「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」から「人」が生きがいを感じられる「社会」への道筋を探るNo.4
目先では「安心」が高まるも、未来は「不安」?
2021/07/16
電通総研と電通未来予測支援ラボは2020年11月、東京経済大学・柴内康文教授の監修のもと、日本全国1万2000人を対象に「クオリティ・オブ・ソサエティ調査2020」を実施。
本連載では3回にわたり、人びとの意識や価値観を紹介してきました。第2回の「個人視点」、第3回の「家族・コミュニティー視点」に続き、今回は、人びとは今の社会をどう捉えているのか、そして、人びとはどんな社会制度やシステムを望んでいるのか、という視点から、「社会」をテーマに調査結果を紹介します。
<目次>
▼現状の社会保障は再評価されるも、長い目で見ると不安
▼情報源やメディアに求めるのは「正しさと信頼性」
▼意思決定は自分たちで、ロボットやAIにはサポートを期待
▼今の暮らしには満足だが、見通しは明るくない?
▼「信頼性・耐久性」の視点から見た日本社会の今とこれから
現状の社会保障は再評価されるも、長い目で見ると不安
日本の社会保障制度は、人びとにどう受け止められているのでしょうか。以下のグラフをご覧ください。
日本の社会保障に対して「安心」(「安心感がある」「どちらかといえば安心」の合計)と答えた割合は、「国民皆保険」「医療(予防、診療、治療サービス)」がともに37.2%、続いて「高等教育の無償化」29.4%、「子育て支援」18.3%という結果となりました。
一方で、「不安」(「不安感がある」「どちらかといえば不安」の合計)との回答が多かった項目は「老後の所得保障(年金)」72.3%、「社会保障の財源」67.7%、「高齢者の介護支援」58.2%でした。「超高齢社会」を生きる人びとの不安意識が明確に表れた結果ではないでしょうか。
「安心」と答えた割合を2019年と比較すると、調査した9項目すべてにおいて「安心」が増加。特に国民皆保険約12ポイント増、医療約5ポイント増と、それぞれ大幅に「安心」と答えた人が増え、日本の保険、医療分野の社会システムが改めて評価された結果となりました。
新型コロナウイルス感染症の流行は、はからずも、日本の社会保障制度について人びとが再評価するきっかけとなったのかもしれません。
日本の社会保障について、現状に対しては安心感を覚えつつも、未来に対しては不安感を感じる人々の心の内がうかがえます。
情報源やメディアに求めるのは「正しさと信頼性」
続いて、メディアに期待されている役割について見ていきます。【図表3】は、「情報源やメディアに対する考え方」について聞いた結果です。
求めていることは、「常に正しい情報を提供してほしい」84.6%、「信用できる情報を提供してくれることを期待している」78.9%、「お金を払うからには価値ある情報を提供してほしい」「世の中の問題や課題を伝えてくれることを期待している」がともに72.0%、という結果となりました(「そう思う」「ややそう思う」の合計)。
情報過多といわれる現代において、社会全体の動きを見据えるために、人びとは情報源やメディアに対して正しさや信頼性を重視していることが分かりました。
意思決定は自分たちで、ロボットやAIにはサポートを期待
次は、【図表4】ロボットやAI(人工知能)などの技術に期待することです。
期待することとしては、「犯罪の発生を予測し、未然に防ぐ」46.4%、「自分の体質・体調に合わせて医療や健康情報を教えてくれる」40.1%、「言語の壁を超えた国際交流を可能にしてくれる」39.8%の順になりました。
逆に、期待が低かったものは「政策決定、裁判判決などの判断をAIが行う」5.7%、「企業などにおいて、昇進や昇給の判断をAIが行う」6.5%、「より相性の良い相手との出会いを提供してくれる」9.6%となりました。
犯罪の抑止や、医療・健康など、安全・安心な暮らしを支えるサポートの役割については期待が大きい一方で、「政策決定、裁判判決」や「昇進や昇給」「出会いを提供」といった、意思決定そのものをロボットやAIにゆだねることに対しては、抵抗感があるようです。
今の暮らしには満足だが、見通しは明るくない?
最後にご紹介するのは、【図表5】現在の「暮らし向き」への満足度と、【図表6】今後の暮らしの見通しです。2つのグラフをご覧ください。
現在の自分の「暮らし向き」について、「満足」(「とても満足」「どちらかといえば満足」の合計)と答えた割合は50.8%、「不満」(「とても不満」「どちらかといえば不満」の合計)と答えたのは22.3%で、いずれも前年とほぼ変わらない結果となりました。
それに対して、「今後の見通し」を聞いた結果として、「悪くなっていく」(「悪くなっていく」「どちらかといえば悪くなっていく」の合計)と答えた割合が「家計に占める税と社会保険料の負担感」61.9%、「収入・家計状況」44.3%、「就労機会と雇用の安定」42.3%。全体的に、悪くなっていくという見通しをもつ人が「良くなっていく」と考える人よりもかなり多いことが分かりました。
社会保障制度に関する調査結果と同様に、ここでも、将来的な見通しについて不安を感じている人びとの様子がうかがえます。
「信頼性・耐久性」の視点から見た日本社会の今とこれから
ここまで見てきた調査結果からは、社会保障制度の中でも、国民皆保険や医療に対しては「安心」が増加し、人びとが社会保障を再評価していることが分かります。
一方で、高齢化がさらに進む未来については、多くの人が「不安」を感じているようです。言い換えれば、信頼性や耐久性といった視点で大きな課題を抱えている、と言えるでしょう。対症療法的な施策だけでなく、10年後、20年後の社会を見据えた社会制度やシステムにも力を入れていくことが、より強く求められているのかもしれません。
新型コロナウイルス感染症の流行は、社会全体の仕組みや制度を見直すきっかけになったとともに、人びとが自分たちの暮らしそのものを捉えなおす機会にもなりました。情報源やメディアに対して「正しさ」や「信頼」を求める声は、将来に対しての不安があるからこそ社会と自分の現在地を把握し、良しあしをきちんと自分たちで判断していかなければならない、という意識が高まった結果と受け取ることもできます。
次回は、電通総研と電通未来予測支援ラボのそれぞれの視点から、「よりよい社会」「よりよい未来」を考えてみます。