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為末大の「緩急自在」No.8

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.8

2021/02/18

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

インタビューんに応える為末さん

──「自律と寛容」をテーマに、今回は「さびしさとは、何か?」というテーマを設定しました。ちょっと風変わりなテーマなので、企画趣意といいますか、なぜ、このテーマを選んだのかについて、いつもよりちょっと長めに前振りをさせていただきますね。

為末:よろしくお願いします。

──コロナ禍のステイホームが続く中で、僕の周辺では、ちょっと不思議な現象が起こり始めています。僕自身でいうと、ベランダでメダカを飼い始めたんです。そばを打つときに使うくらいの大きな鉢で、です。同世代の友人の中には唐突にトイプードルを飼い始めた輩もいます。まったく乗るあてのない高級外車を探しだした人もいます。お取り寄せグルメにハマりだした人もいます。余興とか、退屈しのぎ、と言ってしまえばそれまでなんですが、その根底には個人や企業や社会が抱える「さびしさ」があるのではないか、とふと思ったんですよ。

為末:なるほど。

──家族や友人、恋人との関係、会社での人間関係、経営者の悩み。それらすべての根底には現代社会が抱える「さびしさ」がある。そんな仮説のもとで、
為末さんの意見を伺えれば、と思います。そもそもアスリートにとって一番の敵は「さびしさ」だと想像するんです。自己ととことん向き合う孤独な戦い、そんなイメージがあるからです。そこで今回は、為末さんご自身が「さびしさ」といかに向き合い、それを克服されてこられたのか、といったことをベースに「さびしさとは、何か?」ということを解き明かしていけたら、と思っています。

為末:ご質問の趣旨は、なんとなく理解しました。 

インタビューに応える為末さん

──さて、いきなりのど直球な質問で恐縮なのですが、「さびしさ」の本質っていったい何だとお考えですか?

為末:難しい質問ですね。もちろん、一人でいるという物理的な孤独は大きな要因だと思います。他人と触れ合いたい、コミュニケーションがとりたい、という
欲求が満たされていないという現実。でも、それ以上に大事なことは「効力感」だと僕は思うんですよね。

──「効力感」?

為末:冒頭のペットの話もそうなんですけど、「自分がいないと、生きていけない存在がいること」。これが大事なんだと思う。恋人でも、配偶者でも、子どもでも、経営者にとっての社員でも、みなそうです。孤独、さびしさの一番のポイントは「自分がいなくても、社会は動いているんだ」ということにふと気づかされてしまうことにある。その寂寥感たるや、震えがきます。

──なるほど。

為末:たとえ罵られてもいいから、だれかに「反応」してほしい。その反応が
あるから、人は生きていける。生きていく意欲が湧いてくる。地位とか名誉とか
おカネとかも大切ですが、人間にとって「他人に反応してもらえること」こそが
一番の報酬なんです。 

──その「報酬」を得たくて、例えばSNSなどに人は熱狂するのでしょうね。

為末:人は「反応があるものに、反応してしまう」らしいです。例えばカジノなんかが顕著な例で、音や光の演出を工夫するだけで、売り上げが変わってくるという話を聞いたことがある。つまり、自分が投じたコインに対して、スロットが光を放つ。爆音を響かせる。それによって気分が高揚する。その瞬間、人は「さびしさ」から解放される。

──依存性のあるものって、なんでもそうですよね。酒でも、たばこでも、ゴルフでも。自分がとった行動によって、何かが反応する。振り抜いたクラブから放たれた球が、ぴたっとピンの近くに寄ったときなどは、とてつもない満足感ですもの。

為末:さびしさの本質のひとつは「自分がとった行動に対して、モノでも人でもなんでもいいのですが、なんの反応も返ってこない」ということにあるような気がしますね。 

──なるほど。これは、面白くなってきました。次回以降も「さびしさとは、何か?」というテーマで、話を伺っていきたいと思います。まだ、アスリートとさびしさの関係、といったことをまったく伺えてませんものね。

為末:よろしくお願いいたします。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム日比より

今回は、「さびしさ」について、改めて考えるきっかけとなるインタビューでした。為末さんがおっしゃった「効力感」という言葉。人は誰しも、自分の存在意義を求めていて、存在意義を認識できる瞬間が、効力があったと感じられる瞬間なんだと思います。アスリートは、さびしさと戦い、さびしさを乗り越えてきた存在でもあると思います。だからこそ、自分の軸を持ち、その軸を上空に伸ばし、大局観を得ているのではないかと思いました。それは、身につけざるをえない環境だったともいえると思います。この大局観は、さまざまなシーンで転用できるものであると、改めて感じました。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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