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日本の社会課題を解決する「M&A」No.3

「攻めの売却」がイノベーションをもたらす!M&A起点で考える4つの成長戦略

2022/01/07

今や「M&A」は、あらゆる企業の経営課題をダイナミックに解決する“究極のソリューション”です。

本連載では、この時代においてM&Aが企業や社会に何をもたらすのか、その本質的な価値を分かりやすくひもときます。

今回は、日本M&Aセンターと電通(※)の具体的な取り組みを中心に、企業の成長戦略に直結するM&Aの活用方法を紹介します。日本M&Aセンター業界再編部の田島聡士氏をゲストに迎え、電通の片山俊大がお話を伺いました。

※日本M&Aセンターと電通は2019年に業務提携。両社で企業のM&A仲介を推進しています。

 

<目次>
①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~
②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~
③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~
④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

 

日本M&Aセンター田島氏、電通片山氏

①中小企業の成長戦略~ビジョン実現のための「攻めの売却」~

  

片山:日本M&Aセンターと電通は2019年から業務提携し、すでに何十社もの相談を受けております。大企業、中小企業、スタートアップまで、あらゆる業界のM&Aをサポートしていますが、今日は田島さんと共に、

  • 中小企業の成長戦略
  • メディア企業のBX/DX戦略
  • 大企業のブランドポートフォリオ再構築
  • スタートアップのイグジット戦略

の4つの切り口で、M&Aの“経営戦略への活かし方”をお話ししたいと思います。

はじめに「中小企業の成長戦略」で取り上げたいのが、電通の地方支社経由でご相談を受け、東京の会社に中核事業の譲渡を行ったクライアントの事例です。

田島:そのクライアントは、創業以来ずっと製造業を営んでいた企業なのですが、「最近立ち上げたロボット事業が軌道に乗り始めており、将来性を見据えてその新規事業に集中投資していきたい」というご相談でした。そこで、既存事業の売却による資金調達を提案し、東京の会社への事業譲渡を電通と一緒に支援し、成約いたしました。

片山:よく誤解されがちなのですが、「創業時から続けてきた中核事業を売却した」と聞くと、「よっぽど困り果てていたのかな?」と思う方もいるかもしれません。でも実態は真逆で、本件は“攻めの経営”を行うための打ち手としてM&Aを活用した、典型的な事例でした。ロボット事業へのBX(ビジネストランスフォーメーション)を実現し、現在もさらなる成長を目指して、引き続き電通も伴走しています。

田島:このクライアントは、「ロボット事業で未来をつくるんだ」という明確なビジョンをお持ちでした。このように、決して消極的な理由ではなく、「経営の志やビジョンを実現するための手段」として、M&Aを選択する経営者が増えてきています。

片山:同感です。ところで、コロナ禍を成長のチャンスと捉え、変革しようと前向きに取り組んでいる企業も多いと思うのですが、現実問題として、コロナ禍で売り上げや収益が落ちている企業だと、今のタイミングでM&Aを行うことは難しいのでしょうか?

田島:決してそんなことはありません。もちろん、直近の財務諸表も大事ですが、それだけで企業価値が決まるものではありません。例えば「経営者の人物像」「これまでの売上拡大のペース」「販路の数」「事業エリアやターゲット」「社会性やマーケットの将来性」など、複合的な視点から対象企業を見つめることで、企業価値を高められる可能性は十分にあります。大切なのは、将来的にM&Aを行う可能性があるならば、その“最高のタイミング”がいつ来ても逃さないように、早めから準備を進めておくことです。

片山:平時からM&Aを「経営のオプション」として持っておくことが重要なんですね。

②メディア企業のBX/DX戦略~ドラスティックな変革を後押しするM&A~

片山:続いてのテーマは、「メディア企業のBX/DX戦略」です。今、「テレビ」「ラジオ」「新聞」「雑誌」「印刷会社」「制作会社」などのメディア領域では、ものすごい勢いで業界再編が進んでいます。変化のスピードが早いデジタルメディアはもちろん、いわゆる4マスと呼ばれる従来型メディアでも、デジタル化は絶対に避けて通れない喫緊の課題です。

そんな中、従来型メディアは「スポーツ」「エンターテインメント」「映画」など膨大なコンテンツを保持しており、これらのコンテンツを活用したBX/DX戦略も増えてきていますよね。

田島:当社が支援した事例で、テレビ放送事業者の中京テレビと、デジタルコンテンツの企画制作を手掛けるアクアリングのM&Aがあります。

「デジタル領域への事業展開」を模索していた中京テレビ。「デジタルの枠にとどまらないコミュニケーションデザインで社会に貢献したい」と考えていたアクアリング。お互いが持つ、この強いビジョンが両社を結び付け、アクアリングが中京テレビのグループに加わることで、中京テレビグループのコンテンツ制作・配信のデジタル化をさらに強化していくことが可能となりました。

片山:この事例は、電通にとっても非常に身近に感じられる事例です。電通は、広告はもちろん、コンテンツプロデュースやイベントプロデュースなど、さまざまな形でメディア企業と一緒に事業を手掛けてきました。そんな長年のリレーションシップを通じて、メディア企業と経営レベルの課題を共有している場合も少なくありません。

そうした企業にドラスティックな変革が求められるとき、「M&A」を戦略の一つとして提案できることが、企業の成長支援につながります。今の時代、メディア企業に限りませんが、「M&Aなくしてドラスティックな変革は実現できない」とすら思っています。

③大企業のブランドポートフォリオ再構築~「選択と集中」のM&A~

片山:3つ目のテーマは、「大企業のブランドポートフォリオ再構築」です。近年、大企業が事業戦略の転換に伴い、自社の事業・ブランドを売却するケースが増えています。こういった「事業ポートフォリオの組み替え」にM&Aを活用するケースについて教えてください。

田島:とても有効な活用方法ですよね。長年にわたって多角的に事業を展開してきた企業が、「現在の注力事業との親和性が低い事業を切り離し、シナジー効果の見込める事業を買収すること」で自社の事業ポートフォリオを再構築する。それによって業績を回復させるだけでなく、企業価値も高めていける可能性があります。

実際に、直近5年間で数多くの企業買収と、小規模事業も含めたノンコア事業の売却を行い、着実に業績を伸ばしている企業事例もあります。こうした「選択と集中」のM&Aは、今後も加速していくのではないかと思います。

片山:電通も、複数の事業ポートフォリオ/ブランドポートフォリオを持つクライアントから、経営戦略のご相談を受ける機会は昔から多々ありました。また最近では、IRや、SDGs/ESG投資といった経営戦略のサポートも行っております。

そこまでビジネスの深い部分に携わっていたにもかかわらず、もっともドラスティックな変革をもたらす「M&A」というオプションは持っていなかったんです。ここに日本M&Aセンターという強力なパートナーが加わることで、より本質的なクライアントのグロース支援を実現できると期待しています。

田島:ありがとうございます。先ほども触れましたが、M&Aは財務的な視点だけでなく、「マーケットからの評価」や「生活者から見たブランドイメージ」なども重要です。マーケティングやブランディングでは日本トップクラスの知見と実績を誇る電通と組むことで、私たちもM&Aというツールの価値を拡張していけると、ワクワクしています。

④スタートアップのイグジット戦略~IPOに代わるゴールとしてのM&A~

片山:最後に、「スタートアップのイグジット戦略」です。電通はスタートアップの成長支援にも注力しています。日本のスタートアップはIPO(株式上場)を目指しているケースが多かったと思いますが、アメリカではM&Aによるイグジットも起業家としてのゴールとして浸透していますし、日本でも近年そうした動きが活発化してきていますよね。

田島:はい、その通りですね。ここ数年で日本の大企業がスタートアップに投資する動きが非常に増えています。特に、新規事業立ち上げの際に、その領域に特化したスタートアップを買収することで、革新的なサービスを素早く世の中に生み出す手法が大企業の間でトレンド化しています。

片山:スタートアップの側にとっても、IPOのハードルが年々高くなっていますし、上場したあとも自力で走り続けなければならない過酷な環境がある中で、「上場ではないゴール」を設定する気運が高まっています。この状況を整理すると、大企業は「スタートアップの人材や技術、スピード感」を獲得し、スタートアップは「大企業のサプライチェーンや営業力や信頼性」を獲得できる。双方に大きなメリットがあります。

田島:片山さんのおっしゃるとおりで、そもそも上場がゴールではなく、そこからさらに事業をどうスケールさせていけるのか?が重要です。そんな中でIPOの審査も厳しくなるにつれて、片山さんが挙げてくださったような「IPOにはないM&Aの魅力」に光が当たりつつあります。

単に資金調達という目的だけでなく、人材採用やブランド力などの面で大手企業の経営資源を使ったり、経営手法を取り入れたりすることが可能になります。こうした大きな流れは、今後も加速していくのではないでしょうか。

片山:同感です。ここまで、さまざまな業界、さまざまな規模の企業がM&Aを有効活用できることをお伝えしてきました。そうした多くのM&Aを手掛ける田島さんから、日本企業に伝えたいことはありますか。

田島:「攻めの売却」や「ポートフォリオ再構築」の有効性は、多くの経営者が理解してくださっていると思うのですが、どうしても「事業撤退/事業の切り離し=経営の失敗」というイメージがまだ日本では根強いのか、決断を先延ばしにしてしまう経営者も少なくありません。しかし、これだけ変化スピードが速い時代です。かつて日本が右肩上がりに成長していた時代とは異なり、どんな企業も変化しなければ成長し続けられない時代になりました。「先延ばし」や「現状維持」を続けていたら、どんどんマーケットから取り残されてしまいます。

片山:まさしく、改革の「先延ばし」「現状維持」が積み重なった結果、日本という国はイノベーションが起きにくい世の中になってしまっていると感じます。M&Aは変革そのものであり、新陳代謝であり、雇用の維持にもつながる。そして何よりも、より良い世の中をつくるためのイノベーションを起こす手段になり得るということを、日本企業に伝えていきたいですね。

田島:M&Aは、あくまでも会社の未来やビジョン実現のためにあるもの。ビジネスをどう進化させていくのかをフラットに考えていただき、その上でM&Aという戦略が選択肢に入るのであれば、ぜひ前向きに準備していただきたいと思います。

片山:クライアントやパートナー企業はもちろん、社会経済全体を持続的に発展させていくキーファクターがM&Aであると、私も信じています。日本M&Aセンターと電通が組むことで、M&Aの有効性をもっと多くの企業に知ってもらい、「イノベーティブな日本」を一緒につくっていきたいですね。本日はありがとうございました!

 

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