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OOHのニューノーマルNo.8

OOHの統合メディアプランニング

2021/12/14

OOH
イラスト:萬田 翠(電通)

OOH(Out Of Home:屋外広告・交通広告)もデジタル広告が普及するにつれ、他媒体と広告効果を比較して、数字に基づくプランニングや効果検証が求められるようになっています。さらに、コロナ禍では、人流に基づく媒体の金額設定や掲出効果を広告主から求められることが増えてきました。

今回は、これまでのOOHの課題を振り返り、業界の動き、そして、テレビ、OOH、デジタルなど複数メディアを組み合わせた、電通の統合プランニングについて紹介します。

広告価値を計測するOOH業界としての共通指標がなかった 

テレビCMであれば視聴率、デジタル広告であればインプレッション数やクリック数などといったように、多くの広告媒体では、期待した露出量が獲得できたか、出稿後に確認することができます。しかし、OOHでは長年そういった指標がありませんでした。

OOHは掲出環境がさまざまで、サイズも接触シーンも媒体ごとに異なるため一律に評価しにくい上、国内のOOH媒体社の数が多いのも理由です。どんな人(オーディエンス)がどれくらいその広告を見たか(インプレッション)という広告価値の計測を、共通の指標のもとで任意の期間・媒体で把握することをなかなか実現できずにいました。 

OOH全体を網羅する共通指標が欠如しているために、広告会社が広告主にOOHを薦める際は、数値的な根拠がないので“経験知”で提案するケースが主でした。特に統合プランニングの観点、例えば、テレビやデジタルに加えてOOHを追加出稿する効果を、数値的根拠により説明することが困難でした。効果の可視化が不十分なため、広告主のメディア全体予算から最適なメディアプランを提案する際に、OOHが出稿媒体から外されてしまうケースが多く見られました。

広告価値指標の標準化に向けたOOH業界の取り組み 

「OOHの広告価値を測る共通指標がない」という課題を解決するために、近年ではさまざまな取り組みが進んでいます。

交通広告業界においては、2015年からビデオリサーチのSOTO/ex(ソトエクス:路線・駅・街の詳細な利用状況などを聞くアスキング調査) をベースにした推定広告到達人数の算定システムが稼働しています。これまで共通指標化を進めてきましたが、現在は、他のOOH媒体を含めた横断的な共通指標の整備が求められています。

また、近年では、位置情報計測サービスを提供する企業が増えていて、この技術を活用しながら、オーディエンスメジャメント(視認条件の下、スクリーン視認エリア内に滞在かつ視認していると推定される個人の人数を測定すること)の整備が進みつつあります。

OOH LIQUID


日本広告業協会は2021年2月10日、OOH 媒体の価値向上を目的として「OOH 新共通指標策定プロジェクト」を発足させました。交通広告、屋外広告、空港広告、タクシー・バス広告など、各メディアの紙媒体とデジタル双方を含む全OOH 媒体を対象に、広告主がメディアを横断した統合プランニングを行う際、他メディア(特にテレビ・デジタル)と同じ粒度で、プランニングや効果の比較が可能な新指標の策定を目指すものです。

このプロジェクトのゴールは広告価値指標をベースとした国際標準に準拠した統一指標の策定としていますが、まずは広告出稿時の実接触者数(アクチュアル)の媒体視認指標の整備と、媒体効果を十分に説明するためのデータ整備に取り組んでいます。

また、2021年3月に一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムは、オーディエンスメジャメントガイドラインを発表しました。これは近年増加している DOOH(Digital Out Of Home:デジタルサイネージを活用した広告)の効果を可視化するためのガイドラインです。こちらも国際標準に準拠する形で、オーディエンスの標準的な計測方法とプロセスチェックにおける推奨事項やベンチマークの指針を発表しました。

ユーザの位置情報データを活用した、プランニング・効果計測「OOH LIQUID」

電通は、2020年12月にスマートフォンアプリの位置情報を用いてOOHに接触した生活者の実行動分析を行い、統合メディア視点でOOHのプランニングから効果検証までを行うことができる「OOH LIQUID」というツールを開発(リリースはこちら)。関東・関西の2地区においてOOH媒体ごとに定量的な広告効果を把握できるようになりました。

「OOH LIQUID」は、電通が資本業務提携している米国の位置情報データ会社・GroundTruthの高精度な位置情報データを、ビデオリサーチのアスキング調査結果に掛け合わせることで、OOHの媒体単位(媒体社が販売しているメニュー単位)で人流を分析し、媒体単位でのユニークユーザー数、リーチ数などの数値確認、メディアプランの作成、媒体の効果検証を行えるようにしました。特にコロナ禍では、日々人流に変動があるため、「OOH LIQUID」は、広告主のOOH検討に大きく貢献できます。

この他にも電通は年に1回、約4万人に交通の利用状況を聞く大規模調査を実施しています。路線利用や関東主要駅の利用状況を捕捉することで、より正確な分析を行い、プランニングができるようになりました。また、各種人流計測ツールを広告提案の用途に応じて使い分けています。

広告出稿によって獲得できるリーチの大きさをコロナ発生前と比較することで、OOH媒体社が出している媒体料金が割高か否か、妥当性を確認することができます。定量的なデータがあることで、コロナ禍においてもOOH媒体ごとに、どの程度のリーチを獲得できそうか直近のデータに基づきOOHの出稿を検討することが可能になりました。

さらに、実際の出稿期間で獲得できたであろうユニークのリーチ数を事後に確認することができます。またGroundTruth社が独自に推定する性年代情報を活用することで、デモグラ(※1)別の獲得リーチなども確認が可能に。個人全体としてのリーチだけでなくデモグラ別に見直して、次の出稿を検討することもできます。

※1 デモグラ:デモグラフィックの略語。デモグラフィックとは、性別、年齢、居住地域、所得、職業、家族構成など人口統計学的な属性。

 

OOH LIQUID

リーチの回復推移を1年間で表示し、どれくらいの人数に接触できるか推定ができます。特価(期間限定で値下げした特別価格)に対しての妥当性や、狙ったデモグラのリーチ人数も確認することができます。

STADIAデータを活用した統合プランニング

OOHは、テレビ広告のリーチ補足手段として組み合わせて出稿することがあります。テレビ広告ではリーチしにくい若年層やテレビ視聴時間が短い層でも、首都圏であれば外出時にOOH に接触するのでリーチを伸ばすことができます。

電通のSTADIA(※2)のデータを活用すると、ターゲットのテレビ視聴傾向が分かるので、ターゲットがどの駅・路線に多いのかを推定し、そのエリアでのOOHを提案することができます。効果計測は、推計リーチの他、事前に、クライアントアプリにIDタグの埋め込みが可能であれば、アプリのDLやサイト来訪率などをキャンペーンの効果指標にすることもできます。

※2 STADIA:テレビをはじめとする“オフライン”メディアと、スマートフォンやPC上の“オンライン”メディアのデータを統合し、より効果的なマーケティングを実現させるオンオフ統合ソリューション。2020年6月時点で約580万台のテレビの視聴ログデータと、約1,200万台のモバイル広告IDや約1.2億件のCookie IDのオーディエンスデータ規模を有する。

 

OOH LIQUID
リーチ最大化のため、テレビCMにOOHを追加提案する場合、テレビ視聴傾向が短い層の駅・路線を特定し、媒体を提案します。掲載後、実際どれくらいリーチしたかデモグラ別に推計。効果検証では、OOH接触によってどれくらいサイト来訪率を伸ばしたか、非接触・接触の2群に分けて分析します。

さらに、2020年にローンチした「docomo data square™(dds)」というオンオフ統合分析基盤を活用すると、ドコモのd払いやdポイントデータを用いて「購買」をKPIとした効果計測も可能になっています。これまで、テレビ、デジタル、OOHの3メディアを統合して分析ができるデータ基盤はなかったのですが、OOHも含めて、ID単位での効果検証が可能になったということが特徴です。 ddsを活用した事例は、電通報で連載をしていますので詳しく知りたい方はご確認ください。

ここまでご紹介したように、OOH業界として3メディアの統合プランニングに向け、オーディエンスメジャメントや効果計測の取り組みが始まっています。電通では、OOH LIQUIDという新しいソリューションによって、さまざまなデータを定量的に推定し可視化することができるようになりました。またSTADIAデータを活用して視聴傾向に基づくOOH出稿や効果計測ができる体制を整えています。

これまでのOOHは感覚や経験知に頼ることが多かった媒体ですが、そこに定量的なデータを加えて出稿検討を行うことが、ニューノーマルになるのかもしれません。

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