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ウェブ電通報×WASEDA NEO 〜希望は、学びの先にある〜No.2

2021/02/19

「脱・思いつき」アイデア術

次の時代を創るリーダーが、真のイノベーションを起こすための“共創の場”を提供する「WASEDA NEO」と、電通のニュースサイト「ウェブ電通報」が連携し、電通のクリエーターらを講師にした、社会人向けのオンライン講座「ウェブ電通報×WASEDA NEO 連携講座シリーズ」。第2回の講師は、電通のクリエイティブディレクター/コミュニケーション・プランナー 越智一仁氏です。


僕は「物語を創作する」ようなストーリーテリングは苦手で、いろいろなやり方で社会的コンテキストに沿った仕掛けをつくるようなことを仕事にしています。

今回、「脱・思いつき」アイデア術というお話をするのですが、アイデアというのは思いつくのを待つのではなく、ある程度体系化することで、誰にでも考えることができるようになる、という内容になっています。

もしも企業が、そして商品が、他にはないブランドをすでに持っているのだとしたら、それをストレートに伝えればそれでいい。でも、昨今あらゆる場面でコモディティー化が進んでいて、「差別化」が図りづらい。ウェブやSNSの影響力も著しい。ネットでもリアルでも長く愛されるコミュニケーションが大切になってきています。

では、アイデアを考える時、何から手をつければいいのでしょう?良いアイデアを選ぶときの基準ってどういうものなのでしょう? 

アイデアの考え方フロー
アイデアの考え方フロー

「視点を変えて驚嘆と共感を設計するコミュニケーションプランニング」というテーマを設定しましたが、ポイントはとにかく「視点を変える」。このやり方だけ覚えれば大丈夫です。

アイデア(企画)とは?

「廊下を走るな」というポスターがあります。皆さん小学校時代によく見たのではないかと思います。しかし、これで子どもたちは走るのをやめるでしょうか?多分、僕が子どもだったら言うことを聞かずに走ってしまうような気がします。これは、言うべきことは言っているけど伝わらない例。つまり、「言う」と「伝わる」は似ているようで全然違うわけです。僕は、コミュニケーションにおけるアイデアとは、「効果的に伝えたいことを受け取ってもらう知恵」だと考えています。

「ろう下は走らない」のポスターイメージ
「ろう下は走らない」のポスターイメージ

アイデアを考えるときに陥りがちな問題として「おもしろいこと=アイデア」という考え方があります。しかし、「おもしろい」は「アイデア」の一部です。「おもしろい」以外にも伝えるためのアイデアはたくさんある。「興味深い」「すごい」「かわいい」「ベンリ」…いろいろあるわけです。そして、それらの多くは「驚嘆」と「共感」のどちらかの感情に分類されます。まず、「おもしろい」や「かわいい」の手前にある驚嘆や共感を生み出す方法を考える方が、考えやすいはずなのです。それこそが、「思いつき」を脱する方法なのです。

視点を変えるとは?

わかりやすい例を、一つご紹介します。次の問題を解いてみてください。

セミナーで紹介された「問題」
「視点を変える」を擬似体験するテスト

この問題、外側の枠を超えてはいけないとは言われていないのに、勝手にそう思い込んでしまった人は、なかなか正解に気づけなかったのではないかと思います。

これと同じで、僕は「新しい視点」とは「気づいてしまえば当たり前だけど、気づかなければずっと分からない」ようなものだと考えています。逆に、だからこそ思いつくのに膨大な時間がかかったりするわけです。言い換えると、「気づきのある再定義」ともいえます。良いアイデアにたどり着くためには、まず先入観を捨てることが大事です。「一見、〇〇と思われがちだが、実は××なのではないか」に当てはめて考えてみると分かりやすいかもしれません。

企業のコミュニケーションを考えるときは、ブランド、商品、その周辺へさまざまな視点を持ち込むとよいと思います。年齢的視点、歴史的視点、場所的視点、いろいろ考えられます。

カレーパンのコピー

Dentsu Lab Tokyoのインターンシップで、コピーの授業を行ったときに、「電通の社食のカレーパンを売るコピー」という課題を出しました。そして4班から出てきたコピーがこちらです。これらは実際に本社4階のパン屋さんでPOPの掲出まで実施しました。ターゲットは電通社員。さて、最も売れた、そして講師たちが最も票を入れたコピーはどれでしょう?

越智 図4

答えは……Team Aの「今日のカレーパンは上手に作れたと思う。」でした。ここに持ち込まれた視点は「作り手の視点」です。つまり、このケースにおける「新しいカレーパンの価値」とは、「一見どれも同じように見えるが、そのどれも、人間が作っている。そして、日によって、出来不出来がある」ということなのです。カレーパンに対して、「パン屋さん」(作り手)の視点で見ているわけですね。

なぜこれがいいコピーなのかというと、作り手が「今日はよくできた」というときは、相当出来がいいはずだということを、電通の人々は身をもって知っているからだと思います。例えば、自分に置き換えてみると「今日の企画は面白いですよ!」というときの企画は、それなりにいい企画である気がします。日々企画を考えてはダメ出しを食らっている人ほど響くコピーなのではないでしょうか?また、作り手が「上手に作れた」という言葉には、うそがありませんね。あくまでも主観なので。これも信頼を獲得する要因のひとつだと思います。

驚嘆と共感をつくる二つのメソッド

これまでは、大きな視点の変え方のお話をしてきました。次は、驚嘆を生み出したり共感を得るために、小さな視点を変えるお話をします。ちなみに、驚嘆には「振り向かせる効果」が、共感には「心理的距離を近づける効果」があり、そうした効果を得るには二つの方法があります。

越智 図5

一つ目は、「掛けるメソッド」。これは、企業のブランド、商品、サービスをさまざまな概念と掛け合わせていくこと。これは比較的みんながアイデアを考えるときの常套手段といえます。ただ、大きな視点を変えた上で行うことが大事です。そして、正しいアイデアを選ぶときに大事なのは、驚きはあるか?伝えたい相手は共感してくれるか?を基準にすることです。

二つ目は、「変えるメソッド」。ある要素に基づいて視点をズラしていくやり方です。名前、形、大きさ、役割、場所、目的、単位、ルール、時間などなど、日々の暮らしの中で当たり前だと思っているものをズラしてみるわけです。例えば、台風で壊滅的な被害を受けたリンゴ農園の経営者がいた。しかし、枝にわずかに残ったリンゴを「落ちないリンゴ」と名付けて受験生やそのご家族にちょっとだけ高い値段で提供したところ、ものすごく売れたという話があります。これは、「名前」を変えることで驚きと共感を獲得したケースです。

アイデアの考え方は無限にあると思いますが、まずはこの二つのメソッドを使いこなしてみてください。結構使えるアイデアのタネを発見できるのではないかと思います。

愛と敬意を獲得するために

今日お話ししたのは、アイデアを考える方法のほんの一部です。アイデアを考える仕事に就いた人たちは、日々必死な思いをしながらやっているのだろうと思います。とはいえ、考えるためのポイントは意外とシンプルです。

突飛な発想や、天から降ってくるような奇抜なアイデアをひたすら待つのもいいですが、時間にも限りがあります。まずは、体系立てた方法論を駆使して考えてみるのも悪くないと思います。その後の余った時間で、思いっきり変化球を考えればいいわけですから。そうすると、思いつきで考えるよりは、効果的な企画が考えられそうな気がしてきます。

越智氏のセミナーのまとめシート

アイデアを求められると、人はつい、何をするか?何を掛け合わせるか?から考えてしまいがちですが、受け手はあくまでも「人」。まず、「人」はどう思うか?「人」は喜ぶか?そういう人間的視点が、とても大事です。

やり方とか、環境とか、メディアとか、プラットフォームとかは、日々変わっていきますが、人は変わりません。この仕事をやっていく上で、人の感情をどう捉えるかが何よりも重要なことなのだと僕は思います。「愛」と「敬意」を獲得するために、皆さんの企画にもぜひ「温かい視点」を持ち込んでみてください。

WASEDA NEOの公式サイトは、こちら

WASEDA NEOは、早稲田大が運営する“知の更新とアウトプット、応援し合える仲間づくりのための、未来に向けた前向きな学びのコミュニティ”で、東京・中央区に日本橋キャンパスを構える。同所では、各種セミナーやワークショップなどを開催するとともに、交流イベントなど、会員同士の交流の場も提供している。


(編集後記)希望は、学びの先にある。

第1回の編集後記でも申し上げたように、この連載を貫くキーワードは「希望は、学びの先にある」というものだ。早稲田大総長を務めた大隈重信氏が、1909年に行った演説の一節「人間は希望によって生活している。希望そのものは人間の命である」にちなんだ。

「アイデアというのは思いつくのを待つのではなく、ある程度体系化することで、誰にでも考えることができるようになる」という越智氏の指摘には、なんというか、希望が感じられる。視点をちょっと変えるだけで、人の心は動かせる。実はこれ、恋愛でも、子育てでも、介護でも、私たちが普通にやっていることだ。なんで彼女に惹かれたんだろう?なんで彼氏に惚れちゃったのだろう?そのきっかけは、とてもささいな、でも、とても新鮮な「驚嘆と共感」にあったはずだ。それがやがて、越智氏の言う「愛と敬意」に変わっていく。そこから一生付き添っていこう、という希望と意欲が生まれる。ブランドというものの正体も、そこにあるのだと思う。

そうしたコミュニケーションの本質は、時代がどう変わろうとも普遍的なものだ。たとえ外国語をしゃべることができなくても、日本人の「おもてなしの心」を伝えるすべはいくらである。心のこもった寿司一貫を握るだけでも、それは確実に相手に伝わる。越智氏の講義の中心は「相手の心を動かしたかったら、当たり前のことを、当たり前にしましょうよ」ということに尽きる。平凡なことをしろ、ということではない。相手を驚かせたい、相手を感動させたい。こっちを振り向いてほしい。そのためには何をすべきなのかを必死で考えろ、ということだ。

青春時代、それは誰もが悩み、考え抜き、実践したことであるはず。予定時間を超えてもなお、質疑応答が止まらないリモート講義の様子に、編集者というよりは一人の人間としてコミュニケーションの奥深さや可能性、あるいはその熱量のようなものを、改めて感じた。

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