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「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」から見る、人びとの意識・価値観の現在地No.3

“職住融合”時代の働き方と住まい方、まちづくりを考える

2022/05/24

電通総研と電通未来予測支援ラボは、東京経済大学・柴内康文教授の監修のもと、「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2021」を、2021年10月に全国の男女1万2000人を対象に実施しました。同調査は、社会に関する人びとの意識・価値観を把握することを目的として、2019年12月に第1回調査を開始し、今回で3回目となります。今後も定期的にデータを収集・蓄積していく計画です。

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連載の第1回で、コロナ禍によるテレワークの普及という社会変化が、働き方と居住場所への選好に少なからず影響を与えていることを紹介しました。また、そうした人びとの新しい意識と価値観を支え、かつ未来への希望につなげていくための社会的な取り組みが必要とされていることを述べました。

今回は、「社会の変化に伴って、働き方と住まい方をどう合わせていくべきか」という、数年前にはほとんど意識されなかった命題に向き合います。「将来的に私たちはどういったまちづくりをしていけばよいか」などについて、いくつかの角度から分析を行った結果をもとに解説したいと思います。

<目次>

東京都の人口が26年ぶりに減少。住みたいと思うエリアと働き方の変化

「居住エリアの重視点」「地域社会の仕組みへの満足度」「理想の働き方」はどう変わった?

居住エリアの重視点と理想の働き方の関係性から、“職住融合”時代のワーク・リビング・バランスを考える

“職住融合”のライフスタイルを受け入れるまちづくりとは

東京都の人口が26年ぶりに減少。住みたいと思うエリアと働き方の変化

2022年1月に東京都が、26年ぶりに都の人口が減少したことを発表しました。コロナ禍前は東京都への転入者が多く、長らく転入超過の状態が続いており、一極集中的な人口動態が定常化していましたが、今回明らかに潮目の変化が観察されました。

転出超過になった要因としては、テレワーク普及による働き場所の自由度が増し、郊外や地方へ移住する動きが活発化したほか(実際、筆者も生まれて長年住んだ東京都から他県に移住しました)、東京都に住む外国人の減少などが指摘されています。

こういったマクロ的な人口動態に変化が起きつつあるなか、もう少しミクロの視点に落として、人びとが住みたいと思う場所と働き方の関係性についての分析結果から、以下の3つの項目に分けて論じていきます。

① 「居住エリアの重視点」「地域社会の仕組みへの満足度」「理想の働き方」はどう変わった?
②居住エリアの重視点と理想の働き方の関係性から、“職住融合”時代のワーク・リビング・バランスを考える
③ “職住融合”のライフスタイルを受け入れるまちづくりとは

①「居住エリアの重視点」「地域社会の仕組みへの満足度」「理想の働き方」はどう変わった?

<図1>今後住みたいと思うエリアの重視点

今後住みたいと思うエリアの重視点

今後住みたいエリアの重視点として、最もスコア(重視する計)が高かったのが「治安がよい」96.1%で、次いで「買物に便利」94.2%、「水害・地震などの自然災害のリスクが少ない」93.5%という項目が続きました。犯罪率が低かったり災害に強い街であったり、近くにイケてるスーパーがあったりドラッグストアがあるなど、安心して暮らせる街であることを人びとが重視していることが分かります。

一方で、「勤務場所に近い」のスコアは81.1%でした。単独で見るとスコア自体は決して低くないものの、テレワークの浸透によって上述の暮らしやすさよりも通勤の利便性というものが重視されにくい時代に入ったことが分かりました。

かつては、通勤利便性が住まい選びを左右することが当たり前でしたが、今回の東京都からの人口流出といった現象に象徴されるように、テレワークという新しい働き方が、人びとの住みたいエリアの重視点に影響を与えていると考えられます。

次に、「地域社会の暮らしを支える仕組みや体制に満足していること」について聴取したグラフを見てみましょう。

<図2>地域社会の暮らしを支える仕組みや体制に満足していること

地域社会の暮らしを支える仕組みや体制に満足していること

<満足である、十分であると思う>計のスコアで最も高いのが、「病院、保健所などの地域医療体制」54.8%。次いで「最寄りの金融機関のサービスの利便性や信頼性」54.7%、「水道、電力、ガスなどの安定供給と将来にわたって維持するためのしくみ」54.5%が続きました。

これらの上位の結果を見ると、人びとの社会インフラへの満足度が高いことがうかがえます。一方で、<あまり満足できない、十分ではないと思う>計のスコアを見ると、上位は、「若者の流出を防ぐなど、バランスの取れた年代別人口を保つしくみ」54.5%、「体の不自由な人や高齢者、子どもなど誰でもスムースに移動できる空間デザイン」53.4%、「配偶者やパートナーとの出会いを提供するしくみ」46.6%となり、どちらかというと街の活力を左右する項目について満足度が低いようです。

続いて、「理想とする働き方と実際の働き方」のギャップを見てみます。

<図3>理想とする働き方と現実の働き方

理想とする働き方と現実の働き方

全体的な傾向として、働き方については理想と現実に相当大きなギャップがあることが分かりました。理想としては、「雇用の安定」「自分の好きな仕事ができる」といった項目が高い結果になりましたが、現実にそれを実感できている人は少ない状況のようです。

②居住エリアの重視点と理想の働き方の関係性から、“職住融合”時代のワーク・リビング・バランスを考える

ここまで「住みたいエリアの重視点」や「地域社会の暮らしを支える仕組みへの満足度」「働き方の理想と現実」といった分析結果を見てきましたが、この中から、人びとが住みたいと思うまちづくりと理想の働き方というテーマを複合的に分析し、これからの“職住融合”時代のあり方を探る分析を試みました。

プロセスとしては、まず住みたいエリア重視点の結果から「住みたいエリア重視因子」を抽出し、それらが「理想の働き方」にどう影響を及ぼしているのかについて重回帰分析(※)を行っています。

※=重回帰分析
ある結果を説明する際、関連する複数の要因のうち、どの要因がどの程度結果を左右しているのかを数値化し、それをもとに将来の予測も行う統計手法。


まずは因子抽出の結果ですが、図4で示すとおり6つの因子を抽出しました。「①:社会インフラ重視因子」、「②:田舎暮らし重視因子」、「③:居住地域のステータス重視因子」、「④:通勤利便性重視因子」、「⑤:生活コスト重視因子」、「⑥:家族の暮らしやすさ重視因子」です。

<図4>居住エリア重視点の因子分析結果

居住エリア重視点の因子分析結果

その各因子が「理想の働き方」にどれくらい効いているのかについて重回帰分析を行い、ヒートマップで可視化したものが図5です。

<図5>住みたいエリア重視分析と理想の働き方の重回帰分析

住みたいエリア重視分析と理想の働き方の重回帰分析

例えば、「出産・育児・介護時に心置きなく休暇が取れる」という理想の働き方に対しては、「田舎暮らし」と「家族の暮らしやすさ」がプラスに作用します。つまり、子育てをするには、生活コストも高くどちらかというと暮らしにくい都会でというよりも、暮らしやすくて自然も適度にあって育児に適した田舎であるほうがいい、という心理の表れであると言えます。

③“職住融合”のライフスタイルを受け入れるまちづくりとは

今後、私たちは新型コロナウイルス感染症と共存していくのでしょうか?それとも特効薬などが効果を発揮してこの難局を乗り越えるのでしょうか?

いずれにしても、一度、テレワークやワーケーションといった制度を導入した企業やそこで働く人たちは、第1回でも解説したように、そう簡単にかつてのオフィスワークスタイルにカムバックするとは思えません。ある程度は今のトレンドが続いていくという前提のもと、こうした“職住融合”時代におけるライフスタイルを受け入れるまちづくりのあり方としては、どのようなものが期待されるのでしょうか。

2030年には日本の人口が1億1662万人になり、今から900万人くらい人口が減ると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所の将来人口の中位推計による)。そうした不可逆的な人口減少が起きると、魅力的なまちづくりを行わないと選んでもらえない時代になるでしょう。テレワークという働き方が今後も一つの主流になっていくことを前提とすると、暮らしやすさ、働きやすさを実感できるまちづくりがますます重要になるはずです。

当たり前と言えば当たり前なのですが、暮らしやすさを保証する治安の良さ(犯罪率の低さなど)、いざというときの強靭なまちづくり(災害対策や防災対策など)といった点はもちろんのこと、日々の暮らしを楽に便利にしてくれる買い物環境、子育てに向いている適度な自然環境、通勤しなくても働ける労働環境など、企業や自治体が取り組むべき課題は多岐にわたります。

社会全体で、こうした課題への対応を一つ一つ積み上げていって街の魅力を高めることが重要です。その上で学校や家族の事情などのさまざまな制約条件が勘案され、人びとにとっての住んでみたいエリアの意識形成がなされていくのだと思います。

ただ、現実問題としては、多くの人びとが暮らしやすさと働きやすさが両立するエリアに住めるとは考えにくく、実際は両者のバランスを取りながら住むエリアを選択していくことになるでしょう。いざという時に会社に行ける程度の郊外や田舎のエリアに住んだり、大自然の中で“職住融合”生活をしたり、かたや大都市に住み続ける、といったように何かを優先しながら何かを妥協していくことになるのでしょう。

このような視点で今一度、人びとの声に耳を傾けることで、魅力あるまちづくりや住む人のウェルビーイングをより高める社会が実現できるのではないかと考えます。

※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。

【調査概要】
タイトル:「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査」
調査時期:
第1回 2019年12月11日~18日
第2回 2020年11月11日~17日
第3回 2021年10月19日~28日
調査手法:インターネット調査
対象地域:全国
対象者:18~74歳の男女計1万2000人
調査会社:電通マクロミルインサイト
 
<本調査に関する問い合わせ先>
電通総研 担当:山﨑、日塔
E-mail:d-ii@dentsu.co.jp
URL:https://institute.dentsu.com
未来予測支援ラボ 担当:小椋、立木、小野、千葉
E-mail:future@dentsu.co.jp
URL:https://www.dentsu-fsl.jp
 
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