「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」から見る、人びとの意識・価値観の現在地No.1
コロナ収束後も「テレワークは定着するべき」が約7割。全国1万2000人調査で知る、人びとの意識
2022/05/09
電通総研と電通未来予測支援ラボは、東京経済大学・柴内康文教授の監修のもと、「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」を、2021年10月に全国の男女1万2000人を対象に実施しました。「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査」は、社会に関する人びとの意識・価値観を把握することを目的として、2019年12月に第1回調査を開始し、今回で3回目となります。今後も定期的にデータを収集・蓄積していく計画です。
クオリティ・オブ・ソサエティについて
https://institute.dentsu.com/philosophy/
未来予測支援ラボについて
https://www.dentsu-fsl.jp/
未来事業創研について
https://dentsumirai.com/
調査は、
【社会視点】
人びとのよりよい人生のために、社会制度・システムは機能しているか
【家族・コミュニティ視点】
人びとは、よりよい人生のために、協力し合えているか
【個人視点】
人びとは、よりよい人生のために前向きで自律的であるか
という3つの問題意識に基づいて設計を行っており、今回の調査の設問は35項目200問に及びます。
本記事では、21年度調査の多岐にわたる調査結果の中から、上記の3つの視点から、人びとの意識の現在地を象徴する特徴的なデータをいくつか紹介します。また、以前の調査でも聴取した設問では、過去2回の調査結果との比較も試みました。
<目次>
▼【社会視点】将来の地域社会やコミュニティの存続への不安
▼【家族・コミュニティ視点】新しい家族の形を受け入れる意識の拡大
▼【個人視点】コロナ禍を契機に芽生えた新しい生活場所への欲求
▼変わる人びとの意識・価値観を支える社会的な取り組みを
【社会視点】将来の地域社会やコミュニティの存続への不安
下図は、地域社会における暮らしを支える仕組みや体制に対する満足度についての調査結果をグラフにしたものです。
「満足できる、十分であると思う」「やや満足できる、やや十分であると思う」の合計が過半数を超えたものは、「病院、保健所などの地域医療体制」54.8%、「最寄りの金融機関のサービスの利便性や信頼性」54.7%、「水道、電力、ガスなどの安定供給と将来にわたって維持するための仕組み」54.5%でした。
反対に「まったく満足できない、まったく十分でないと思う」「あまり満足できない、あまり十分でないと思う」の合計が過半数を超えたものは「若者の流出を防ぐなど、バランスの取れた年代別人口を保つ仕組み」54.5%、「体の不自由な人や高齢者、子どもなど誰でもスムーズに移動できる空間デザイン」53.4%、という結果となりました。
新型コロナウイルス感染症に立ち向かう医療体制、日々の経済を支える金融機関、日々の生活を支える水道・電力・ガスへの満足度が総じて高いのは、日本社会のインフラの堅牢(けんろう)さの一つの表れと言えるでしょう。一方で、不満足の筆頭が「バランスの取れた年代別人口を保つ仕組み」であることは気になります。
少子高齢化は広く共有された社会課題であり、バランスの取れた年代別人口はいわば、将来の地域社会・コミュニティを存続させる基盤と言えるでしょう。人びとから見て、その対策はまだ不十分で、不安を持っていることがうかがえます。今の社会制度への満足を未来の暮らしにつなげていくために、前向きな取り組みが求められます。
【家族・コミュニティ視点】新しい家族の形を受け入れる意識の拡大
下記は、さまざまな「家族の形」についての人びとの意識を、経年で比較したものです。
2021年調査では、「男性の育休取得」を受け入れられると回答(「受け入れられると思う」と「どちらかというと受け入れられると思う」の合計)したのは80.7%と、8割超え。「国際結婚」は74.0%、「主夫」71.4%、「夫婦別姓」61.0%、「里親制度」59.1%、「同性婚」43.2%、「親族ではなく、結婚や事実婚でもない単身成人との共同生活(シェアハウスなど)」は40.8%となっています。
特に着目したいのは、2020年と2021年の比較が可能なほとんどの項目(「夫婦別姓」を除く)で「受け入れられる」の回答が上昇していることです。家族をめぐるダイバーシティ意識の、着実な広がりが見てとれます。最も身近な人間関係である家族観をアップデートし、少子高齢化や人口バランスの変化といった、未来の社会・コミュニティの変化に柔軟に対応していこうという意識の表れ、と言えるかもしれません。
【個人視点】コロナ禍を契機に芽生えた新しい生活場所への欲求
続いて、個人に関するデータを見てみましょう。下図は現在の居住地や仕事の都合とは別に、自由な希望として、今後住みたいと思う場所について、重視する点をそれぞれの項目で単一回答していただいた結果をまとめたものです。
「治安がよい」96.1%が最も高く、次いで、「買い物に便利」94.2%、「水害・地震などの自然災害のリスクが少ない」93.5%、「地域住民の雰囲気がよい」88.9%、「水や空気がきれい」86.2%と続きます。
生活の「安全性」「利便性」「コミュニティ」「環境」が高度にバランスよく整った場所が望ましい居住地、と言えそうです。これらの日常生活のクオリティを担保する要件が「勤務場所に近い」を抑えて、上位にくるのは示唆的です。
もう一つデータを見てみましょう。下図は、新型コロナウイルス感染症対策としてのテレワークや在宅勤務について、考えを聞いたものです。感染症が落ち着いたとしても「テレワークや在宅勤務などの働き方が定着するべき」と回答した人が72.2%に上ります。
テレワークや在宅勤務は、コロナ禍により半ば強制的に進んだ社会の変化の一つですが、コロナ対策の枠を超えて、多くの人に肯定的に受け入れられている様子がうかがえます。
「安全性」「利便性」「コミュニティ」「環境」といった日常生活に一定のクオリティを求める意識と、テレワークの継続への支持は、符合していると感じられます。テレワークを経験した人たちは、自分の家やその周辺を見渡し、自分の暮らしのクオリティの実態をいやが上にも意識するでしょう。
そんな人たちにとって、勤務場所に縛られることなくより自由に生活の場を選ぶことができ、プライベートに多くの時間を使うことができる「テレワーク・在宅勤務」は、暮らしの質を高める契機として、重要なモノに変化しているのではないでしょうか。個人の意識の変化というだけでなく、未来に向けて、都市や街そのもののあり方を改めて考えるヒントになりそうです。
変わる人びとの意識・価値観を支える社会的な取り組みを
以上、「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」から、「社会視点」「家族・コミュニティ視点」「個人視点」で特徴的なファインディングスを紹介しました。
社会の視点では、現状の暮らしを支える仕組みや取り組みへの満足度は高いものの、少子高齢化にともなう未来の社会・コミュニティの存続への不安が見てとれます。その一方、家族・コミュニティの視点では、新しい家族の形への受容度が経年で総じて上昇。身近な人間関係のアップデートが模索されています。個人の視点では、テレワークというコロナ禍による半強制的な社会の変化が、新しい働き方と居住場所への支持や志向として表れている様が見受けられました。
変わりつつある人びとの家族や働き方・居住場所に関する意識・価値観を支え、未来への希望につなげていく社会的な取り組みが求められます。
2021年は、感染症と共存しながら、世界中が新たな社会のあり方を模索した一年となりました。調査結果からは、日本社会の少しずつですが着実な変化が見て取れます。「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査」では「人」と「社会」がどのように変化していくのか、引き続き注目し、「人」が生きがいを感じられる「社会」の実現への道筋を探っていきます。
本稿で紹介したデータは「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査」の一部にすぎません。個人、家族・コミュニティ、社会の各視点からのさまざまな調査データを紹介することができます。興味のある方は、気軽にお問い合わせください。