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ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.9

教えるのではなく、「屍を越えさせる」。社会を前に進める先輩・後輩の関係性

2021/07/16

「辞めるか、染まるか、変えるか。」と題し、大企業の変革にまつわるテーマの対談を通じて、新しい「大企業の可能性」を探る本連載。第3回以降は、ONE JAPANに加盟する有志団体の所属企業の中から、大企業の変革に挑戦した事例をピックアップし、その当事者へインタビューする形式で、「大企業の可能性」について考えていきます。

大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN

 

前回に続き、トヨタ自動車の社内有志ビジネスコンテスト「A-1 CONTEST」を主宰する、鈴木貴博氏と土井雄介氏(ONE JAPAN TOKAI代表)の2人に、電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英が話を聞きました。

「合わない上司」は、なぜ会社から評価されているのか

「合わない上司」は、なぜ会社から評価されているのか

吉田:お二人が立ち上げたトヨタ社内のビジネスコンテスト「A-1 CONTEST」や、それをきっかけに業務として立ち上がった全社公募の「B-PROJECT」は、個人のキャリアにどのように影響を与えましたか?

土井:2つの活動を通して、社内で新規事業立ち上げのキャリアを歩むようになりました。アルファドライブという資本関係のない6人のベンチャーへ出向させてもらっているのも、A-1 CONTESTやB-PROJECTで繋がった人事や役員など、様々な社内の関係者の方々に了解を得ることができ、直属の上司に相談する前の外堀りを埋めることができたことが背景にあります。

鈴木:土井は、「風呂敷を広げて」コミュニケーションを取れるのが社内で見るとユニークだなと思います。ONE JAPANや学生団体の経験もあるせいか、普通の人とはコミュニティの境界の感覚が違って、壁や柵ではなくて線が引いてあるくらいの感覚でガンガンその境界をまたいでくるというか、簡単に入ってくる。だから誤解されることもあるのかもしれませんが、本人はきっと気にしてないですね(笑)。

吉田:私も知らない人に簡単に話しかけるのは苦手ですね。だからこそ若者研究という強みを磨いて、先ほど鈴木さんも話していた「ナンパされ力」を高めました。組織のピラミッドで上や横にいる人たちをライバルや敵と見るのではなく、どれだけおもしろがってもらえるかが大切ですよね。

土井:そうした連携によって、社内の先駆者の事例はどんどん取り入れられるといいですよね。下から上に渡せる知見もあるとは思いますが、逆に私は上の世代と仲良くなることで「屍を超えるためのヒント」をもらっています。諸先輩の皆様も私に「こうするとこういう落とし穴があるよ」と自分が屍になった経験を教えてくれます(笑)

吉田:なるほど。「あの先輩のようにはならない」と思った瞬間、その人のいいところや学ぶべきところも否定してしまうことになってしまいますよね。

鈴木:ここはさじ加減が難しいですが、上司から見てバランスがいい、カドが取れた“丸っこいやつ”にはならないことを意識しています。特に若いうちは「見返す」モチベーションになる面もあるので、自分の思いを主張していけばいいのではと思います。

もし仮に合わない上司がいたとして、その人を分析する中で「それでも会社が評価しているのはなぜ?」という見方ができるとより良いですよね。それが学ぶべきところかもしれません。

「後輩にかわいがられる」ことがスキルになる?

「後輩にかわいがられる」ことがスキルになる?

吉田:鈴木さんは上を懐柔するだけでなく、今は中堅になって下が増えてきた世代でもあります。後輩との良いかかわり方や、自分の「屍の越えさせ方」などはあるのでしょうか?

鈴木:私は普段、自分の経験を濃縮還元して伝えて、より早く自分を超えてほしいと思って接しています。個人的には、経験とは正しさが磨かれることではなく、選択肢が増えることだと考えています。最後は本人が判断して行動すればいいのですが、「上の世代の経験が下の世代の選択肢になる」ことは組織として良いことですよね。先輩側からすれば、自慢話やマウンティングだと思われないように話す訓練にもなります。

吉田:「下からの突き上げ」という言葉もありますが、後輩を脅威に感じたり、間違った伝わり方をする懸念があったり、陰口を怖がったりなど、先輩側からしても上下関係にはネガティブな側面があります。オープンな態度を取るために、まずはどうしたらいいのでしょう?

鈴木:意識しているのは、自分が教えることにこだわらないことです。
若い人からカルチャーショックを受けたとき、「理解ができない」と思って自分から溝を作るのは簡単です。当然、後輩から逆に教わることもありますし、彼らとは技術で戦えたとしても、スピードや勢いでは勝てないと思っています。

吉田:一般的には、年長者のほうがモノを知っているから、上が下に教えるという構造になりがちです。でも鈴木さんの言葉を聞くと、知っていることの種類が違うだけなのかもしれないと思わされます。

たしかに社会人の作法は先輩が知っていますが、時流にあった世の中の捉え方は若者のほうが知っていたりもします。だから本来は互いに協力し合って、新しい世界にたどり着けないといけないですよね。年下は毎年増えていくので、こういったメンタリティがないと自分の老いを加速させることにつながるリスクもあります。

鈴木:いくつになっても若手の頃のように圧倒的に努力し続けられる人も中にはいます。ですが、「若手の力も使わないと…」と思うなら下の世代との付き合い方を意識することが必要ですよね。先輩としての「かわいがられ力」というか、後輩にいじってもらうことも大切です。

土井:後輩の立場から言わせてもらうと、鈴木はマブダチだと思っています(笑)。鈴木が上の世代とどう付き合っているかを見ているので、“下からの絡み”を受け入れてくれるのを知っていることもあります。とはいえ、ただ仲良くしてもらっているだけじゃなく、だめなことは先輩としてきちんと教えてくれます。

たとえばトヨタにはA3用紙1枚で報告書をつくる「A3文化」という社内文化があります。研修が始まった当初は良さが理解できませんでしたが、鈴木がその意味や有用性を“翻訳”してくれたおかげで、今はすごく納得感を持っています(笑)。上司とは違って「ナナメ上」の関係だからかもしれなませんが、重箱の隅をつつく指導ではなく、同じ方向を向いた示唆を与えてくれるんです。

同じ轍を踏ませるのか、屍を越えさせるのか

同じ轍を踏ませるのか、屍を越えさせるのか

吉田:いろいろな先輩像を観察していると、自分が経験してきた苦しみを同じように経験させようとするタイプと、自分の代で断ち切ろうとするタイプがいます。鈴木さんは後者のタイプだなと感じます。

トヨタをはじめ、企業は社会的な意義を持っています。社員は会社を良くすることを通して社会をより良くできるという意味では、後輩社員に早くラーニングしてもらうのは会社だけでなく社会全体としての合理性もあります。

鈴木:その通りです。グローバルな視点で捉えると、日本はいま社内で争っている場合じゃないと思っています。

吉田:後輩に良い意味でショートカットさせるのが当たり前なのは、鈴木さんにもそういう認識があるからだろうなと思いました。

土井:ちなみに先ほどから、こういう文脈になると「屍を越える」という言葉が出てきますが、組織における先輩は実際には屍ではなくて、自分よりも先を走る存在です。そういう人がいるからこそ学ばなきゃいけないとも思わされます。もっと俯瞰すれば、先輩もそのさらに先輩の肩の上に乗っているので、組織として進む方向が揃っていれば脈々と知見が積み重なっていくはずです。逆にベクトルがばらばらだと、好き嫌いの世界になってしまいますし、伝統や大組織の良さがなくなってしまいますよね。

鈴木:好き嫌いはたしかに非合理的な面もありますが、人情的に振る舞うなど、プラスに働くのであればむしろあった方がいい良いと思います。組織内の人間関係は、土台がウエットで、その上で合理性を持つことが大切だと思います。ドライな土台にある合理性はうまくいきづらいと思います。A-1 Contestでも、運営メンバーには「業務時間外で応募してくれていることを忘れないように」と伝えていたりします。

吉田:なるほど。仕事はドライにやったほうができるように見えるし、早く進むように思える。ウエットな人は「お人好し」「優しいね」などと揶揄されやすくもあります。でも、ウエットであることにも意図や狙いがあるというわけですね。たしかにこれを意識できている人は少ないかもしれません。

先輩としての「かわいがられ力」など、鈴木さんと土井さんのような関係性は頭で分かっても、プライドや組織の文化が障壁になって真似するのが難しい場合もあります。でも一方で、一握りのスーパーマンにしかできない芸当でもない気がするので、組織で活躍するための“スキル”として取り入れられると良いですね。

単に上下の世代と仲良くするだけではなく、大企業にいるからこそ戦い方に工夫のしようがある、という話だと思います。こうしたあたらしい先輩・後輩のあり方が会社をより良くし、ひいては社会を良くしたり、日本の競争力を高めることにもつながるはずです。