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まだ間に合う!中国インバウンド&越境EC入門No.5

トップKOLのリンピンさんに聞く!中国インフルエンサーマーケティング

2022/04/25

リンピン氏、桜庭氏
リンピン氏、桜庭氏

中国ではKOL(Key Opinion Leader)や、KOC(Key Opinion Consumer)と呼ばれるインフルエンサーが、SNSを中心としたECの購買行動に大きな影響を与えています。

今回のゲストは、日本文化や商品・サービスを中国に向けて発信する林萍在日本(リンピンザイリーベン。以下リンピン)氏。中国のSNS「Weibo」では、2022年4月現在で総フォロワー約566万人という、まさにトップクラスの在日中国人KOLです。

電通の中国ビジネス専門チーム・CXC(シーバイシー、China Xover Center)の桜庭真紀が、中国インフルエンサーマーケティングのリアルな実態や、越境ECを成功させるコツについてリンピン氏に話を聞きました。

<目次>
KOLの役割は「憧れ醸成」で、KOCの役割は「具体的な使用感」
京都の梅酒がブームに!フォロワーが求めるリアルな“発掘感”と“温度感”
ライブコマースで目指すべきは“爆売れ”よりも“ブランディング”
変化の速い中国市場攻略のポイントは“スピード感”と“慎重さ”の両立


KOLの役割は「憧れ醸成」で、KOCの役割は「具体的な使用感」

桜庭:リンピンさんは在日中国人KOLとして活躍され、中国最大級のSNS「Weibo」で約566万人のフォロワーを獲得するなど、大きな影響力をお持ちですね。どうして日本のことを発信するようになったのでしょうか?

リンピン:私は日本映画が大好きなんです。それで「中国語版の出ていない日本映画も見られるようになりたい!」と日本語の勉強を始め、そのうち映画だけでなく日本の文化や生活にも興味を持つようになりました。

来日して、日常生活や旅行など身近な日本の情報を中国のフォロワーに向けて発信していたところ、2010年以降の訪日ブームと共にフォロワーが急増し、KOLとして仕事が成り立つようになったのです。おかげさまで、今は日本映画を見る時間がないほど忙しくさせてもらっています(笑)。

桜庭:ここで、中国市場を語る上では欠かせないKOLとKOCの違いを改めて教えていただけますか?

リンピン:KOLは職業としてクオリティの高いコンテンツを作る必要があり、フォロワー数も多く、大きな影響力を持っているのが特徴です。一方、KOCは買い物が好きでSNSでシェアできる人なら誰でもなれます。

KOLは「ブランドの認知や信頼性、憧れなどを醸成する役割」で、KOCは「より身近な使い方や感想を届ける役割」と考えると分かりやすいかもしれません。

桜庭:なるほど、ビジネス観点でも役割が違ってくるのですね。どうして、中国の生活者はKOLやKOCの情報を重視しているのでしょうか?

リンピン:まず背景として、中国人の間では、2000年代後半からSNSが台頭し、同時に「淘宝網(Taobao)」などのECプラットフォームも整備されたことで、「インターネットでの情報収集」が急速に浸透しました。

加えて、中国人は日本人と比較するとプライベートをシェアすることに積極的な人が多いので、生活者起点の情報発信が膨大に増加し、その中からファンを集めるインフルエンサーのような存在も出てきたのです。

桜庭:たしかに、日本のネットユーザーと比べると、プライベートをシェアすることに抵抗がない印象があります。

リンピン:そしてインターネットの情報自体が、貧富の差に関係なく誰もが公平に受け取れるのも、それまでとの大きな違いです。従来はリーチできなかった層にも、KOLたちが「憧れ」を訴求できるようになったのです。

KOLビジネスはどんどん成長しており、中国ではKOLの専門学校があったり、上場しているKOL関連企業もあったりと、一つの産業として成立しています。

京都の梅酒がブームに!フォロワーが求めるリアルな“発掘感”と“温度感”

リンピン氏、桜庭氏

桜庭:中でもリンピンさんはトップクラスの在日中国人KOLとしてご活躍されていますね。どのようなコンテンツ作りを心がけているのでしょうか?

リンピン:例えばタイアップで日本の商品を紹介する場合、まず2週間はその商品を試した上で、紹介するかどうかを決めています。

桜庭:え、そうなんですね。ということは、お断りすることもあるのですか?

リンピン:はい。もしかすると、断るケースのほうが多いかもしれません。ストーリー性のある商品や、特性の強い商品であれば紹介したいですし、あるいは特性が弱くても自分が感動したところがあればぜひ紹介したいのですが、ちょっと怪しいものや使用感があまり良くないものは、発信していません。

桜庭:なるほど、そうやって吟味しているからこそ、フォロワーからの信頼も厚いのですね。

リンピン:1回でも“うその発信”をすると、ファンはたちまち離れていきますから。KOLとしての寿命は、一般的に3〜4年程度と言われています。次から次へと新しいKOLが出てくる中で、ファンを飽きさせずに、信頼を失わずに、クオリティの高いコンテンツを作り続けることはとても難しいんです。

なので、取り上げる商品は慎重に選んでいます。ただ、日本の商品は本当にストーリーが魅力的で、使用感も洗練されているものが多いので、紹介しやすいと感じています。

桜庭:リンピンさんが特に紹介しやすいカテゴリーやジャンルはありますか?

リンピン:まず、カテゴリー問わず、ストーリーや特性のあるもの。そして、もともと旅行が好きで、日本各地の化粧品や食品を応援したいモチベーションが高いので、実は都市部の大企業よりも、中小企業の商品のほうが紹介しやすかったりします。あとは、日本らしい最先端の技術を使っている商品も大歓迎です。

桜庭:たしかに、リンピンさんのフォロワーは旅行好きな方も多そうですよね。

リンピン:そうなんです!だから、旅行好きが求める“発掘感”や“温度感”を大切にしています。例えばつい最近、京都の酒蔵が作っている梅酒に出合ったのですが、私は今まで飲んだ梅酒の中で一番おいしいと思って紹介しました。

その酒蔵の方は、最初に訪問した際、接客はていねいですが少し距離感を感じたんです。でも、がんばってその良さをフォロワーに紹介して、再び訪問すると、自宅まで案内してくださって、一緒に利き酒も楽しみました。そういう、京都という町のリアルな温度感も含めて発信するんです。京都から中国への配送料や関税なども含めるとけっこう高いのですが、私のフォロワーの中ではプチ梅酒ブームが起きていますよ(笑)。

桜庭:いかにも公式の宣伝というものよりも、リアルな体験に基づく情報であることに価値があるのだと感じました。そう考えると、日本企業、特に地方の中小企業にとって在日中国人KOLは重要な存在ですよね。人数はどのくらいいるのでしょうか?

リンピン:今日本にいる中国人KOLは100人ぐらいだと思います。もともと旅行関係のお仕事をしていた在日中国人が、コロナ禍をきっかけにSNSで情報発信を始めてファンを獲得し、KOL化したケースも増えています。

ライブコマースで目指すべきは“爆売れ”よりも“ブランディング”

リンピン氏

桜庭:中国ではKOLやKOCによるライブコマースが非常に盛んですね。リンピンさんから見て、ライブコマースに向いている商品カテゴリーはありますか?

リンピン:ライブコマースだと、味や触った感触よりも、「視覚的な訴求」のほうが向いていますから、テクスチャーやパッケージに特徴があるものは紹介しやすいと思います。具体的には、洋服やバッグ、アクセサセリーとの相性が良いと感じます。あとは化粧品ですね。

桜庭:リンピンさんはお酒も紹介していますよね。お酒も難しい部類に入るのでしょうか?

リンピン:お酒のライブコマースは難しいですね。主に、酒蔵のストーリーの魅力にフォーカスしたり、飲み方の提案をしたりといったアプローチになります。ただ、必ずしもライブコマースで商品が売れなくてもいいんですよ。大切なのは、ライブコマースを「売り場」として捉えるよりも、「ブランディング活動の一環」として活用することです。

桜庭:ライブコマースは限定セールを展開するなど、“売る”目的に特化した場だと思っていたのですが、実はブランディングに使われていると。

リンピン:はい。中国でもライブコマース単体で大きな利益を出せるメーカーは少ないと思いますよ。その場でたくさん売るより、商品をターゲットに認識してもらい、一度使ってもらうチャンスを作る、そのための場として活用されるケースが多いです。

桜庭:単なる安売りではないのですね。そうなると、企業側もKOLも、最初からブランディングの場なんだと意識して取り組むことが重要ですよね。

リンピン:はい。とはいえもちろん、生活者はライブコマースに“お得感”を求めているので、割引などの限定キャンペーンは欠かせません。その上で、爆売れを目指すのではなく、自分たちの商品の良さを知ってもらう機会にすることが大切です。1回の配信での売り上げが低くてもいいので、リピーターにつながるお客さんを育成するんです。

桜庭:日本はまだあまりライブコマースが根付いていませんが、中国人向けのECを考えるなら、ぜひ活用したいですよね。日本企業がライブコマースを展開するにあたってのアドバイスはありますか?

リンピン:日本企業の相談を受けていて感じるのは、ライブコマースをテレビショッピングと混同される方が多いということです。どちらかといえば、デパートのポップアップストアのほうが近いイメージです。つまり、テレビショッピングのような一方通行の情報発信ではなく、通りかかったお客さんとの「交流」が大事なんです。

KOLが、視聴者からのコメントを積極的に拾ったり、商品とは直接関係のない会話をしたり。お客さんはライブコマースに楽しさを求めているので、「来てくれた人を楽しませられるかどうか」がポイントです。

あとはライブコマースをやるなら、ライティングや画質、アングルなど、見せ方を勉強したほうがいいですね。商品のテクスチャーや色合いがよく分からない状態でお客さんは購入しないですから。中国にはライブコマースのマニュアル本もたくさんあるんですよ(笑)。

桜庭:ライブコマースのマニュアル本がたくさん売られているというのは驚きです。KOLの皆さんは、本当によく勉強されているのですね。

変化の速い中国市場攻略のポイントは“スピード感”と“慎重さ”の両立

桜庭氏

桜庭:リンピンさんのフォロワーにはいわゆるZ世代も多くいらっしゃると思います。中国のZ世代ならではの特徴はありますか?

リンピン:情報収集能力が高いのは言わずもがなですが、私や親世代の中国人が感じている“昔は貧しかった”という感覚がないように思います。Z世代の人たちは、海外のハイブランドも好んで着ますが、質やデザインが良いものであれば中国産の商品を買うことにも抵抗がありません。

家電製品も、私たちの世代だと日本製が一番長持ちするので好評でしたが、若い人たちは携帯電話ですら1〜2年で買い替えるようなスピード感で生きているので、「長持ち」や「丈夫」といった日本製品の特性とは少し合わない部分もあります。

桜庭:それは大きな変化ですね。中国のZ世代に、ストーリーや歴史を感じさせる日本のブランドを好きになってもらうことは難しいのでしょうか?

リンピン:そうとは限りません。あくまでも傾向の話であって、そもそも中国は人口の多い国ですから(※世界人口白書2022では約14億4850万人、世界1位)、日本の伝統のていねいさが好きな人もたくさんいますよ。

それに、日本が数百年をかけて紡いできた美意識は簡単にまねできるものではないので、デザイン性が高いアパレルやアート系の分野は、中国のZ世代にもヒットする可能性はあると思います。

桜庭:かつてのように品質の良さだけでは勝負できないということですね。デザイン性などで日本の良さを伝える商品に可能性がありそうです。

リンピン:品質の良いものを作るにしても、中国では「スピード」も大事です。本当に変化が速いので、ていねいに時間をかけてテストや開発をしているあいだに時代遅れになってしまうケースもあるかもしれません。品質とスピードのバランスが大切ですね。

一方で、越境ECビジネスでは“慎重さ”も無視できません。日本企業が参入するなら、中国で本当に信頼できるパートナーを見つける必要があります。中国のリアルなビジネスに精通しているスタッフや外部パートナーに適切なアドバイスをもらいながら、お金の使いどころを精査するのがいいと思います。

桜庭:リンピンさんのようなKOLに、商品開発やマーケティングのアドバイザーとして関わってもらえたら、ブランド側としては心強いですね。

リンピン:実際、商品開発の段階から携わらせてもらい、意見交換やアドバイスをしているケースもあります。ただ、やっぱり案件がないとメーカーさんと交流する機会がないので、もう少しフラットに情報交換できるような「場」があるといいなって思います。

桜庭:電通も、中国のリアルな情報を知りたいというクライアントニーズに対して、KOLの方々にご協力いただきながら応えていきたいと思っています。最後に、中国越境ECを検討している日本企業に伝えたいことはありますか?

リンピン:今、中国の生活者は、どんどん目が肥えています。それでも、日本の商品の競争力は非常に高いと思っています。今まで私が日本の商品を紹介して、その品質に対してファンからクレームが来たことはありません。これは本当にすごいことです。それほど、みなさんが誇りを持って素晴らしいものを作られているのだと思います。

だからこそ、商品の魅力を「知ってもらう」ための工夫が必要です。ぜひ、KOLやKOCをうまく活用し、中国のファンと口コミを獲得するきっかけを作ってください。

桜庭:電通グループでもクライアントに提案する機会が増えている、インフルエンサーマーケティングやライブコマース、Z世代の動向まで、中国のリアルな実態を教えていただき、非常に勉強になりました。これからもよろしくお願いいたします。

リンピン氏、桜庭氏


KOL・KOCを活用したインフルエンサーマーケティングの企画立案・実施は、電通CXCまたはトランスフォーメーション・プロデュース局にご相談ください。

CXC(シーバイシー、China Xover Center)は、インバウンド、越境EC、In-Out(日本企業の中国市場進出)Out-In(中国企業の日本市場進出)などを推進する、電通の中国ビジネス専門チーム。

CXC(シーバイシー、China Xover Center)は、インバウンド、越境EC、In-Out(日本企業の中国市場進出)、Out-In(中国企業の日本市場進出)などを推進する、電通の中国ビジネス専門チーム。


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