OOHのニューノーマルNo.7
DOOHの新潮流~タクシー・サイネージ編
2021/12/09
デジタル化が進み、市場規模が広がっているOOH(Out Of Home:屋外広告・交通広告)。
最近では、さまざまなDOOH(Digital Out Of Home:デジタルサイネージを活用した広告)が話題になっています。DOOHは、アナログのOOHと比べて、出稿が容易にできる、即時性が高い、狙ったターゲットに届けられる、広告効果を測定できる……など、たくさんのメリットがあります。
今回は、DOOHの新潮流を探るべく、タクシー・サイネージメディア「Tokyo Prime」を手掛ける、IRISの飽浦尚(あくうら・なお)氏にお話を伺います。
BtoB広告を中心に成長を続けるタクシー広告
──どのようなDOOHを手掛けていますか?
当社は2016年創業で、タクシー・サイネージメディアの開発や広告の販売を手掛けています。多数のBtoB商材を手掛けるスタートアップ企業などにも活用いただいており、2017年から、スタートアップ企業がタクシーに広告を出す流れが加速して人気になったため、一時は出稿できない状況もありました。
私は以前、デジタル広告を手掛ける企業に勤務していましたが、アドフラウド(※)には悩まされました。タクシー広告は、タクシーという実体があるものに出稿できるので手触り感があることがいいですね。広告の質を落とさないためにも審査基準をしっかり設けています。
※アドフラウド:機械で不正にインプレッション(広告視認者数)を増やしたり、広告クリック数を水増ししたりする広告詐欺。
──販売状況はいかがですか?
コロナ禍により人々が外出を自粛したため、昨年は大変な状況もありましたが、2021年7月〜9月は過去最高の売り上げを記録しました。その理由として、電車に乗ることを控えても、タクシーの乗客は大幅には減らなかったことがあるかもしれません。会社によっては、満員電車に乗る代わりにタクシー乗車を推奨したそうです。サイネージの主要設置先である日本交通は休業せず、営業を続ける攻めの姿勢をとったことにより、想定乗車回数を下回らずに済んだことも大きいです。また、これまでBtoB商材の広告出稿は全体の半分までとしていたルールを撤廃し、営業したことも、売り上げに寄与しています。
──どのように広告配信されていますか?
「Tokyo Prime」は、SIMカードが内蔵され通信可能なAndroid OSの端末に広告配信用のアプリケーションを実装し、アドサーバーと通信する形式で広告配信を実現しています。サイネージ端末をスマ―トフォンのようなイメージで捉えたアーキテクチャで配信システムが構成されており、差し替えを管理画面上で瞬時に実行できるなど、柔軟性の高い配信システムになっています。
──今後の抱負や課題があったら教えてください。
タクシーには、ビジネスパーソンだけでなく高齢者や主婦など、さまざまな方が乗車します。広告の入稿数があまりに多すぎると、視聴をやめてしまう人もいるため、視聴を継続してもらうためにコンテンツの充実を図っています。
例えば「Tokyo Prime Voice」は、生活者が欲しくなる商品や素晴らしいサービスの作り手や社長にインタビューする番組です。この番組に出たいと思ってくれる企業の方も多く、好評です。「more 1 meter」というカルチャー情報番組もあり、乗るたびに面白い情報が得られるコンテンツを目指しています(コンテンツは、こちら)。
今後は、エリア別にコンテンツを出し分けたり、乗客のモーメント、例えば食事したい気持ちなどを捉えた広告配信を行いたいと考えています。さらに、タクシー以外のモビリティ分野にも参入したいと考えており、実証事業を進めています。コロナ禍で撤退してしまったのですが、海外事業にもチャンスがあれば取り組んでいきたいですね。タクシー・サイネージは、決済ともつながっている日本が一番進んでいると思っています。
インタビューを終えて…
コロナ禍で外出を控える人が多かったにもかかわらず、「Tokyo Prime」が過去最高の売り上げを記録したのは、企業努力によるものだと感じました。タクシーは、平均乗車時間18分のプライベート空間で、広告配信ができます。ビジネスパーソンが多く乗車することから、オフィス商材を扱う企業の広告出稿が多いですが、今後はさまざまな乗客にむけたオリジナルのコンテンツ動画を増やしていく、と聞きました。タクシー乗車時にちょっとした気づきや驚きがあると、移動が楽しくなりそうです。
今回、ヘアサロン、エレベーター、タクシーのDOOHを手掛ける企業にインタビューをさせていただきました。他にも薬局やドラッグストア、スーパーマーケット、トイレなど、いろいろな場所にDOOHが増えています。
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DOOHといえば、屋外広告や交通広告が主流でしたが、サイネージ機材の単価が下がってきたことやDOOHの広告配信プラットフォームが増えてきたことで、これまでになかった場所に新しいDOOHが増えています。
屋外のDOOHは、街によって多少差異はありますが繁華街の人通りが多い場所に設置されているため、不特定多数の人に広くリーチできることがメリットです。多くの人が集まるため、その場所にいる目的も多様であり、通行時に広告を見てもらうことができます。街に大きな広告が掲出されることで公共性を帯び、広告がSNSでシェアされることで、より多くの人の目に触れるチャンスも広がります。
一方、新しいDOOHは、特定の人たちが仕事や美容、健康など特定の目的で集まっている場所で広告に接触させます。リーチできる人数は減りますが、関心が高まっている場面で、比較的長く広告コミュニケーションができることがメリットです。そのため、マーケティングにおいて、見込み顧客のミドルファネル(生活者が興味・関心や課題を特定した状態で、やや熱心に情報収集をしている段階)にアプローチする手段としての使い方があります。少額の予算から出稿できるので、ターゲットが合致すればマーケティングの費用対効果を高めることもできるでしょう。
今後、DOOH市場は拡大していくことが予想されています。より簡単に発注できる仕組みや、配信の最適化、効果検証を充実させることで、デジタル広告の良さを取り入れつつ、実体がある場所に広告出稿できるOOHならではの強みを生かした媒体になっていくと思われます。