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STARTUP GROWTH TALKNo.4

衣食住に、“遊”を。余暇産業に革命を起こすアソビューの志

2022/04/26

本連載では、スタートアップ企業の起業家、経営者、投資家、CMOなどが、会社や事業の成長過程で直面した課題をどのように乗り越えたのか、スタートアップ支援を行なっている電通社員との対談形式でお届けします。

今回のゲストは、遊びの予約サイト「アソビュー!」を運営するアソビュー株式会社代表取締役CEOの山野智久氏。遊び産業における日本最大級のプラットフォームに成長した背景にはどのような戦略があったのか?電通の廣田元章が話をお聞きしました。

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【アソビュー!とは】
全国各地の娯楽施設やレジャー体験など、“遊び”を検索・予約できるウェブサービス。600種類の遊びを8800施設以上紹介し、登録ユーザー数は約630万人と、国内最大級の規模を誇る。
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旅行先の“遊び”に、みんなの困りごとがあった

廣田:山野さんと最初にお会いしたのは15年以上前になりますよね?

山野:社会人1年目ぐらいから仲良くなって、よくご飯に行ってましたね。

廣田:いつか起業したいという話は聞いていたのですが、3、4年であっという間にリクルートを辞めて独立したので驚きました。2011年に創業されましたが、そもそも遊び産業(余暇市場)に目を付けたのはなぜですか?

山野:リクルート時代に身をもって学んだのは、「成長産業の導入期にサービスを作ることが重要だ」ということ。要するに、お客さまのニーズが増えている場所に価値を提供することこそが、社会の役に立てることだと考えていました。参考にしたのは2011年に内閣府が打ち出した「クール・ジャパン戦略」です。

今後、日本の成長戦略に欠かせないのが外貨を稼げるコンテンツを磨くことであり、具体的な成長産業として伝統工芸、建築、食、ポップカルチャー、ファッション、そして観光の6分野が挙げられていました。

この中で自分が一番好きな観光をテーマにインサイトを調べてみると、実は多くの人たちが旅行先ですることに困っていたのです。旅行だろうとお出かけだろうと、現地で何をするのかが決まらない。それはつまり、“遊び”にみんな困っているということです。今後、ヨーロッパのように余暇や家族と過ごす時間を大切にする価値観が日本にも広がる可能性を考えると、遊び産業はまだお客さまの困りごとが解決されていない成長産業になるのではないかと考えました。

廣田:なるほど。ちなみに食やポップカルチャーなど、ほかの市場は検討しなかったのですか?

山野:自分の中ではすべての要素が綺麗につながったんですよね。観光は成長産業である。成長産業とはすなわち、お客さまの困りごとが多い産業である。観光業界について調べてみると、どうやら「遊び」という領域に困りごとがたくさんある。さらに、ワーカーホリックが多い日本では、これから「遊び」を豊かにすることの価値が高まる、と。ファーストターゲットは旅先の課題解決で、そこから遊び全体の流通にスコープを広げていったイメージです。

廣田:そうだったんですね。参考にしたサービスはありますか?

山野:アソビューのビジネスモデル自体は複雑ではありません。遊びに関する情報が欲しい生活者と、お客さんに来てもらいたいレジャー施設などの事業者を、オンライン上でマッチングするサービスです。その意味では、旅行サイトはもちろん、タクシーの予約サイトや美容室の予約サイトなど、サービスを予約するサイト全般をベンチマークにしていました。

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アソビュー 山野智久氏

経営は未知の体験の連続。一つ一つの課題を解決し続けた先に成長がある

廣田:創業してから10年以上が経ち、最初は3人だったメンバーも今や200人を抱える規模に成長されています。会社がどんどん拡大していく過程で、経営者として初めて体験することもたくさんあったと思うのですが、会社の成長と未知の体験にどう向き合ってきたのでしょうか?

山野:目の前に現れる課題を一つ一つ解決していったことに尽きると思います。おっしゃるとおり、起きることの全てが初めての体験ですからね。計画どおりに進まないことのほうが多いんです。

まずはサービスを収益化するためにプロダクトを磨く。事業者が集まり始めたら、次はリクエスト予約ではなく即予約できるように事業者の方々と交渉する。使いやすいサービスを確立できたら、今度は成長を加速させるために資金調達のことをイチから勉強して実行する。事業拡大して仲間が増えたら、みんなが働きやすくなるようにミッションやルールを決めて浸透させるとともに、核となるメンバーを育成する。

このように、課題は次から次へと出てくるので、そこから逃げずにひたすら向き合って解決し続けてきた、その歴史の積み重ねで今があると思っています。

廣田:従業員数が10人、30人、50人、100人…と増えていく中で、マネジメントやエンゲージメントの課題に直面するスタートアップ企業も少なくありません。アソビューは規模が大きいにもかかわらず、ミッションドリブンで成長している印象が強いのですが、仲間選びの基準はあるのでしょうか?

山野:細かく挙げるとキリがないのですが、まずわれわれのミッションに対する共感度が高いかどうかを重視しています。社会の中でアソビューが存在する意義が一番重要だと思っているので、その使命感や目指す世界に共感してもらえるかどうかが何よりも大切です。

もう一つ、重視しているのが利他性ですね。お客さまの役に立つことで、ありがとうの代わりにお金をいただくことがビジネスの根源だと思うので、誰かのためになりたいという信念や思いを見ています。だから、うちのメンバーはお人好しが多いですよ(笑)。

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電通 廣田元章

新ミッション「生きるに、遊びを。」に込めた思い

廣田:アソビューはロゴの作成から関わらせてもらっていますが、特に印象的な仕事だったのが、創業10周年のタイミングで実施したミッション改訂です。もともとアソビューには「ワクワクをすべての人に」という素晴らしいミッションがあり、この言葉に惹かれて入社する人もいらっしゃるほど浸透していました。

山野:確か、最初はミッションではなくて、ビジョンを変えたいという依頼をしたんですよね。当時のビジョンは書かれていることは正しいけれど、もっと短くインパクトのある言葉に変えたかった。ミッションを変えるつもりはありませんでした。でも、僕が語るミッションの説明に対して、今のミッションは言葉がポップすぎるからアップデートしたほうが良いと言われたんです。おっしゃるとおり、みんなが大切にしてきたミッションだったので、最初は「え、変えるの?」とすごくドキドキしたのを覚えています(笑)。

ただ、ご提案いただいたコピー「生きるに、遊びを。」がとても力強くて、自分たちの本気度や深さを伝えられると感じたんです。これなら、みんなが大好きなミッションを上回ることができると思いました。

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廣田:そうでしたね。僕らも山野さんと打ち合わせを重ねる中で、「衣食住遊という、4つ目の文化を作るんだ」という意気込みや視座の高さに何度も感銘を受けていました。山野さんの中にある思いを翻訳したのが、「生きるに、遊びを。」だったんだと思います。

山野:それこそ、廣田さんたちがアソビューの従業員と同じ熱量で会社のことを考えてくれて、深く理解してもらえたからこそ生まれた言葉ですよね。改めて、皆さんの関係構築力とクリエイティブの力を目の当たりにしました。

(後編に続く)

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