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相手の立場で、モノを言え!No.3

「コミュニケーション力」が、切り拓く未来とは?

2021/06/18

「人前に立つのが苦手」「緊張して、思っていることを上手に伝えきれない」誰でも、多かれ少なかれ、そうした悩みを抱えているのではないだろうか。この連載では、コミュニケーション戦略研究家にして、エグゼクティブ・スピーチコーチである岡本純子氏に「話し方」の極意を披露していただくことで、コミュニケーションというものの本質に迫っていこうと思う。

(ウェブ電通報編集部)


学歴よりも、教養。語学力よりも、コミュニケーション力

「相手の立場で、モノを言え!」と題したこの連載も、いよいよ最終回です。相手の立場でモノが言えていない人の特徴は、コミュニケーションとは剛速球を投げることと誤解して、とうとうと、自分の話、自分のしたい話を披歴することです。「俺ってすごいよね」「俺ってできるでしょ」と必死に自己アピールに終始するスピーチにはなんの魅力もありません。この連載で繰り返しお話ししてきたように、そこには好感も共感もまったく持てないからです。

岡本純子氏:元読売新聞記者。記者時代にイギリス・ケンブリッジ大学院へ留学。米MIT客員研究員を経て、電通PRへ入社。アメリカでの研究を通じて、コミュニケーションのメカニズムを学ぶ。現在の肩書きは、「コミュニケーション戦略研究家」「エグゼクティブ・スピーチコーチ」。コンセプトやメッセージづくり、話し方の指導まで、社長やエクゼクティブのコミュニケーションをフルサポート。「アイドルなら秋元康」「社長なら岡本純子」を目指す「社長プロデューサー」でもある。これまでに、1000人を超える日本のトップ企業経営者・幹部に話し方を指導。その内容が、高く評価されている。近著に12万部のベストセラーになっている「世界最高の話し方」がある。http://www.glocomm.co.jp/
岡本純子氏:元読売新聞記者。記者時代にイギリス・ケンブリッジ大学院へ留学。米MIT客員研究員を経て、電通PRへ入社。アメリカでの研究を通じて、コミュニケーションのメカニズムを学ぶ。現在の肩書きは、「コミュニケーション戦略研究家」「エグゼクティブ・スピーチコーチ」。コンセプトやメッセージづくり、話し方の指導まで、社長やエクゼクティブのコミュニケーションをフルサポート。「アイドルなら秋元康」「社長なら岡本純子」を目指す「社長プロデューサー」でもある。これまでに、1000人を超える日本のトップ企業経営者・幹部に話し方を指導。その内容が、高く評価されている。近著に12万部のベストセラーになっている「世界最高の話し方」がある。http://www.glocomm.co.jp/

「私はこれまで、このようなことを学んできました。こういう経験を積んできました。そして、社会のため、あなたのために、こういうことを実現できます」ということを、いかに熱を込めて話せるか。外国語でなく、日本語で十分です。必要とあれば、翻訳をしてくれる人など、いくらでもいます。でも、あなたが心の底から相手に訴えたいことは、あなたにしか表現することはできません。コミュニケーションで大切なこととは、そういうことなんです。

コミュニケーション力とは、自身の「人間力」を伝える力のこと

ポイントは、「トーク術」ではなく、自身の「人間力」を相手に伝えることにあります。「人間力」を伝えるのに、学歴だとか肩書きだとかが無価値だと感じる人は少なくないかもしれません。では、その「人間力」とは、一体何なのか?

人間力とは文字通り、人の間で生きる力です。人は社会的動物。他者を生かし、他者に生かされる存在です。逆に、人間力を見失っている人というのは、自分という檻に閉じ込められた「囚人」です。人を檻に入れると「囚」の字になります。この檻は、自己責任や名誉、プライド、恥といったもので作られています。

読売新聞記者時代の筆者。このころは「デキる記者」を装いたくて、態度はデカく、好感度など一ミクロンも意識していませんでした。のちのコミュニケーション修業を通じて、「デキる人」より「デキた人」、「いい人」よりも「いい気分にさせる人」が結局成功することに初めて気づいたのです。
読売新聞記者時代の筆者。このころは「デキる記者」を装いたくて、態度はデカく、好感度など一ミクロンも意識していませんでした。のちのコミュニケーション修業を通じて、「デキる人」より「デキた人」、「いい人」よりも「いい気分にさせる人」が結局成功することに初めて気づいたのです。

今、多くの人が「自分らしくありたい」と口にしますが、私はこの「自分らしく」という言葉も一つの檻のような気がして、あまり好きではありません。「自分らしい」って何?今日の自分らしさと明日の自分らしさは違うものかもしれない。「自分らしさ」にこだわりすぎて、「自分らしくない」と思い込むものを排除したり、自分の内面ばかりをのぞきこみ、他者が見えなくなることもある。

「自分らしくありたい」という強迫観念が、ものすごく内向きなベクトルを生む。日増しに強まっていく劣等感に押しつぶされそうになるものだから、ついつい他人を批判したくなる。他人に対して強いモノ言いをしてしまう。他人を論破したときの爽快感が忘れられず、気がつくと一人、狭い檻の中でふんぞり返っている。

相手の立場でモノを言うためには、ありのままの自らの姿を外にさらすこと、それしかありません。私自身の経験から言っても、それはとても怖いことだし、勇気がいることです。教養がないことがばれたらどうしよう?つまらない奴だと思われたらどうしよう?そんなことばかり考えて檻の中に閉じこもっていては、相手には何も伝わりません。心のベクトルを自分にばかり向けていると刺さって傷ついてしまう。思い切って相手に向けてみる。きっと心が軽くなるはずです。自分をさらけ出したときに自然とこぼれる「あなたらしい」笑顔が、相手の心を動かすのだと私は思います。

真のリーダーシップとは?

本連載の最後は、やはりこのテーマになってしまいます。政治の世界でも、企業経営の世界でも、マネジメント職に就いている人にとっても、「真のリーダーシップとは?」というテーマは、非常に関心の高いものではないでしょうか?

本連載のテーマであるところの「相手の立場で、モノを言う」ことと、「他人を導いていく」あるいは「他人を意のままに操る」ということは、逆のことのように思われるかもしれません。でも、果たしてそうでしょうか?あなたが「生涯の師」と仰ぐ人物のことを、思い返してみてください。あなたを導いてくれたその人は、あなたのことを誰よりも見てくれていて、あなたの立場でモノを言ってはいませんでしたか?その人間力にあなたは惚れ込み、好感や共感を超えたリスペクトを感じていたのではありませんか?

一方で「共感」というものの限界や危険性も認識しておく必要があります。国でも会社でも、一つのコミュニティーの中で「共感」を得ようとすればするほど、そのコミュニティーの外にいる人間を「敵視」「排除」するようになることがある。歴史を思い返せば、すぐに納得いただけると思うのですが、強権を得た人間はしばしば「壁」を作ります。ベルリンの壁、万里の長城、トランプ大統領の「壁」。みんなそうです。

「好感」についても、同じようなわなが待ち構えています。人は「正しいこと」よりも「楽しいこと」、「めんどくさいこと」よりも「たやすいこと」を提示されると、ついついそこに「好感」を抱いて飛びついてしまうものですから。人の脳はかようにだまされやすいものです。「相手の立場でモノを言う」だけでなく、この「共感」と「好感」のもつ落とし穴を十分に理解しながら、感情的なつながりを築いていくことが、真のリーダーシップの条件だと私は考えています。

ニューヨークで毎週通っていたパブリックスピーキングのサークルの仲間と。女優や会社経営者、学生など経歴もさまざま。多くの人が、日常的に話し方を学び、改善させていこうという強い意欲を持っていることに驚かされました。励まし合い、お互いアドバイスをし合いながら、話し方のスキルを磨いていくのです。
ニューヨークで毎週通っていたパブリックスピーキングのサークルの仲間と。女優や会社経営者、学生など経歴もさまざま。多くの人が、日常的に話し方を学び、改善させていこうという強い意欲を持っていることに驚かされました。励まし合い、お互いアドバイスをし合いながら、話し方のスキルを磨いていくのです。

「人間力」というものは、生涯をかけて養っていくものだと思います。人とのかかわりの中で、養ってもらうもの、と言ったほうがいいかもしれません。私は「できる」人間だと、自己完結している、人に頼る必要はない、十分わかっている。そう慢心した時点で、人は成長を止めてしまいます。

自分を無理に強く見せようとする必要はありません。弱さを見せる勇気こそ、真の強さであり、人間力でもあります。あなた一人では生きられないのだから。人を敬い、謙虚に教えを請い、学び続ける姿勢こそが人間力の根幹ではないでしょうか。

岡本純子氏のHPは、こちら