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外国人とコミュニケーションするための「入門・やさしい日本語」No.3

ラップで広げる「やさしい日本語」

2021/12/06


こんにちは、電通ダイバーシティ・ラボの“やさしい日本語プロデューサー”、吉開章です。昨年、「入門・やさしい日本語」という本を刊行しました(リリースはこちら)。

やさしい日本語とは、日本語を母語としない外国人など、日本語のコミュニケーションに何らかの困難を抱える人のために、語彙や文法などを調整した日本語のことです。本連載ではこれまで、やさしい日本語が求められる背景や、話し方のコツなどをお伝えしてきました。

今回は、2021年9月に公開した、やさしい日本語をテーマとする、ラップのミュージック・ビデオ「やさしい せかい」について紹介します。制作メンバーの武内昌司郎君(ラジオテレビビジネスプロデュース局)と山崎誠太君(第8ビジネスプロデュース局)を迎え、制作の背景や歌詞作り、参加した学生たちの反応などについて振り返ります。

やさしい日本語ミュージック・ビデオ「やさしい せかい」
電通ダイバーシティ・ラボのプロジェクトである「やさしい日本語ツーリズム研究会」で連携している、明治大学国際日本学部・山脇啓造教授の協力のもと、多文化共生社会について学んでいる山脇ゼミの学生たちと一緒に作り上げた楽曲。日本語学習の難しさや日本人とのコミュニケーションにおける悩みなどをラップで表現し、言葉の壁をやさしい日本語とやさしい気持ちで乗り越えていこうというメッセージを込めている。


学生たちの思いを大切に、誰もが歌いやすいラップに磨き上げる

吉開:私はこれまで、本を出版したり、メッセージビデオを制作したり、いろいろな形でやさしい日本語の啓発活動に取り組んできました。さて次は何をしようかと考えていた時に、「ラップで表現してみてはどうか」というアイデアを思いつきました。

コロナ禍でほぼ家で仕事をするようになって以来、音楽をよく聴いているのですが、いつも同じような曲ばっかりでした。たまには違う曲もと思って、一時期、ヒップホップをよく聴いていました。ヒップホップは一定のリズムに歌詞を載せ、聴衆に気持ちを訴えかける音楽です。これはいいな、と思ったのが、今回の企画の発端です。

ただ、私はラップに関して専門的な知識を持っているわけではないので、精通している人が社内にいないか探したところ、武内君と山崎君を紹介してもらいました。お二人はこの企画についてどう感じましたか?

武内:僕は10代の頃からダンスやラップの世界で育ってきて、ヒップホップカルチャーをもっと知ってほしいという思いを持ちながら仕事をしてきました。以前、ローカル業務部に所属していた時には、地元を誇りに思い、その地をレペゼン(代表)する気持ちを持ったラッパーたちを特集した「レペゼン LOCAL〜地方創生×HIPHOP〜」という番組を制作しました。他にも、各地の企業や学校で、ラップを取り入れたワークショップを企画したこともあります。今回、吉開さんには本当に貴重な機会を頂いたと思っています。本企画には、一緒にレペゼン LOCALのプロジェクトに取り組んでいる山崎を誘って参加しました。

山崎:僕も武内と同じく、ヒップホップカルチャーの魅力をもっと世の中の人に知ってもらいたいと考えていました。ヒップホップはアンダーグラウンドな文化として、ネガティブなイメージを持たれることもあります。でも、決してそんなことはなくて、ヒップホップには、愛や情熱を伝える大きな力があります。武内から話を聞いた時は、「俺らがやらなくて、誰がやるの?」という気持ちでした。

吉開:今回のミュージック・ビデオには、多文化共生社会について学んでいる、明治大学国際日本学部の山脇ゼミの学生と、イーストウエスト日本語学校に通う留学生に参加していただきました。さらに、やさしい日本語は、外国人との交流だけでなく、コミュニケーションに壁を感じているすべての人にとって有効であると考え、視覚・聴覚障がいのある方々にも登場いただいています。

制作にあたって、武内君と山崎君には、歌詞のブラッシュアップや学生たちへのラップ指導、プロモーションなどを担当いただきました。まずは歌詞作りについて振り返ってみたいと思います。

歌詞作りは、山脇ゼミの学生たちにファシリテーターになってもらい、イーストウエスト日本語学校に通う留学生たちに、日本語や日本でのコミュニケーションについての悩みを聞き出すところから始めました。

でも、実際にやってみるとブレストはスムーズに進みませんでした。このようなブレストの場で自分の意見を日本語で言える人は、すでに日本語の能力が高い。ですから、本当に日本語で困っている人の気持ちがあれもこれもつかめたわけではありません。そこで、山脇ゼミの学生たちが、普段自分たちが学んでいることを振り返りながら、いろいろなアイデアを考えて、それを歌詞に落とし込んだ部分もありました。私は、やさしい日本語の文法的な部分を中心に監修し、歌詞を整えました。1番の歌詞は「言葉で解決できることは、やさしい日本語で解決しよう」、2番の歌詞は「言葉で解決できないことは、気持ちで解決しよう」ということを伝えています。

やさしい日本語


武内:僕と山崎は、吉開さんと学生たちが考えた歌詞を、よりラップらしく磨き上げていきました。その時に大事にしたのは、リアルにこだわることです。できるだけ学生たちの言葉や思いを生かすこと。多文化共生社会の実現に向けて彼らが普段感じていることや、世間に向けて発信したいことが詰まった歌詞だからこそ、その意味や内容を変えずにブラッシュアップしていくことを意識しました。

山崎:そこは私もかなり気を遣ったところです。本来、ラップは、自分で書いたリリックを自分で歌うことを大切にしているので、僕らが歌詞を組み替えるのは、ヒップホップカルチャーに反するのではないかと悩むこともありました。それでもできる限り、学生のみなさんが書いた言葉を生かしながら、彼らの思いをしっかりと歌詞にのせるお手伝いができたと思います。

武内:歌詞を磨き上げる行程では、言葉を言い換えたり、前後を入れ替えたり、韻を踏む単語を追加したり、よりラップらしい表現になるよう、テクニカルな部分でサポートさせていただきました。

山崎:例えば、「毎日漢字の読み方勉強 空気を読む方がマジ面倒」という歌詞がありました。「勉強」と「面倒」で韻を踏んでいるのですが、少し説明文っぽく感じたんです。そこで、「毎日漢字の読み方勉強 来日してから空気読む方が面倒」というふうに「毎日」と「来日」でもう一つ韻を踏む流れを作りました。

でも、音にのせた時のリズムがあまりよくないなと思ったんです。そこで「来日してから」を「来日後からは」と言い換えて、最終的には「毎日漢字の読み方勉強 来日後からは空気読む方が面倒」という詞にしました。

武内:歌詞を磨き上げる時は、誰もが歌いやすいものにすることを心掛けました。初めてラップに挑戦する学生たちや、日本語を勉強中の留学生に歌ってもらうということでしたので、発音しやすい言葉やリズム感も意識しました。

吉開:お二人が歌いやすい歌詞に磨き上げてくれたことは、今回のプロジェクトにとって大きな意味があるんですよ。ラップは難しそうと感じる人も多いと思いますが、この楽曲は「早口言葉がうまくなければ歌えない」というものではありません。誰もがこの楽曲を通して、やさしい世界をつくる活動に参加できる。そして、たくさんの人に歌ってほしいという思いがありました。試行錯誤を繰り返して、本当に素敵な楽曲に仕上がったと思っています。 

やさしい日本語に賛同する方が自由に歌詞をつけて公開できる

吉開:ラップ指導もお二人に担当していただきました。学生の反応はいかがでしたか?

武内:最初に曲を聞いてもらった時は、みなさんに「本当にこれをやるの?」と驚かれました(笑)。それでも日本人の学生たちは、アクセントの入れ方やリズムの取り方を教えると、楽しそうに練習していたのを覚えています。留学生は、普段話している日本語よりも速いテンポで言葉を発しなければならないので大変そうでしたね。

学生たちと会ったのは、ミーティングとラップ指導、収録・撮影の3回なのですが、回を増すごとに「自分の思いを発信するんだ!」という気持ちが強くなり、最後は自信を持って臨んでいた様子が印象的でした。そのような若い世代の姿を間近で見ることができたのは、私自身、貴重な経験でした。

山崎:僕は、「みんなラップを歌うのは初めてなのにこんなにできるんだ!」と感じました。その理由は、おそらく僕らの世代よりもラップが身近な存在になっているからなのかな、と思います。

僕はメインボーカルの男子三人を指導していたのですが、いちばん伝えていたのは、とにかく気持ちを込めて歌うように心掛けること。結果、出来上がったミュージック・ビデオは、彼らや吉開さんの思いが表れたものになっていると思います。

今回、作曲を担当いただいたクリフエッジのJUNさんも、ラップ指導に協力してくださいました。JUNさんは音楽活動だけでなく、ボーカルスクールのインストラクターとしても活躍されていて、教えるのがとてもうまいんです。彼のスキルに助けられた部分も大きかったですね。

JUN
JUN氏:2MC&1DJ 三人組ユニット、クリフエッジのリーダーで、作詞、作曲、Trackアレンジ担当。クリフエッジはオリコン最高位9位。現在は、トリプルエス・エンタテインメントの代表取締役を務め、CM音楽やBGM制作、アーティストプロデュースなど幅広く活動している。EXPG STUDIO BY LDH東京校、横浜校にてレッスン講師も担当。

吉開:JUNさんは、恥ずかしがっていた学生たちを上手に盛り上げながら気持ちよく歌える環境をつくってくださいました。このプロジェクトにポジティブに携わってくださり、本当に感謝しています。

また、ミュージック・ビデオの映像は、映画監督の小澤雅人さんにお願いしました。小澤さんは、外国人などの人権にかかわる作品を手掛けるなど、多文化共生社会に注目されている方でもあり、今回のプロジェクトにまさに適任だったと思います。コロナ禍ということもあって、撮影収録には大変気を遣いましたが、みなさんの熱い思いがあったからこそ完成させることができたプロジェクトだと改めて感じています。

山崎:ミュージック・ビデオには、吉開さんや学生の思いが詰まっているので、ぜひ見ていただきたいですね。そして、やさしい日本語や多文化共生社会について興味を持っていただけたらうれしいです。

吉開:この楽曲は、やさしい日本語に賛同する方々が自由に歌詞をつけてYouTubeなどで公開することができます。また、国際交流基金と連携して、世界中の日本語学習者に替え歌を作ってもらうプロジェクトも進行しています。多くの方がこのプロジェクトに参加してくださると本当にうれしいですね。

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