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Dentsu Design TalkNo.18

福里真一×佐野研二郎×山崎隆明×谷山雅計

「CMプランナー福里真一と3人の刺客たち」

2014/02/21

Dentsu Design Talk 第109回(2014年1月10日実施)は、『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)を出版したCMプランナーの福里真一氏を招き、福里氏がアートディレクターの佐野研二郎氏、CMプランナーの山崎隆明氏、コピーライターの谷山雅計氏と個別にトークセッションを繰り広げる「CMプランナー福里真一と3人の刺客たち」を開催した。

(企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀    記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治) 

 

福里真一氏
福里 真一氏
ワンスカイ
CMプランナー/コピーライター
佐野研二郎氏
佐野 研二郎氏
MR_DESIGN
アートディレクター
山崎隆明氏
山崎 隆明氏
ワトソン・クリック
クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー
谷山雅計氏
谷山 雅計氏
谷山広告
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター

「電信柱の陰から見てるタイプ」とは

 

福里氏は、今回のトーク出演のオファーに「そもそも“電信柱の陰から見てるタイプ”という地味な性格であり、100回を超える電通デザイントークのシリーズで、本を出すまで過去に一度も声がかかったことのない自分がメインでは、お客さんが集まる自信がない」として、アートディレクター、CMプランナー、コピーライターの各分野から「確実に客が呼べる3人を指名した」と、まず今回のトーク相手と意図を説明。会場に集まった大勢の観客を目にしてひと安心した様子だ。

一人目の相手として選ばれた佐野研二郎氏は、福里氏がCMを手がけているトヨタの“ReBORN”や“TOYOTOWN”のキャンペーンでグラフィックを担当しているアートディレクター。しかし、キャンペーン全体を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(シンガタ)が「CMとグラフィックは完全に切り分けて作業するタイプなので、一度も一緒に打ち合わせをしたことがない」という関係性だとか。トークは、佐野氏が改めて見たい福里氏のCMを流しながら、福里氏のアイデアの生みだし方や制作のプロセスを尋ねていった。

 

才能がないことを自覚して訪れた転機

 

代表作の一つである日本コカコーラ・ジョージアのCM「明日があるさ」は2000年の作品。3社競合のコンペで、当時在籍していた電通チームが一度提案をして却下された後の再度のプレゼン案で、「世紀の変わり目に人々が前向きになる広告」というクライアントの要望通りに「(必ず)喜ばれる企画」を考えた結果できたものだという。「作っている時は自分も周りもまったく確信がもてなかったけど、オンエアされたらヒットした感じです」と振り返る。

実は、福里氏がこのようにクライアントのオリエンテーションを素直に聞いた案を考えるようになったのは30歳くらいからだという。「若い頃は自分にすごく才能があるか、全然ないかのどっちかじゃないかと思っていたんです。で、自分のひねくれた性格を生かした、変な企画ばかり考えていたのですが、これはいいと思った企画はクライアントに通りにくく、無理やり通して作ったら話題にもならず、悶々とした20代を過ごして30歳くらいになった時、これは才能がないんだなとようやく気づいたんです」。同じ時期に佐々木宏氏に出会ったことも大きく、自分が面白いと思った企画をことごとく否定され、「作り手目線じゃなくて受け手目線で考えろ」と徹底的に叩きこまれたことも転機となったという。「明日があるさ」のCMもそんな時期に生まれた作品の一つだった。

 

豊かな記憶を武器に企画に活かす

 

佐野氏は「クリエーティブの人が、自分に才能がないとはっきり自分の本に書いているのはすごい」と指摘し、「(表現として)新しいものを作るというより、例えば商品であれば完全に商品発想のアイデアで誠実に商品広告になっていて、アートっぽく賞を狙ったりしていない」と、福里氏が作るCM の特徴を分析。そして、著書の中で佐野氏が一番大切だと感じたのは、「企画は記憶でしか考えることができない」という言葉だという。それを受けて福里氏は、「人間の脳は必ずそういう風にできていて、結局は、自分の中にある記憶しか企画の材料がない。自分のように電信柱の陰から見ているタイプは、例えば祭りの中心で祭りに夢中になっている人より、そこで起こっている出来事をよく見ており、豊かな記憶を持っているかもしれない。そういう資質を武器にして企画に活かしている」と答えた。

 

クライアントに素直に応える職人兼ヒットメーカー

 

2番目に登場したのは、リクルート・ホットペッパーのCMなどを手がけ、福里氏が「21世紀最高のCMプランナーの一人」と尊敬する山崎隆明氏。山崎氏は福里氏のことを、「才能がないとか言ってますけど実は才能の塊で、彼は今一番“プロ”のCMプランナーだと思います」という。それを受け、「“自分はこういうものが作りたい”という考えは外して毎回職人的に作っていこうと思っているので、そういう意味ではプロと言えるのかもしれない」と福里氏。

さらに山崎氏は、人と違うことをやらなければいけないという考えに囚われている人がいる一方で、「クライアントの言うことを素直にやるプランナーも割といると思うけど、それが世の中で話題になるものになることはほとんどない」といい、それができる稀な人が福里氏だと指摘する。例としてトヨタのCM「こども店長」を挙げ、「トヨタのお店の商品情報を伝えるのに、状況設定をトヨタのお店にして店長がしゃべる。そのまんまの企画です。但し福里くんはその店長に子役をもってきて“こども店長”と呼んだ。で、これを流したら大ヒットして店長役の加藤清史郎くんは紅白にも出た。別のCMでジョージアの『明日があるさ』も大ヒットして映画にまで発展。ここが福里くんのプロとして凄いところです」。

 

毎回新鮮にやり続けるシリーズの強み

 

さらに福里氏らしいシニカルな面が出て好きなCMとして山崎氏が挙げたのが、2006年から始まったトミー・リー・ジョーンズが宇宙人に扮して地球を調査するというサントリー・ボスの「宇宙人ジョーンズ」シリーズ。福里氏によれば、「クライアントにもプレゼンした瞬間に手応えがあり、今までに見たことがない良いものができたんじゃないかと思っていたら、オンエア当初は実は反応が悪かった」という。それでもシリーズとして続けていたら段々と話題になり、八代亜紀の「舟唄」にジョーンズが涙を流す回で一気に話題になっていった。驚くべきことに現在まで8年も続くロングシリーズで、山崎氏は「同じところで新鮮にやり続けるというのは広告としてとても強くて、それを毎回、ものすごく簡単にやってるように見えるのがまた悔しい」と述べた。

フレーム先行型の思考

 

最後の刺客として登場したのは、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」などを手がけるコピーライターの谷山雅計氏。福里氏とは東洋水産・マルちゃん正麺のCMを一緒に手がけていて、「今回の3人の中では普段から一番よく話している間柄」とのことで、共に仕事をすることも多い谷山氏は、日ごろ打ち合わせをする中で感じることを質問した。

最初に、「福里さんのアイデアは打合せ1回目からなぜあんなに“完成形”なのですか?」と投げかけ、「アイデアを3つ出してきたら、3つともその後の展開も含めてキャンペーンまで出来上がっていて、本当に最初から企画が完成しています」と、多くの著名なプランナーと仕事をしてきたコピーライターの視点で、福里氏のようなタイプは珍しいと驚く。福里氏は、「自分は具体的な取っ掛かりから考えるタイプではなく、理屈で考えて作るからだと思います」と述べ、自分の思考を「フレーム先行型」と表した。谷山氏は「福里さんはスーパーレベルの高い、整理上手なんですよ。でも普通のプランナーなら整理して作るだけだけど、福里さんの場合はヒットもさせる。その凄さが謎です」と指摘した。

 

面白いCMが世の中を面白くする

 

福里氏は最後に、「20代になかなか思いどおりに作れなくてモヤモヤしていた自分からすると、今はCMを作り続けられるという状況にあるので、とにかく今後もいっぱいCMを作ろうと思っています。その思いは一度もブレたことがないですね」と展望を述べた。その言葉は「CMを面白くすればテレビが面白くなるし、世の中も少しだけ面白くなる」という著書の締めにも通じる思いなのだろう。トータル3時間半に及んだトップクリエーター同士、豪華刺客たちとのトークセッションは、大盛況のうちに幕を閉じた。

 

〈了〉