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OMO時代のショッピング体験をアップデートするNo.6

今こそ家電業界に求められる、体験の「場」づくりとは?

2021/09/03

あらゆる業界でオンラインシフトが急速に進み、生活者の価値観や購買プロセスにも大きな変化が起こっている今、オンラインとオフラインがシームレスにつながった新しい購買体験が求められています。

国内電通グループは2021年2月より、OMO(オンラインとオフラインの融合)時代の新たな「ショッピング体験」をデザインするプロジェクト「dentsu SX(エスエックス)」(※1)をスタート。SXという名称には「Shopping Transformation」と「Shopping Experience」の両義が込められており、世界有数のデザインファームであるfrog design inc.との強力なパートナーシップのもと、テクノロジーとクリエイティビティを武器に、これからの時代に合わせた新たなショッピング体験を戦略・実装・運用までワンストップで支援します。

本連載では、「コスメ」「金融」「ファッション」「日用消費財」「家電品」の5つの業界で起きている変化を捉え、今後の展望を考察します。

連載第6回は、「家電業界」で起きている変化と今後の展望について、電通ライブの草刈大氏、藤野達史氏にお話しいただきました。

dentsuSX
※1 dentsu SX
国内電通グループ7社による、OMO時代に沿ったオンオフ統合の購買体験を顧客目線でデザインし、リテール領域において企業の事業成長に貢献するプロジェクト。電通グループのこれまでの事業蓄積と、戦略パートナーとして参画するfrog design inc.の知見を統合。電通独自の顧客行動データや、AIやクラウドなどの最新テクノロジーを活用し、顧客インサイトを掴むクリエイティビティと掛け合わせることで、顧客視点に立ったブランド独自のショッピング体験を創出する。(詳しくはリリースを参照

 

ユーザー体験の向上に欠かせない、購入後のカスタマーサポート

――家電メーカーが抱えている現状の課題について教えてください。

草刈:一番の課題は「モノが売りにくくなった」ということ。単純に人口減少による需要の低下もありますし、もともと日本の家電は機能性や技術力の高さがストロングポイントでしたが、近年はシンプルな機能や価格面が重視されるようになり、何よりも体験に価値を求める生活者が増えています。従来の売り方から脱却して変革を起こす必要があると、各メーカーが課題意識を持って取り組んでいるのではないでしょうか。

藤野:機能や性能の素晴らしさを伝える“モノ訴求”のコミュニケーションだけでなく、「これがある生活が素敵」という“コト訴求”のコミュニケーションが増えていますよね。実際に、機能はできるだけ削ぎ落として世界観やデザイン、ユーザー体験の工夫で売上を伸ばしているブランドもあります。

――生活者のニーズが変化したということですが、ユーザー側の家電に対するペインポイントはどこにあるのでしょうか?

草刈:今は情報が溢れているので、本当に信頼できる情報かどうかを見極める必要があります。特に家電は自分で体験してみないと良さが分からないケースもあるので、比較サイトやユーザーレビューも含めて大量の情報があることが、逆に取捨選択の判断を難しくしていると感じます。

藤野:ECモールの口コミなどで情報収集しつつ、メーカーの店舗や家電量販店に足を運んで店員に話を聞いたり、家電系YouTuberの動画を見たりなど、自分にとって信頼できる相手から情報を取りに行く人もいます。ただ、最終的な購入場所は価格が安いECモールだったりするので、メーカー側からすると購入後のユーザーとの継続的な関係性を構築しにくいという課題も生じています。

草刈:一方、ECモールで購入するとアフターサービスが十分に受けられないケースもあり、問い合わせをしてもたらい回しにされたり、スムーズに修理してもらえないといったユーザー側のペインも生まれています。

藤野:現状は家電量販店やECモールを主戦場とするメーカーがほとんどですが、そこで薄利多売するビジネスモデルだけでは厳しいものがあると思います。ユーザーのロイヤリティを高めるためには、購入後のカスタマーサポートやコミュニケーションが欠かせないので、改めて販売チャネルやサービス設計を見直す必要があるのではないでしょうか。

ユーザーと直接つながるコンタクトポイントをつくる方法

――ユーザー体験を高めるには、どのような販売チャネルやサービス設計が必要なのでしょうか?

草刈:企業が小売や流通を介さずに生活者に直接商品やサービスを販売する「D2C」(Direct To Consumer)は、有効な一手になるでしょう。D2Cのメリットは各所でいろいろな意見がありますが、私は「ユーザーデータをダイレクトに入手できること」と「ユーザーとの信頼関係を長期的に築くことができること」の2点が大きな強みだと思っています。

藤野:小売や流通を介すると、ユーザーの声やデータがメーカーに直接提供されないケースが多々あります。今はユーザーの情報からニーズを察知し、ユーザーの声を商品開発に生かすことが非常に大切なので、ユーザーと直接つながれない仕組みは大きな障壁になっています。

――D2Cは、ユーザー側にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

草刈:ユーザーとメーカーがしっかりと信頼関係を築ければ、メーカーが発信する情報をある程度信頼して取得できるので、他の情報から取捨選択する手間が省けるのはメリットになると思います。また、充実したカスタマーサービスを受けられることも安心感につながりますよね。

藤野:そう考えると、販売チャネルを自社店舗や自社ECだけで完結させることは現実的に難しいので、家電量販店やECモールで自社商品を購入したユーザーに対しても、購入後のコンタクトポイントやカスタマーサービスを提供できる仕組みをつくることが重要になります。

草刈:私が出向していた家電メーカーでも、ユーザーに購入にしてもらうところで終わらず、購入後いかにユーザーとコミュニケーションを取り続けるか、そのようなジャーニーがどのようなものか検討して、コンタクトポイント/サービス開発にチャレンジしていました。

あるメーカーは、アプリと連携してアフターサービスを提供したり、旗艦店でユーザー参加型のイベントを企画して、ユーザーとダイレクトにつながるコンタクトポイントを増やしています。オンライン/オフライン問わず、さまざまなチャネルを組み合わせてユーザーの体験価値を高める「場」をつくることが、一つの目指すべき形になるのかなと思います。

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ユーザーの日常生活の動線に、スムースな体験を設計する

――体験価値を高める「場」づくりについて、どのようなアイデアがありますか?

草刈:一番分かりやすい「場」は自社店舗ですが、いきなりお店を出すのが難しい場合は、トライアルで期間限定のポップアップストアを展開する方法があります。アパレル業界では、オンラインを中心に活動していたD2Cブランドが都内にポップアップストアを出店して話題になるケースも増えています。

藤野:例えばキッチン系の家電であれば料理教室など、他業界や本来別の目的で行われている体験の中に「場」を組み込むアプローチもあります。その後のカスタマージャーニーを工夫する必要はありますが、商品を体験してもらう入り口としては有効だと思います。

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「場」のソリューション例:ポップアップスクール
キュレーションされたポップアップイベントを開催。生活者は買わなければならないというプレッシャーを感じることなく、商品やサービスについて学ぶことができます。技術を駆使し、パーソナライズされたレコメンデーションも提供。アプリ・ウェブサイトからもこの空間にアクセス可能で、スタッフに接客してもらいながら商品をオンラインで購入できます。

草刈:ユーザーになるべく購入を意識させない体験の「場」を考えることはポイントかもしれませんね。駅や路上の隙間空間などを活用すれば、ユーザー側の体験のハードルが下がるし、イニシャルコストも抑えられます。ある靴のブランドは空港のちょっとしたスペースでAR試着と足の3D計測を行う場をつくり、その場で商品を注文、後日配送されるサービスを展開しています。

必ずしも、その「場」で購入してもらう必要はなく、日常生活の動線の中にスムースな体験を設計し、そこから購入→購入後のカスタマージャーニーまでを構築することが重要になるのではないでしょうか。

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「場」のソリューション例:コミュニティスペース
実店舗を改修・再設計し、生活者との信頼関係構築にフォーカスした体験型店舗へと再生させます。取引以外の目的で空間を使うことでコミュニティ意識が生まれ、オンラインでの体験もサポートできます。

藤野:リアルだけでなく、オンライン上にバーチャルな体験の「場」をつくることも考えられます。家電量販店では、コロナ禍で外出自粛が続く中でも店頭と同じようなサービスを提供すべく、オンライン接客をスタートさせています。

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「場」のソリューション例:プロダクトプレイスメントIRL
ブランドは空間(ホテル、コワーキングスペース、モデルハウス、車のディーラー、携帯電話ショップなど)と戦略的なパートナーシップを結び、生活者の日常において商品を適した空間・瞬間に展示・紹介。商品の認知度向上だけでなく、商品を試したりその場で購入したりすることも可能になります。

草刈:今後、AR/VR技術や触覚伝送技術の発展、そして5Gのインフラ整備が進むと、現実の世界をバーチャル上に再現する「ミラーワールド」が実現可能になると言われています。バーチャルショッピングの精度が高まれば、実際に商品を見て触って確かめることに一定のニーズがある家電業界の購買体験にも大きな変革が起きるかもしれません。

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「場」のソリューション例:バーチャルストア
3DCGや写真などを活用し実店舗をオンラインで再現。バーチャルストアでは、実店舗に課される制約を気にすることなく、空間や体験を自由にデザインすることができます。期間限定のポップアップストアとしても展開可能です。

どのような「場」でも、人の心を震わせる感動が欠かせない

――ユーザーの体験価値を高める「場」のデザインが重要であることがよく分かりました。今後、dentsuSXとして家電業界に貢献していきたいことを教えてください。

草刈:電通グループ7社+海外のデザインコンサルファームfrog designがチームを組むことで、戦略から実施までの全フェーズを一気通貫でサポートできる点は強みだと思いますし、電通グループが培ってきた「生活者視点」での提案ができる点もユニークネスだと思っています。

藤野:どのような「場」であっても、そこで感情が揺さぶられるような体験がなければ人は動きません。私たち電通ライブも「人の心を震わせる感動」をつくることを専門としているので、その知見やノウハウを生かしながら、家電のショッピング体験をアップデートしていきたいと考えています。

草刈:戦略や企画だけでなく、実際に「場」をつくる部分も私たちの得意領域です。新規事業開発や新製品開発はもちろん、既存ブランドの再設計やD2C展開、旗艦店やポップアップストア、バーチャルストアも含めて、さまざまなシーンでお手伝いができますので、ぜひ一緒にチャレンジさせてください。


dentsu SXでは、企業の皆さまからのご相談やご質問を受け付けております。興味のある方は、ぜひ公式サイトからお問い合わせください。

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