ヒットを量産する人が身に付けている、たった1つの考え方
2022/03/02
せっかく一生懸命つくった商品が、思うように売れない……その原因はどこにあるのでしょうか?『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書』著者で、電通現役戦略プランナーの阿佐見綾香氏は、「〝調べ方〟さえ変えれば、ヒットを量産できる」と言います。
本連載では、ビジネスの成功に“直結”するリサーチの方法をお伝えします。第1回のテーマは、「ヒットを量産する人が身に付けている、たった1つの考え方」。多くのビジネスパーソンが日常的に行なっている「調べる」という行為に潜むワナと、ヒットを生み出す調べ方の鉄板フレームワークを紹介します。
ベテランでも陥るワナ
「この商品は、過去にヒットした商品を応用して作ったから、絶対に売れると思っていたのですが……。何が悪かったのでしょうか……?」
「せっかく作ったサービスをどうやって売り伸ばせばいいか、さっぱりわからなくて……」
私が担当しているクライントからよく聞く悩みです。確かに、画期的な商品やサービスであることは間違いないのですが、なかなかヒットにつながらないのです。この原因のほとんどは、その商品やサービスの本来の価値を、伝えるべき人に、伝えるべきメッセージで届けられていないことにあります。別の言い方をすると、ヒットにつなげるための「ターゲット」と「セールスポイント」の見極めに問題があることがほとんどなのです。
過去にヒットした商品やサービスでも、時代が変われば、「ターゲット」の価値観・行動や響く「セールスポイント」は変わってしまいます。そのため、ベテランの方でもここに気付かないと、大きな過ちをおかしてしまう可能性が出てきてしまうのです。
裏を返せば、「ターゲット」と「セールスポイント」を的確に設定することができるだけで、売り方が分からないとか、伸び悩んでいるような商品やサービスでも、ヒットさせられるようになります。ヒットを生む新たな商品やサービスの開発もできます。
それでは、「ターゲット」と「セールスポイント」を正しく見極めるためには、何が必要になってくるのでしょうか?
ヒットは「調べ方」が9割
その答えの1つに「調べ方」があります。専門的にいうと、「マーケティング・リサーチ」と呼ばれるものです。
現在、私は、広告会社のマーケティング部署に所属し、クライアントの商品やサービスを売るための戦略づくりをしています。このとき、重要となるのが、実は「リサーチ」のスキルです。これ以降で登場する「リサーチ」は全てヒットをつくる「調べ方」のことだと思ってください。
マーケティングのプロセスにおける「調べ方」の役割は、適切な「ターゲット」と「セールスポイント」を早期に絞り込んで、ビジネスの成功につなげる的確な意思決定を導くことです。ビジネスとリサーチは遠くにあると思われがちですが、実際にはリサーチはビジネスの成功に直結するものです。商品やサービスをヒットさせ、ビジネスを成功に導くためには、「調べ方」が9割と言っても過言ではありません。
ただ、今でこそクライアント業務の傍ら、毎年、新入社員向けにマーケティング・リサーチを指導している私ですが、初めからこのリサーチが得意だったわけではありません。むしろ、私自身は新人の頃、「調べる」ということがとても苦手でした。ド文系でエクセルもろくに使ったことがありませんでした。膨大な情報の山に埋もれて、何からどう調べればいいのかも分からず、途方にくれることはしょっちゅうで、時間とお金をかけても何も見つけられないという経験は数えきれないほどあります。
そのような失敗や試行錯誤をしてきた中で、5年ほど経ったあたりから、商品やサービスがヒットする時とそうでない時の調べ方の違いに気付いたのです。
それが、冒頭でもお話しした「ターゲット」と「セールスポイント」を明確に定めることです。
ここでいう「ターゲット」とは、「商品やサービスを買ってくれるお客さん」のことで、「セールスポイント」とは、「買い手(=ターゲット)の〝買いたい欲求〟に刺さる商品やサービスのポイント」のことです。
この2つを正確に見極めるための「調べ方」について、フレームワークを交えてもう少し詳しく説明します。
ヒットを生み出す「調べ方」のフレームワークとは
実は、商品やサービスそのものに価値があるにもかかわらず、売れない商品は、「ターゲット」がズレているか、「セールスポイント」がズレているか、その両方がズレていることが多いことが、これまでの実務経験から分かりました。裏を返せば、商品やサービスをヒットさせるためには、この2つを早期に明確にすることが重要なのです。
そのために必要な「調べ方」のフレームワークが次の図です。
まず、Step1で「なんとなくの感覚」でかまわないので、「ターゲット」と「セールスポイント」がどのようなものかを「仮説」として出してみます。
仮説というのは、現時点で把握している情報から導き出す“仮の答え”です。経験による肌感覚的な部分はありますが、当てずっぽうということでもなく、「現時点で一番ありえそうな結論」を仮説として考えるのです。
この仮説を出しておかないと、リサーチの無駄打ちや遠回りをしてしまい、結果的に膨大なコストを要してしまいます。だからこそ、いったん仮説を出して、リサーチによって「明らかにしたいこと」を設定し、リサーチの「手段」を決めていくことが重要なのです。
次に、Step2の仮説検証サイクルで、いったん出してみた仮説を検証・ブラッシュアップします。まずは、出した仮説に関わることについて、「最新の情報」に絞って調べます。具体的には、デスク上でインターネットを使ったり、文献を集めたりしながら調べる「デスクリサーチ」。実際に商品が並べられている現場に赴いたり類似のサービスを実体験したりする「フィールドワーク」があります。これらのリサーチは、基本、1人でもできます。
ここで得られた情報を使いながら、「ターゲット」と「セールスポイント」にズレがないかどうかを検証していきます。例えば、ある家電製品において「ターゲットは30~40代女性」と仮説を立てていたけど、調べてみたところ「本当のターゲットは20代女性かもしれない」のように、仮説をブラッシュアップしていきます。
続いて、この精度をより高めるために、多様な人たちに話を聞きます。具体的には、「ターゲット」に当てはまりそうな人にインタビューやアンケート調査を行います。ここでは、「どこがターゲットに刺さるポイントか?」を検証することを中心に行っていきます。例えば、「美容に良いことがセールスポイント」と仮説を立てていたけど、調査をするうちに、「時短になることのほうが刺さるポイントかも!」のように仮説をブラッシュアップしていくのです。
最後に、Step3で、研ぎ澄まされた仮説を「打ち手」として実行に移していきます。
このフレームワークに沿ってリサーチを行うことで、「なんとなくの感覚」から導き出した「ターゲット」と「セールスポイント」が明確に絞り込まれていき、結果的に、ヒットを量産できるようになるのです。
「調べ方」が上手くなると、ビジネスが加速する
このようなリサーチができるようになってから、クライアントに商品やサービスをヒットさせられる「打ち手」を提案できるようになりました。例えば、益若つばささんがプロデュースしている老舗化粧品メーカー、コージー本舗さんのブランド「DOLLY WINK」が2019年に発売した「10秒マツエク」(新部分用つけまつげ「EASY LASH」)は通常8万個売れたらヒットと言われる中、2022年2月現在、110万個の出荷を突破するという勢いで売れ続けています(ヒット商品を生んだリサーチの内容は書籍で詳しく公開しています)。
リサーチを的確に使いこなせるようになることで、最適な「ターゲット」と「セールスポイント」を早期に絞り込むことができるようになります。リサーチをすることで、「次の打ち手」がはっきりと見えてきます。リサーチのスキルが上達することで、ヒットをつくるのに大きなアドバンテージを得ることができるのです。つまり、無駄なお金や時間、労力といったコストをかけずに、ビジネスを成功させることができるようになります。
ご自身のいつもの業務の中に、マーケティングリサーチを取り入れて、「ターゲット」「セールスポイント」を明確に設定してみてください。そうすれば、「ヒット」にたどり着く確率は格段に上がります。あなたの商品が、あなたの商品を、本当に必要とする人たちに、もっともっと届いていくようになるはずです。
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