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アート×ビジネスの妄想夜会No.1

アート×ビジネスの未来とは? (山口周×佐宗邦威)

2021/04/22

2020年12月7日から五夜連続で「アートとビジネスがつくる未来を妄想する夜」と題するウェビナーが「アートとビジネスをつなぎ、豊かな未来を描く」をテーマとした電通社内ラボ、Dentsu Art Hubの主催により開催された。アート×ビジネスにそれぞれの立場で深く関わる猛者たちによる対談&鼎談は、いずれの回も「三つのキーワード」のもとで行われた。ご本人により事前に設定された「妄想トーク」のテーマは、それだけで聴く側の妄想が掻き立てられる。
この連載では、ウェビナーを通じて見えてきたアートの本質、ビジネスの本質、さらにはそのアートとビジネスが「掛け算」されることで創造される未来という大きなテーマに、編集部ならではの視点から切り込んでみたい。

第0夜にあたる本稿では、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーとして知られる山口周氏とBIOTOPE代表Chief Strategic Designer佐宗邦威氏の対談内容から、この好奇心が刺激されてやまない風変わりな夜会の趣旨について、まずは紐解いていく。

文責:ウェブ電通報編集部


「文明化を世界で初めて終えた国、それが今の日本だと思う」(山口周)

「先進国の経済成長率は、1960年頃から、ずうっと下降線を描いているんです」。山口氏の話は、こんな指摘から始まった。100年も前に、かのケインズが予測した「需要の飽和」が今、まさに起こりつつあるのだ、と。山口氏は、こう続ける。「そうなってくると、近著でもお示ししたとおり、役に立つモノよりも意味のあるモノの価値が高くなっていく」。本当にそうだろうか。現にアメリカなどでは、こんなに役に立つモノが出来たんだ!という発明がマーケットを動かしているではないか。日本人は、日本の企業は、それだけの知恵と気概をもはや失っているのではないか。予想されるそんな批判にも、山口氏は至って冷静だ。

ウェビナー時の山口氏
ウェビナー時の山口氏

「であれば、こう考えてみてはどうでしょう?」それが、冒頭の発言につながっていく。考えてみれば、これ以上、便利なもの、役に立つものを、果たして私たち生活者は心の底から望んでいるだろうか。「つまり、文明化から卒業した人や社会は、文明的な価値よりも文化的な価値を求めるようになっていく、というわけです」。

「自己満足できるって、実はスゴイことだと思う」(佐宗邦威)

「アートする、という文化的な行為の本質は、自分で自分をデザインすることだと思うんです」そう、佐宗氏は応じる。「ある意味、自己満足の世界なんですけど、でも、自身が作り出したもので、己を満足させられるって、実はものすごいことだと思いませんか?」

ウェビナー時の佐宗氏
ウェビナー時の佐宗氏

佐宗氏の説明は、こうつづく。他人や社会、あるいは会社が示した尺度ではなく、自ら考え、心からいいと思えるものを、自らの手でつくる。それを、喜んでくれる人がいる。そうした連鎖が広がっていくと、それはもう、自己満足というレベルではなく、社会の満足が生まれていることになる。「そこにはなんのストレスもないし、第一、とってもエコですよね。無駄な努力や労働などしなくていいわけですから」。周りから評価されるためなら、どんな苦労も厭わない。それこそが、自己実現のための唯一にして最良の方法である。そんな窮屈な思い込みから解放されたとき、人は本当の意味での幸せを手にできるのかもしれない。

今宵のキーワード(その1)「文化的消費」と「人生の作品化」

このやや難しいキーワードを、山口氏が易しく解説してくれた。いわく、文化的な価値を追い求める文化的消費という行動は、創造と遊びとコミュニケーションの三つで構成されているのだ、と。「別の言い方をするなら、人生の脚本を自らの手で創り出し、自らの手で演出を加えて、それを誰かに、あるいは社会に向けて発信していく、ということです」。

同じことを佐宗さんは「今後、人生の作品化が進んでいく」と予測する。興味深いのは「自己実現を追求した結果として作品が生まれるのではなく、生まれた作品によって自己実現がカタチになっていく、その過程にこそアートの本質がある」というお二人の指摘だ。自己の内なるものと、とことん向き合うことで生まれた作品。その作品が周りとの共鳴や調和を生み、場合によっては社会現象にまで膨らんでいく。いささか哲学的な話のようにも聞こえるが、SNSでの情報拡散現象、あるいはこの時代のいわゆる「勝ち組」とされる企業戦略の根底には、そうしたメカニズムが働いているに相違ない。

山口周 (独立研究者, 著作家, パブリックスピーカー) 1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。神奈川県葉山町に在住。
山口周 (独立研究者, 著作家, パブリックスピーカー)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。神奈川県葉山町に在住。

今宵のキーワード(その2)「独創的企業」と「ビジネスパーソンのアーティスト化」

「独創的企業」という、この時代、どの企業も「そうありたい」と願っているであろう理想像に、まず疑問を投げかけたのが佐宗氏だ。「僕自身、かつてはマーケットインの企業に勤めていたわけですが、マーケットを注視するということは、客観を極めるということであって、それは独創的であることと真逆の姿勢だと思います」。マーケットを注視するということは「生活者は何をしてほしいのか」を分析する、ということだ。対して、独創的企業とは「自分たちは何がしたいのか、何をやるべきなのか」を考える企業の指すものだ、と佐宗氏は定義する。

山口氏の指摘は、もっと辛辣だ。「この市場で、オリジナリティーを発揮するにはどうしたらいいだろう?」と考えている時点で、すでにそれは他者(他社)ありきの発想であって、独創的とは言い難い、と釘を刺す。

独創的であるとは、あくまで結果として社会から認められるもので、独創的でありたいと願うことで独創性が生まれるわけではない。独創的な発想の根幹には「スペキュラティブ(懐疑的)でクリティカル(批判的)な姿勢」があり、そのことによって、いま私たちが直面している課題の本質が炙り出され、問題提起型の行動へとつながっていく。そうしたアーティスティックな姿勢とはどこまでも主観的なもので、倫理観を含めた「なにが美しく、なにが善なのか」ということへの見極めや信念を持った会社でなければ決して独創的企業と呼ぶことはできない。お二人の主張は「アート×ビジネス」の核心に、いよいよ近づいていく。

佐宗邦威 (株式会社BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer) 東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニー株式会社クリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、独立。BtoC消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトを得意としている。 著書に、『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN 』、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』。 多摩美術大学特任准教授。大学院大学至善館准教授。
佐宗邦威 (株式会社BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer)
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニー株式会社クリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、独立。BtoC消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトを得意としている。 著書に、『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN 』、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』。 多摩美術大学特任准教授。大学院大学至善館准教授。

今宵のキーワード(その3)未来のビジネスを描く

お二人のトークに心を奪われているうちに、筆者にもどうやらこの夜会の趣旨が見えてきたようだ。文明的価値を求める社会は、この世の中の問題をことごとく「つぶして」きた。その結果、最大公約数の問題は、特に先進国においてはほぼつぶし切ってしまった。必然的に、残された問題は極めて些末で、極めてナイーブで、極めてパーソナルなものとなっていく。いわゆる価値観の多様化という現象だ。多くの企業は、そこでハタと困ってしまう。でも、よくよく考えてみれば、それは「アート」というものの本質と言えるのではないか。

山口氏は言う。「ほどなく、労働とレクレーション(余暇)の区別がなくなる時代がやってきますね。いや、もう来ているのかもしれない」と。それはつまり、仕事そのものが報酬となるということだ。労働を提供する側も、提供される側も、労働の対価としてのおカネやサービスが欲しいわけではない。自らが良しとするもの、美しいな、いいなと思うものを提供する、提供される。そこから得られる「文化的価値」に人々は心を奪われ、心を満たされるのだ。「そのプロセスにこそ、価値があるのだと思いますね」。佐宗氏の締めの一言に、つづく夜会への期待と妄想が一気に膨らんだ。                          

対談後の山口氏&佐宗氏


本連載は、「アートとビジネスがつくる未来を妄想する夜」と題されたウェビナーの内容を主催者であるDentsu Art Hubの笠間健太郎氏(株式会社アーツ・アンド・ブランズ代表取締役)監修のもと、ウェブ電通報独自の視点で編集したものです。

開催決定!オンライントークイベント
「アートとビジネスがつくる未来を妄想する夜 ART PUB NIGHT #1」

「アートとビジネスがつくる未来を妄想する夜 ART PUB NIGHT #1」告知画像
主催:Dentsu Art Hub/一般社団法人アートハブ・アソシエーション 協賛:株式会社アーツ・アンド・ブランズ
 

実施日時:2021年4月28日(水) 19:00-21:30
(10分前にZoomウェビナーを開場いたします)
参加費:無料
開催形式:Zoomウェビナー    
申込先:各回先着500名まで参加可能。
 お申し込みは、こちら。(事務局より視聴用URLをお届けします)
応募締切:4月28日(水)