川﨑:私もオンラインから生まれた「薄い関係性」には課題感を持っています。この1年でかなりの数のオンラインイベントが生まれましたが、その後実際に会いたいと思えたケースがどのくらいあったでしょうか。先ほど話したイベントの最中や終了後の空気づくりにもつながりますが、空間を越えて広く繋がれるようになったものの、終話ボタンを押せば一人で一言も話さない環境に引き戻されます。オフィスのように偶然すれ違うこともありません。最初の出会いがオンラインに移行している中で、会議やイベント後に、これからも話してみたい、つながりを持ちつづけたいとまで思ってもらえるしかけづくりを意識しています。
ニューノーマルを生きる企業が持つべき、新しい「よりどころ」
吉田:私も新しい生活様式の中で色々考える中で、そもそも出社していた頃はみんな仲良かったのか?という問いにたどり着きました。オフィスでは隣の席だった人も、隣にいればなんとなく会話はするけど、実はそこまで仲良くなかったのではないかと。特段仲が良くなくても会話が生まれるようなコミュニティとして企業を見たときに、どういう機能を果たしていたと思いますか?
川﨑:企業では、役職や職種など、個々の役割とそれに基づく関係性が提供されています。
その役割と関係性があることで、吉田さんの言う「実は仲が良くなくても」ある程度会話が生まれていたと思います。また、これまでは出社という働き方が一般的でした。出社して時間・空間を共有することで他者を意識する機会が多く、会話がより生まれやすい状態だったと思います。
一方で現在は、出社がなくなり時間と空間の共有が難しくなって、一緒に仕事をする相手を意識しづらくなっています。また、前例のない状況下で気持ちの余裕も持ちづらい中、この環境に慣れることに精いっぱいで、オンラインでどう相手と接するかまで考えられないことも多いのではないかなと。
そうした意味で、出社は時間的・空間的な拘束以上の意味があったと思います。それがコミュニティとして一つのカギになっていたことは確かです。出社がなくなったときに何が新しいカギになるかを、私もまさにデジタルの場づくりをしながら考えています。
吉田:企業がオフィスという場所をよりどころに人を束ねていた時代がこれまでだとして、次の時代は何が場所に取って変わるか。最近パーパスやミッションと呼ばれるような、社員がついて行きたくなる旗が立てられているかが大切な気がしています。これは以前の対談でもリコーの大越さんが指摘していましたが、必ずwillがなければだめではないはずで、もしそうでなければ社員全員が起業家の会社になって、逆に組織が成立しません。
川﨑:たしかに、みんなが旗を振る必要はないですよね。大切なのは、個人の大切にしたい軸や価値観と、会社や組織のパーパスやミッションの「重なり」を見つけて大きくしていくことかなと思います。
willがなくても、大切にしたいものが今いる会社や組織と一緒というだけで、自分なりに考えたり動いたりしていけますよね。人を巻き込んで引っ張ったり、事業や組織を新たにつくりだすことも一つの動き方ですが、動き方は人それぞれ。フォローに回ったり、たくさんの人に広めたりなど、その人の得意な動き方で行動していける環境が企業の中にたくさん生まれるといいなと思っています。
吉田:フォロワーやセカンドペンギンがいてもいいし、そういう人がコミュニティでのつながりによって、急に変化したりすることもあります。コミュニティはそういうダイナミズムを見られるからこそ魅力がありますよね。
1人の勇敢な挑戦ではなく、“みんな”が1ミリ動くために
吉田:「個の時代」についてもう少し聞きたいのですが、今の社会では経営者=成功者で、彼らの多くはマッチョな理論を組織全体に適応できると思っている向きもあります。「やりたいことないの?」「やればいいじゃん、やればできるよ」というような。
言う側には「自己実現してほしい」という善意があると思いますが、疑問を持ちながら追従しているといわゆる落ちこぼれが生まれたりする。自分のwillを実現することだけが社会の尺度ではなく、みんなで元気玉を大きくしていく方法もあるはずです。たとえ「仲良しクラブ」だと揶揄されたとしても。
川﨑:私も自分のwillを実現するスタイルではないので分かります。今でこそONE JAPANに居場所ができて、大企業の変革に奮闘する熱い仲間たちに囲まれていますが、最初に誘われたイベントではwillを持って動き続けている人たちがまぶしすぎて、「ここに私の居場所はない、帰りたい」と思いました(笑)。そんな気持ちが変わっていったのは、ONE JAPANと自分の「接点」を見つけて、「まずやってみる」ことができたからです。
もともと自社の先輩方がONE JAPANの運営に参画していて、自然な流れでお手伝いをしていました。やっていく中で様々な課題に気づいて、改善案を出して実践して、また気づいて…という実践サイクルが回るようになったんです。実践していると、ほかのONE JAPANメンバーとの信頼関係ができ、自分なりの成功体験ができ、チャレンジしてみたいことができ、新しい仲間が加わり…と。気づいたら自分が運営する側にどっぷりつかっていました(笑)。小さくてもいいから動いてみたことで、willのなかった自分にも仲間と居場所ができて、「自己実現」できるようになっていたんです。
あとは実践する中で、自分の強みを認識して、意識的に使えるようになったことも大きかったです。私の主な仕事はプロジェクトマネジメントですが、全体の段取りや進捗が遅れているところのテコ入れなど、いうなれば「気づきのスキル」が養われています。専門性やリーダーシップなどを前面に出すタイプではないですが、組織にとって必要な立場だなとも感じています。
吉田:企業から見ると、こぼれたボールを拾ってくれる存在は貴重です。特にファーストペンギンじゃない立場からすれば、どこまで首を突っ込んでいいのかわからないこともあります。2番目以降のペンギンが輝くためには、川﨑さんのような人が「何をしたらいいかわからない」人のコンパスになることも大切じゃないかと思います。
川﨑:それはコミュニティのリーダーをやっていても感じます。先ほど「接点」のお話をしましたが、参加者にとってとっつきやすいフックを用意したり、主催者側が「みんなにも関わってほしい」というメッセージを出し続けることを意識しています。嫌な言い方になってしまいますが、傍から見るとマウンティング気質のあるファーストペンギンだと、続く人が飛び込みづらいこともあります。1番手が難しいところに飛び込んだことで、2番手以降をおかしい方向に導いてしまうこともあるかもしれません。
吉田:マス広告の全盛時代は、“すごい人”だけがメディアに出られましたが、ソーシャルメディアが普及した今は誰もがメディアに参加できる時代です。難しいところに飛び込める人だけしか表舞台に出られないという思い込みがあると、誰しも尻込みしてしまいますよね。
でもよく観察すると情報発信で目立っている人も、必ずしも自分しかできないことをやっているわけではない。特別な能力や知見というよりも、発信すること自体が評価されるのだと見ています。“すごい人”だけというマスメディア発想から、ソーシャルメディア発想に切り替えることで、「自分はファーストペンギンじゃない」という人のハードルが下がるんじゃないかなと思います。
個の時代だからこそ重要性を増す、「2番手以降」の存在
川﨑:そうした考えが浸透すれば個が輝きやすくなり、組織にも必ずプラスになります。先ほど「まずやってみる」とお話しましたが、私はことあるごとに「1ミリでもいいから動いてみる」と話していて。動く、というとハードルが高くなりがちなんですが、最初は誰かについていくだけでもよくて、気づいたら1ミリ動いていた、ということでもいいんです。ポイントは、「1ミリでもいいから動け」という伝わり方にしないことです。
ファーストペンギンが完璧すぎると後が気後れしてしまうので、いろいろなところに1ミリ動くための余地を用意するのがコツで、あえて完璧じゃないことを見せるのも1つです。
吉田:いろんなリーダーシップやファーストペンギンの形があっていいと。
川﨑:もっといえば、無理にファーストペンギンにならなくてもいいですよね。完璧なリーダーが局面を打開することもありますが、それが唯一、絶対の像ではないはずです。リーダーにもいろいろなタイプがあってよくて。人を巻き込んで引っ張っていくのが得意なリーダーもいれば、組織やチームの方向性と、メンバーの想いややりたいことの接点を見出してサポートするのが得意なリーダーもいますよね。成功者になれる・なれないの二元論ではないことを、企業のトップをはじめ上に立つ人が理解していることが大切だと思います。
吉田:1番手じゃない人が重要という意味で、ONE JAPANはあたらしいつながり方を体現していると思います。約50の加盟団体(企業内有志団体)がいて、共同代表と幹事の9人が利害や上下もない中で中心的な役割を担っています。序列や命令系統がない組織のマネジメントは大変かもしれませんが、未来的な組織のマネジメントだと思う。トップダウンに文句をいいつつも、フラットにも大変な面があるはずです。
川﨑:そうですね。有志のコミュニティなので、それぞれの想いを全員が持っていますし、会社じゃないからこそ、個人の想いが前面に出ます。必ずしも同じ方を向いているわけではないことと、どの考え方が正義というものではないので、その意味ではトップダウンにはない大変さもあります。でも、熱量があるからこその大変さだと全員が理解しているので健全だと思います。
吉田:私が気になるのは、「それぞれがしたいようにしていいよ」で本当にワークするのか。服装、ルール化された業務プロセス、印鑑など、これまでの大企業的な組織では正義があることがデフォルトでした。ただ、その正義や常識がコロナ禍で幻想だったと気づき始めた人もいます。
川﨑:その意味では、大企業は先ほど話していた空間もですし、その場にしかない正義をよりどころにするのではなく、志をよりどころにすることが重要だ、という話に帰ってきますね。
吉田:これは前回の対談でも語ったのですが、「個の時代」の本質は他人より速く山に登ることではなく、自分が登る山を見つけることです。川﨑さんはファーストペンギンではかもしれませんが、自身の価値基準がしっかりしているから根本的なところで惑わされていないと感じました。もちろん、「価値基準を見つけられないとだめ」「おまえのベースは何だ?」ということ自体も「willハラスメント」ではあるのですが。
川﨑:そうしたベースを見つけるためには、やはりまず1ミリ動いてみることが大事ですよね。1センチじゃなく1ミリでいいと思います。そして、セカンドペンギンをウェルカムする立場の人は1ミリ動くためのフックを用意してあげることが大事です。私も最初はウェルカムしてもらう側でしたが、1ミリ動いたことがきっかけでいつしかウェルカムする側になっていたので。