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為末大の「緩急自在」No.17

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.17

2021/12/17

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──「美しさとは、何か?」というテーマのインタビューも、今回が最終回です。前回は、美しさというテーマから、政治の話、経営の話などを聞かせていただきましたが、今回は「教育」という観点からお話を伺おうと思います。為末さんご自身、一児を持つパパというお立場ですが、お子さんに「美しさ」というものの価値を伝えるために、何をしていらっしゃいますか?

為末:難しい質問ですが、一言でいうと「バランスがいい」ということを教えるということでしょうか。

──バランス、ですか。

為末:納まりがいいかどうか、みたいな。たとえば、河原で拾った石ころを積み上げる、みたいなことを子どもはよくやりますよね。なるほど、大きな石から小さな石へと積んでいくと安定するんだな、みたいなことを、そうしたことから学ぶんです。大げさにいえば、自然の法則を学ぶとか、社会の倫理観を学ぶ、みたいなことです。前回、「サウナで身体が整う」みたいな話をされてましたが、きちんと整えると美しい姿になるんだ、みたいなこと。そういうことを、子どもに伝えることが大事なんじゃないか、と。たとえそれが、河原の石ころであっても、です。

──なるほど。政治や経営の話でいうと、ついつい「調整」みたいな感覚になりますが、「バランス」と言われると、美しさのあるべき姿が見えてきますね。

為末:そう。自然の法則を理解すると、物事のあるべき姿とか、正式なポジションみたいなものが、理解できる。アスリートの肉体づくりとか、体の使い方とかも、実は、そういうことなんです。技術にいき詰まった時に大体選手が返ってくるのは姿勢です。基本的な立ち方、地面の踏み方ができていないと手足の動きが美しくなくなる。突き詰めるとスポーツの技術は姿勢づくりでもあるんですね。

──なるほど。

為末大氏

為末:政治でも、経営でも、子育てでも、スポーツでもなんでもそうですが、 人はどうしても「結果」を求めてしまう。「結果」を得るためには、どんな汚い手段でも使ってやろう、みたいな感覚を持ってしまう。でも、それでは、本当に得たいものは、手にできない。

──要するに、美しいもの、ということですね。

為末:最終的に人間が手に入れたいものは「美しさ」なんだと思います。物事が整った気持ちのよさ、というか。あるべき姿を手に入れたというか。日本庭園とか、料亭の料理とかを前にすると、なんだかホッとするというか、心が癒やされるじゃないですか。美しさの本質は、そこにあると思いますね。整ったなー、みたいな。

──ビジネスの世界でも、要するに「整いたい、整わせたい」みたいなことで、日々、PCのキーボードをたたいたり、商売の駆け引きをしたり、していますものね。でも、ふと気づくと、美しさとは真逆の行動をしていたりする(笑)。

為末:アスリートの場合、そのあたりは純粋です。どのような競技であろうと、つまるところ「美しい自分」を追求しているわけで。 

──なるほど。そこが、アスリートブレーンズの活動にもつながるわけですね?

為末:そういうことになるのかな。別に、美しさのために活動しているわけではないのですが、一言でいうと、アスリートのいいところでもあり切ないところでもあるのは「超当たり前のことを言い続ける。またはそれしか言えない」というところだと思うんです。

──超当たり前、ですか(笑)。

為末:そう。ビジネスの世界で言われる「アイデア出し」みたいなことは、アスリートは一番苦手なんです。価値のあるアイデアには、突飛さと実現性の二つが担保されていないとダメですよね。その両方がないと、ビジネスとして成立しない。でも、アスリートの場合、そのどちらも苦手なんです。決められたルールの中で、ひたすら自己と向き合う。実現不可能とされる記録に挑みつづける。というようなことに人生を懸けてきた人たちだから。でも、そうしたことを続けている中で体得した「超当たり前のこと」には、それなりの価値があると思うんです。

──超当たり前のことを極めることで世界レベルのパフォーマンスをしてるわけですものね。

為末:そうなんです。誰もができそうでできない、超当たり前のことをやってのける。実はこれ、政治とか企業経営にも当てはまることだと思います。そうだよな、こんなサービス、こんな商品、あって当然だったよな。今までなんで、なかったんだろう?という。
誰もが思いつかない突飛なことを考えるのもクリエイティビティだと思いますが、誰もが思いつきそうな、超当たり前のことをやってのける、というのも立派なクリエイティビティだと、僕は思います。

──そこに、アスリートブレーンズの活動の意味がある、と。

為末:そう感じていただけたら、うれしいです。

──今回は「美しいとは、何か?」という、不思議なテーマでお話を伺いました。いつもと同様、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。

為末:こちらこそ。次回の取材も、楽しみにしています。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

「美しさ」の第3弾。為末さんからは、アスリートの価値は「超当たり前のことを言える」とのことでした。実際、私もプロジェクトをご一緒する中で、「姿勢が大切」と言われたことがあります。アスリートにとっては当たり前だったものの、個人的には、発見感がありました。この「姿勢が大切」というキーワードから、アイデアが広がっていったことを覚えています。また、為末さんから「自然の法則を理解すると、物事のあるべき姿とか、正式なポジションが分かる」という言葉がありました。ビジネスも、自然の法則に照らし合わせて考えてみると、新たな発見があるかもしれません。アスリートが感じる当たり前が発見になり、その発見を、電通チームが広げ、言語化/可視化し、全員が共感できるものに昇華していく、そんな取り組みをアスリートブレーンズでは行っています。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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