外国人とコミュニケーションするための「入門・やさしい日本語」No.2
やさしい日本語の基本は、「ハサミの法則」
2021/07/12
こんにちは、電通ダイバーシティ・ラボの“やさしい日本語プロデューサー”、吉開章です。昨年、「入門・やさしい日本語」という本を発売しました。
やさしい日本語とは、日本語を母語としない外国人など、日本語のコミュニケーションに何らかの困難を抱える人のために、語彙や文法などを調整した日本語のことです。
前回は、外国人の日本語スキルなどの調査結果を見ながら、日本に住んでいる外国人には、英語よりも、やさしい日本語が有効な表現方法であることを紹介しました。今回は、やさしい日本語を話すコツをお伝えします。
「ハサミの法則」を使うと、外国人に日本語が伝わりやすくなる
やさしい日本語で話す一番の心得は、「ハサミの法則」です。はっきり言う、さいごまで言う、みじかく言う、の最初の文字をとって、「ハサミ」です。
「はっきり言う」は、口をちゃんとあけて発音するということです。「ゆっくり言う」こととは違います。ゆっくり言いすぎるとむしろわかりにくくなります。
「さいごまで言う」は、文末まできちんと話すことです。「それはちょっと……」とか、「それ、違うから」のように、中途半端な話し方は、相手が戸惑います。
「みじかく言う」は、文字通り一文を短くすることで、ハサミの法則の中で一番大事です。一文が長すぎると相手が理解しきれず、内容が伝わりにくくなります。
ひとつ例を紹介しましょう。
大阪に住んでいる友人と2年前に渋谷でお好み焼きを食べたのですが、友人は「こんなん自分が作った方がおいしいわ」と言って、去年私が大阪に行ったときに、お好み焼きのホームパーティをしてくれました。
とにかく長いですね。これをハサミの法則で短く切ると、次のようになります。
私の友人は、大阪に住んでいます。
私と友人は、2年前に渋谷に行きました。
私と友人は、お好み焼きを食べました。
でも友人は、「これはおいしくないです。私が作る方がおいしいです」と言いました。
私は、去年大阪に行きました。
友人は私のために、お好み焼きのホームパーティをしてくれました。
このように一文を短くすれば、話すときも、書くときもとてもわかりやすくなります。また短い文なら、中学1、2年生が習うレベルの英文法で英語に翻訳することも可能です。さらには、AI翻訳でさまざまな言語にも翻訳しやすくなります。
尊敬語・謙譲語は使わない。「~です。~ます。~ください」などを使う。
日本語を学ぶ外国人の多くが難しく感じるのが、日本の敬語です。特に、話し相手や話題の主の動作・状態を高める「尊敬語」と、話し手がへりくだる「謙譲語」は、外国人にとって理解しにくいものです。
尊敬語の例としては
「服を着る」→「服をお召しになっています」
「寝ている」→「お休みになっています」
などがあります。
謙譲語の例としては
「行く・来る」→「参ります」
「見る」→「拝見します」
などがあります。
どちらも使い方が難しく、知らない人は聞いてもよくわかりません。
また、ものの名前にも、敬語があることがあります。
「会社」→ 尊敬語は「御社」、謙譲語は「弊社」
「考え」→ 尊敬語は「ご高見(こうけん)」、謙譲語は「私見」
などです。日本人でも、間違ってよく逆に使ったりします。
最初から難しい敬語を使わず、「です・ます」など、シンプルでも十分ていねいな言葉で話すことも、やさしい日本語のポイントです。
敬語については、外国人が間違って使ってしまうこともあります。
外国人の方々は、失礼に言おうと思って、間違った敬語を話しているのではありません。ただ使い方がよくわかっていないだけです。しかし、日本人の中には、間違った敬語を聞くと、なぜか怒ったり、相手をバカにしてしまうような反応をする人がいます。
日本人の中には、英語を話すのが苦手だと言う人がいます。それは「英語を間違えたら恥ずかしい、バカにされる」と思っているからかもしれません。しかしこれは逆に、「日本語を間違う人は、恥ずかしい、バカにされる」とも思っていると言えるのかもしれません。また、外国人が敬語を間違うと、話の中身を聞いてもらえないことがあります。これらは日本語が苦手な人への差別につながることもあるので、気をつけたいところです。
漢字の言葉ではなく、和語を使う
日本語を勉強する多くの外国人にとって、漢字は本当に難しいものです。書き方も大変ですが、同音異義語、つまり同じ読み方で違う意味の漢字は、聞いてもよくわかりません。例えば、人を「招集する」も、いやな匂いを「消臭する」も、読み方は同じ「しょうしゅうする」です。
やさしい日本語では、そのまま意味を表す「和語」をできるだけ使います。人を「招集する」は「人を集める」、匂いを「消臭する」は「匂いを消す」といえば、簡単にわかります。
オノマトペ(擬音語・擬態語)を使わない
(雨が)「ざあざあ降る」「しとしと降る」のように、音を表す言葉を「擬音語」と言います。また、(床を)「ピカピカにする」「ツルツルにする」のように、様子を表す言葉を「擬態語」と言います。擬音語と擬態語を合わせて「オノマトペ」と言います。
オノマトペは数えきれないぐらいありますが、それぞれピッタリした場面で使われます。日本の家庭では、親子の会話で日常的にオノマトペを使うので、子どもはすぐにそれを覚えます。しかし、外国人がオノマトペを覚えるのは、漢字と同じぐらい大変ですし、キリがありません。
「ざあざあ降る」は「たくさん降っている」、「しとしと降る」は「ずっと、少しずつ降っている」の方がわかりやすいでしょう。掃除をするなら、「ピカピカにする」「ツルツルにする」は、「きれいにする」で十分です。やさしい日本語ではオノマトペは使わないようにすることが鉄則です。
慣用句を使わない
「腕を上げる」と言う言葉は、本当に腕を上げることだけでなく、「上手になる」という意味があります。同じように「口が固い」は「秘密をいつも守る」、「首が座る」は「赤ちゃんの首がしっかりしてくる」という意味があります。このように文字通りでない、別の意味のある言い方を「慣用句」といいます。慣用句は、かんたんな言葉を組み合わせてとても豊かな表現ができます。しかしこれも外国人にはとてもわかりにくい言い方です。やさしい日本語では、慣用句を使わないようにします。
漢字にはふりがなを振る
同音異義語だけでなく、同じ漢字でいろんな読み方がある場合も大変難しいです。
「アメリカ人の方の方が、背が高いです」という文を読むと、外国人は「方」が2つ続いているのを、タイプミスだと思うでしょう。これも「アメリカ人の方(かた)の方(ほう)が」と読みがなを振らないとわかりません。
また、「彼は、実家のことを大事に思っています」の「大事」を「だいじ」と読むか、「おおごと」と読むかで、意味が全然違ってきます。「だいじに思っている」は「大切に思っている」、「おおごとに思っている」は「おおげさでめんどうくさいことだと思っている」ということになります。
やさしい日本語では、漢字にふりがなを振ります。ふりがなが増えれば、外国人も読みやすくなりますし、漢字の勉強にもなります。拙著「入門・やさしい日本語」(アスク出版)は、漢字にすべてふりがなを振って読みやすくしています。
以上、やさしい日本語のポイントをいくつか紹介しました。これらのポイントを押さえるだけでも、外国人と日本語でコミュニケーションしやすくなります。外国人と仲良くなりたいと思ったり、一緒に働いてほしいと思ったりする人が増えている昨今。やさしい日本語で、より良い関係を築いてほしいと思います。