B2B事業を電通グループ横断チームで徹底サポート!B2Bイニシアティブ始動No.1
B2B事業「デジタルセールスシフト」のススメ
2021/08/24
はじめまして。電通の梅木と申します。私は転職も含めて営業業務を8年、マーケティング業務を12年やってきました。
今回は私と同世代である40代を中心とした営業担当の方に読んでいただきたく、記事を書かせてもらいました。テーマは、法人向けビジネスの営業のデジタル化、すなわち「デジタルセールスシフト」です。
<目次>
▼平成の営業で学んだ「質より量」と「量を達成するための生産性向上」
▼2014年アメリカで見た「完全分業制営業」の衝撃
▼インターネット普及による、購入者側の意思決定プロセスの変化
▼「GNP(義理、人情、プレゼント)」の日本型営業をコロナ禍が変えていく
▼「デジタル投資の多寡」によって企業の格差は広がっている
▼事業の成長戦略において日本企業に必要な「二つのこと」
▼これからの日本のB2B営業は「GNP×デジタルセンサー」!?
平成の営業で学んだ「質より量」と「量を達成するための生産性向上」
私は現在、電通といわれてイメージされるであろう「広告」「キャンペーン」「CM」といった生活者向けの仕事(B2C)ではなく、法人向けビジネスを展開する企業(以下B2B)へ向けた「デジタルセールスシフト」の支援を中心に活動しています。
あらゆる業種で起こっているデジタルシフトですが、そもそもB2Bの営業はもともとどんなもので、どう変わっていこうとしているのかをひもとくため、まずは私の経験則にはなりますが「平成の営業」を振り返ってみましょう。
2002年の新卒当時、私は電通ではなく、ある求人広告会社に就職をしました。1週間ほどのビジネスマナー研修を受けると、教育担当者から「はい、これ」と以下のものを渡されました。
- 黒いビジネスバッグ
- 名刺の束を500枚
- 会社のロゴが入った手提げ袋に大量の商品カタログチラシ
そして、「名刺獲得キャンペーン」と呼ばれる、その会社に代々続く伝統行事が始まりました。朝から夕方までの決められた時間の中で飛び込み営業を行い、名刺を100枚獲得したら会社に戻ってきてもよいという、全ての新人が経験する通過儀礼のようなものです。
二度とやりたくないですが、その中で多くのことを学びました。例えば限られた時間の中で、どうやって100枚の名刺を獲得するかという行動計画の立て方、エレベーターで一緒になる30秒間で伝えたいことを端的に伝えるプレゼン力など……。
続いて始まったのが、テレフォンクリーニング(通称:テレクリ)、すなわち電話営業です。NTT(当時)の「タウンページ」を使い、担当エリアの企業に片っ端から電話をかけて声が枯れるまでアポを獲る特訓でした。
非対面の中で、どうやって受付担当者を乗り越えて人事担当者につないでもらうか。何百回もガチャ切りされ続ける中で、強い精神や根性を養いました。
「量は質に勝る」ということを若いうちに経験できたことは、今でも財産です。「数」や「量」をこなす営業活動で最も学んだことは、「行動の生産性を上げること」でした。
売上目標に対してまず「平均受注単価」を割り出し、そこから「目標契約件数」を計算し、それを達成するまでに何件の商談、アポイントメント、架電数が必要かを逆算していくゴールから逆算した行動計画の立て方。
そしてもう一つ学んだのが「GNP」(義理、人情、プレゼント=おもてなしのような心遣い)です。足を運んだ回数や、怒られても耐え抜き人間関係をつくり上げる中で信頼関係が生まれ、お客さまに気に入っていただき、お仕事を頂くということを身に染みて学びました。
私はこのように社会人デビューしましたが、同世代の営業職の皆さんも、似たような経験があるのではないでしょうか?
2014年アメリカで見た「完全分業制営業」の衝撃
ここで時が飛躍しますが、2014年、初めての海外出張でアメリカのニューヨークとボストンに行ったときの話です。このときには私は電通で働いていました。
それまで私は営業職とマーケティング職を何度か行き来していましたが、このアメリカ出張の際に、日本とアメリカの営業プロセスの根本的な違いを知りました。
私が最も驚いたのは、営業が「完全な分業制」で行われていたことです。
まず、ウェブサイト、テレマーケティング、ウェビナー、SNS(特にLinkedInやブログ)、そしてマーケティングオートメーション(以下MA)というシステムを使った、非対面を中心とした見込み客(以下リード)の獲得をマーケティング担当者が行います。
そのリードを受け取った営業担当者が、対面または非対面で商談、クロージングを行うという「完全な分業制」だったのです。自分が営業の基本として教わった、「足を使った飛び込み営業」のような気合や根性論はそこにはありませんでした。
さらに営業はSFA(セールスフォース・オートメーション)というシステムで取引管理まで行い、マーケティング担当者との情報共有をリアルタイムで行っているというのです。
私が常識と考えていた「顧客との人間関係づくり」や「経験や勘による営業活動」とは全く異なり、データを駆使して無駄な動きを徹底的に排除し、効率的かつ科学的に案件創出活動をしている、それが2014年に見たアメリカの営業プロセスでした。
インターネット普及による、購入者側の意思決定プロセスの変化
2014年のアメリカで私が体験したような一連の活動を、B2Bマーケティング用語で「デマンドジェネレーション」(案件創出)といいます。デマンドジェネレーションが普及した背景には、インターネットの普及による「購入者側の意思決定プロセスの変化」があります。
ポイントになる数字が「57%」です。これはアメリカのシンクタンク企業Corporate Executive Boardが2012年に、1400 社以上の B2B 顧客を対象に実施した調査結果に出てくる数字です。
下図にあるように認知から購入までのプロセスを100%とした場合、購入側が初めて売手側である営業担当に接触するのが、全体の57%の地点だというのです。
つまり、今の顧客は購入検討プロセスのかなり後の段階になって初めて営業と接触するということです。
ネットが普及したため、購入者は営業に接触する前にウェブサイトやSNSを通じて情報を入手してしまっている状態にあります(Self-Educating buyer=自ら学ぶ購買者)。
つまり、ネット上での情報発信を十分に行えていないと、購入の選択肢にも入らないし、いつの間にか「既存顧客が他の業者に声をかけていた」などという状態になり得る、それが現在です。
営業に情報提供されて初めて商品やサービスを知っていた顧客が、ネット普及後には自分の自由なタイミングで知りたいことを探すことができる時代になりました。
しかし、逆の見方をすれば、「購入者側がウェブで情報を探す」という行為は、デジタル技術により「データ化」できるということでもあります。
アメリカでは、2014年どころか2000年初め頃から、ウェブ上のデータを用いた購入者の研究が進んでいました。そして、このようなデータ化やマーケティングオートメーション等のデジタル戦略は、営業経験者よりもマーケティング経験者のほうが長けていることが多かったため、役割が変化し、分業されていきました。
従来の営業活動の大部分をマーケティング担当者が担うようになり、営業担当者はマーケティング担当者が入手したリードデータで受注確度を事前に把握し、それに基づいて商談をする体制に変化したのです。
もともとアメリカ大陸は西と東で時差が異なるほど広大なので、商談に至る前の前工程のために「移動する」時間を圧縮する意味でも、この考え方が浸透していったようです。
この新たな営業方法は「デジタルセールス」という表現をすると分かりやすいかもしれません。
「GNP(義理、人情、プレゼント)」の日本型営業をコロナ禍が変えていく
「マーケティングオートメーション等を活用したデジタルセールス」は、アメリカでは2000年頃に原型ができて、急速に成長したわけですが、日本では2014年がマーケティングオートメーション元年といわれています。外資系のマーケティングオートメーション(ここからはMAと略します)が進出してきたことがきっかけとされます。
この2014年、電通デジタル(当時は電通イーマーケティングワン)も、米国Marketo(2018年にアドビシステムズが買収)と共同出資で、MAに特化したマルケトを設立しています。
しかしこのB2B事業におけるMAが、2014年以降国内で急速に普及したのかというとそうではなく、一部の企業でしか採用されませんでした。もちろん多くのB2B企業が、MAを使いこなそうとチャレンジを繰り返してきましたが、なかなか定着しなかったのが実情です。
理由は、MAを使ったやり方が、「対面」や「人間関係」を尊重する“日本型営業”には馴染まなかったことです。私は従来の日本型営業の良さをGNP(義理、人情、プレゼント=おもてなしのような心遣い)と呼んでいます。営業には、足で稼いだ信頼と築き上げた人間関係で売り上げをつくってきた自負があります。デジタルだか、DXだかよく知らんが、数字をつくっているのは自分たちだ!と思っています。
前述の通り営業歴が長かった私も、同じように考えており、このMAというものが日本で浸透するのはまだまだ時間がかかると考えていました。外国のことだし……とも思っていました。
ところが2020年、否応なく世界のビジネス構造が変化する出来事が起こります。コロナ禍です。未曽有の天変地異によって、営業が置かれている状況も一変しました。
最近、ZoomやTeams等のリモートツールを使ったミーティングやウェビナーは日常的なものとなっていますが、コロナ禍以前に想像できたでしょうか。
新規開拓のために電話をしても、飛び込み営業をしても、そもそも相手が会社にいません。「ルート営業(既存顧客の担当営業)だから自分には関係がない」と思う人もいるかもしれませんが、競合企業や新興のベンチャー企業はデジタルセールスを駆使して挑んできます。
従来型の対面営業の現場においても、デジタル投資を検討しなければならないときがまさに今なのです。
「デジタル投資の多寡」によって企業の格差は広がっている
本当にデジタル投資が必要なのかを、数字でひもといてみましょう。「無形固定資産」の指標をみると、その企業がデジタル投資をどれくらい行っているのかという参考になります。
無形固定資産には、ソフトウエアや特許、著作権、M&A(合併・買収)に伴うのれんなどがあり、日本ではシステム会社や製薬会社などの計上が多い傾向にありました。
日本経済新聞社が日経500種平均株価を構成する企業(金融など除く)の20年1~3月期決算を調べたところ、無形固定資産(のれんを除く)が有形固定資産のどのくらいに当たるかを示す「無形固定資産倍率」が低い企業ほど、業績の落ち込みが大きくなっていたといいます(※)。
※出典:日本経済新聞「デジタル投資 格差鮮明 積極企業、落ち込み小さく」
つまり、コロナ禍での厳しい経営環境においても、デジタル/ITへの投資比率が高い企業ほど業績に耐性が見受けられたのです。
今後、コロナ禍以前のように対面での人間関係づくりや商談をすることは戻ってくるのでしょうか?日本国内でもワクチンの接種が急速に進んでいます。
しかし、在宅勤務、リモート営業でも業務は成立してしまいますし、逆に作業の効率が上がり働き方が豊かになったり、逆にさぼれなくなったりした方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「あんな時代もあったよね」という時が必ず来ると私自身は信じていますが、たとえコロナ禍が完全に終息したとしても、リモートという働き方、この非対面によるビジネス環境は、残り続ける可能性は高いと思います。
営業の在り方が、まさに変わらなくてはならない時がきているのではないでしょうか。
事業の成長戦略において日本企業に必要な「二つのこと」
以下は「アンゾフのマトリックス」という事業の成長モデルを整理したものです。
「GNP」を主体とする①市場浸透戦略は日本の企業の得意とするところです。しかし、②新商品開発戦略、つまり既存の顧客に新商品を購入してもらう、または③新市場開拓戦略、つまり未取引の新規の顧客リストを収集し、既存の商品を購入してもらうという領域には、気合と根性だけでは進出するのは難しく、マーケティング戦略が必要になります。
②新商品開発戦略の領域では、「営業としての肌感覚」という経験や勘だけでは相手にされません。現在はいわゆる「デジタルセンサー」(MA等のDXツールやウェブサイト、広告)を使うことで、より正確な顧客ニーズを知ることができます。
③新市場開拓戦略の領域はどうでしょうか。特定の市場を対象とするB2B商材の場合、戦略もなくただリストを集めても無意味です。この領域も「デジタルセンサー」(MAや外部で提供されている顧客データベースの活用や自社購買データ分析)を使うことで、効率的に特定領域の見込み客リスト収集や受注確度を把握していくことが可能になります。
これからの日本のB2B営業は「GNP×デジタルセンサー」!?
先に触れた通り、従来の日本型営業のことを私は「GNP」(義理、人情、プレゼント)と表現しています。私は今でも、これらが間違っているとは思っていません。
一方で、2014年頃から、外資系のMAプロバイダーが多数進出してきた流れもあり、だいたいのB2B関連のコンサルタントやシステム会社はこう言います。「日本の営業は古い、マーケティングが10年遅れている」
そしてB2B企業はその言葉を信じて、デジタルセールスシフトにチャレンジしてきました。しかし残念ながら、明確にデジタルセールスシフトを実現できている企業はまだ少ないのが現状です。
先端に立ち続けている営業は馬鹿ではありません。皆、今のままではまずいと分かっています。しかし「過去の成功体験からなかなか抜け出せない」という生の声を、私は数多く聞いてきました。
そこで私が推奨しているのは、「GNP×デジタルセンサー」という考え方です。
我々は今までのやり方を全てシフトするということだけが正しいとは思いません。特に北米で起きているはやりのやり方が正しく、日本は古いという論調はおかしいですし、この8年間ほどの間で何度も失敗している事業会社を見てきています。商談するときの営業トークや経験は普遍的に必要です。人間同士なのでお酒を飲みながら語ることも大事でしょう。
そうした今までの日本的な営業に、デジタルセンサーという武器を加えます。デジタルセンサーとは、今回お話ししてきたようなウェブデータやMAの活用により、今まで見えなかったことが見えるようになることを「センサー」と表現しています。GNP×デジタルセンサーで、営業活動のプロセスは大きく変わります。
我々電通グループは、変わろうとする営業担当者やマーケティング担当者のサポートをしたいと考えています。そして、電通グループ横断組織である「電通B2Bイニシアティブ」という70人ほどのB2Bプロフェッショナルチームがいます。
今、事業部に所属していて、
「どうやって展示会の代替案となる新たな戦い方をしていくべきか?」
「ウェブをどうやって活用したらいいか?」
「MAを導入したけど活用できない」
などの悩みを抱えている営業の方。
またはマーケティング担当として
「どうやって営業との連携をとしていくべきか?」
「手段と目的が逆転してしまっているがなかなか上層部の理解が得られない」
などと悩んでいる方。
ぜひ、お気軽にご連絡ください。この記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。