外国人とコミュニケーションするための「入門・やさしい日本語」No.1
数字で見る、「国内外国人」と「やさしい日本語」
2021/05/25
こんにちは、電通ダイバーシティ・ラボの“やさしい日本語プロデューサー”、吉開章です。昨年、「入門・やさしい日本語」という本を発売しました。
やさしい日本語とは、日本語を母語としない外国人など、日本語のコミュニケーションに何らかの困難を抱える人のために、語彙や文法などを調整した日本語のことです。
みなさんの中には、「外国人は英語を話す」と思っている方が多いかもしれません。しかし、日本に住む外国人は、英語より日本語を話せる人のほうが多い、という調査結果があります。
ですから、日本国内で外国人とコミュニケーションをとるとき、日本語で話すことは立派な選択肢の一つです。しかし、日本語を話せるとはいえ、母語が日本語でない方が私たちの普段の会話についていくのは難しいものです。
本連載では、職場や暮らしの中で外国人とのコミュニケーションに役立つ、やさしい日本語のコツをお伝えします。初回は、やさしい日本語が生まれた背景や、外国人の日本語スキルについて、象徴的な数字を交えながら紹介します。
やさしい日本語という取り組みを知っている日本人の割合、29.6%
みなさんは、やさしい日本語という言葉を聞いたことがありますか?文化庁「令和元年度国語に関する世論調査」では、初めて外国人と日本語に関する意識に関する設問が盛り込まれ、国民の29.6%が、やさしい日本語という取り組みが始まっていることを知っていると回答しています。
1995年の阪神・淡路大震災で外国人住民の被災率が日本人の被災率の2倍以上であったことから、「緊急のときにも外国人に伝わりやすい言葉は何か」という調査が弘前大学・佐藤和之教授によって行われました。すると実は簡単に言い換えた日本語が一番伝わることがわかったのです。そこから、減災のための「やさしい日本語」の研究が始まりました。
その後も、日系ブラジル人や技能実習生など日本に住む外国人が激増し、行政や公共施設などの日常的な情報発信や業務でも言葉の壁が生まれてきました。このため多言語対応の一つとしてやさしい日本語が注目され、一橋大学・庵功雄教授の研究グループが自治体と連携して平時における<やさしい日本語>の研究に取り組んできました。
2016年には、日本語を学んでいる外国人観光客にはやさしい日本語でおもてなしをしようという「やさしい日本語ツーリズム」が福岡県柳川市でスタート。コミュニケーションのためのやさしい日本語が、観光従事者や一般市民が使えるものとして、注目されるようになりました。
筆者はこの柳川市のプロジェクトの提案者であり、2016年からやさしい日本語の普及啓発を仕事にしていますが、当時は、やさしい日本語の取り組みはあまり知られていませんでした。そこからわずか4年弱。「やさしい日本語認知率29.6%」という数字は驚くべき大きさだと感じています。
コロナ流行後の国内外国人の減少率、1.6%
新型コロナウイルスの影響でインバウンド客は激減しましたが、2020年末に日本国内に住む外国人(在留外国人)数は全人口の約2.3%となる288万7116人。前年末に比べて1.6%減にとどまっています(入管庁発表)。コロナの感染拡大防止は地域社会全体で取り組む必要があるため、国政レベルでの多言語対応が一気に加速しました。厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症に関する外国語対応ホームページ」を開設し、やさしい日本語を含む11言語で情報提供しています。
多くの外国人住民が、好むと好まざるとにかかわらずそのまま日本にとどまり、日本人同様に生活し経済を支えています。国内外国人の消費市場は小さくないのですが、「外国人には英語」「外国人には日本語はわからない」といったイメージから、日本の企業で国内外国人市場に注目しているところはまだ少ないのが現状です。
国内外国人で「少しでも日本語での会話ができる」人は、88%
では、国内外国人はどれくらい日本語ができるのでしょうか。2021年2月入管庁発表「令和2年度在留外国人に対する基礎調査報告書」で初めてその実態が明らかになりました。
会話の能力に注目してみると、国籍による差はあるものの、会話がほとんどできないという割合は少なく、多くの人がある程度の日本語会話ができることがわかります。
また、文を読むほうに注目してみましょう。以下は避難指示に関する普通の日本語と、フリガナを振って平易な表現に書き換えたやさしい日本語です。
それぞれを「よくわかる」と答えた人の国別結果は以下の通りです。
このように、普通の日本語をやさしい日本語に書き換えるだけで、多くの人がより理解できるようになることがわかりました。
国内に住む外国人はすでに日本を支える生活者であり、やさしい日本語なら多くのことが理解できます。そのような人たちにとって現代の日本社会は、日本人と同様の生活を享受し、活躍できる環境にあるでしょうか。国や自治体などでは取り組みが始まっていますが、これからは民間企業も例外ではなくなってきます。そして、情報の発信元でもあるメディアや広告に関わる人たちも、その責任の一端を担う存在なのです。
次回は、どのようにすれば外国人にとって日本語がわかりやすくなるか、やさしい日本語のコツをお伝えします。