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「engawa Serendipity day」レポートNo.2

engawa Serendipity dayレポート#02

2021/05/26

engawaウェビナータイトル

Serendipity(セレンディピティ)という言葉をご存知だろうか?「偶然の出会いをきっかけに、予想外の価値を発見し、幸運をつかみ取る能力」を表すこの言葉が今、ビジネス界で注目を集めている。スリランカの寓話から生まれたとされるSerendipityの正体とは、何なのか? 2021年4月15日に開催されたウェビナー「engawa Serendipity day」に、そのヒントを探ってみよう。大いなる発見と幸福な出会いが、きっとそこにはあるはずだ。

(文責と分析:ウェブ電通報編集部)


3回連載となる本稿#02では、ウェビナー第二部で披露された京都大学経営管理大学院客員教授/オムロン イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長・竹林一(たけばやしはじめ)氏による「事業共創づくりに必要なこととは?」というテーマでの講演を取り上げる。

Serendipity(セレンディピティ)の核となるのが「共創」。いまさらながらの注釈ではあるが、「競争」ではなく「共創」。その仕組みを竹林氏は、独特とも言える軽妙な口調で解説してくれた。ウェブ電通報では、およそ一時間に渡って行われた竹林氏の講演の醍醐味を「関西」「京都」という切り口で、再編集してみた。これもまた、Serendipity(セレンディピティ)に迫るための一つの挑戦だと、ご理解いただきたい。
 

ウェビナーの収録が行われた京都engawaの外観。モダンでありながらも京都の街並みにマッチする佇まいだ。
ウェビナーの収録が行われた京都engawaの外観。モダンでありながらも京都の街並みにマッチする佇まいだ。



 

人は、空気を吸うために生きとるんやない

竹林氏が紹介してくれたこの言葉は、オムロン創業者・立石一真氏の言葉だ。人は空気がなければ生きてはいけない。企業にとってそれは、利益にあたる。でも、カネを稼ぐことはあくまで生きていくための手段に過ぎず、目的はその先にある、というのだ。「三方得」の近江商人の発想ではないが、このあたりに関西人独特の知恵が読み取れる。

竹林一(たけばやしはじめ)氏
竹林一(たけばやしはじめ)氏

一例を挙げるならば、竹林氏は、駅員さんに切符を渡して通り過ぎるだけの存在だった「駅」というものを、新たに「街の入り口」と定義づけた。それによって「駅を起点とした、安心・安全かつ快適な街づくり」が始まる。さまざまな企業が、ワクワクするコンセプトに集う。「共創」のカラクリは、まさにそこに見てとれる。

竹林氏によれば「風が吹けば、桶屋が儲かる」のビジネスモデルづくりが大切なのだという。まずは、ワクワクする風を吹かすこと、そこに人が集まってそれぞれが自分なりのビジネスを考える。別の例えで言うならば、現代版の「楽市楽座」構想、ということだ。

ポイントとなるのは、起承転結の「承」

竹林氏の講演の中で、とりわけハッとされられたのは、「8割×8割は、0.64にしかならない」という指摘だ。人を多く集めさえすれば、大きなプロジェクトを具現化できる、というのは妄想だ。プロジェクトは、それに関わる人の能力の「掛け算」がもたらすもの。つまり、個々の人間が「0.8」程度の力を注いだプロジェクトは、結果としてとんでもなくしょぼいものにしかならない、というのだ。

プロジェクトは「起承転結」のそれぞれの部分の担う人間によって、成り立つ。「起」や「転結」を担う人間がやるべきことは、比較的イメージしやすい。「起」の人よるひらめきを、「転結」を担う人が事業として育てていく。ポイントは「承」を担う人の存在なのだ、と竹林氏は指摘する。「承」を担う人は、「起」のひらめきのアイデアをイメージしやすいワクワクしたワードに置き換え、コミュニティ構想に仕立てる。そこに「転結」を担う人間が集まってくる。

竹林氏はそれを「秘密結社型のマーケティング」と表現する。「will」をもったクローズドなチーム(秘密結社)だけが、オープンビジネスを可能にする。上下関係など要らない。注目すべきは「横の結束」である、と。そして、横の結束が生まれると、物事は勝手にころころといい方向へ転がっていく。「willの連鎖さえあれば、広告への投資などいらないんですわ」竹林氏によるこの指摘は、広告会社に勤める、それも東京の人間にとって、実に痛いところをつかれた、といった感じだ。エフェクチュエーションという難しいマーケティングワードも、「わらしべ長者を科学する」という視点で考えれば、とても腹落ちする。ところで、「わらしべ長者」って、どんな話だったかな?

知恵の掛け算が、「わらしべ長者」を生む

改めて「わらしべ長者」のストーリーを思い出していただきたい。1本のわらに虻(あぶ)を結び付けて遊んでいたところ、そのわらしべをみかん3個と交換してくれないか、と、ぐずる赤ん坊を抱いた女性から頼まれる。そのみかんが、布になり、馬に化け、ついには田んぼを手に入れるというストーリーだ。

ポイントは「出会い」にある、と竹林氏は指摘する。「100年続くベンチャーが生まれ育つ都研究会」を京都大学経営管理大学院の寄附講座の中で立ち上げた竹林氏。その拠点として京都という街を選んだのは、偶然の思いつきではない。「竹林一」という名前を「たけばやしー」と読み、「しーさん」と慕ってくれる人がいる街。そうした出会いから、しーさんが言うところの「年中夢求」という気持ちが生まれ、イノベーションが起きていく。「まさに、五山に囲まれた京都ならではの、わらしべです」

1時間を超える講義の内容を、今回もあえてぎゅっと要約してみた。「わらしべ長者」と言われると、「たまたまの偶然が重なって、ふと気づけば大金持ちになっていた」みたいな印象をお持ちの方も多いと思うが、Serendipity(セレンディピティ)をつかむためのヒントは、まさにそこにあるのだと思う。


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奥田涼氏:「FUND X」というソリューションで、オープンイノベーションによる企業改革を提案する。
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Plug and Play Japan、会社ホームページは、こちら

ヴィンセント フィリップ氏:Plug and Play Japan代表取締役社長 「小さな失敗を、早くすること」が、イノベーションの速度を生む。独特の切り口で、スタートアップの本質に迫る。
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本連載は、「engawa Serendipity day」と題されたウェビナーの内容を、主催者の一人である田中浩章氏(京都BAC)の監修のもと、ウェブ電通報独自の視点で編集したものです。