「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」から「人」が生きがいを感じられる「社会」への道筋を探るNo.3
「助け合いたい」けど、「助け合えていない」?
2021/07/01
電通総研と電通未来予測支援ラボは2020年11月、東京経済大学・柴内康文教授の監修のもと、日本全国1万2000人を対象に「クオリティ・オブ・ソサエティ調査2020」を実施しました。
この調査は、「社会に関する人びとの意識・価値観」を把握することを目的に、2019年から行っているものです。本連載では最新の調査結果をもとに、人が生きがいを感じられる社会の実現に向けた道筋を探ります。
当調査では、人びとの社会に関する意識・価値観を「個人視点」「家族・コミュニティー視点」「社会視点」の3つの視点で調査しました。
今回は、「家族・コミュニティー視点:社会集団の協調性・互助性」の視点から調査結果を紹介します。
<目次>
▼「男性の育休取得」は約8割、「国際結婚」は約7割が受容。新しい家族観の兆し
▼助け合い意識は家族中心。ボランティアの必要性は感じるが行動には至らず
▼全般に人間関係は良好。年齢が高い方が人間関係は良好と感じている
▼わだかまり意識と共感意識が混在するいまの社会
▼より良い社会のために、人びとは協力し合えているのか?
「男性の育休取得」は約8割、「国際結婚」は約7割が受容。新しい家族観の兆し
まず、社会集団を構成する単位の一つである「家族」について見ていきます。
新しい家族の形として、「男性の育休取得」を受け入れられると回答したのは78.8%。「国際結婚」は73.2%、「主夫」は70.4%、「夫婦別姓」は61.5%、「里親制度」は56.6%、「同性婚」は42.6%でした。
新しい家族の在り方について肯定的な意見を持っている人が多いことが分かります(数値は「受け入れられると思う」「どちらかといえば受け入れられると思う」の合計)。
助け合い意識は家族中心。ボランティアの必要性は感じるが行動には至らず
次に、「助け合い」に関する人びとの意識を状況別に見てみます。
「相談できる人・助けてくれる人」(図表2)については、「配偶者・パートナー」「親」がおおよそ30~50%台となり、次いで「子ども」「兄弟姉妹」が10~30%台でした。
「相談にのりたい人・助けたい人」(図表3)は、「友人・仲間」のスコアが比較的高くなる以外は、図表2とそれほど異なる傾向は見られませんでした。
図表2でも図表3でも、災害などの非常時には家族という枠を超えて相互扶助の意識は高まるものの、日頃の助け合い意識は家族中心になっている実態が浮き彫りになりました。
また、ボランティア活動のいずれかについて「社会に必要だと思う」は67.0%、「参加したいと思う」は34.7%。しかし、「1年以内に参加したことがある」は18.5%と、社会の構成員がお互いに助け合うべきという意識は強いものの、いざ自分のことになると行動にはつながっていないことが分かります(図表4)。
全般に人間関係は良好。年齢が高い方が人間関係は良好と感じている
それでは次に、生活者自身の人間関係・社会関係の良好度を見てみます。
「良好だと思う」と「どちらかといえば良好だと思う」の合計は全体の58.0%。半数以上の人が、自身の人間関係・社会関係は良好だと感じています(図表5-1)。
性年代別に見ると、男性も女性も60代以上のスコアが高めに出ており(図表5-2)、年齢が高い方が人間関係は良好と感じる傾向が見られる結果となりました。
わだかまり意識と共感意識が混在するいまの社会
最後に、立場の異なる人びとの間に「共感意識」「わだかまり意識」が存在するかどうかを尋ねた結果です。
対象としたグループの中で最もわだかまりがあると感じているのが「高所得層と低所得者」で、次いで僅差で「政治家と国民」という結果になりました。
それ以外のグループにおいても、共感・尊重よりもわだかまりを感じる度合が大きいということが分かってきました(図表6)。
経済格差や雇用形態といった立場の違いが、わだかまりという形で内在化しており、それが相互理解を減退させる危険性がある社会に私たちは暮らしている、と考えられます。
より良い社会のために、人びとは協力し合えているのか?
ここまで、「家族・コミュニティー視点:社会集団の協調性・互助性」の視点から、より良い社会の実現のために社会集団は協調し合えているのか、について調査結果を紹介してきました。
総じて、「家族」という単位に目を向けると、男性の育休取得などの新しい家族の在り方についての理解が醸成されていることが分かりました。
また、「人間関係・社会関係」の面では、全体の半数以上が良好であると感じているものの、「助けたい人・助けてくれる人」は家族とその周囲の人間関係の範疇にとどまる傾向がありました。
そして、立場の異なるグループの相互理解においては、「共感」よりも「わだかまり」の意識の方が社会に大きな根を張っていることは注目すべき点です。コロナ禍の中にあって、リアルなコミュニケーションが以前よりも難しくなったという事情が、こうした傾向を助長している面もあるのかもしれません。
しかし、今後より良い社会を実現していくためには、そうした現状を踏まえながら、助け合いの精神の醸成や、それを具現化する仕組みづくりが必要です。
以上のファインディングスから3つの課題を抽出し、解決に向けた方向性について考察してみました。
1つ目の課題は、新しい家族観を受容し育んでいく社会的意識の醸成です。男性も当事者意識をもって家事と育児をすることを前提とした、さまざまな仕組みが標準化している社会の実現が求められます。
2つ目の課題は、社会における互助の意識と行動との乖離(かいり)です。助けたい気持ちはあるものの行動に結び付いていない人が多いのは、「助けを求めることは、弱さの表れで他人に迷惑をかける行為だ」といった通念が要因としてあると考えられます(助ける側、助けを求める側共に、助けを求めることがむしろ強さだったり、他人にとっての救いになったりするという認識が広まっていないということ)。
そのボトルネックを解消するために、誰かに助けてほしいときに気軽にそのサインを出して、それを受け取る人が気軽に手を差し伸べることができる、といった柔らかい関係性の構築を可能とする仕組みが求められます。
3つ目の課題は、立場の違う社会の構成員同士のわだかまり意識です。こういった意識を解消していくには、所得や雇用形態の違いから不可避的に生まれてしまう社会的階級の違いを前提にしながらも、そういった立場の異なる人びとの分断が起こらない社会を形成していくことが重要です。「身内だけが大事・信じられる」という旧来型の価値観を乗り越えるためには、自分とは立場が異なる人とも交流ができるよう、対話やコミュニケーションを通じて相互理解を深められるような個々人レベルでの努力というのも必要になっていくでしょう。
次回のテーマは、「人びとのより良い人生のために、社会システムは機能しているか」です。