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「男性育休」の本当のところNo.2

男性育休取得率8割!フィンランドに学ぶ育休取得推進のカギ

2022/04/19

2022年度より、改正「育児・介護休業法」が施行され、男性がより育休を取得しやすい環境が整備されます。日本における、2020年度の男性の育休取得率は12.65%で、社会に浸透しているとは言い難いのが現状です。

電通パブリック・アカウント・センター「かぞくのみらいプロジェクト」では、男性育休が本人や家族、企業、社会に与える影響を探るべく、2021年に調査を実施しました。未就学児の子どもがいる男女1600人(育休取得経験男性500人を含む)にアンケート。第1回では男性育休の、本人や家族、企業に対するメリットを紹介しました。

今回は、男性の育休取得率が80%を超えるフィンランドの取り組みから、男性育休を推進するために社会や企業ができることを学びたいと思います。

ゲストに迎えたのは、フィンランド大使館で広報を務める堀内都喜子氏。電通の石井宏枝氏と伊藤奈々絵氏がお話を伺いました。

伊藤氏、堀内氏、石井氏
左から電通 伊藤氏、フィンランド大使館 堀内氏、電通 石井氏
<目次>
母親と父親に「情報格差」を生まないフィンランドの取り組み
日本はそもそも、休みにくい国?これから必要な、新しい休み方とは
対話で“アンコンシャスバイアス”をなくすことが、育休推進の第一歩



 


 

母親と父親に「情報格差」を生まないフィンランドの取り組み

伊藤:電通パブリック・アカウント・センター「かぞくのみらいプロジェクト」が2021年に実施した調査では、男性が育休を取得することについて20~49歳の全体の8割が賛成という結果になりました。未既婚、子どもの有無にかかわらず、多くの人が「賛成」と回答しています。また、男性育休を取得したい、夫に取得してほしいと考える人は全体の63.6%で、特に20代女性では8割を超える高い結果となりました。

男性の育児休業取得に対する賛否
今後の育児休業の取得意向

一方、当事者である未就学児を持つ男性の45%が、そもそも取得の意向がなかったと答えており、絶対に取得しようと思っていたという回答は12.7%にとどまりました。男性の育休取得自体には賛成なのに、いざ自分に機会が訪れても、取得しようとは思えない、という傾向がみえてきました。この結果から、育休に対する意識付けの部分に課題があるのではないかと思ったのですが、父親の育休の取得率が8割を超えるフィンランドでは、どのような考え方が根付いているのでしょうか?

男性の育児休業取得意向
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。

堀内:フィンランドには里帰り出産の文化がなく、親と一緒に暮らす3世帯同居もほとんどないので、出産後すぐに父親が休業し、最初から夫婦2人で子どもを育てていくことが常識になっています。それでも、母親のほうが育休を長く取得できることに対して「不公平だ」という声が上がり、2021年には父母ともに育休を7カ月ずつ取得できるように法改正が行われ、間もなく施行となります。フィンランドの男性にとって、育休は親としての責務を果たすための「権利」です。

伊藤:日本では両親のサポートを受けるのをあたりまえとするケースも多いようですが、就労年齢が伸びたことで親も仕事をしているケースもあり、今後は両親を頼れない人も増えてきそうですよね。

堀内:もちろん、最初はみんな戸惑いながら子育てをしていくのですが、フィンランドでは基本的には家族のことは自分たちで何とかする、というスタンスが定着しており、それをサポートする体制が比較的しっかり整っているように感じます。

例えば、妊婦健診には、毎回父親も同行するように強く国が推奨しています。毎回事前アンケートがあり、母子の医療的な確認だけでなく、両親の気持ちの変化や普段の生活についてさまざまな角度からヒアリングを行い、適切なケアを行います。

これを実施しているのが、「ネウボラ」と呼ばれる出産・育児支援施設です。日本でいう保健所のような場所で、妊娠期から子どもの小学校入学まで、定期的に子どもの健診や親の育児相談を無料で行っています。日本だと集団健診が多いのですが、ネウボラは保健師と個別に1時間ぐらい時間を取って、父母が抱えている悩みを話したり、育児に関するアドバイスを受けられたりするので、かなり濃い情報が得られます。

ネウボラ1
ネウボラ2
ネウボラ3

石井:健診というよりも、もはやカウンセリングですね。日本では女性と比べると、男性が育児に関する情報を得る機会がどうしても少なくなりがちですが、フィンランドではそのような情報格差は生まれにくいのでしょうか?

堀内:そう思います。ネウボラでは、なんと、自治体によっては父親だけが行く健診もあり、母親がいると言いにくい内容についてもケアしているのです。私の上司もネウボラを利用したことで、「子育ては男女関係なくできることが分かった」と言っていました。他にも、「妊娠中に妻の機嫌が悪くてつらかったけれど、実は体の中ですごく大きな変化が起きていることを知って向き合えるようになった」という声もありました。

また、妊娠が分かると政府から冊子が配られるのですが、両面が表紙になっていて、片方は母親向け、もう片方は父親向けの情報が載っています。フィンランドの父親は、子どもが生まれる前から育児と向き合い、自分ゴト化する機会が多いのです。

フィンランド育児パッケージの内容
フィンランド育児パッケージ ボックス
フィンランドでは、子どもが生まれると政府から「育児パッケージ」と呼ばれる育児用品の詰め合わせボックスが無料で贈られる。出産給付金とどちらか選べるが、ほとんどの人が「育児パッケージ」を選んでいる。ボックスの外箱は簡易型ベビーベッドにもなる

 

日本はそもそも、休みにくい国?これから必要な、新しい休み方とは

石井:フィンランドも昔は男性の育休取得率は低かったと聞いています。それが向上したのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

堀内:1970年代に男性育休の制度ができたものの、取得率はなかなか上がりませんでした。大きな転機となったのは、1998年に当時の男性の首相が育休を取得したことです。非常にセンセーショナルな出来事として取り上げられ、そこから一気に育休を取得する男性が増えました。やはり、大臣や政治家、企業の管理職などが率先して取得する姿勢を見せたことが大きいのかなと思っています。

石井:職場で男性社員に育休を勧めると、最初は躊躇(ちゅうちょ)する人が多いんです。その理由の一つが、仕事が滞ってしまい、職場に迷惑をかけるのではないかという心配です。でも、国家元首という唯一無二の仕事をしている人でも休めるなら、自分にもできるはずだと思えそうですよね。また、これだけ取得率が高いということは、職場でも他の人への業務のサポート体制が整っているのではないでしょうか?

堀内:おっしゃるとおりで、社員の育休期間中は代わりの人を雇うケースが非常に多いですね。そもそもフィンランドには新卒採用という制度がないので、大学生も中途採用の人と同じ土俵で戦わないといけません。そこで、社会経験を積みたい大学生や若い人を雇うことで、Win-Winの関係を築くことができます。それから、育休に限らず、夏季休暇も含めて長期休暇を取得することが一般的なので、もともとお互いに仕事をカバーし合う組織文化が定着しているのだと思います。

伊藤:そうすると、自分が育休を取得することで周りの人の仕事量が増えることに対して、あまりネガティブな意識はないのでしょうか?

堀内:全くないとは思いませんが、そこはもうお互いさまですからね。その分、事前に休むことが分かっているので早めに引き継ぎをしたり、取引先にもオープンに話すなど、育休に向けた準備は周到にしている印象です。

伊藤:なるほど。周りに迷惑をかけたくないという心理から、何かあったら自分で対応しようと思って、逆に引き継ぎが曖昧になってしまう人も少なくないと思います。その意識から変えていけるといいですよね。

取材風景

石井:堀内さんは、日本の育休がフィンランドのように進まない理由は何だと思いますか?

堀内:日本は育休に限らず、休みにくい傾向があるように感じます。長期休暇をなかなか取れなかったり、残業なしで帰りにくかったり。フィンランドは子どもの有無に関係なく残業せずに帰ることが常識になっていますし、保育園は16〜17時に閉まるので帰らざるを得ません。子どもの夏休みも2カ月半あるから、両親が4週間ずつ休んでも足りないぐらいです。まずは全体的な休暇の取りやすさが改善されると、もっと育休取得も進むのかなって思います。

石井:やっぱりこれまでの働き方自体の先入観や意識を変えていく必要がありますよね。それも自分一人で変わるのではなく、企業や組織単位で、海外を含めて新しい働き方の事例も学び、お互いの多様な働き方を理解する取り組みを行うことが重要だと思います。ある企業では、マネージメント層が、育児と仕事の両立の課題を実感するために、育児をしている社員の家庭に訪問して、送り迎えなども体験するというプロジェクトを行っているそうです。

堀内:昔は職場にプライベートを持ち込まないことが良しとされていましたが、これからは一人一人のライフスタイルや家庭の状況に合わせて、企業側もある程度寄り添っていったほうが、効率もモチベーションも上がるような気がします。

対話で“アンコンシャスバイアス”をなくすことが、育休推進の第一歩

伊藤:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進する上で、当事者とそれ以外の人との温度差を埋めるのが本当に難しいと思っています。私も子育ての当事者になるまで、育児と仕事を両立することの大変さを理解できていませんでした。

石井:想像力と対話力が必要ですよね。国内電通グループでは2022年1月にチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)を新設し、北風祐子氏が就任しました。北風氏はDE&I実現のキーワードとして「アンコンシャスバイアス」(無意識の偏見)という言葉をよく挙げています。育休の取得についても、当事者と周りとがコミュニケーションを取らず、「この人は仕事が忙しいから育休を取らないだろう」「育休を取ると周りに迷惑をかけるだろう」と、無意識に決めてしまうことも、すれ違いが生まれる原因だと思うのです。

堀内:お互いに主張をすることは大切ですし、丁寧に向き合って対話をしていくことが必要ですよね。また、効率化が叫ばれる時代だからこそ、社員のモチベーションをいかに高めるかが問われています。十分な育休を取って職場に復帰した時の仕事に対するモチベーションは高いと思いますし、育休期間中に経験したことを業務に生かせる部分もたくさんあると思います。

伊藤:電通でもパパ専門チーム「パパラボ」が、「PX(パタニティ・トランスフォーメーション)」という、男性育休を契機に組織文化を戦略的に変革させる活動を行っています。そこで掲げている男性育休のメリットの中にも、育児を通してマルチタスクを身に付けられる、父親としての自覚が芽生えて仕事へのやる気が高まる、といったものが挙がっています。

堀内:ワークライフバランスに関していうと、フィンランドでは週休3日制を議論したり、ベーシックインカムを実証実験するなど、新しい取り組みに積極的にチャレンジしています。フィンランドはけっこうトライアルが好きで、良いと思ったらすぐ取り入れる文化があります。最近、さまざまな検証を経て義務教育が18歳まで延長されましたが、義務教育の開始年齢を5歳に引き下げるトライアルも進行中です。

石井:やっぱり人と組織が持続的に成長するためには、これまでの制度ややり方を、変化に応じて柔軟にトライアンドエラーを行いながらより良いカタチに変えていく必要がありますよね。

堀内:今やフィンランドでは、「育休を取らない人は冷たい人間だ」と思われるほどですからね(笑)。何よりも、男性の育休は女性のためにあるのではなく、男性の権利として認識されています。日本も奥さんに言われたから取るのではなく、自身のメリットを享受するために取るという風潮に変わっていくといいですね。

【調査概要】
調査対象:
■スクリーニング調査:全国20~49歳 一般男女個人
■本調査:
①一般:男女個人既婚子あり (子ども年齢は1歳~小学校入学前)
②育休を取った男性(育休を取った子ども年齢は1歳~小学校入学前)
③パートナーが育休を取った女性(育休を取った子ども年齢は1歳~小学校入学前)
サンプル数:
■スクリーニング回収数:90,000サンプル ⇒ 人口構成比抽出:「10,000人調査」として分析
■本調査回収数:1,600サンプル
調査手法:インターネット調査
実査期間:
■スクリーニング:2021年11月24日(水) ~ 2021年11月26日(金)
■本調査:2021年11月26日(金) ~ 2021年11月29日(月)
 
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