「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」から見る、人びとの意識・価値観の現在地No.2
新しい価値観の受容は女性から。「合理的な変化」を求める女性たち
2022/05/17
電通総研と電通未来予測支援ラボは、東京経済大学・柴内康文教授の監修のもと、「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」を、2021年10月に全国の男女1万2000人を対象に実施しました。「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査」は、社会に関する人びとの意識・価値観を把握することを目的として、2019年12月に第1回調査を開始し、今回で3回目となります。今後も定期的にデータを収集・蓄積していく計画です。
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新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、働き方や暮らし方が変化してきましたが、人びとの新しい価値観に対する受容度はどのように変化していくのでしょうか。本調査では、身近な暮らし方に関する価値観から、世界的な社会問題に関する価値観までさまざまな項目を聴取しています。今回は、その結果見えてきた、性年代別の大きな違いについてお伝えします。
<目次>
▼若年女性の約8割が「コロナ禍が落ち着いても、テレワークは定着するべき」と回答
▼ジェンダー平等に関わる分野の価値観。「夫婦別姓」「男性の育休取得」への受容度は?
▼ジェンダー平等にとどまらず広くダイバーシティに関わる分野も女性がリード
若年女性の約8割が「コロナ禍が落ち着いても、テレワークは定着するべき」と回答
はじめに、コロナ禍で、すでに定着も見せ始めている「テレワーク、在宅勤務」についての意識に焦点をあてます。
※有職者:公務員/経営者・役員/会社員(事務系・技術系・その他) /自営業/自由業
まず、有職者全体では、71.6%の人が「【A】感染症が落ち着いても、テレワークや在宅勤務などの働き方が定着するべきだと思う」と答えています。女性は男性よりも高く、最も大きな特徴として、女性18~29歳、女性30代が全体と比べて非常に高いことがわかります。それぞれ「Aに近い」と回答した人が40.0%、42.4%と全体より10ポイント以上高い結果に。「Aに近い」「どちらかというとAに近い」を合わせると、女性18~29歳、女性30代ともに8割を超えました。
一方、同じ年代で比較すると、男性18~29歳、男性30代は、「Aに近い」という回答はそれぞれ30.9%で、全体とほぼ同水準、同年代の女性と比べて10ポイント以上も低くなりました。
では、女性18~29歳、女性30代は、なぜこんなにもテレワークの意向が高いのでしょうか?
具体的にどんな理由があるのかを把握するため、簡易定性調査で生声を聞いてみました。
20代・30代の女性会社員が「テレワークを希望する」理由として、次のようなものが挙がりました。
〈20代・30代の女性会社員が「テレワークを希望する」理由〉
- 無駄な通勤時間に耐えられないから
- 電車通勤のストレスは想像以上にあるので軽減したいから
- 時間を効率よく使えるから
- 睡眠不足が解消されるから
- 自宅勤務で自炊ができるようになり健康になったから(8キロ減量に成功)
- 貯金ができるようになったから
- 子どもと過ごせる時間が増えるから
- お化粧しなくてよいからうれしい
- テレワークで業務に全く影響ないから
- 部署の自分以外の人にかかってくる電話対応で自分の作業時間が中断されるのが嫌だから
- 対面での煩わしいコミュニケーションが減って快適だから
- タバコの臭いを感じなくてよくなったから
「無駄な通勤時間をなくせる」「睡眠不足を解消できる」「在宅勤務で自炊することによって健康になった」など、時間的に合理的な生活を送れるようになり健康になったという意見が聞こえてきました。また、「お化粧をしなくてよい」というメリットもあるようです。
一方、同じように20代・30代の男性会社員からも生声を聴取すると、女性と同様に通勤時間をなくせるメリットについての意見もありますが、「オフィスワークを希望する理由」として、「コミュニケーション」や「人間関係」を重視する声が特徴的に多く聞かれました。
〈20代・30代の男性会社員が「オフィスワークを希望する理由」〉
- オフィスワークのほうが、つっこんだコミュニケーションができる
- オフィスに出勤してコミュニケーションを取りながら仕事をした方が円滑に進められると思うから
- 会議では突っ込んだ話も多くするため、できればオフィスに出勤して、直接、顔を合わせて話し合いたい
- やはり誰かと会話をすること、顔を合わせることは人としてとても重要なことだと思う。人間関係が大切だから
- リモートワークだとコミュニケーションが取りづらかったり、質問した内容がすぐに返ってこなかったりして業務の効率が落ちてしまう
(その他)
- テレワークではやはり仕事に真剣になれずに、プライベートとの切り替えができない
- 家にいるよりも外に出たいから
少なくともこの簡易的なヒアリングからは、男性は「コミュニケーションを通じて仕事の質を高めるやり方」を理由として回答する傾向があり、女性は「合理的な暮らし方」を理由として回答する傾向が垣間見えました。
今の時代、男性、女性を一般論として語るのは困難ではあり、全く同じ職業の男女で比べているわけではないため、一概にはいえませんが、今回の調査結果をもとに考察すると、女性は「無駄が嫌いで合理的」、男性は「一見無駄とも思えることに価値を見いだし、集団で協力して仕事の質を高めていく」、そんな傾向が推察できるかもしれません。
ジェンダー平等に関わる分野の価値観。「夫婦別姓」「男性の育休取得」への受容度は?
続いて、そのほかの身近な新しい価値観の受容度について紹介します。まずは「かつてあった女性への不平等が改善される分野」である「夫婦別姓」「男性の育休取得」について見ていきます。
こちらも前述の働き方への意向と同様、まず女性が男性よりも高く、「受け入れられると思う」は、女性18~29歳、女性30代で、いずれも特に高い結果となりました。一方、男性40代以上の低さが際立っています。
ジェンダー平等にとどまらず広くダイバーシティに関わる価値観の受容度も女性がリード
では、「女性への不平等の改善とは関係のない分野」についての受容度はどうでしょう?
ここでは、「同性婚」「外国人の同僚/上司」についての受容度を紹介します。
こちらは、世界的に今ホットな話題に関する受容度です。2001年にオランダで初めて法制化されたことを皮切りに、「同性婚」を認める法制化はヨーロッパなどで拡大しています。2019年にはアジアで初めて台湾が同性婚を認めており、主要7カ国(G7)のうち同性婚を認めていない国はもはや日本だけとなりました(※1)。
※1
出典:BUSINESS INSIDER
https://www.businessinsider.jp/post-246360
結果は、全体では「受け入れられると思う」「どちらかといえば受け入れられると思う」の合計で43.2%と、半分弱程度の受容度です。ただし、こちらもまた、女性18~29歳が、合計で70.7%と最も高く、女性30代の、67.6%が続くという同様の構造になりました。
最後に、日本で今後増えていく可能性の高い「外国人の同僚/上司」に関する設問についてお伝えします。
日本で働く外国人労働者は、2020年時点で約172.4万人(※2)。アジア諸国を中心に多国籍化しています。日本政府は高度な知識や技能を持つ外国人材の受け入れを積極的に進めており、2022年末までに2017年時点予定の2倍にあたる4万人の認定を目指しています(※3)。2030年の労働供給の不足(644万人)のうち、81万人を外国人労働者がカバーすると見込んでいる状況です。コロナ危機後は、短期的な労働力としてだけでなく、日本語教育や能力開発など、貴重な人材としての受け入れ政策への転換が求められ始めています(※4)。
こういった状況を踏まえると、おそらく日本の未来では、働く場所に多くの外国人の方がいることになるでしょう。そして、同僚だけでなく上司になる可能性も十分にありそうです。
まず、外国人同僚の受容度は、有職者ベースで、「受け入れられると思う」「どちらかといえば受け入れられると思う」の計は73.4%。男性全体では69.0%、女性全体では83.0%と、女性が大きく上回っています。なかでも、女性40代が86.4%と最も高く、なんと女性18歳~50代までいずれも80%を超えます。また、「受け入れられると思う」について、女性18~29歳は50.9%と最も高い値となりました。
外国人上司の受容度は、有職者ベースで「受け入れられると思う」「どちらかといえば受け入れられると思う」の計で57.3%。こちらも同様に、男性全体が52.1%、女性全体が68.8%と、女性が大きく上回る結果です。なかでも女性18~29歳が最も高く、71.4%、ついで女性50代が70.5%、女性40代が69.2%、女性30代が67.6%と続く結果となりました。
つまり、従来あった女性への不平等を解決するわけではない事柄についても、今後求められていく新しい価値観は、女性のほうが受容度が高いという結果が見えてきました。
今回の調査結果から、ジェンダー平等に関わる分野、さらに広くダイバーシティに関わる分野のいずれも、18~29歳の若年女性を中心に、「女性が新しい価値観の受容をけん引していく」といえそうです。
世界経済フォーラムが発表している「The Global Gender Gap Report 2021」によれば、男女格差を測るジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index)は、日本は156カ国中120位と、先進国の中で最低レベル。アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となっています(※5)。
社会だけでなく、企業活動に目を向け、企業のインクルージョンとダイバーシティを表すカンター・インクルージョン・インデックスを見ても、日本は14カ国中11位と決して高いとはいえません。このような指標を下支えする新しい価値観の受容は、個人レベルでますます重要になってくるでしょう(※6)。
日本が抱える「価値観の課題」を先導して解決してくれる可能性の高い、若年女性の活動に期待が高まります。