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為末大の「緩急自在」No.16

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.16

2021/12/10

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──#15に続いて「美しさとは、何か?」というテーマでお話を伺おうと思います。今回は、政治や企業活動のあるべき美しさ、という、難しい質問から入らせていただきます。為末さんご自身も、企業経営者というお立場ですものね?

為末:政治や企業経営の難しさは、つまるところ、すべては「お客さま」が決めている、ということだと思うんです。政策の実現、利益の追求、そこに必要な倫理観。すべては「お客さま」である国民が決めること。今回のテーマである「美しさ」などは、二の次です。あなたはこの私に、何を提供してくれるんだ?という。でも、同時に「美しさ」も求められている。ここが、難しい。私自身、企業を経営していく上で、そこに葛藤があります。

──清濁併せのむ、みたいな。

為末:そう。いわゆる、大人の対応というやつです。でも、そこに「美しさ」が宿るには、いくつかの条件があると思うんです。 

──それは?

為末:一つは、一貫性です。パーパスとか、ビジョンとか、エンゲージメントとか、いろいろな言葉で表現されることだと思うんですが、一貫した主張とか行動といったものに、人は「美しさ」を覚えるんだと思います。

──覚悟とか、潔さ、みたいなことですね。

為末:そう。そこがブレだすと、美しくない。結局、自分のため、カネもうけのために動いてるだけじゃないか、という醜悪につながる。「一貫性+自己犠牲の精神」みたいなものが、美しさには必要だと思いますね。

──ああ、そのように定義してもらえると、よく分かる。

為末:透明性というのは、主張と行動がいかにつながって見えるか、ということだと思うんです。これは、アスリートのパフォーマンスにも通じることですが、言ってることとやってることがつながった瞬間に、人はそのパフォーマンスに美しさを感じる。単純に点を取った、とか、いいタイムを出した、といったことではなく、つながったーという達成感。これは、選手自身の感覚でもあると思うんですが。

為末大氏

──僕は、いわゆるサウナーなんですが、って、とんちんかんな例えかもしれませんが、サウナ好きがよく言う「整ったー」みたいな心境なんですかね?

為末:わははっ。そうかもしれません。前回、「正しい動きは、美しい」という話をさせていただきましたが、物事をきちんと整えて、結果につなげていく、というプロセスが、もしかすると「美しさ」には必要なのかもしれません。朝、玄関先をほうきで掃く、なんてことも、そういうことだと思います。別に、玄関先に枯れ葉があっても、生活になんの支障もない。でも、毎朝、それをきちんと整える。そこに美しさが生まれる。昨日と今日が、きちんとつながる。

──なるほど。

為末:政治や企業経営というものは、調整の連続なんだと思うんですね。キレイゴトだけでは、済まされない。美しいけれど、弱い。では、ダメですからね。でも、なんのために調整しているのか、そこに一貫性が見えたとき、人はそれを「美しい」と認識するんじゃないでしょうか。
アスリート出身の政治家は実際はどうかはさておいて真摯(しんし)さが期待されて当選しやすいのだと思います。真摯さとか、一貫性といったものが、その人のバックボーンからにじみ出ているから。こんなことを言うと、周りの友達から怒られてしまいそうですが、もちろん、その実績や知名度からの広告塔みたいな役割も担っているのだとは思いますが、アスリートというものは基本的に根が単純なので、そういった真摯さのようなものがにじみ出ちゃうんですよ(笑)。

──分かります、分かります。マスコミはよく「説明不足だ!」みたいなことで政治家や企業経営者をたたきがちですが、大切なことは「よくやってくれてるなー」という真摯さが伝わるかどうか、ということなんですね。

為末:それが、美しい、という感覚につながる。

──前回、お話を伺った千利休に話を戻しますが、彼がすごいのは、アーティストであり、ビジネスマンであり、政治家でもあったということだと思うんです。こんな人は、歴史上でも、なかなかいない。そして、その根底にあったものが「美しさ」への追求のように思うんです。

為末:彼のすごいところは、「私は、お茶の世界の人間です」というところにとどまらず、「お茶の世界の考え方」を世に知らしめたということだと思いますね。この世で、何が美しいのか、ということを体系化してみせたというか。政治的な意味とか、陶器の価値とかは後からついてくる。ここにも、真摯さだったり、一貫性ということの素晴らしさが見えてくる。理屈ではなく、ああ、美しいな、と人を魅了するすべを、彼は持っていたのだと思いますね。 

──なるほど。

為末:真摯さとは、言い換えれば無作為ということだと思います。作為や思惑を感じた瞬間、人はそれを醜いものだと思ってしまう。アスリートのひたむきさにも通じることですが、無作為なものに人は引かれる。美しいな、と感じる。桜の花に感動するのも、そうですよね。そこに作為はない。だから、美しいと感じる。 

──けなげさ、はかなさ、いろんなことを感じますものね。そう考えると、美しさとは、深いなあ。(#17へつづく)

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

美しさの第2弾。美しさとは、一貫性であり、自己犠牲という言葉が出てきました。ブランドづくりにおいても、同じことがいえるのではないでしょうか。ブランドの存在意義である、パーパスをきちんと設計し、そのパーパスを一貫して守る。その際には、横道に逸れずに、自己犠牲を厭(いと)わない。ここでいう自己犠牲とは、もしかすると、売り上げだけにとらわれない、そういうことかもしれないと感じます。アスリートが培ってきた「美しさ」の捉え方が、企業の商品のブランディングにも転用できる、そういった考えだと思います。そして、千利休が「お茶の世界の考え方」を社会に展開したように、アスリートの実践知を社会に展開していきたいと思います。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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