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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.25

クリエーティブこそ、戦略だ

2014/02/20

ぼくが所属する部の通称は「マッシュルーム」。部員はそれぞれCMプランナー、コピーライター、アートディレクター、ストラテジスト、営業など様々なバックボーンを持っていますが、その力をマッシュアップ して新しいチャレンジをしよう!ということだそうです。
先日、このメンバーと居酒屋で「鴨鍋」を囲みました。厚めに切った鴨肉を出汁にくぐらせて、一、二、三・・・。とにかく火の通し過ぎは厳禁。好みのミディアムレアで口に放り込むと香りがふわり、旨みがじゅわり。「やっぱり鴨の旬は冬だねぇ」「おい、肉を入れっぱなしにしたら固くなっちゃうじゃねぇか!」「ぼくはそれが好きなんです」「七味よこせ」「酒よこせ」。大騒ぎしているうちに山盛りの鴨はなくなって、雑炊で満腹。大満足で家路についたのでした。

バレンタインにクッキーをもらって喜ぶ男性部員。
 

さて。電通に限らず世界的に広告業界を見ても「戦略」担当者(ストラテジスト)と「クリエーティブ」担当者(クリエーター)は明確に区別されています。沈着冷静なストラテジストが分析を重ねてロジカルに導き出した戦略に基づいて、面白いクリエーターがジャンプする、というのがこの業界に長く伝わる「常識」のようです。
この役割分担の根底にあるのは「戦略とは科学である」「分析を通じてロジカルに考えれば正しい戦略は生まれる」という思想。こう考えるグループの代表格は経営学者のマイケル・ポーター教授。そして広告の現場で言えば「クリエーティブ」という何とも胡散臭い代物をどうやって科学的に管理するかに関心を持つ人々です。

一方「戦略とは、もっと人間くさい営みだ」という考え方もあります。「いくら過去を分析しても明日のことはわからないじゃないか?」「科学的な正論の思惑通りに人は動かない」「昨日と競争のルールが激変するイノベーションこそが大切だ」という人々です。「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」と主張する楠木建教授などはこちらのグループでしょう。

このふたつの思想はどちらかが正しくて、どちらかが間違えているというような類ではありません。というのも経営戦略は一般的に「環境の機会と脅威に対応して、自社の強みと弱みを、時間展開の中でマッチングさせていくパターン」 と定義されます。
「戦略とは科学である」一派は外部環境に注目し、その機会と脅威を正しく分析することによって市場の中で競争に勝てるポジション、つまり「どこで戦うか?」という「戦略」を導き出せると考えます。

一方、「戦略とは、もっと人間くさい営みだ」の人々は内部の資産が重要だと考えます。彼らは自分たちの強みと弱みを踏まえ、時間の流れの中でどのように変化したら競争に勝てるか、つまり「どうやって戦うか?」という「戦略」を追求します。
こうしたアプローチの場合、経営学で言うところの「コンセプト」、ぐるぐる思考の「アイデア」、広告業界では一般に「ビッグ・アイデア」と呼ばれる「目標に向けて課題を解決する新しい視点」こそが鍵となります。
「戦略=現状を打破するアイデア」なので、伝統的なストラテジストとクリエーターの役割分担は意味がありません。その代わり戦略から具体策まで、アイデアを熟知したクリエーティブな視点で一元管理する必要が出てきます。

今までの延長線上には解決策がなさそうな場合。なにかしらイノベーションが必要な場合。そんなときは「戦略とは科学である」ではなく「戦略とは、もっと人間くさい営みだ」一派が求めるような「戦略」が必要になります。残念ながら広告業界はまだそのような期待に応える新しい組織を完成していませんが、きっとぼくが所属する「マッシュルーム」はそれに向けたチャレンジのひとつなのでしょう。

次回はこのお話をもうちょっと進めて、戦略を説明するときの二つの型「マップとコンセプト」について、です。

どうぞ召し上がれ!