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ラグジュアリーブランドの「グレート・リセット」No.1

2021/03/09

コロナ禍のデジタルシフトが生んだ、新たなカスタマージャーニー

新型コロナウイルスの影響はファッションインダストリーにも及んでいるが、特にラグジュアリーブランドにおいてそのインパクトは大きい。くしくも、それまでの商慣習やカルチャーの見直しが唱えられ始めていたことも遠因となって、まさに「グレート・リセット(※)」と呼ぶべき地殻変動が起こっている。

※=グレート・リセット
資本主義を再定義し、現在の世界経済のシステムをあらゆる側面から考え直さなければならないという考え方。2021年世界経済フォーラムのテーマにもなっている。


そこで、電通、ザ・ゴール、コンデナスト・ジャパンが共同調査プロジェクトを立ち上げ、コロナ禍がラグジュアリーブランドのビジネスに与えた影響について調査。特に、未来の顧客たるZ世代と呼ばれる若年層のメディア接触や購買行動の変化を詳細に分析した。

本連載ではその調査結果をレポート。加えて、ラグジュアリー業界の「グレート・リセット」やSDGsの潮流といった大きなトレンドも見据え、これからのラグジュアリーブランドの行く末を明らかにしていく。


本調査はコンデナスト・ジャパン、電通マクロミルインサイトの混合調査パネルを用いて、ファッション意識が高い女性ターゲットを三つの世代(Z世代=24歳以下、ミレニアルズ=25~39歳、ジェネラル〈既存購買層〉=35歳以上)に区分し、調査対象とした。

それぞれの世代に対して「世代×意識価値観」「世代×コンタクトポイント」「世代×ブランド」の掛け合わせ、さらに「既存の意識」と「コロナによって増えたもの、減ったもの」という立体構造で調査を実施。アンケートによる定量調査とインタビューによる定性調査によって構成されている。

Research Theme

第1回の本稿では「世代×コンタクトポイント」を中心に紹介する。

調査設計としてはカテゴリー別に「テレビ」「雑誌」「SNS」「店頭」「友人」など、20以上のコンタクトポイントの選択項目を提示。さらに「SNS」を選択した回答者にはそれが「ブランド公式LINE」なのか「セレブインフルエンサーInstagram」なのか「マイクロインフルエンサーTwitter」なのか、など深掘りした15以上の選択肢を提示することで、より具体的に実態を把握できる構造とした。

各カテゴリーにおけるコンタクトポイント。コロナ禍でSNSが増加

まずはファッションカテゴリーで参考とする情報源は以下のような結果となった。

ファッションの情報源

若年層ほどSNSの影響が強く、Z世代、ミレニアルズともに特にInstagramが大きな影響を持つ。ただし好まれるインフルエンサーに世代の特徴があり、年齢が上がるとともに参考とするSNSは「セレブインフルエンサーInstagram」から「マイクロインフルエンサーInstagram」へと変化している。

ここから、若い頃は「あの有名人が着用しているアイテムとしての憧れ」でメディアを参照。そして年を重ね、ある程度自分のスタイルを確立していくと「ショップ店員さんなどを見てファッションの参考」とする傾向に変わっていくカテゴリーの特徴が見て取れる。

またミレニアルズ以上は「雑誌」と「店舗」の影響が強く、特に35歳以上の既存ラグジュアリー顧客層に対しては有効なコンタクトポイントとして存在している。

続いてコロナ禍によって増えたファッションの情報源は以下となる。

ファッション コロナ禍で増えた情報源

全ての世代において増えたメディアは「SNS」との結果。Z世代は動画、ミレニアルズは雑誌/ウェブを問わずハイエンドなファッション媒体への関心が高まっているのも、ひとつの特徴といえる。

続いて、ウォッチ&ジュエリー(W&J)カテゴリーのコンタクトポイントについて。同じくSNS(Instagram)の影響が強い。ファッションと異なるのは「憧れ」要素がより強い商材のため、世代問わずマイクロよりもセレブインフルエンサーのランクインが目立つ。また、ファッションカテゴリーよりも雑誌の影響が全世代において高いのが特徴といえる。

W&Jの情報源

続いてコロナによって「増えたコンタクトポイント」であるが、ウォッチ&ジュエリーもファッションと近しい傾向が見受けられ、全ての世代において増えたメディアは「SNS」だった。世代別の違いとして、Z世代は動画、ミレニアルズ以上はハイエンドな媒体への関心が高いという傾向もファッション同様である。

W&J コロナ禍で増えた情報源

続いて、コスメカテゴリーにおけるコンタクトポイントも紹介する。

コスメ 情報源

全体を通じてこちらも「SNS」のスコアが高いが、世代によって指しているSNSが異なる。Z世代には「Instagramでのインフルエンサー展開」や「人気YouTuberのメイク動画」などが人気の一方、ミレニアルズ以降が指す「SNS」とは「@cosme」がトップで、続いて「ブランド公式Instagram」となっている。またその他の特徴としては、年齢が上がるにつれて「店頭」「美容誌」「ブランド公式」など「オフィシャルな情報」を好む傾向が見て取れる。

一方、コロナ禍で増えたメディアとしては2020年で各化粧品ブランドが実施していた、有名YouTuberやSNSでのメイク動画などのコンテンツが急伸。またミレニアルズ以上の世代に支持されている@cosmeも伸びを見せている。

コスメ コロナ禍で増えた情報源

変化したコンタクトポイントと新たなカスタマージャーニー

以上の結果をまとめると下記のように整理できる。

コロナ禍ラグジュアリーブランド調査 結果まとめ

「コロナ禍で減ったコンタクトポイント」としてはカテゴリー問わず「店頭」「展示会・イベント」「屋外広告」など、外出を伴うリアル接点が必要なものが挙げられていた。

また全体を通じて、コロナ禍で増えたメディアは「SNS」が目立つが、スコアが高い理由は“若年層だから”だけではない。本連載では割愛するが、同じく調査を実施した「自動車カテゴリー」においては若年層でも情報源としてはテレビや公式サイト、ネット広告が強く出た結果となっていた。したがって、「世代の特徴」というよりも「ファッション・W&J・コスメカテゴリーとSNSとの親和性の高さ」に要因があると考えられる。

以上の調査結果や社会環境の変化を踏まえ、「ラグジュアリーカテゴリーにおけるアフターコロナでのコンタクトポイント」や「カスタマージャーニー」を二つのキーワードとともに考察していきたい。

よりデジタルシフトが進んだ結果、「コンタクトポイントの選び方」が変化

一つ目のキーワードとして「コンタクトポイントの選び方の変化」が挙げられる。調査結果から見られた大きな特徴として、元々強かった「SNS」と「オフィシャルコンテンツ」(オフィシャルサイト、オフィシャルSNS、権威のある雑誌媒体など)の支持が、コロナ禍でより加速している様子が見てとれた。

インタビューからも「とにかく“信じられる情報”を探している」との声が多く聞かれたが、SNSとオフィシャルコンテンツの支持が高まった要因として

「SNSにはReality=自分にとって手触り感があるリアルな情報」
「オフィシャルコンテンツからはReliability(信頼性)=信頼できる発信源からの情報」

を期待していると考えられる。

つまり「トラスタブルキュレーション」(=自分にとって信じられるものを集めている)がコンタクトポイントへの接触状態であり、逆にいえば現実感か信頼性のどちらもないものは、情報源として参照されづらくなっていくことが予想される。

ちなみに本調査では「信頼できる情報源」という項目もカテゴリー別に取っているが、若年層ほどレビューやSNSなどの「共感できる個人」、年齢が上がるにつれて雑誌やオフィシャルサイトなどの「信頼できる権威」へ信頼を置く傾向にあるようだ。

「EC化」は進むもまだまだリアルへの欲求は強い

二つ目のキーワードは「EC化の潮流」である。カテゴリー問わず不可逆的に進む流れではあるものの、特にラグジュアリー商品においてはいまだハードルが高い様子だ。

本調査でもEC非購買理由として素材感やサイズ感、実際の色見など、昔から言われている理由が上位に上がっていた。またインタビューにおいても

「サイトに掲載された外国人モデルの着用では自分にとってのリアリティーがなく、イメージが沸きづらい」

「公式ECはレタッチ感がすごい。メルカリなど素人が撮影している写真がリアルなので、気に入ったアイテムがイメージと違わないか調べ先として使う」

「ECがきっかけで出合ったアイテムを結局店舗で実際に見て買うことが多い」

「特別な店舗体験に対する期待」

など、まだまだ“リアル”の持つ魅力への欲求は強いというのがラグジュアリーECの現在地といえる。

キーワード

トラスタブルキュレーションによって生まれるカスタマージャーニー

これら調査結果やキーワードを踏まえて、改めてカスタマージャーニーを整理する。認知から購入までのルートを抽象化して表すと以下のような形となる。

コロナ禍における新たなカスタマージャーニー

認知フェーズのコンタクトポイントとしてブランド公式SNSやインフルエンサーSNS、雑誌、店頭、イベントなどが代表的なものとして挙げられていた。しかし、コロナによってイベントや店頭などのリアル接点が減った結果、カスタマージャーニーの中心がより強くデジタルにシフトした。

SNSの存在感がより強くなった一方で、デジタルにシフトし過ぎた反動か、デジタルに流れる「情報の信頼性」を裏付けるべく、ブランド公式コンテンツや権威のある雑誌などのコンタクトポイントも併せて価値が高まるという傾向が調査数値にも表れていた。

次に検討フェーズ。かつて公式サイトもしくは店頭であったが、コロナの制約により店頭の機会は減り公式サイトなどでチェックするようになる。

その情報の信頼性は高いものの、一部外国人モデルの着用により自分としてはピンとこない、画像レタッチが気になるなどの理由から、SNSでの#タグサーチやレビューチェックなどの「リアリティー」を確認し、最終的には購入フェーズで店舗が選ばれて購買行動が発生する。

以上のような、自分にとっての“トラスタブル”に沿っていく導線が調査結果から見て取れた。

かつてインターネットが出始めた頃に「店頭で調べ物をしてネットで最終的に購入する」という「ショールーミング」という言葉が流行し、多くの業界がその対応に迫られた。しかし、その逆の「ネットで調べ物をして店頭で最終的に購入する」という「リバースショールーミング」とも呼べるような現象が、現在のラグジュアリーカテゴリーのカスタマージャーニーとなっている。

そのような潮流を感じ取ってか、ある有名ハイブランドでは、昨年末から製品を公式オンラインショップで選択し、無料で自宅での試着が可能という、かつてのラグジュアリーの世界では考えられないような「ご自宅試着サービス」まで始まっている。

次回はコロナ禍において、特にZ世代の新しい価値観、現実感や信頼性を希求するトラスタブルキュレーションが定着しつつある中で、ブランドはどのように情報発信し、そして何を生活者に伝えていくべきなのかを論じる。

【調査概要】
調査名:「アフターコロナ ラグジュアリーブランド調査」
実施時期:2020年9月
調査手法:インターネット調査(定量)・対面インタビュー(定性)
調査対象:ラグジュアリー高関与層 全体1800SS
対象カテゴリー:ファッション/ウォッチ&ジュエリー(W&J)/コスメ/自動車
調査会社:電通マクロミルインサイト
 
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