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クリエイティブの現在地No.1

経営戦略から見たクリエイティブ

2021/12/06

クリエイティブの技術は、マス広告に代表される広告表現だけに活用されるものではない。言葉、デザイン、考え方。伝え方を設計し、実現する。そうした技術を、経営のあらゆる局面で活用し、ビジネスにドライブをかけていく。正しく伝えることはもちろん、心を揺さぶる。みんなの気持ちを束ねて、進むべき方向を定める。

この連載では、そんなクリエイティブの事例を、関係者の方々からの声をもとに、紹介していきます。

第1回は、森永製菓。創業120周年を機に新たに策定したグループの企業理念を表すムービーにまつわるエピソードを、経営戦略部 森加誉子(もりかよこ)氏に伺いました。

文責:ウェブ電通報編集部

 森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」の一場面
森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」より

 新たに企業理念を策定

「創業120 周年という節目に、従前の企業理念を見直しました。新たに策定した企業理念は、多くの従業員の声を集め、経営陣で議論を重ね、出来上がったものです。森永製菓グループ従業員の想いがこもったものとなっていると思います。」と森氏は語る。「さらなる発展を遂げていくためには、創業の精神や足跡を見つめ直したうえで、目指すべき未来像を描き出し、全従業員で共有することが大切」という太田栄二郎社長の考えのもと、社長自身が全社員に呼び掛け、意見を集めたのが企業理念策定のきっかけだったという。
 

森永製菓グループの企業理念
森永製菓グループの企業理念

■森永製菓グループの企業理念はこちら

目指したのは、グループ全従業員への企業理念の共有

「企業理念を知ってもらうためのツールとして、大きく4つの制作物を作成しました。特設サイト、社長のメッセージ動画、OUR PHILOSOPHY ~ブック~(企業理念を表すブック)、そしてOUR PHILOSOPHY ~ムービー~(企業理念を表すムービー)です。」と森氏は振り返る。制作物作成の一番の目的は、「企業理念浸透のファーストステップとして、まずは企業理念が新しくなったことをその内容とともに従業員に知ってもらうこと」。そこでこだわったのは、「全従業員にくまなく伝えること」と「しっかりと記憶にとどめてもらうこと」だったという。「さまざまな職種や立場の社員がいる中で、いかに全従業員に伝えることができるか、という観点からWEB媒体、紙媒体、さまざまな制作物を作成することを考えました。そして、いかに従業員の記憶にとどめてもらうか、という点から、何か印象に残る伝え方はないだろうか、と悩み、電通様に相談を持ちかけたことが、ムービー作成のきっかけでした」
 

 森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」の一場面
森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」より

クリエイティブの魅力は、「発想の幅」 

ムービー作成は、電通のクリエイティブチームと共に進めることになる。森氏によれば、経営戦略という普段は広告クリエイティブと接していない部門であるがゆえに、当初は戸惑いがあったという。「実は、最初はこちらの要望した内容と違ったモノが出てきたんです」と森氏は語る。「先ほどもお話しした通り、今回のムービー作成の目的は、企業理念が新しく変わったこととその内容を従業員にしっかりと伝えたいということでした。パーパス、ビジョン、バリューと体系化した新たな企業理念を明確に伝えること。それが我々の最も重要な課題だと捉えていました。ですが、クリエイティブの方からご提案があったのは、従前から掲げている『おいしく、たのしく、すこやかに』という言葉を主軸にした内容だったのです」

電通クリエイティブチームからの提案は次のようなものだった。「森永製菓が長年掲げてきた『おいしく、たのしく、すこやかに』は食品企業にとって非常に素敵な言葉だと思う。森永製菓の資産でもあるこの言葉をもっと大事にされては?キャッチ―で社外の方にも伝わりやすいこの言葉を使って、社内はもちろん、社外に向けても発信できるようなムービーも選択肢としてありなのではないか」

森氏自身、「おいしく、たのしく、すこやかに」の重要性は分かっており、これからも大切にしていきたい言葉だと思っていた。今回の企業理念においてもコーポレートメッセージとして掲げている。「ただ、今まで当たり前のように使用していたこの言葉をクリエイティブの方にそのように言っていただき、『おいしく、たのしく、すこやかに』の大切さ、重要さを実感した気がしました。また、当初は社外発信という視点もあまりなかったので、新たな視点に気付くことができました」と当時を振り返る。

その後は、〈確実に伝えたい新しい要素〉と〈変化はしていないけれど伝えていかなければならない要素〉をうまく組み合わせた作品になるよう、クリエイティブと議論を交わし、試行錯誤し、現在HPに掲載しているムービーが出来上がった。

■森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」はこちら

ムービーの締めのナレーションは「おいしく、たのしく、すこやかに。この言葉が持つ無限の可能性を信じ、変わらない言葉とともに、変わり続けていきます」というものだ。「とても素敵だな、と。短い文章に、無駄なく、思いを詰め込む。その言葉の紡ぎ方に、これがプロの技術なんだなぁ、と感心しました」と森氏は語った。

当初は戸惑いがあったものの、結果として良いものになったと森氏はプロジェクトを振り返る。「クリエイティブチームの方々の『発想の幅』の広さにも、助けられましたね。企業理念の内容を事細かに説明したいなら、こんな表現方法。情緒的なイメージを伝えたいなら、こんな表現方法。その中間なら……みたいな感じでさまざまな提案をしてもらえたので、ああ、このあたりがイメージに近いかも。という具体的なモノが湧きました」
 

 森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」の一場面
森永製菓グループ「OUR PHILOSOPHY ~ムービー~」より

心に響くものを作る

「心に響かせるテクニックにもいろいろあるんだな、と学ばせてもらいました」と、森氏は言う。ムービーのナレーション一つをとっても、男性にするのか、女性にするのか、その声のトーンを高くするのか、低くするのか?によって伝わり方が違ってくる。さまざまなパターンを試していく中で、「ああ、これが伝えたいイメージに合うなぁ」というふうに答えが見つかっていく。「イメージに合うものを見つけるまで、クリエイティブの方々には辛抱強く付き合っていただき、とてもありがたかったです。心に響くものを作るために、常に真摯(しんし)に業務に向き合っている方々なんだと感じました」

森永製菓 経営戦略部 森加誉子氏
森永製菓 経営戦略部 森加誉子氏

食文化の担い手として

インタビューの最後に、森氏に「食文化」について質問してみた。「歴史的な建造物とか、高価な絵とかが文化として認められるのは、なんとなく分かりますが、命をつなぐための、毎日の食が文化になるって考えてみれば、不思議なことですよね?」と。

森氏の答えは、こうだ。「『食文化』って普通に使っている言葉なので、あまり不思議と感じたことはないのですが……。ただ、今まではなかったものが新しく作り出され、お客さまに受け入れられ、いつの間にか当たり前に日常に溶け込んでいき、なくてはならないものになる、ということが文化なのであれば、総合食品メーカーである我々は、常に食文化の担い手であり続けていきたいな、とは思いますね」

森永製菓を代表する商品に「inゼリー」がある。パウチ型なので、片手で手軽に飲めるゼリーだ。今では、ゼリー飲料シェアトップのこの商品も、1994年の発売当時は、世の中になかった。でも、今はもう当たり前に存在している。食欲がないときや栄養バランスが偏ったときの栄養補給、忙しく時間がないときの小腹満たしなど、現代のライフスタイルに実にマッチしている。

振り返ってみれば、ミルクキャラメル一つをとっても、日本の人々に栄養価の高いお菓子を届けたいという創業者の強い想いをきっかけに、当時はまだ日本になかった西洋菓子を広めるところから始まった。森永製菓は、間違いなく日本の食文化の担い手であったし、これからもそうしたものを生み出してくれるだろう。これは、お世辞でもなんでもない。歴史的な事実であると同時に、未来への希望だと思う。

森永製菓 企業ロゴ

 

 

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