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アート×ビジネスの妄想夜会No.6

2021/09/07

アート×テクノロジーの未来とは?(杉山央×脇田玲)

2020年12月7日から五夜連続で「アートとビジネスがつくる未来を妄想する夜」と題するウェビナーが「アートとビジネスをつなぎ、豊かな未来を描く」をテーマとした電通社内ラボ、Dentsu Art Hubの主催により開催された。アート×ビジネスにそれぞれの立場で深く関わる猛者たちによる対談&鼎談は、いずれの回も「三つのキーワード」のもとで行われた。ご本人により事前に設定された「妄想トーク」のテーマは、それだけで聴く側の妄想が掻き立てられる。
この連載では、ウェビナーを通じて見えてきたアートの本質、ビジネスの本質、さらにはそのアートとビジネスが「掛け算」されることで創造される未来という大きなテーマに、編集部ならではの視点から切り込んでみたい。

最終夜にあたる本稿では、森ビル新領域企画部杉山央氏とアーティスト/慶應義塾大学環境情報学部学部長教授脇田玲氏の対談内容から、アートとテクノロジーの未来について掘り下げていく。

文責:ウェブ電通報編集部

「デジタル=質量のないもの、と捉えると全ての謎が解ける気がします」(杉山央)

森ビルが2019年にスタートさせた新領域企画部に所属する杉山氏。「平面から空間アートへ、そして体験アートへ」という潮流の中、1万平米のアートミュージアムを手掛けるなど、デジタルとアートを融合させた「テクノロジーカルチャーの祭典」を、次々と具現化している。「一言で言ってしまえば、私の仕事は、場をつくる仕事なんです」。そう語る杉山氏が、今、最も注力しているのが体験アートというべきものだ。

ウェビナー時の杉山氏
ウェビナー時の杉山氏

「体験アートとは、その場でしか体験できないもの、その場で感じたものを持ち帰っていただくというものなんです」。杉山氏いわく、こうした潮流は、アートの形そのものを異次元なものへと変化させているという。「分かりやすく言えば、この感動を我がものにしたいと思ったとき、従来であれば、その対象である作品を購入して持ち帰ればよかった。

ところが、体験アートの場合、その作品を持ち帰ることはできない。なぜなら、デジタルが生み出す作品は質量を持たないから。プロジェクションマッピングなどの技術を目の当たりにし、とてつもない感動を味わったとしても、プロジェクションマッピングそのものを持ち帰って所有し、自宅のリビングに飾って楽しむ、ということは物理的に不可能なのだ。

「デザインが薬なら、アートは毒」(脇田玲)

この言葉は、ウェビナーの最後の最後に、脇田氏が紹介してくれたもので、脇田氏の指摘はさらにこう続く。「テクノロジーが欲望なら、サイエンスは謙虚さである」と。その瞬間、ウェビナーの参加者がPC画面の前で膝を打つハタという音が、筆者の耳に押し寄せて来たような気がした。「それでいうと、今日のテーマは『毒と欲望が共鳴する未来』とになりますから、これはもう必然的に壮絶なことになりますよね」

ウェビナー時の脇田氏
ウェビナー時の脇田氏

慶應義塾大学で環境情報学部の学部長を務める一方で、アーティストとしての顔も持つ脇田氏。元々の専門はコンピューターサイエンスで、イメージしやすい例として脇田氏が挙げたのは「CTスキャン」の技術だ。「見えないものを、見えるようにしたい。それも、3Dで。しかも、リアルタイムで。より精細に。そのことだけを追求して、そのことだけを考えて、それこそボロ雑巾のようになるまで働いてきました」。

ボロ雑巾のようにという表現は、一瞬、脇田氏一流の自虐ネタのように思えたのだが、実はそうではない。ボロ雑巾のようになるまで研究に没頭した結果、あるとき脇田氏は大病を患ってしまう。「人生で初めて、といっていい長期の入院も経験したのですが、その際にふと感じることがあったんです。結果としてそれまではゴリゴリの技術者であった私が、今、アートを語る人間としてこの場にいるのですから。人生、なにが幸いするか、分からないですよね」

今宵のキーワード (その1)自分の物語

脇田氏の大病にまつわる話のつづきを、もう少し、聞いてみよう。「大きな病気と対峙したときに、今まで感じたことのない気持ちが湧いてきたんです。それは、どうせ死ぬなら納得して死にたいな、ということでした。そうなると、根が研究者なものですから、であればどうやったら納得できるのだろう?ということに当然なるわけです。風のように流れた先に死があるのだとしたら、流体力学的にはどのような風(かぜ)に、どんな風(ふう)に乗るのが一番いいのだろう?などと考える。その先に、スピリチュアルなものや、アートが見えてくるというのは、ごくごく自然なことだったんですね。少なくとも、私にとっては」

杉山央 (森ビル新領域企画部、一般社団法人Media Ambition Tokyo理事)  学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビルへ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品・サービス賞最優秀賞等を受賞。現在は新領域企画部にて、これからの都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人 Media Ambition Tokyo理事。
杉山央 (森ビル新領域企画部、一般社団法人Media Ambition Tokyo理事) 
学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビルへ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品・サービス賞最優秀賞等を受賞。現在は新領域企画部にて、これからの都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人 Media Ambition Tokyo理事。

今夜は妄想夜会ということなので、当時感じたこんな妄想話をしてもいいわけですよね?と照れ臭そうに語る脇田氏につづいて、杉山氏が口を開いた。

「私が森ビルに入社するきっかけも、実は巨大な妄想からでした。元々は、大学生の頃、街中へ繰り出してあっちこっちにアートをつくる、みたいな悪戯をしてたんです。もちろん、街を破壊してやろうといった大それたものではなく、おかげさまで警察のご厄介になることもなかったわけなんですが、そのうち、同じことをやるなら、もっと大きなことをやってみたいという妄想にかられるようになっていく。ちょうどそのタイミングで六本木ヒルズという巨大なアートシティーができたりして。この会社に入れば、そんなことができるんじゃないかな、ということでつい門をたたいてしまったんです。おおげさに言うなら、テクノロジーというものへの考え方が、単なる道具から表現そのものに変わった瞬間だったのかもしれません」

今宵のキーワード(その2)外れ値

お二人の言う「外れ値」とは、社会の枠からはみ出た「特異な才能」のこと。杉山氏の言葉を借りるなら「こうした、多数決では没になってしまう、あるいは、非マーケティング的な才能こそが、アートには必要だ」ということになるし、同じことを脇田氏の言葉で表現するなら「アイツ、変なヤツだけど、おもしろいよね、いいよね、と受け入れられるやさしさのある社会や環境が、アートを育む上でなによりも大切」ということになる。

「外れ値=悪、ではない」とはどういうことか。杉山氏はこう説明する。「2〜3年先の未来を想像して、実際に2〜3年後にそれを具現化してしまうスタートアップのような人がいる。そのもっと先を見ている人は、たとえば研究者みたいな人。さらにさらに、もっともっと先を妄想している人こそが、アーティストであり、思想家であり、SF作家であったりする。大事なことは、どの人が正しく、どの人が社会にとって必要なのかを決めることではなく、違う未来を夢見ている人同士の交流をもっともっと盛んにしていくことだと思います」

脇田玲 (アーティスト/慶應義塾大学環境情報学部学部長教授) 科学と現代美術を横断するアーティストとして、数値計算に基づくシミュレーションを駆使し、映像、インスタレーション、ライブ活動を展開している。Ars Electronica Center、 WRO Art Center、MUTEK、清春芸術村、日本科学未来館、Media Ambition Tokyo、21_21 DESIGN SIGHTなどで作品を発表。主な展示に「高橋コレクション『顔と抽象』-清春白樺美術館コレクションとともに」(2018)、日産LEAFと一体化した映像作品「NEW SYNERGETICS -NISSAN LEAF X AKIRA WAKITA」(2017)などがある。
脇田玲 (アーティスト/慶應義塾大学環境情報学部学部長教授)
科学と現代美術を横断するアーティストとして、数値計算に基づくシミュレーションを駆使し、映像、インスタレーション、ライブ活動を展開している。Ars Electronica Center、 WRO Art Center、MUTEK、清春芸術村、日本科学未来館、Media Ambition Tokyo、21_21 DESIGN SIGHTなどで作品を発表。主な展示に「高橋コレクション『顔と抽象』-清春白樺美術館コレクションとともに」(2018)、日産LEAFと一体化した映像作品「NEW SYNERGETICS -NISSAN LEAF X AKIRA WAKITA」(2017)などがある。

その意味では、ということで脇田氏がこんな話をしてくれた。「たとえば、今のデジタルには『おススメをリコメンドしてくれる』みたいな機能というかサービスがありますよね。でも将来的には『あなたこれ、キライでしょ!だったら一度、トライしてみたら?』というリコメンドがあってもいい。その方がよっぽど、クリエイティブマインドは刺激される」

今宵のキーワード(その3)マネー

マネーの話にいく前に、と、脇田氏がこんなことを指摘した。「デジタルって、作業の痕跡がまったく残らない技術なんです。アナログなアートって、絵画でも彫刻でもなんでもそうですが、試行錯誤している痕跡そのものに価値があったりするじゃないですか。デジタルの場合、そんなものはデリートキー一発で、この世から削除できちゃうわけで。これは、すごいことである半面、とてつもなく恐ろしいことでもあると思うんです」

脇田氏の指摘は、これまで杉山氏から出ていた「デジタル=質量のないもの」「体験という目に見えないもの、所有権が発生しないものを売るビジネス」という事柄にもぴたりと当てはまる。アートの価値をより一層、マネタイズしていくためには、やはりデジタルテクノロジーの活用は不可欠なものであるようだ。

最後に杉山氏から出た「日本人として大いに希望の持てる話」を紹介して、この全6回にわたる連載を締めくくろうと思う。「目に見えない感情とか、美しさを立体や空間といった3Dで表現するのは日本人がもっとも得意とすることだと思います。古の建築でも、庭園でも、茶室でも、なんでもそうです。空間をつくりあげることで、そこにスピリチュアルなものを表現する。わびさびであったり、先人や同時代を生きる全ての仲間、未来を生きる人、もっといえば八百万の神様まで、あらゆるものへのリスペクトを表現する。それこそが、日本が誇るアートの本質であり、だからこそ、海外からの羨望の目も注がれているのだと思います。そのことに僕らはもっと自信を持つべきだし、もっともっと多くのことを学ぶべきだ。幸いなことに、この日本には学ぶべきことはまだまだたくさん残されているはずです」

対談を終えての2ショット
本連載は、「アートとビジネスがつくる未来を妄想する夜」と題されたウェビナーの内容を主催者である笠間健太郎氏(アーツ・アンド・ブランズ代表取締役)の監修のもと、ウェブ電通報独自の視点で編集したものです。
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