今、ラグジュアリーブランドに求められているもの
2021/04/20
本連載では、コロナ禍がラグジュアリーブランドのビジネスに与えた影響に関する調査(電通、ザ・ゴール、コンデナスト・ジャパンの共同調査)(※)を基に、特に未来の顧客たるZ世代のメディア接触や購買行動の変化をレポート。
※ファッション意識が高い女性ターゲットを三つの世代(Z世代=24歳以下、ミレニアルズ=25~39歳、ジェネラル〈既存購買層〉=35歳以上)に区分し、調査対象とした。
前回はコンタクトポイント分析を起点に、コロナ禍のラグジュアリー業界のカスタマージャーニーを明らかにした。
今回は目線をブランドサイドに移し、ブランドの捉えられ方、そしてブランドに期待することを中心に論じる。
ラグジュアリーアイテムは、より“上質で長く使えるもの”へとシフト
まずはラグジュアリーアイテムに関する意識がコロナ禍でどう変化したか、特徴的なものを紹介する。
コロナ禍によって増えた意識
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手に入りやすい価格のアイテムをたくさん買うよりも、高価格でも長く使えるものが欲しくなった
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居心地の良い住環境のためには出費は惜しまない
コロナ禍によって減った意識
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シェアリングサービスを積極的に利用したい
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一目でそのブランドがわかるようなロゴアイテムが欲しくなった
ここ数年の大きなトレンドのひとつである、「わかりやすいロゴアイテム」は外出機会の減少とともに、ミレニアルズを中心にややトーンダウン。また、不特定多数の人々で使いまわす事を不安視してか、シェアリングサービスへの関心減も見受けられた。
外出頻度の減少に伴い、アイテムを揃える重要度は下がった様子。一方で、世の中全体に本質回帰への機運が高まり、「そのブランドを代表するような長く使える上質なアイテム」への支持が全世代で高くなった点が非常に特徴的だ。
また、現在多くのブランドがキーワードとして打ち出している、家時間を快適に過ごす「ホームラグジュアリー」への関心も見て取れた。
Z世代への投資の有無が、将来、ブランド間の大きな差を生む
次にブランド別ファネル分析の結果について。本調査では50を超える有名ブランドを具体名で提示し、それぞれの「認知」「好意」「購入意向」を個別に聴取している。
ここから明らかになったのは“世代間におけるファネル構造の違い”である。下記は「認知」から「再購入意向」までのスコアを世代別に比較したものである。(認知TOP10のブランドの平均値から算出)
各世代とも「認知」自体に大きな差はないが、Z世代は、「好意」以降に上の世代との大きな差がある。もちろん、高額商品ゆえ、購買力というハードルはあるものの、Z世代にとって「知ってはいるが、欲しいというわけではない」存在となっている可能性が考えられる。
この点についてブランドを個別に分析してみると、より顕著な傾向が出ている。Z世代に対してコミュニケーションを積極的に行っているブランドは「好意」のスコアも高いが、そうではないブランドは「知っているだけ」で好意の醸成がなされていないことが分かった。
「Z世代がターゲットとして大切なことはよく理解しているが、現実的にはビジネスへのインパクトという点においてまだまだ重要性を実感しづらい」というブランド側の意見もある。事実その通りだと思うが、それでもZ世代に積極的な投資をし続けるブランドは、そうではない競合ブランドと比べて、ターゲットの心の中で着実に好意を築くことに成功していて、その差は水面下でじわじわ開きつつあることが本調査からも見て取れる。
今はまだ表面化していないが、将来的に大きな差が生まれる競争は既に始まっている。ここに各ブランドがZ世代に着目し投資を続ける理由がある。
生活者はラグジュアリーブランドに何を求めるのか
最後にブランドのカテゴリー別に聴取した「購買の際に重視するポイント」と「ブランドに期待すること」の調査結果から、これからのラグジュアリーブランドが生活者に何を伝えていくべきかを紐解いていく。
この調査結果に関しては世代間の違いはほぼなく、むしろカテゴリーの違いが明確に出た結果となった。下図の通りファッションカテゴリーに対しては「ブランド公式SNSでの情報発信」「社会貢献(環境保護/LGBTQなど多様性の受容)」をこれからのブランド活動に求めている。SDGsネイティブとも呼ばれるZ世代はこの傾向が特に強いようだ。
これはファッションの「購買の際に重視するポイント」としてトップに挙げられる「自分にだけ分かるこだわりを満足させてくれる」という点との関連が予想される。「自己満足」が起点なのでブランドには「共感できるフィロソフィー」を求めていると推察される。
一方、ウォッチ&ジュエリーのカテゴリーの購買重視点は、「ワンランク上の自分を演出できる」だった。ブランドに求めることとしてファッション同様「SNSでの発信」に加え、「ラグジュアリーブランドならではの実店舗での丁寧な接客を期待する」との回答が上位に上がっている。これは「ステータス(他者目線)」が起点なので、ブランドには「顧客としての特別扱い」を求めていることが見受けられた。
次回はコンデナスト・ジャパンからもゲストを招き、2回にわたりレポートした調査内容を基に議論する。ファッション業界の「グレート・リセット」、さらにはSDGsの潮流といった大きなトレンドをも見据え、これからのラグジュアリーブランドの行く末はどうなるのか、その展望を明らかにしていきたい。