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「男性育休」の本当のところNo.3

男性育休、実際どうなの?取得者とそのチームに聞くメリットと課題

2022/05/09

男性育休が本人や家族、企業、社会に与える影響を探る本連載。

電通パブリック・アカウント・センター「かぞくのみらいプロジェクト」では、男性育休が本人や家族、企業、社会に与える影響を探るべく、2021年に調査を実施しました。未就学児の子どもがいる男女1600人(育休取得経験男性500人を含む)にアンケート。その結果をもとに男性育休のメリットを紹介した第1回、フィンランドの先進的な取り組みを紹介した第2回に続き、今回は電通PAC(パブリック・アカウント・センター)で育休を取得した社員と同局のメンバーによる座談会を実施。

育休、取得してみてどうだった?
大変だったこと、よかったことは?
育児と仕事の両立、どうしてる?
組織にとってのメリットや、推進するために何が必要?

PACがチャレンジしている「育休ノート」や「カスタム育休」の取り組みも交えつつ、現場のリアルな声をお届けします!
 

座談会参加メンバー
【座談会メンバー】
中島壽太郎
一児(1歳)のパパ。2021年に約2週間の育休を取得。
 
中井紀和
二児(6歳、7カ月)のパパ。フレックス勤務、時間休、有休等を柔軟に組み合わせて継続的な育児参加を実現する、「カスタム育休」という名のPAC独自の「育児と業務の両立サポート」を利用中。
 
池田達哉
21歳、18歳のパパ。HRMD(ヒューマン・リソース・マネジメント・ディレクター)として、産休・育休・介護休業を含めた柔軟な働き方を推進。
 
森裕香
一児(1歳7カ月)のママ。産休・育休を経て復帰。今回はファシリテーターとして参加。
 
<目次>

2週間の育休でも変わった、家族との関わり方

夫婦の“情報格差”をどう埋める?

育休への心理的ハードルを下げる“雰囲気づくり”がカギ!

育休のカタチは、家族の数だけある

 

 

2週間の育休でも変わった、家族との関わり方

森:今回は育休を取得された中島さんを中心に、同じ局で働くメンバーも交えながら本音トークができればと思っています。はじめに、池田さんからPACの育休に対する方針を改めて教えていただけますか?

池田:PACは主に自治体など行政に関するプロジェクトの営業を担う部署です。日ごろから行政の活動に向き合っていることもあり、局全体で育休を推進するための仕組みや雰囲気づくりを行い、新しい取り組みにも積極的にチャレンジしているのが特徴です。

育休取得率向上だけを追い求めるのではなく、社員それぞれのニーズを把握しながら、育児と仕事の持続的な両立を可能にし、社員とその家族の幸福度を高めていくことを目的としています。

森:実際に中島さんは約2週間の育休を取得されました。もともとお子さんが生まれる前から育休を取ろうと思っていたんですか?

中島:正直、全く考えていませんでした。生まれる前は「育児って何すればいいの?」という状態でしたから(笑)。局の方々から育休取得を勧められたので、試してみようと思ったのがきっかけです。

森:実際に取得してみて、変化はありましたか?

中島:当たり前のことですが、まず育児の大変さを実感しました。それから、子どもを育てる一つ一つのプロセスを体験したことで、今まで見えていなかった子どもの成長や変化など、細かい部分にも気が付けるようになったと思います。

森:ちなみに育休中はどんな過ごし方をされていたのでしょうか?

中島:基本的に午前中は私が育児を担当し、大体お昼寝が終わったタイミングで妻にバトンタッチします。夕方ごろから再びお風呂などを担当し、寝かしつけは交互に行いました。

森:奥さんの反応はいかがでしたか?

中島:喜んでいましたよ。とはいえ、たったの2週間ですからね。もっと長く取ってほしいという要望はありました。

森:育休が終わったあと、お子さんや家族との関わり方に変化はありましたか?

中島:ふだん育児をされているパパからすると当たり前のことかもしれませんが、育休後も子どもをお風呂に入れる習慣ができました。あと、育休を取ったことで、育児への関与度が上がり、子どもに関する話をするときも、妻と同じ目線で具体的な話ができるようになったと思います。

中島氏育児中

森:一方、中井さんはPAC独自の「カスタム育休」を実践していますが、具体的にどのような働き方をしているのですか?

中井:僕はフレックス勤務制度や、年次有給休暇の時間休等を駆使して、朝の保育園に登園する時間と、夕方のお迎えから食事、お風呂までの時間は、家事・育児に専念しています。クライアントにもご理解をいただいていますし、社内のスケジュール表も仕事が入らないようにブロックしています。

森:なるほど、その働き方は家族で話し合って決めたのでしょうか?

中井:そうですね。妻とお互いの価値観や理想とする家族のあり方をとことん話し合った上でたどり着いた答えです。制度として育休を取得せずとも、サステナブルに続けられるカタチにしたいというのが大きな方針でした。

森:PACには中井さん以外にも、奥さんが働く時間に合わせて17〜20時を育児時間にあてているメンバーがいますよね。このように、育児に必要な時間やタイミングは家族ごとに異なるので、組織としても柔軟な対応が必要だと感じています。

中井氏育児中

 

夫婦の“情報格差”をどう埋める?

森:中島さんは育休を振り返ってみて、もっとこうしておけば良かったという後悔はありますか?

中島:育休制度に対する私自身の理解が及んでいなかった部分があり、想定よりも取得日数が短くなってしまったので、もっと事前に調べたり、人事に相談すれば良かったと思います。

森:育休に関する男女の情報格差は、課題の一つだと思います。女性は産休・育休を申請するタイミングで会社や地域からいろんな情報を入手できますが、男性の場合、最初から育休取得を決めているような方でない限り、出生届を提出するタイミングなどでようやく情報が入ってくるケースも多いので、情報量やモチベーションに差が生まれがちですよね。

中井:女性に比べると、男性は子どもが生まれることを周囲に公表するタイミングも総じて遅くなりがちですよね。そうすると、どうしても周囲からアドバイスをもらえるタイミングも遅れてしまいます。

森:電通では育休取得に関する冊子を配布したり、希望者には個別に説明会も実施しています。なるべく早い段階から周囲に相談できる環境があると、そういった情報にも接触しやすくなると思います。ちなみに、PACでは社員が希望する育休のスタイルや引き継ぎチェックリスト、夫婦のアクションや気持ちを可視化する「育休ノート」を作成・配布しています。中島さん、育休ノートを活用してみてどうでしたか?

中島:もともと夫婦で意見交換することは多かったのですが、それでも可視化することで初めて気づくことや、家事・育児のボリュームが偏っている部分が見えたので、ふだん会話ができている夫婦にも役立つツールだと思いました。

森:なるほど、可視化は情報格差やモチベーションの違いを改めて確認する上でも有効な手立てといえそうですね。

育休ノート
「育休ノート」記入例

 

育休への心理的ハードルを下げる“雰囲気づくり”がカギ!

森:2022年4月より順次施行される、改正「育児・介護休業法」をきっかけに、男性育休に対する世間の関心はより一層高まることが予想されます。男性がもっと育休を取りやすくするためにはどうすればいいと思いますか?

中島:僕は育休が業務にどう影響するのかをすごく考えましたし、クライアントにどう説明するのか、うまく引き継ぎができるのか、けっこう悩みました。ですから、制度的に取りやすくなるかどうかよりも、本人が育休を取ろうと思えるかどうかが大事だと思います。その心理的ハードルを越えるためには、周囲のサポートや職場の環境づくりがポイントになるのではないでしょうか。

池田:おっしゃるとおり、組織の雰囲気づくりが大切ですよね。私は育休を取得しませんでしたが、お風呂は子どもたちが小さいころからずっと一緒に入っていたからか、大きくなってもギスギスした関係にはなっていません(笑)。このように、子どもと積極的にコミュニケーションを取ることで将来良い関係を築けるとか、育児に関する前向きな情報が自然に流通する組織になるといいですよね。

中井:分かります。まずは本人にとっても組織にとっても育休取得のメリットからアプローチしたほうが、モチベーションは高まりますよね。

そして、周囲の理解やサポートが必要だという意見にも同意します。僕自身、「カスタム育休」を実現できているのはクライアントやメンバーが理解してくださっているおかげですから。一度、ブロックしている時間にミーティングが入った時、同じチームの後輩に「中井さんは強い気持ちを持って欠席してください。中井さんが調整できてしまうと、他の同じような立場の人や、これから育児をする人も調整しなきゃいけなくなります」と言われて、局の皆さんの後押しもいただいているなと思いました。

一方、これだけ働き方や家族のあり方が多様化する中で、育休も同じようにもっともっと多様化してもいいのでは、と感じています。勤務時間の調整や有休の活用で育児を積極的に行うことも、「カスタム育休」という名のもと、「育児と業務のサポート」をしながら、両方を支援し、育休相当と認めていますが、これは局独自の取り組みです。より柔軟で多様な育休のカタチがもっと議論されていくといいなって思います。

池田:「とるだけ育休」という言葉もありますが、育休はあくまでも手段であって、それ自体が目的になってはいけません。社員とその家族が幸せになるための手段が育休だとすれば、家族ごとに最適なカタチがあるわけで、そこを本人や家族、組織が考えながら実践していくことで、新しい道を作っていくことができると思うんです。これは何も、育児をしている社員に限った話ではありません。当然、「介護」についても、同様です。

座談会の様子

 

育休のカタチは、家族の数だけある

森:これから育休を取得しようと考えている男性や、育休を推進していきたい組織に向けてアドバイスはありますか?

中島:僕自身がそうだったように、いくら会社から「取ってほしい」と言われてもピンと来ないんです。ぜひ育休を取得するメリットや、男性育休を取得した人のポジティブな声を一緒に伝えてもらえるといいと思います。それから、取得を検討されている方には、「中途半端に取らない」ことをお勧めします。僕は取得期間が短いこともあって、仕事の引き継ぎが中途半端になってしまった部分がありました。できれば、「いざという時は自分が対応する」と考えずに、完全に休業する前提で調整したほうがいいと思います。

中井:やはり、育休そのものよりも育児に携わることのベネフィットを伝えることが大切だと思います。それから、制度はあくまで、社員であり親である僕たちのためにあるものなので、まずは理想とする家族の姿があり、それを実現するためにどんな制度を利用できるかを考えるといいのかなって思います。

池田:そうですね。中井家と中島家でもニーズが異なるように、各家庭でどのような育休が必要なのかを話し合うことが、一番のベースになるのではないでしょうか。

森:池田さんは組織の中で育休を推進する立場にいますが、企業にとって社員が育休を取得するメリットはどこにあるとお考えですか?

池田:家族の問題や悩みを抱えている社員が、会社で最大のパフォーマンスを発揮できるとは思わないので、社員が家族と良好な関係を築けること自体が大きなメリットですよね。

中島:育休を取得した社員の立場からすると、会社のありがたさや愛着を改めて実感するきっかけになるのは間違いありません。

池田:企業の育休への向き合い方が、学生の就職動機にも大きく影響し始めています。特に若い世代は働き方や労働環境を重視される方が非常に多いので、育休推進は人財確保のためにも欠かせない取り組みだと思います。

森:皆さんの話をお聞きして、まずは家族でベストな育児のあり方を会話すること、そのあり方に対して組織が柔軟に対応できる環境づくりが重要だと思いました。

※PACの取り組みは、法で定めている育児休業・介護休業の概念とは異なります。局独自の施策です
 
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