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ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.8

敵対か?融和か? 若手社員が会社を変えるための後輩論

2021/07/15

「辞めるか、染まるか、変えるか。」と題し、大企業の変革にまつわるテーマの対談を通じて、新しい「大企業の可能性」を探る本連載。ONE JAPANに加盟する有志団体の所属企業の中から、大企業の変革に挑戦した事例をピックアップし、その当事者へインタビューする形式で、「大企業の可能性」について考えていきます。

大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」 

 

今回は、トヨタ自動車の有志社内ビジネスコンテスト「A-1 CONTEST」を主宰する、鈴木貴博氏と土井雄介氏(ONE JAPAN TOKAI代表)の2人に話を聞きました。聞き手は、電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英です。

「これからの先輩・後輩像」をテーマに、いかに大企業の中で個人として活躍し、それを企業や社会が進む方向性と重ねていくかについて語ります。

時間外活動を全社プロジェクトに引き上げた「先人の知恵」

時間外活動を全社プロジェクトに引き上げた「先人の知恵」吉田:トヨタといえば日本を代表するグローバル企業です。大組織ならではの新しいことを始めるハードルがあるように感じますが、「A-1CONTEST」をはじめとして前例のない仕組みやキャリアを開拓しています。

私もクライアント企業内の「社員一人ひとりの活性化」する仕事を多数請け負ってきていますが、大企業の中で自己を確立することの難しさを感じているので、お二人の考え方をそのヒントとして聞きたいと思っています。

まずはお二人が、トヨタでどのようなことをされてきたか教えていただけませんでしょうか。

鈴木:私は2005年に入社して、今はWoven Planet Holdingsに出向し business development & strategy というチームに所属しています。具体的な仕事については詳しくお伝え出来ませんが、ソフトウエア、データ活用をした新規事業企画の仕事をしています。プラットフォーム企画、コーポレート戦略などを担当し、他にもトヨタ初の副業社員としてリクルートでも働くことを経験しました。

最初はいわゆる技術職だったので、設計に携わることを思い描いて入社したのですが、初配属がそれとは真逆の工場配属で意気消沈していました。それで上司に認められてから辞めようと思っていたら、設計の中でも花形部署のボデー(車体)設計部門に異動し、プリウスの設計などを担当しました。

土井:私は2015年入社で鈴木とは9つ違いです。中古車物流改善などの業務を経て、いまはアルファドライブというNewsPicksなどを擁するUzabaseのグループ企業に出向して、新規事業開発や社内インキュベーションの支援をしています。

ベンチャーやコンサルティング会社と悩んでトヨタに入ったのですが、配属ギャップに悩み転職をしていく友人や、入社当初の想いを叶えられなくて苦労している友人に何も手を打てずにいて、そのときに鈴木と出会いました。

吉田:「A-1 CONTEST」はどのように始まったのですか?

土井:シンプルにトヨタをもっともっとおもしろくしたい、というのが原点です。入社当時は熱い想いを持って入社した方が志半ばで去っていくのを見て、「みんな優秀なのに仲間と出会えないことで、やりたいことをやれていないんじゃないか」と感じていました。そこで最初は時間外活動として、やりたいことを仲間と出会いながら推進できるプロジェクトを考えました。

プロジェクト名の「A-1」は、創業者・豊田喜一郎に「阿呆がいなければ、世の中には新しいものは生まれない」という言葉があり、その「阿呆」にちなんでいます。

鈴木:活動は一般的な社内ビジネスコンテストと似ています。3ヶ月くらいの期間、1つのチームで事業企画を行います。ビジネス領域は必ずしも車じゃなくてもいいのですが、独りよがりではだめなので、チームで企画するというルールにしました。もう一つ特徴的なのは、メンターという立ち位置で、社内の「面白いおじさん」に参加してもらうことにしている点です。

吉田:それはユニークですね。トヨタほどの規模だと層が厚そうですが、どんなメンターが協力してくれたのですか?

鈴木:90年代から「月面ローバーを作りたい」と言い続けていた凄腕エンジニアにメンターをしてもらっているのですが、この人はめちゃめちゃよく働くけど、会社でうまく“遊んでいる人”の代表格です。他には役員クラスやプリウスの開発責任者、メンターではないですが、後に取締役や顧問を歴任し「トヨタ生産方式の神様」と呼ばれる人にもサポートしてもらいました。

土井:それも影響してか、事務局メンバーも3人で始めたのにどんどん人が集まりました。参加者は毎年100人・20チームほどにのぼり、どんどん想いを持った社員が現れるんです。部署異動してA-1で立ち上げた企画を仕事にしてしまう、社内の新規プロジェクトとして認定されるといった事例が出ています。メンターから社内での処世術が伝授されているからこそかもしれません。

社内で敵を作らない秘訣は「ナンパされ力」

社内で敵を作らない秘訣は「ナンパされ力」

吉田:メンターのみなさんは人柄が素晴らしいと思いますが、一方で頼み方を間違えるとへそを曲げられたり、おじさん同士の仲が良くないケースもあったりすると思います。20代、30代中心の活動にそういった人たちをうまく巻き込む秘訣はありますか?

土井:はたから見ていると、鈴木の「かわいがられ力」が大きいかなと。懐に入るコミュニケーションや、背が高いので目立つということもあってか、その辺を歩いていると「今何やってるの?」と声をかけられるんです。

鈴木:私自身が意識しているのは「大企業を楽しむ」というか、打ち合わせで会った人や隣で働いている人たちが「おもしろいな」と思ったら、ちゃんと話しかけるだけです。単純なことのようですが、意外とみんなやらないので相手の印象に残るのかもしれません。

ポイントは人に話しかける「フットワークの軽さ」です。おもしろかった話を深堀りして聞いたり、相談したりなど、斜め上の上司のように思って接しています。もう一つは「ナンパされる力」というか、自分がどんな部署でどんな仕事をしているかなどをできるだけ早めに伝えることです。すると、反対に相談を持ちかけられる立場になることもあります。

土井:「教えてください」というスタンスと、自分がどういう人かを伝えることの両立ですよね。私も鈴木のやり方を見て「変なやつだけどちゃんと話できる奴」という認識を持ってもらうことを意識しています。

鈴木:中には「なれなれしい」と思って嫌悪感を抱いた人もいるはずです。でもそういう人はどのみち関係が続かないですし、数万人いる組織なので、良い意味でお互い忘れてしまいます。実際に、最初はうまくいかなかった人もいますが、気づいたらいい先輩になっていたパターンもあります。

吉田:先輩社員の中には、自身の体験から良かれと思って「周囲への接し方に気をつけろ」と言う人もいると思います。怒られないようにお作法を守って、つつがないサラリーマン生活を、的な。こうしたアドバイスを押し付けだと感じて、上の世代と関わることに対してネガティブなイメージを持つ人もいます。でも鈴木さんは、「歳が上だろうが下だろうが、同僚は敵じゃない」といった性善説に立っているのが他の人と違うと感じます。

もう一つは、「仕事に私情を持ち込むな」という一般的な“常識”に対して、逆に自分を出しています。ここに驚く人がいるんじゃないかなと。

土井:たしかにトヨタの仕事は品質が均一な物を作り続けることが重要となる場面が多いので、想いを前面に出すことが常に良いわけではありません。ですが、出発点にはエモーショナルな要素が欠かせないとも思っています。ベンチャーだったら普通のことかもしれませんが。

吉田:ともすれば「古い」と敵視しそうな価値観を受容したり、自分の世代の価値観と融合させたりすることが重要ですよね。今くすぶっている5年目以下の人たちは、上の世代を敵だと思うとその先がつらくなってしまいます。

土井:「昔ながらのサラリーマン」像が好きなんです。普通のトヨタ社員以上にカイゼンについて語れる自負がありますし、本も何十回も読むくらい大切にしています。

本質を見失わせる、「おじさん」というラベリング

本質を見失わせる、「おじさん」というラベリング

吉田:電通でいえば、新しいことを始めるには広告の売上がないと成り立たなかったり、新規事業のチームが「おれたち新しいことやってるんだぜ」と偉そうにしていれば会社の多数派を敵に回したり、といったことが起きます。あとは新しいことを仕掛けるときに、「おっさんをやっつけろ」のように仮想敵をつくってしまう手法がありますが、それにはダークサイドがあると思います。鈴木さん、土井さんは社内で新しいことを仕掛けていく上で、これらのことにどのように気をつけていますか?

土井:実はA-1 CONTEST事務局内での自分は、あえて仮想敵をつくるような振る舞いをしています。ただしそれは意図的なもので、基本的には先輩社員をリスペクトしています。というのも、最初に配属された改善部門の先輩方が、入社以来ずっと工場勤務をしている人で、彼らから学ぶことが本当に多かったからです。

鈴木:トヨタでいえばものづくりは現場が正しいので、それが理解できていればおじさんが敵になったりしません。むしろ、彼らと一緒に共通の敵(課題)に向かっていく方が良い。

吉田:配属先にもよりますが、キャリアの初期で年長者にリスペクトを抱く経験があることがポイントなのかもしれませんね。おじさん・若者という線引きじゃなく、一人の人間として知ろうとする、という当たり前の話かもしれません。

土井:A-1 CONTESTの立ち上げのあと、会社から「役員付きの特命担当」という立場を与えられて仕事をしていたことがありました。会社の動かし方や社内政治について何も知らなかったのですが、同じ特命担当のパートナーとして一緒に働いていた当時51歳の先輩に助けられました。自分には、やりたいことがあって社外のことを知っていました。けど会社の偉い人に対して企画を通すにはトゲがあったんですね。そのパートナーがそれを社内の文脈にうまく変換してくれて、複数人の相互作用があってうまくいきました。世代をまたいでもうまくやれた例だと思います。

鈴木:実はそのパートナーも若い頃、土井と同じようにやりたいことがあって苦労したといわれている人なんです。だからこそ相乗効果が生まれたのだと思います。

吉田:そういった社員はともすれば同じ世代からも「変人」というレッテルを貼られてしまうこともありますが、実は多くの人と同じように会社を良くしたい思いがあるんですよね。アプローチの仕方が違うだけで。年次を経るにつれてどちらの立場も分かるようになったからこそ、土井さんと会社の間に入る緩衝材のような存在になったのだと思います。

後編に続く