チームとは、なんだ?No.6
心理的安全性の本質に迫る(後編)
2022/03/10
コミュニケーションの本質について、早稲田大学の村瀬俊朗氏に問う本連載。コミュニケーション、コラボレーション、リレーションシップ、エンゲージメントなど、とかく横文字のワードが並びがちなこの業界だが、その正体とは一体なんなのか?村瀬氏に分かりやすく解説してもらった。
葛藤から、逃げてはいけない
「チームの本質」に迫る、本連載。最終回の本稿では、葛藤というテーマを村瀬氏にまずぶつけてみた。ひとりのサラリーマンとしても思うが、「会社のために貢献したい」という気持ちと「自身のキャリアを高めていきたい」という気持ちは、誰もが持っている。
でも、ともすればそれは、意に反する反応をまねく。SNSでの発信にしてもそうだ。自分の思いをなんとか世の中に届けたい。でも、発信をすればするほど、ネガティブな反応が届く、といったように。
それに対して、村瀬氏はこう答えてくれた。「コミュニケーションの基本は、葛藤というものにあると思います。ジレンマと向き合い続ける、といってもいい。いろいろな意見が出てくるとめんどうくさい。でも、そこから逃げていると、自身も成長できないし、チームや企業としても成長できない。効率性だけを追求していては、人は成長できないのだと思います。ネガティブなものを排除することは、それほど難しくはない。でも、そのネガティブなものの中にポジティブな可能性を見いだすからこそ、成長のきっかけがつかめる。チームとは、そのためにあるのではないでしょうか?」
村瀬氏の指摘を受けて、ピンとくるものがあった。会議などでネガティブな意見しか言わない人のことだ。自身を振り返っても覚えがある。「おおむねいいと思うのですが、この点に不安材料がないでしょうか?」みたいな発言をしておけば、なんだか格好がつく。でも、改善策を提示することなく、ただネガティブな指摘をしただけでは、チームとして前に進んだことにはならない。葛藤や対立があるからこそ、自身もチームも成長できるのだ。
サステナビリティの核は、「チーム」
「暗黙知、言葉をかえれば共有認知というものは、徐々にズレていきますよね?時代によってもそうですし、世代間でもズレていく。そうしたことに、われわれはどう向き合っていけばいいのでしょうか?」、そんな筆者からの質問に、村瀬氏はこう返した。
「共通認知には、二つの要素があると思います。一つは、チームとしての動き方や働き方を考えるということ。もう一つは、チームのメンバーに対する共通の理解を深めるということ。つまり、個々のメンバーのクセとか個性とか強みとか弱みとかを、チーム全員が同じように把握しているということです。あいつはきっとこう考えるだろう、こう行動して成果をあげるだろう。でも、あいつの弱点はここにある。ならば自分がサポートしよう、というような。そうしたことで、チーム力は高まっていくのだと思います」
村瀬氏の指摘の後者は、特に新鮮だ。「チーム」と言われるとどうしても「同じ釜の飯を食う」といったことがイメージされる。つまり、みんながみんな、同じ行動をしなければならない、といったような発想だ。
「そうではないんです。共通のゴールに向かって、個々人がそれぞれの役割を効率的にこなす。そのためには、メンバーの個性をみんなで共有している必要がある。たとえば、職場でありがちなのは、同じような作業を個々人がやっているみたいな非効率な現象です。よく言われる『作業のかぶり』のようなことです。それを防ぐためになにより必要なことは、コミュニケーションだと思います」
長く、成果をあげつづけられるチームの本質は、コミュニケーションにあるのだ、という村瀬氏の指摘には、膝を打った。オフィスにも行けない、飲みニケーションもできない、という環境の中で私たちは、コミュニケーションの本質というものにいま一度、目を向けるべきだ。メールを全返信したからチームとしての仕事が完了した、などというのは幻想にすぎない。
【編集後記】
インタビューの最後に、「チームにとってのスターの役割とはなんですか?」というちょっとした変化球を村瀬氏にぶつけてみた。村瀬氏らしい視点での、答えがもらえた。「スターの役割は、チームの外からの注目を集めるということです。そのことによって、チームの構造がつくれる。勝ちパターンが生まれるんです。これは、アイドルグループにも、スポーツにも、企業にも共通することです。そして、一度つくったその勝ちパターンをつくっては壊し、つくっては壊し、していくことで成長が生まれる」
最後に村瀬氏は、このようにインタビューをしめくくった。チームにとってもっとも大事なことは「余白」や「遊び」があることなのだ、と。チームという構造をつくるが、常に「余白」や「遊び」を残しておく。そこから、これまでになかったアイデアや次世代のスターが生まれてくるかもしれないし、ビジネスが大化けすることもある。
わずか6回の連載で、「チームとは、なんだ?」ということのすべてが解明されたとは考えていない。でも、そのことを考える上での大いなるヒントを村瀬氏からは得た。大切なことは、いわゆる体育会系みたいな、あるいは愛社精神みたいな「精神論」でチームというものを捉えていてはいけない、ということだ。