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マーケターが知っておきたい、「調べ方」の技術No.2

ビジネス成功を左右する、「調べ方」のコツとは?

2022/04/27

電通の現役戦略プランナー・阿佐見綾香氏の新著『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書』をもとに、ビジネスの成功に“直結”するリサーチの方法をお伝えする本連載。

今回は、本屋B&Bで行われたトークイベント「ヒットは調べることから始まる」より、日刊書評メールマガジン「ビジネスブックマラソン」編集長で、出版マーケティングコンサルタント/ビジネス書評家の土井英司氏と阿佐見氏の対談をお届け。なぜ、今の時代に「調べ方」が必要なのか、そしてビジネスの成功を左右する「調べ方」のコツを語り合いました。

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意見のインフレが進む今の時代こそ、「調べ方」が武器になる

阿佐見:土井さんは国内160万部、世界1300万部を突破した『人生がときめく片づけの魔法』をはじめ、『年収200万円からの貯金生活宣言』、『「超」入門 失敗の本質』など、多数のベストセラーをプロデュースされていらっしゃいます。何を隠そう、『「調べ方」の教科書』も土井さんにプロデュースしていただいた本です。

土井:早くも3刷増刷(※1)、おめでとうございます。僕自身がマーケターでもあるので、電通のマーケティングの秘密は前々から気になっていました。特に第一線で活躍されている現役のマーケターがここまで踏み込んだ本を書いてくれることはレアなので、思いっきりハードな内容をリクエストさせていただいて、最終的にとんでもない分厚さの本になりましたね(笑)。

※1=2022/4/22現在は6刷増刷、1万5000部突破
 

阿佐見:いわゆる“鈍器本”ですね(笑)。土井さんは「調べ方」というテーマについてどのような印象をお持ちでしょうか?

土井:近年、インターネットを中心に“意見のインフレ”が起きています。オピニオンリーダーはもちろん、一般の方々も含めていろんな意見がメディア空間の中を飛び交っていますよね。しかし、その中には個人の思い込みがあったり、理解しやすいものが流通される傾向にあったりと、事実=ファクトと意見の乖離が起きているケースも少なくありません。このギャップが大きくなりやすい時代だからこそ、調べ方の技術を磨くことが大切だと思うんです。

阿佐見:まさにファクトと思い込みのギャップを埋める作業は、マーケティングリサーチでも重要なポイントです。よくインサイトという言葉を聞くと思うんですけど、これは顧客や生活者自身でも言語化できていない本当の悩みや欲求、気持ちのことを指します。インサイトを深く捉えずに表層的な部分だけでプランニングをすると、誰でも思いつくようなアウトプットや、ターゲットに深く刺さらない施策になってしまいます。

有名な事例を一つ紹介すると、あるビルのオーナーが「エレベーターが来るのが遅い」というクレームに悩まされていたのですが、エレベーターをこれ以上速くすることはできません。そこで、エレベーターの横に鏡を付けたところ、クレームが来なくなりました。なぜなら、鏡を見て身だしなみを整えていたりすると、エレベーターの待ち時間が気にならなくなるからです。つまり、人はエレベーターが来ないことにイライラしているのではなく、無駄な待ち時間を過ごしていることにイライラしていたのです。

調べ方にはコツがある!

土井:何が因果関係で結ばれているのかを見極めることが重要ですよね。一方で、今はどの企業もリサーチの材料になるデータをたくさん持っているにもかかわらず、うまく生かしきれていないケースもあります。

阿佐見:私はリサーチに取り掛かる前に、仮説をつくっておくことが大切だと考えています。仮説とは、現時点で把握している情報から導き出す仮の答えです。経験による肌感覚的な部分はありますが、あてずっぽうということでもなく、「現時点で一番ありえそうな結論」を仮説として考えます。

「先に結論を出して調べると、視野が狭まって大事なデータを見逃すのでは?」と聞かれることがあるのですが、逆に結論を出しているからこそ、異なる傾向が出てきた時に違和感を感じることができます。なんで思っていたのと違うんだろう?意外と響かないのはどうしてだろう?という違和感を起点にリサーチを進めていくことで、より深いインサイトにたどり着くことができるのです。漫然とリサーチをしていると、結局何も見つけられないことも多々あります。

土井:なるほど、まずは仮説を立ててデータやファクトと照らし合わせながら、仮説をブラッシュアップしていくイメージですね。

阿佐見:それから、調べ方の手段を組み合わせることも重要です。大きく分けると、デスクリサーチとフィールドワーク、定量調査と定性調査の4つです。とある健康食品のマーケティングに携わらせていただいた際、相性が良さそうな40代女性をクライアントがターゲットから外していたので理由を聞くと、定量調査で40代女性の反応が悪かったのだそうです。

しかし、実際に定性的なヒアリングをしてみると、この商品に含まれている栄養素に対する意識は高いのですが、それゆえに普段の食事でその栄養素は摂れていると勘違いしていたのです。そう考えると、40代女性はターゲットの範囲外どころか、むしろ有望ターゲットですよね。

土井:面白いですよね。ちなみに本書では老舗化粧品メーカー、コージー本舗の商品「10秒マツエク」がヒットするまでのリサーチ過程が、かなり詳しく踏み込んで書かれています。そのパッケージデザインの選定でも、調べ方の手段がうまく使い分けられていましたよね。

阿佐見:そうですね、方向性の異なる4つのパッケージデザイン案を提案した上で調査を行った結果、そのうちの2案はいろんな層の方々から好評が得られました。でも、デザインを担当したアートディレクターから「満遍なく評価されている案だけど、これが一番好きって言っている人はいないですよね?」と指摘されて、確かにそうだなと。最終的に好き嫌いの意見は分かれるものの、好きな人はものすごく好きなデザイン案にしたところ、つけまつげとしては異例の110万個の出荷を突破するヒット商品になりました。

土井:調べ方のアプローチは異なるものの、いずれも感覚や勘ではなく根拠に基づいて仮説を立てている点がポイントですよね。

後編では、『「調べ方」の教科書』制作過程で行われたリサーチの裏側や、土井さんのベストセラーを生み出す調べ方の技術に迫ります!


調べ方

『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書』の詳細はこちらから

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