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チームとは、なんだ?No.3

オンラインとオフラインのはざまで(前編)

2022/02/18

コミュニケーションの本質について、早稲田大学の村瀬俊朗氏に問う本連載。コミュニケーション、コラボレーション、リレーションシップ、エンゲージメントなど、とかく横文字のワードが並びがちなこの業界だが、その正体とは一体なんなのか?村瀬氏に分かりやすく解説してもらった。


「6」から話せるのが、オフラインコミュニケーションの利点

「チームの本質」について、コミュニケーションの視点から切り込む本連載。#03と#04では、リアルとリモートのコミュニケーションの利点と課題を掘り下げていきたい。まずはリアルな(=オフラインの)コミュニケーションの利点について、村瀬氏に聞いた。「たとえていうなら『6』から話せる、ということでしょうね。『1〜5』まではお互い、すでに分かり合えている。あの件、その後、どう? そうだよな。もろもろ、あるよな。今夜ちょっと、飲んで話そうか。みたいな。オンラインではまったく通用しない会話で、物事が進んでいく。ここが、いい意味でも悪い意味でも、リアルなコミュニケーションの特徴だと思います」

村瀬氏のいう「6から」という例えは、互いを理解しあって、どういう分野が得意なのか、どういう分野が苦手なのか、すでに分かりあえている、ということだ。サッカーでいうならば、相手にこういうパスを出して、自分はこっちに走ろう、といったような。

難しい言葉で表現するなら「暗黙知」ということだ。この「暗黙知」という言葉、現代の会社ではとにかく否定されがちだ。暗黙知で成立している会社は、いずれダメになる、といったように。「分かるでしょ?分かるよね?じゃあ、よろしく。いい感じで頼むよ」みたいな指示を出す上司は、役立たずどころか、会社に不利益しかもたらさない、といったことが常識化されていく傾向だ。でも、そうしたコミュニケーションも大事なのだ、と村瀬氏は言う。

「相手のことや、パートナーの動きが予測できないと、人間は構えてしまうんです。それは指示する側も、指示される側も、です。逆説的かもしれませんが、予測するという行為は、受動的なものなんです。相手はこう動くだろうな、ならば自分はこう動こうという、ある意味では相手に動かされている感覚です」

村瀬俊朗(むらせ・としお)氏: 早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウェスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴのルーズベルト大学で教壇に立つ。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワークの研究。
村瀬俊朗(むらせ・としお)氏:
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウェスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴのルーズベルト大学で教壇に立つ。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワークの研究。

そして、その受動的なコミュニケーションの最大のポイントは「立体的」なところにある、と村瀬氏は指摘する。パソコンの画面から伝わってくる情報にはない、その人の性格、経歴、過去の失敗談などなど、あらゆる情報が「立体的」に伝わってくるからこそ、「今回も、よろしく頼むぞ」「お任せください」みたいなコミュニケーションが成立する。

ソーシャルメディアに、ソーシャルスキルはそれほど要らない

一方で、リモートの(=オンラインの)コミュニケーションにも、もちろん利点はあると村瀬氏は言う。「最大の利点は、ソーシャルメディアが、情報共有に特化できる点だと思います。SNSやメールのマナーといったことがしばしば取り上げられますが、リアルなコミュニケーションに比べれば、ものすごく表層的です。表層的であるがゆえに、他人の心を簡単に傷つけたりはするのですが、たとえば、箸のあげおろしや衣服の着こなしといったことまでは伝わらない。昔の言葉でいうと、お里が知れる、みたいなことにリアルなコミュニケーションでは常にビクビクして緊張していた。お辞儀をする際の間であるとか、お辞儀の角度とか。ソーシャルメディアではそうしたやりとりの縛りが弱くなるのです」

ソーシャルメディアのイメージ

なるほど、と思った。リアルな付き合いでは、一度、名刺交換して、今度いちど食事でも、みたいなことをして、お互い打ち解けたところでようやく、本題に入ったりする。でも、リモート会議などでは初対面の人とでも、いきなり打ち解けて、さっそくですが、と打ち合わせに入れたりする。社会的地位の確立していない新入社員であっても、自由に意見を言えたりする。そこから、ビジネスが生まれたりする。

「ソーシャルメディア」と言われると、ルールやマナーに縛られて、ともすればハラスメントを起こしてしまいがちなのではないか、と53歳の筆者などはビクビクしてしまうのだが、そうではないのだ。

「対面でのやりとりは社会的地位や身なり、しぐさなど、さまざまな情報が影響するため、相手に受け入れられるのに時間がかかります。それがあって初めて、自分の意見が言える。自分の技術を披露することができる。そうした時間や労力をかけずに、極めて効率的にコミュニケーションをとることができる。ここが、オンラインコミュニケーションの最大の利点だと思います」(#04につづく)

村瀬氏が准教授を勤める早稲田大学
村瀬氏が准教授を勤める早稲田大学

【編集後記】

オフラインの、リアルな対面によるコミュニケーションが懐かしいな、良かったな、などと発言すると、いかにもおじさんっぽくて恥ずかしい。一方で、オンラインのコミュニケーションの怖さのようなものは、年齢にかかわらず感じているだろう。知らないうちに誰かを傷つけているかもしれない、自分でも気づかないうちに心に傷を負っていた、といったような。

コミュニケーションの手段が多様化し、進化すればするほど、人は悩む。便利なはずのデジタルが、余計な仕事を増やしていたりする。パソコンの画面に散乱しているファイルを整理するのに半日を費やしていたりする。そうなると人は、情報を処理することに心を傾けてしまう。他人との接触を極力避けて、余計な作業を排除したくなる。でも、それでは豊かなコミュニケーションなど生まれるはずもない。

この連載の目的は「コミュニケーション術」のノウハウを獲得することではない。豊かなコミュニケーションがもたらす「チーム力」に迫ることだ。次回以降の村瀬氏による指摘が、いまから待ち遠しい。

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