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相手の立場で、モノを言え!No.1

コミュニケーションは、サイエンスである

2021/06/04

「人前に立つのが苦手」「緊張して、思っていることを上手に伝えきれない」誰でも、多かれ少なかれ、そうした悩みを抱えているのではないだろうか。この連載では、コミュニケーション戦略研究家にして、エグゼクティブ・スピーチコーチである岡本純子氏に「話し方」の極意を披露していただくことで、コミュニケーションというものの本質に迫っていこうと思う。

(ウェブ電通報編集部)


人は、感情でのみ動く。そのことをロジカルに考えてみましょう

誰もが経験されていることだと思うのですが、どれだけ正しいこと、正論を言ったところで、人はこちらが思っているようには動いてくれません。その理由は、簡単です。人を行動へと誘うのは「理屈」ではなく「感情」だからです。「理屈」で恋愛をする人はいませんよね。頭よりハートで人は動くのです。

岡本純子氏:元読売新聞記者。記者時代にイギリス・ケンブリッジ大学院へ留学。米MIT客員研究員を経て、電通PRへ入社。アメリカでの研究を通じて、コミュニケーションのメカニズムを学ぶ。現在の肩書きは、「コミュニケーション戦略研究家」「エグゼクティブ・スピーチコーチ」。コンセプトやメッセージづくり、話し方の指導まで、社長やエクゼクティブのコミュニケーションをフルサポート。「アイドルなら秋元康」「社長なら岡本純子」を目指す「社長プロデューサー」でもある。これまでに、1000人を超える日本のトップ企業経営者・幹部に話し方を指導。その内容が、高く評価されている。近著に12万部のベストセラーになっている「世界最高の話し方」がある。http://www.glocomm.co.jp/
岡本純子氏:元読売新聞記者。記者時代にイギリス・ケンブリッジ大学院へ留学。米MIT客員研究員を経て、電通PRへ入社。アメリカでの研究を通じて、コミュニケーションのメカニズムを学ぶ。現在の肩書きは、「コミュニケーション戦略研究家」「エグゼクティブ・スピーチコーチ」。コンセプトやメッセージづくり、話し方の指導まで、社長やエクゼクティブのコミュニケーションをフルサポート。「アイドルなら秋元康」「社長なら岡本純子」を目指す「社長プロデューサー」でもある。これまでに、1000人を超える日本のトップ企業経営者・幹部に話し方を指導。その内容が、高く評価されている。近著に12万部のベストセラーになっている「世界最高の話し方」がある。http://www.glocomm.co.jp/

でも、その感情をいかにコントロールしたらいいのか、その感情をいかに相手に伝えたらいいのか、ということについては明確な答えは用意されていない。だから、人は堅苦しい理屈やデータ、もしくは雰囲気とか空気といったものに、ついつい頼ってしまう。

人が、感情でのみ動くことは、科学的なエビデンスを伴う事実です。でも、その感情をコントロールするためには、感情というつかみ所のないものを、きちんと科学(サイエンス)することが必要なのです。私が言うサイエンスには、「脳科学」や「人類学」といったものまで含まれます。コミュニケーションというものが、より重層化し、より複雑化している今、他人とどう向き合い、どのように接するべきなのかを徹底的に「科学する」ことが必要なのです。

決め手となるのは、「好感度」や「共感力」

押し出しに頼ったコミュニケーションが、人の心を動かす上でむしろ逆効果であるということは、皆さんすでにお気づきのことだと思います。人の心を揺さぶるのは、「好感」や「共感」であって、一方的かつ強権的な「命令」や「押し付け」ではありません。命令といったものは、理屈さえ通っていればそれなりに成立するものですが、好感や共感を得るためには理屈が通っているということに、たいした価値はありません。

ニューヨークで毎週通っていたパブリックスピーキングのサークルの仲間と。女優や会社経営者、学生など経歴もさまざま。多くの人が、日常的に話し方を学び、改善させていこうという強い意欲を持っていることに驚かされました。励まし合い、お互いアドバイスをし合いながら、話し方のスキルを磨いていくのです。
ニューヨークで毎週通っていたパブリックスピーキングのサークルの仲間と。女優や会社経営者、学生など経歴もさまざま。多くの人が、日常的に話し方を学び、改善させていこうという強い意欲を持っていることに驚かされました。励まし合い、お互いアドバイスをし合いながら、話し方のスキルを磨いていくのです。

そして、ここが大事なポイントなのですが、好感や共感というものは直感的な部分も大きく、第一印象で決まりがちということ。第一印象というものは、コンマ何秒の勝負。秒で植え付けられた悪い印象は、その後、どれだけ頑張っても取り戻すことはできません。一瞬で一生が決まるのです。

表情、ファッション、仕草、第一声のトーンや間。それら全てが、あっという間に、その人への好感や共感を形作ってしまいます。それに続く「話し方」、これが重要です。人は「何を話していたのか」よりも「どう話していたのか」、そしてそのときに自分はどういう感情になったのか、ということを覚えているものです。極論を言えば、話の中身や筋道などというものは二の次になってしまうことも多いのです。それよりも、気持ちのいいトークだったな、とか、この人のことは信じられるな、といった印象のほうが、コミュニケーション上はよっぽど重要です。

お伝えしたいのは、「あなた、損していますよ!」ということ

これまでに私は、1000人を超える世界中の経営者の方々に「話し方」のレクチャー・コーチングをしてきました。もちろん、具体的なテクニックは多々あるのですが、多くのビジネスプロフェッショナルの方にお伝えしたいのは、「あなた、損していますよ!」ということなんです。「必ず自信が持てる」「好印象を持たれる」たくさんのルールがあるのに、それを知らずに、あなたの魅力が伝わっていない、それどころか、悪い印象だけを相手に残している可能性すらあるということです。

「口下手なもので……」「人見知りなもので……」「不器用ですから……」といったことは、しばしば日本では美徳のように思われがちですが、そのようなものは国際社会において、なんの価値もありません。価値がないどころか、マイナス要素でしかないのです。そして、そのマイナスを克服するためには、単に「スピーチ力」を鍛えればいい、というものではありません。

菅首相にコーチング?テレビの企画で、菅首相の物まね芸人に話し方をお教えしました。企業経営者の方以外にも政治家、官僚の方などにもよくコーチングをさせていただいています。
菅首相にコーチング?テレビの企画で、菅首相の物まね芸人に話し方をお教えしました。企業経営者の方以外にも政治家、官僚の方などにもよくコーチングをさせていただいています。

ソクラテスの言葉に「大工に話すときは、大工の言葉を使え」というものがあります。けだし、至言です。つまり、多くの人は「自分が話したいこと」を「自分の言葉」で「一方的」にまくしたてているだけなんですね。これでは、共感も好感も得られるわけがありません。上手な話し方のポイントは、とても簡単なことです。1.自分の視点から自らを離す。2.相手の直観と感情に訴える。3.言葉に、情や思いといった熱を込める。これだけ、です。

中でも重要なのが、「上手に話すために、自らの思い込みから自らを離す」ということ。本連載のタイトル「相手の立場で、モノを言え!」には、そんな思いを込めました。その背景には、こうした教育が、日本ではほとんどされてこなかったという悲しい現実があります。プレゼンテーションとは、自らの思いを相手に伝え、相手の心をねじ伏せるためのものである、といった誤解がさらなる悲劇を呼ぶことになります。そうした思い込み、あるいは呪縛から、一日も早くあなた自身を解き放ってあげてほしい。それが、この連載を通じてお届けしたい、私からの切なる願いなのです。

岡本純子氏のHPは、こちら