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チームとは、なんだ?No.2

コラボレーションは、コミュニケーションから生まれる

2022/02/10

コミュニケーションの本質について、早稲田大学の村瀬俊朗氏に問う本連載。コミュニケーション、コラボレーション、リレーションシップ、エンゲージメントなど、とかく横文字のワードが並びがちなこの業界だが、その正体とは一体なんなのか?村瀬氏に分かりやすく解説してもらった。


職場とは「おもしろい場所」であるべき

なにかにのめり込むということは、職場や仕事をおもしろくすることなのだ、と村瀬氏は指摘する。「成果をあげろ、残業はするな、みたいなことを企業は言いがちですよね?でも、それではおもしろくない。おもしろくないということは、愛社精神も仕事への意欲も湧いてこないということなんです」

村瀬俊朗(むらせ・としお)氏: 早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウェスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴのルーズベルト大学で教壇に立つ。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワークの研究。
村瀬俊朗(むらせ・としお)氏:
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウェスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴのルーズベルト大学で教壇に立つ。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワークの研究。

リーダーシップとフォロワーシップはどうあるべきか?といった話をよく耳にするが、こう整理してもらえると腹に落ちる。「お利口さんにしていて、チームの和を乱さないことだけがフォロワーシップではない、と私は考えます。私はこんなことにのめり込んでいるんです、ということを別の部署の人間にも伝えて、共感を広げていく。点と点がつながった瞬間って、ワクワクするじゃないですか?そんなおもしろさを、もっともっと広げていくべきだと思いますね」

企業というものは、場所を提供して、給料や福利厚生で「人を縛っているもの」だと誰もが思っている。いや、思ってきた。縛られているということは、窮屈ではあるものの、ある種の安心感がある。その安心感の中で、さあ、変革するぞ!変革しなさい!と言われても、正直、とまどう。でも、「みんなで、おもしろいことをやろうぜ!」と言われると、なんだか子どもの頃に戻ったようなワクワク感があるではないか。

オフィス

多様性が、作業を難しくしている

ダイバーシティ(多様性)の一番の問題点は、作業を難しくすることなのだ、と村瀬氏は指摘する。「これまでの働き方がベストなものだったとは思いませんが、環境と働き方が合致していた、というのは事実です。もちろん、パワハラとかセクハラといった問題はありましたが、みんなが進むべき方向は明確だった。ところが、多様性を重視しようということになると、みんなで目指すべき方角が分からなくなる。いわゆる、船頭多くして……ということです。もちろん、多様性は大事ですし、女性にも若い世代にも、どんどん活躍してほしい。中途採用者や、外国人にも、チャンスは与えられるべき。でも、その多様性の理想的な活用法は、まだ見つかっていない」

村瀬氏によると、「ロールモデル」を確立することが大事なのだという。「型にはめる」みたいな古めかしい思想のように思いがちだが、そうではない。「入り口を増やすことは、簡単です。たとえば、女性も積極的に採用しますよ、とか。女性役員の比率をあげました、とか。でも、システムとして確立していないものは、長続きしないんです。なんだ、結局、おじさん中心なんじゃないか?みたいなことで、女性が離れていく」

村瀬氏は、多様性を生かすためのシステムをつくるべきだ、と指摘する。これには、ハッとさせられた。あなたは絵を描くのが得意なのね。あなたは文章を書くのが得意なのね。あなたは計算するのが得意なのね。じゃあ、勝手にやってれば?別に邪魔はしないし。これでは、なにも生まれない。なんのコラボも起きない。そこにコミュニケーションがないからだ。多様性は、難しい。でも、難しいからこそ、それが組み合わさったときに、いままでにない革命が起こる。

ピザ

「ハネる」とは、どういうことか?

良くないチームとは?との筆者からの質問に、村瀬氏はこう答えた。「一言でいえば、ゴールが明確でない、ということでしょうね」。個人の担当だけが明確で、みんながコミットできる共通の目標がない、ということだ。「職場には、たいていクセのようなものがあります。慣習とか、ルールとか、そういったものです。そのパターンを突き破ったときに、みんながハネ(跳ね)られるのだと思います」

ハネる、というワードは久々に聞いたが、新鮮だ。組織の中のリーダーが、個々のチームメンバーの「いぶき」を一つにまとめて「開花」させる。そのためには、「遊び場」のような「枠」をつくって、その枠の中で、思う存分、いろんなことをさせる。上から目線で書いてしまったが、そう言われたらハネてやろうと思うではないか?毎日定時に出社して、あうんの呼吸で「よろしく頼むよ」とやっていては、そりゃあ、ハネられないな、とあらためて思った。

イノベーションを起こせ、と会社から言われることが多くなったが、トライしてみようぜ!遊んでみようぜ!と言われれば、なんだかやる気が起きてくる。「みんなで80点をとりましょう、ではイノベーションなんか起こせない。時には30点のときだってある。でも、まれに120点の結果が出る。それがイノベーションだと思います。おしなべて70点でもいいんです。そんな環境をつくることが、経営者や管理職のもっとも重要な役目なんです」(#03へつづく)

村瀬氏が准教授を勤める早稲田大学
村瀬氏が准教授を勤める早稲田大学

【編集後記】

「働き方改革」という言葉が叫ばれて、久しい。では、どう改革していけばいいのか。持続可能な社会と企業を生み出すために、効率を高め、あらゆる差別をなくし、デジタルを活用した、クリエイティブで誰もが生きがいを感じられる……みたいな美辞麗句はいくらでも語れる。じゃあ、そのためになにをすればいいのか?と言われると、人も企業も、途端に押し黙る。改革することが目的になっていて、その先のビジョンがないからだ。

村瀬氏からは、そうしたことに目を向けるべきだ、という視点を教わった。たとえば、ジェンダーフリーということそのものは、いいことだ。でも、目的はジェンダーフリーではない。男女が平等に付き合える、平等に働ける。その先に、どういう未来を創造できるのか、ということが重要だ。ともすれば、「女性役員および女性管理職を何%以上にしました。ですから、わが社は最先端をいっている企業です。以上」みたいなことで、話がおしまいになってしまいがちだ。大事なのは、その先だ。「チーム」をテーマとしたこの連載での村瀬氏の分かりやすい解説に、期待が高まる。

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