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チームとは、なんだ?No.1

コミュニケーションの本質は、自身にあり

2022/02/04

コミュニケーションの本質について、早稲田大学の村瀬俊朗氏に問う本連載。コミュニケーション、コラボレーション、リレーションシップ、エンゲージメントなど、とかく横文字のワードが並びがちなこの業界だが、その正体とは一体なんなのか?村瀬氏に分かりやすく解説してもらった。


「もどかしさ」から、逃げていないか?

インタビューの冒頭、村瀬氏はこんな話をしてくれた。「高校を卒業してすぐにアメリカに渡りました。そこで感じたことは、知識はあるのにアウトプットができない、というもどかしさでした。伝えたいのに、伝えられない。もちろん、稚拙な会話力のせいでもあるのですが、それだけではない。上っ面な英語力を身につけたところで、こちらの思いは相手には伝わらない。たとえば『日本の秋の素晴らしさ』といったものを、アメリカの人にどう伝えたらいいのだろう?といったような。どれだけ英語が話せるようになっても、この思いは伝わらない。ああ、もどかしい。そんな感情から、コミュニケーションというものを科学してみたい、と思ったんです」

村瀬俊朗(むらせ・としお)氏: 早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウェスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴのルーズベルト大学で教壇に立つ。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワークの研究。
村瀬俊朗(むらせ・としお)氏:
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウェスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴのルーズベルト大学で教壇に立つ。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワークの研究。

こう発言しては、仕事上で伝えたいことがうまく伝わらないのではないか、といったことをいちいち考えるのは、本当にめんどくさい。そのめんどくささを「もどかしさ」と表現されると、なんだかしっくりとくる。初恋の相手に思いを伝えられないあの気持ち。それを克服するすべを身につけていないのだとしたら、どんなに年を重ねていても、どれほどの地位に就いていたとしても、コミュニケーション力という意味では中学生レベル、ということだ。

村瀬氏はこう指摘する。「人との付き合いでも、企業の経営でも、とにかく効率性が重視されていますよね?でも、大切なことは『相反するもの』の最適なバランスをとっていくということなのだと私は思います。言い方を変えるなら、この思い、なんで相手に伝わらないんだろう、というもどかしさを克服するということです。そこで重要なのが、コミュニケーション力なんです。流ちょうに英語を話せるようになったからといって、コミュニケーション力が身についたとは言えない」。なるほどなあ、と思う。秋に、実家の裏庭に実る柿のうまさを英語で表現しろ、と言われてもなかなかうまく伝えられない。もどかしい。そこで、どうすればいいのか。この連載のキモは、まさにそこにある。

万年筆

「のめり込む」という気持ちが、変革を生む

コミュニケーションの基本は、何かに「のめり込む」ことなのだ、と村瀬氏は言う。不思議な指摘だ。場の空気を読む、相手のことを傷つけないように配慮する、といったことがコミュニケーションの基礎中の基礎だ、と僕らは思ってしまう。「エンゲージメントみたいな言葉を、私はこれこれにのめり込んでいる人間なんです、私たちはこういったことにのめり込んでいる企業なんです、と翻訳すると、その本質が見えてくると思うんです」と村瀬氏は言う。

なるほど、と思った。そう言われたら、確かに好感が持てる。必ずしもそれは共感でなくていい。私は、私たちは、こうした信念をもって、あなたに、社会に尽くしていこうと思っているんです、という思いを伝えること。それが、エンゲージメントの本質なのだ。「人と、社会と、地球のために」みたいな定型のスローガンからは、なにも感じられない。筆者はコピーライターという仕事を20年以上してきたのだが、振り返ってみれば、そんなコピーを山ほど書いてきたなあ、と反省させられた。

たとえば「なになに菌の可能性に、私たちはのめり込んでいます」と言われるだけで、なんだか頼もしいし、なんだか信じられる。そこから、コミュニケーションが生まれる。心に響くメッセージからは、なんらかの「変革」が必ず生まれていく。ビジネスでも、恋愛でも、なんでもそうだ。(#02へつづく)

村瀬氏が准教授を勤める早稲田大学
村瀬氏が准教授を勤める早稲田大学

【編集後記】

「もどかしさ」「のめり込む」、この二つのワードが、新鮮だった。さまざまな横文字で、人と人の関わり方、企業やビジネスのあるべき姿などが説明される傾向にあるが、今ひとつしっくりこない。ダイバーシティ、コラボレーション、トランスフォーメーションなどなど。いずれも概念(コンセプト)であって、気持ちを表したものではない。

村瀬氏は、そうした概念を、心に響く簡単なフレーズで解説してくれる。「ああ、もどかしい。この思いは、どうしたら解消されるのだろうか?」というところからすべてが始まっているのだ、と言われると、なるほど、と思う。

恋愛でも、仕事でも、学問でも、子育てでも、なんでもそうだ。そうしたもどかしさを解消する上で重要なのがコミュニケーションなのだ、と村瀬氏は説く。

言われてみれば、すべてがそうだ。料理ひとつをとっても「お店のような仕上がりにならず、なんでこんなにカッピカピになってしまうのだろう?」と考え、素材との対話をすることで初めて、理想の姿が見えてくる。この連載の先にどんな世界が待っているのか。非常に楽しみだ。ポイントになるのは、連載のタイトルにある「チーム」というワードだと思う。

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