コロナ禍で売上ゼロから、成長率323%の大逆転を遂げたアソビューの挑戦
2022/04/27
本連載では、スタートアップ企業の起業家、経営者、投資家、CMOなどが、会社や事業の成長過程で直面した課題をどのように乗り越えたのか、スタートアップ支援を行なっている電通社員との対談形式でお届けします。
前回に続き、遊びの予約サイト「アソビュー!」を運営するアソビュー株式会社代表取締役CEOの山野智久氏に、電通の廣田元章がインタビューを実施。コロナ禍で会社存続の危機に直面する中、経営者として意思決定の拠り所にしていたこととは?
【アソビュー!とは】
全国各地の娯楽施設やレジャー体験など、“遊び”を検索・予約できるウェブサービス。600種類の遊びを8800施設以上紹介し、登録ユーザー数は約630万人と、国内最大級の規模を誇る。
「社員の解雇」という合理的判断に背き、打開策を捻り出す
廣田:ミッションの改訂とともに、コーポレートロゴやサービスロゴも刷新し、アソビューの新しいブランドアイデンティティをいよいよお披露目するぞ!というタイミングで新型コロナウイルスの流行が起こりました。
言わずもがな、遊び産業は外出自粛による大打撃を受けてしまいます。会社の存続自体が危ぶまれる状況にどう立ち向かい、どう乗り越えていったのかについては山野さんの著書『弱者の戦術』(ダイヤモンド社)に詳しく書かれていますが、僕が特に印象的だったのが、売上がゼロになる中、経営者の合理的判断としては「社員の解雇」が妥当だったにもかかわらず、「社員を解雇しない」という決断をされたことです。そのほかにも、51%対49%でどちらかの決断が正しいというギリギリの意思決定が続いていたと思うのですが、その判断の拠り所はどこにあったのでしょうか?
山野:まず、サービス開発に関しては顧客起点でニーズがあるかどうかを判断すれば良いので、意思決定は比較的簡単です。ただ、おっしゃるとおり、そもそもの戦略策定など大きな判断は相当悩みましたね。
もちろん、ロジックで突き詰めて考えるのですが、その上で最終的には自分がどうしたいのかを大切にしました。社員の解雇がロジックとしては妥当ではあるが、僕は社員を解雇しない未来を選択したい。とにかく解雇が嫌だったので、解雇をしないことを決めて、その上でコストを減らす方法を必死で考えました。
廣田:そこから、一時休業やアソビューに在籍しながら他社に出向する「在籍出向」といった施策が生まれたのですね。しかも、出向のスキームは自社のみならず、一般社団法人の活動を通じて他社の支援にも展開されていました。会社存続の危機という有事に直面しているにもかかわらず、どうして他社の支援に意識を向けられたのでしょうか?
山野:有事だからこそ、社会の中でどのように立ち振る舞い、課題解決に貢献できるかを考えなければならないと思ったんです。ひと昔前はスタートアップといえばリスクが大きく、いかがわしい存在だと捉えられることもありました。そこからみんなで徐々に社会的な評価を高めていき、ようやくムーブメントの兆しが見えてきたところです。ここでスタートアップの経営者たちが解雇を選択してしまうと、「やっぱりスタートアップってリスクあるよね」と、また昔の印象に戻ってしまいかねません。だからこそ、あらゆる企業の中でも最先端だと胸を張れるぐらいの意思決定を行い、社会にも積極的に関与すべきだと考えました。
廣田:すごい。スタートアップ業界全体を背負う気持ちがあったのですね。
山野:勝手に背負っていました(笑)。アソビュー自体、10年の歴史の中でスタートアップ界隈における認知度はかなり高まっていたので、なおさら責任感を感じていたんです。
政府、事業者、ユーザーのニーズをいち早く捉え、成長率323%を達成
廣田:そのように社会貢献を行いながら自社の戦術も次々と打ち出していく中で、BtoB向けサービス「ウラカタチケット」が大当たりしました。このサービスはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
山野:顧客起点に立ちニーズやお困りごとを解決するに尽きます。レジャー施設の方々に話を聞いてみると、彼らが一番恐れていたのは施設内でクラスターが発生してしまった時のレピュテーション(風評)リスクでした。そこで、疫学の専門家と複数の業態の営業オペレーションを把握しているアソビューで、施設向けの感染防止ガイドラインを作成することにしました。
その制作過程で感染症対策の専門家にヒアリングしたところ、感染拡大防止のための一丁目一番地は密回避、すなわち「敷地面積あたりの人数の管理」であることが分かったのです。それならば、オンラインで時間帯ごとの入場者数を制限する機能を提供すれば、専門家や政府の方針と事業者のニーズがマッチし、ユーザーも安心して施設を利用できると考えました。2020年4月に緊急事態宣言が発令され、プロジェクトがスタートしたのは5月頭。6月にはどこよりも早く、このサービスをローンチしました。
廣田:とてつもないスピードですよね。
山野:僕自身、エンジニアではありませんが、通常であれば半年から1年近くかかるシステムであることは理解していました。でも、そのスピード感だと、レジャー施設の事業者もわれわれも潰れてしまうかもしれない。緊急事態宣言が解除される6月のタイミングで、少しでも早く安心して営業再開できる状態を提供しなければならなかったのです。世の中全体で大きなゲームチェンジが起きているこの瞬間こそが、アソビューが逆転するチャンスだとも捉えていました。だから、既存のシステムをなるべく流用し、システムで補えない部分は人力で対応するなど、最初から完璧なプロダクトを作り込むのではなく、限られた時間内で可能な限りの品質を目指すことにしました。
廣田:しかも、導入費用無料という、これまた大きな意思決定をされました。
山野:そうですね。会社としては1日でも早く売上が欲しいところでしたが、システムを一気に広めるためのマーケティングコストだと割り切って、市場シェアを拡大するチャンスに賭けることにしました。
廣田:その判断が功を奏し、3カ月後には前年比成長率232%というすさまじい記録を打ち出しました。コロナ前の業績と比較してこの比率ですから、V字回復どころではないですよね。
山野:とてもうれしかったですね。アソビューを支えてくれた仲間たち、企業の皆さまに本当に感謝しています。
TVCMを通じて、“遊び”を楽しめる世の中を取り戻したい
廣田:脅威のV字回復を遂げてから1年後、アソビュー初となるTVCM展開を決断されました。その背景にはどのような狙いがあったのでしょうか?
山野:マーケット分析を行いながら顧客認知度をどう獲得していくのかを検討する中で、やはりカテゴリー認知とサービス認知の伸び代はまだ大きいことが分かりました。ちょうど資金調達を実施したタイミングだったので、広告マーケットの中で一番大きなマス広告にトライアルしようと考えたのが主な経緯です。
廣田:最初は福岡でトライアルを行い、2022年4月からはエリアを拡大して、関東・関西・東海・福岡で行います。トライアルの手応えはいかがでしたか?
山野:純粋な認知獲得のみならず、ブランド選好の観点でも消極的な意向から積極的な意向に数字が上がることが分かりました。また、リピート利用の促進にもつながるなど、複数の項目で効果が確認できたので、費用対効果に関して一定のエビデンスが得られたことは良かったです。
なので、今回のエリア拡大でも数値的な効果はある程度得られるのではないかと期待しています。もう一つ、気持ち的な側面で期待していることとして、この2年間、みんな常に行動制限がかかった生活を過ごしてきたのですから、今回のCMをきっかけに、社会全体がこの2年間のことも噛み締めつつ、遊びを楽しめるような空気になっていくと良いなって思っています。
廣田:「週末、なにする?」というコピーには、旅行や遠出だけでなく、身近なお出かけも含めて、遊びを楽しんでもらいたいという思いが込められていますよね。そういえば、ヨーロッパの一部の国では週休3日制をテスト導入しているそうです。もし今後、日本でも週休3日を導入する企業が増えれば、余暇市場も現状の1.5倍に増えるわけですから、そう考えるとアソビューの伸び代はすさまじいですよね。
山野:伸び代しかないと信じています(笑)。
廣田:ぜひ、末長くお付き合いいただけるとうれしいです(笑)。
山野:僕はもはや、チームの一員だと思っています。電通と仕事でお付き合いする前はもう少し合理的な付き合いと言いますか、大企業と比べれば小規模の案件なので、どこまで熱量を持ってくれるのか不安だったんです。でも、その考えは180度変わりましたね。本当にわれわれの思想に共感して、グロースを願ってくれているし、泥臭いところや辛いところまで一緒に寄り添って解決してくれますからね。
廣田:そこはやはり、会社のビジョンや山野さんのリーダーシップ、人柄に心が動かされているからだと思います。これからもぜひ同じチームとしてアソビューの成長に貢献していきたいと思います。引き続き、よろしくお願いします!