橋口幸生の言葉最前線No.4
「マンガの言葉」に、コピーを学ぶ
2021/11/11
電通で、クリエーティブ・ディレクター/コピーライターを務めている橋口幸生氏。彼が招待するのは、広告とはまったく別の世界で活躍している「言葉の猛者」たち。
本連載では、隔月のペースで開催されるウェビナーの内容を、編集部視点で再編集。「新しいものは、必ず新しい言葉と共にやってくる」という橋口氏の視点のもとで、言葉の持つ力や、その可能性についての考察を深めていく。
第4回にあたる本稿では、「妻」をテーマにしたエッセイマンガで多くのファンを持つ漫画家・福満しげゆき氏と橋口氏の対談内容から、「いつもの毎日にこそ、おもしろい言葉があふれている」と題されたウェビナーの肝の部分について紹介していきたい。
文責:ウェブ電通報編集部
「タイトルって、大事」(福満しげゆき)
「うちの妻ってどうでしょう?」(双葉社)「妻観察日記」(小学館)「妻に恋する66の方法 〜妻が恋人でもいいじゃないか〜」(講談社)など、「妻」を立てた印象的なタイトルのエッセイマンガで知られる福満氏。でも、上記の三つのタイトルのうち、ご自分で考えたタイトルは「妻観察日記」だけだと言う。
「『うちの妻ってどうでしょう?』に関しては、執筆当初、まだ若かったこともあって、もっと文学的なタイトルにしたかったんです。でも、編集者からの提案に乗ってみました。今では、このタイトルで良かったな、と思っています。書きたいことのコンセプトが明解ですよね。それは読者に対しても、なんですが、作り手である自分自身が、ああ、こういうマンガを僕は描きたいんだ、ということにタイトルによって気付かされたという面もあるんです」
一方で、「妻に恋する66の方法」は、今でもしっくり来ていないのだと福満氏は言う。「ハウツー本のパロディみたいなことで行きましょう!という編集者からの提案に乗ってみたのですが、結果的にはなんだかうまくいかなかった。結果が芳しくないと、作家なんてものはわがままなものですから、すぐに編集者のせいにしてしまうんです(笑)」
「編集者とは、常に二人三脚」(福満しげゆき)
「長くやってきた担当の編集者が変わる、というようなことはよくあることなんですが、そうなると漫画家は、もう俺はダメだ、といったような絶望感に襲われます。あれこれ文句も言いますよ。お前のせいだ、とかも言う。でも、やっぱり編集者は大切な相棒なんですよ。編集者の一言にインスピレーションをもらう、ということばかり」。そう、福満氏は語る。
「そう考えると、広告にも通じるものがあるかもしれませんね」と橋口氏が応じる。「日頃、広告制作に携わっていて思うのですが、クライアントは自社の製品の良さとか、自社のブランドの良さとか、意外と分かっていらっしゃらないんですよね。自分に置き換えるとよく分かるのですが、自身の魅力や能力って、自分ではなかなか気づけないものだから。他人から、橋口のここがすげーよ、とか言ってもらえると、なんだかとても前向きな気持ちになれる(笑)。マンガも広告も、そうした、キミって実はすごい奴なんだぜ!というエールにもなりうると思うんです」
「若さならではの妄想力って、大事」(福満しげゆき)
「僕の小規模な失敗」(青林工藝舎)は、当時はやっていた「僕たちの失敗」という流行歌にヒントを得たのだ、と福満氏は明かす。「小規模、としたのは『小さな恋のメロディー』みたいなものってあるじゃないですか。小さな、というところが愛おしいんですよね」。橋口氏が、それにかぶせる。「福満さんが描く自画像って、福満さん自身には似ていないと、よく言われますよね。でも、多くの読者は、ああ、これは僕の自画像だ!と感じていると思います。マンガや映画などが好きな、いわゆる文化系の男性の多くは、こんな自己イメージを持っているんじゃないかな。だから共感できるんです」
劇中の言葉にも、橋口氏は注目する。「『このままじゃダメになる…すべてがダメになる大いなる予感!』いいですよね。若い時って、みんなこういうことを考えるものじゃないですか」。「当時の僕はまだ、コンビニでバイトしてましたから。自伝のようなマンガって、大成した人が描くものじゃないですか。でも、大成もなにもしてない若者が自伝を描くのって、ちょっと新しいんじゃないかと思ったんですよ」
「表紙には、作品の人柄が現れる」(橋口幸生)
「そのうち、紙のマンガがなくなって、すべてがデジタル、みたいな時代が来るといわゆる書店でのジャケ買いみたいな買われ方はしなくなる。そのときに大事なのは、表紙のタイトルだったり、コピーだったり、だと思うんです」。と、福満氏は言う。
例えば、「カワイコちゃんを2度見る」という作品のタイトルは「007は二度死ぬ」から引っ張ってきたのだそうだ。橋口氏いわく、長年の謎が解けました、とのことだが、印象的なタイトルとかネーミングというものは、そういうところから生まれるものなのかもしれない。平凡な日常と007、まったくつながらないところに、突破口がある。
平凡な日常を切り取るには、メモをとることが大事だ、と福満氏は言う。平凡なことだから、メモをとっておかないとすぐに忘れてしまう。でも、そこに実はおもしろみがある。それをタイトルや表紙に昇華したときに、ぽんっと作品が生まれる。
「意味はないけど、印象に残った場面を描きたい」(福満しげゆき)
「奥様が、かかとを削ってる、みたいなとんでもなくリアルな日常を福満さんは切り取ってマンガにされますよね?もしかしたら、女性がかかとを削る場面をマンガに描いたのは、福満さんが人類初なんじゃないかと思います(笑)。それって、どういうことなんですか?」という橋口氏の質問に福満氏は、こう答えた。「日常にある印象的なことをマンガにしたい、という意識はありますね。妻がかかとを削ってる。そこに、意味なんてないじゃないですか。でも、僕の中では印象に残った。ああ、これで一話になる、みたいな」
それは、大いに共感できる、と橋口氏は言う。「僕ら広告クリエイターも、若い頃は、例えば宇宙人が攻めてきたみたいな突飛なことをどれだけ考えられるか、みたいなことを求められているような気がして、必死になっていたんですが、でも、よくよく考えると、おもしろいことや、じーんと来ることって、ごくごくありふれた日常の中にあるものですものね」。「突飛な設定でも、別にいいんです。そこに共感できる要素さえあれば」という福満氏の指摘には、なるほど、と思った。
モノを作ろうとすると、人はどうしても、とんがってやろう、他人と違うことをしてやろう、と思ってしまう。でも、作ったものに対して世の中からの共感が得られなければ、そんなものにはなんの価値もないということだ。編集者としても、身につまされる。
※本連載は、「言葉最前線」と題されたウェビナーの内容を、主催者でありMC役でもある橋口幸生氏(CXCC局)の監修のもと、ウェブ電通報独自の視点で編集したものです。
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寺嶋由芙×橋口幸生「アイドルとコピーライターで、言葉について考えてみた」
ゲストは、「ゆるキャラ」をつなぐ「ゆるドル」として、各種キャラクターイベントにMCやゆるキャラ通訳としても出演中のソロアイドル・寺嶋由芙さん。現役アイドルでありながら、宣伝会議が主催する「コピーライター養成講座」の修了生でもある寺嶋さんは、その動機を「ライブのMCで、握手会で、SNSで……自分自身の発する言葉すべてがファンへのPRとなるアイドルだからこそ、言葉に敏感でありたい」と挙げています。「コピーライター養成講座」では講師と受講生という立場だったというお二人。コピーライター以外の人がコピーライティングをどう身につけ、活かすのか?そのヒントが見つかるはず!?
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